こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
減給の10分の1とは、懲戒処分として減給を行う場合に、労働基準法で定められている上限ルールの一つです。
ただし、実務では月給の10分の1だけを見ればよいわけではありません。
1回の事案ごとの上限と、一賃金支払期における総額上限の両方を確認する必要があります。
企業側にとっては、就業規則や手続きに不備があると処分が無効となるリスクがあります。
従業員側にとっても、会社から減給を告げられたときに、どの部分を確認すべきかを知っておくことが大切です。
この記事では、懲戒処分としての減給を中心に、平均賃金の計算方法、10分の1を超えた場合の考え方、賞与や人事考課との違いまで、実務で迷いやすいポイントを順番に整理します。
- 減給の10分の1ルールの基本
- 平均賃金を使った計算方法
- 違法な減給になりやすいケース
- 賞与や人事考課との関係
減給の10分の1ルールとは
まずは、減給の10分の1ルールの全体像を確認します。
中小企業の労務相談でも、「月給30万円なら3万円まで減給できるのか」という質問は実際によくありますが、そこだけを見ると判断を誤りやすい部分です。
減給には、懲戒処分としての減給、人事評価に伴う賃金低下、欠勤や遅刻に対するノーワーク・ノーペイの控除など、似ているようで法的な性質が異なるものがあります。
この章では、特に労働基準法第91条の対象となる懲戒処分としての減給に絞って、基本の枠組みを説明します。
労働基準法91条の上限
懲戒処分として減給を行う場合、労働基準法第91条の制限を受けます。
同条では、就業規則で減給の制裁を定める場合について、 1回の額 と 一賃金支払期における総額 の2つの上限が定められています。
つまり、会社が従業員に対して制裁として減給を行う場合、会社の判断だけで自由に金額を決められるわけではありません。
具体的には、1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、さらに減給の総額は一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない、という考え方です。
この2つの制限は、どちらか一方を満たせば足りるものではなく、 両方を同時に満たす必要があります 。
実務で多い誤解は、「10分の1以内なら問題ない」という理解です。
たとえば月給30万円の従業員であれば、月の総額上限は3万円という見方ができます。
しかし、1件の懲戒事由に対して3万円をそのまま減給できるとは限りません。
1件あたりの上限である平均賃金1日分の半額を別に確認する必要があるからです。
また、労働基準法第91条は、あくまで就業規則で減給の制裁を定める場合の制限です。
その前提として、そもそも就業規則に懲戒処分や減給の制裁が定められているか、従業員に周知されているか、対象行為が懲戒事由に該当するかも確認しなければなりません。
金額の上限だけを整えても、処分の根拠や手続きが不十分であれば、労務トラブルにつながる可能性があります。
実務上のポイント
- 1件ごとの上限は平均賃金1日分の半額
- 月などの一賃金支払期の総額上限は賃金総額の10分の1
- どちらか一方ではなく、両方を確認する必要がある
- 就業規則の根拠と処分手続きもあわせて確認する
この条文は、懲戒処分によって労働者の生活に過度な影響が出ないよう、制裁としての減給に歯止めをかける趣旨があります。
会社側から見ると、問題行動に対して一定の秩序維持を図る必要がありますが、従業員側から見ると、生活の基盤である賃金が大きく削られることは深刻です。
そのため、労働基準法は減給処分を完全に禁止するのではなく、上限を設ける形でバランスを取っています。
法令の正確な条文は、 e-Gov法令検索の労働基準法 で確認できます。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
1回の減給上限
1回の減給上限は、1つの懲戒事由に対していくらまで減給できるかを示すルールです。
上限は、 平均賃金の1日分の半額 です。
ここで大切なのは、月給の金額ではなく、平均賃金を基準にするという点です。
月給制の従業員であっても、まず平均賃金を計算し、その1日分の半額を確認します。
たとえば、平均賃金の1日分が1万円であれば、1件の問題行動に対する減給上限は5,000円です。
月給が30万円、40万円、50万円と高くなっても、1件の懲戒処分についてはこの1回あたりの上限が先に効いてくることがあります。
実務では、会社側が「月給の10分の1までならよい」と考えて、1件の処分で数万円を差し引こうとするケースがありますが、これはかなり危険です。
遅刻や無断欠勤、業務命令違反、社内ルール違反などがあった場合でも、それぞれの行為をどう評価するかが重要になります。
1つの行為を1件の懲戒事由として見るのか、複数の行為を別々の懲戒事由として見るのかによって、計算の仕方が変わることがあります。
ただし、会社が恣意的に細かく分ければよいというものではありません。
事実関係、就業規則の定め、過去の処分例とのバランスを踏まえて、合理的に整理する必要があります。
月の総額上限よりも、まず1回あたりの上限に引っかかるケースが多い という点は、実務で特に注意したいところです。
従業員側から見ても、会社から「10分の1以内だから問題ない」と説明された場合には、1件あたりの金額が平均賃金1日分の半額を超えていないかを確認する価値があります。
遅刻、無断欠勤、業務命令違反などを理由に減給する場合でも、各行為が就業規則上の懲戒事由に該当するか、処分の重さが妥当かを個別に確認する必要があります。
単に会社が不満を感じた、勤務態度がよくないと感じた、というだけで減給できるわけではありません。
遅刻を理由に減給する場合の注意点
遅刻については、遅刻した時間分の賃金を支払わないという処理と、懲戒処分としてさらに減給する処理を分けて考える必要があります。
働いていない時間分を控除することは、いわゆるノーワーク・ノーペイの考え方によるものであり、懲戒処分としての減給とは性質が異なります。
一方、遅刻を社内秩序違反として懲戒処分にする場合には、労働基準法第91条の上限や就業規則上の根拠が問題になります。
たとえば、30分遅刻したため30分相当の賃金を控除することと、遅刻の制裁としてさらに一定額を減給することは別物です。
この区別があいまいなまま給与計算をすると、従業員にとっては「なぜこんなに引かれているのか」が分からず、不信感につながります。
会社側は、控除なのか懲戒処分なのかを明確に説明できる状態にしておくことが大切です。
一賃金支払期の総額上限
一賃金支払期における総額上限とは、その給与計算期間中に行う減給の合計額に対する制限です。
月給制であれば、一般的には1か月の賃金支払期を基準に考えます。
週給制や日給月給制などの場合でも、実際の賃金支払期に合わせて確認します。
たとえば、その月の賃金総額が30万円であれば、減給の総額上限は3万円です。
ただし、これは 複数の減給処分を合計した場合の上限 であり、1件あたり3万円まで減給できるという意味ではありません。
1件ごとの減給上限を積み上げた結果、その月の合計が賃金総額の10分の1を超える場合には、超える部分をその月に控除することはできません。
ここでいう賃金総額は、基本給だけではなく、賃金として支払われる各種手当なども含めて検討するのが基本です。
役職手当、資格手当、通勤手当、時間外労働の割増賃金など、給与計算上の項目を確認しながら判断します。
もちろん、個別の賃金項目の性質や支給実態によって確認が必要になることもありますので、機械的に判断しないことが大切です。
実務では、給与ソフト上で「減給」という控除項目を作って差し引くだけになっている会社もあります。
しかし、労働基準法第91条の上限を管理するには、単に控除項目を入力するだけでは足りません。
対象となる懲戒事由、1件ごとの上限、当月の総額上限、繰り越しの有無を一覧で管理しておくと、後から説明しやすくなります。
実務では、「10分の1」は基本給だけではなく、一賃金支払期における賃金総額を基準に考える点が重要です。
手当や割増賃金を含めて判断する場面もあるため、給与明細や賃金台帳を確認しながら整理します。
| 確認項目 | 会社側の確認 | 従業員側の確認 |
|---|---|---|
| 賃金支払期 | 給与計算期間と支払日を確認する | 何月分の給与から引かれたか確認する |
| 賃金総額 | 基本給だけでなく手当も確認する | 給与明細の総支給額を確認する |
| 減給総額 | 複数処分の合計額を管理する | 控除欄の金額と理由を確認する |
| 10分の1上限 | 上限超過がないか計算する | 賃金総額の10分の1を超えていないか確認する |
従業員側が確認する場合は、処分通知書だけでなく、給与明細、就業規則、賃金規程を合わせて見ると判断しやすくなります。
懲戒処分後の影響については、 懲戒処分を受けて会社に残る場合の影響と対処法 でも整理しています。
会社側としては、10分の1の枠だけを見て処理するのではなく、従業員への説明資料も含めて準備することをおすすめします。
減給処分は金額の大小にかかわらず、従業員の納得感に大きく関わります。
後から「何のために、いくら引かれたのか分からない」とならないよう、処分通知書と給与処理の整合性を取っておきましょう。
平均賃金の計算方法
平均賃金は、法律上の基準額です。
一般的な給与の平均というより、減給の制裁や解雇予告手当、休業手当などを計算するときに使う基準と考えると分かりやすいです。
懲戒処分としての減給では、1回あたりの上限を決めるために平均賃金を使います。
基本的な計算式は、 直近3か月間の賃金総額 ÷ その期間の総日数 です。
ここでいう総日数は、出勤日数ではなく暦日数で計算します。
つまり、土日祝日や会社休日を含めたカレンダー上の日数を分母にするのが原則です。
賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日からさかのぼって3か月間を見るのが基本になります。
平均賃金の計算では、賃金総額に何を含めるかも重要です。
基本給だけではなく、通勤手当、役職手当、時間外手当などの諸手当も含めて考える場面があります。
一方で、臨時に支払われた賃金や、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金など、除外されるものもあります。
賞与が毎月ではなく年2回などで支給される場合は、平均賃金の計算に入るかどうかを慎重に確認する必要があります。
厚生労働省の労働局資料でも、平均賃金について、原則として算定事由発生日以前3か月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数で除す考え方が示されています(出典: 厚生労働省 和歌山労働局「平均賃金(第12条)」 )。
| 項目 | 考え方 | 実務での注意点 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 原則として直近3か月間 | 賃金締切日がある場合は直前の締切日から見る |
| 分母 | 就労日数ではなく暦日数 | 出勤日だけで割らないように注意する |
| 含める賃金 | 基本給、手当、割増賃金など | 控除前の総支給ベースで確認する場面が多い |
| 除外されるもの | 臨時払いの賃金や3か月を超える周期の賃金など | 賞与や一時金は支給実態を確認する |
たとえば、月給30万円で直近3か月の賃金総額が90万円、暦日数が92日の場合、平均賃金は約9,782円です。
この半額である約4,891円が、1件あたりの減給上限の目安になります。
ここで「30万円の10分の1だから3万円まで」と考えると、1件あたりの上限を見落としてしまいます。
平均賃金の計算では、最低保障額や算定期間の例外が問題になることがあります。
日給制、時給制、出来高給、入社後3か月未満、休業期間がある場合などは、通常の月給制よりも確認事項が増えます。
この記事の計算例は、あくまで一般的な目安です。
賃金締切日がある場合の考え方
多くの会社では、「末締め翌月25日払い」「20日締め当月末払い」など、賃金締切日が決まっています。
この場合、平均賃金の計算では、算定事由が発生した日の直前の賃金締切日からさかのぼって3か月を見ます。
実務では、この起算点を間違えると平均賃金の金額が変わってしまうことがあります。
平均賃金の計算は、給与明細を3か月分並べれば終わりという単純な作業に見えますが、実際には賃金台帳、締切日、支給項目、控除項目を確認する必要があります。
特に懲戒処分は後から争いになりやすいため、会社側は計算根拠を残しておくことが大切です。
従業員側も、会社から減給額だけを説明された場合には、平均賃金の計算根拠を確認してみるとよいかなと思います。
平均賃金の計算は例外的な調整が必要になることもあります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
減給額の計算具体例
ここでは、一般的な目安として計算例を見ていきます。
実際の金額は賃金締切日、手当、欠勤控除、賞与の有無などで変わるため、あくまで理解のための例として確認してください。
減給処分の計算では、必ず「平均賃金の計算」「1件あたりの上限」「一賃金支払期の総額上限」の順番で見ると整理しやすくなります。
まず、月給30万円の従業員で、直近3か月の賃金総額が90万円、暦日数が92日だったとします。
この場合、平均賃金は90万円を92日で割った約9,782円です。
1件あたりの減給上限は、その半額である約4,891円です。
一方、その月の賃金総額が30万円であれば、月の総額上限は3万円です。
このケースで1件の懲戒事由しかない場合、実質的には約4,891円が上限になります。
次に、月給45万円の従業員で、平均賃金1日分が約15,000円、1件あたりの上限が約7,500円だったとします。
仮に懲戒事由が10件あり、それぞれについて7,500円の減給が認められると考えた場合、合計は75,000円になります。
しかし、その月の賃金総額が45万円であれば、一賃金支払期の総額上限は45,000円です。
したがって、その月に75,000円全額を減給することはできません。
| ケース | 計算内容 | 上限の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 月給30万円で1件の事案 | 平均賃金約9,782円、半額約4,891円 | 1件あたり約4,891円までが目安 | 月の10分の1である3万円までではない |
| 月給45万円で複数件 | 1件7,500円、10件で75,000円 | 月の総額上限45,000円を超える部分に注意 | 超過分の繰り越し管理が必要になる |
| 賞与支給月に処分 | 月給と賞与を含めて賃金総額を確認 | 総額上限が通常月より大きくなる可能性 | 1件あたりの半額制限は別途確認する |
月給30万円の例では、月の総額上限は3万円です。
しかし、1件の懲戒処分であれば、実際には平均賃金1日分の半額である約4,891円が上限として効いてきます。
これは、従業員側から見ると非常に重要な確認ポイントです。
会社から3万円の減給を告げられた場合でも、それが1件の懲戒事由に対する処分であれば、1件あたりの上限を超えている可能性があります。
月給45万円で複数の問題行動がある場合、1件ごとの上限を満たしていても、合計額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えることがあります。
採用時や就業規則の見直し時にも、この点はよく確認します。
特に、複数の遅刻や複数の社内ルール違反をまとめて処分する場合には、どの行為をどの事案として扱うかを整理しないと、計算根拠が不明確になります。
計算の順番
- 直近3か月の賃金総額と暦日数から平均賃金を出す
- 平均賃金1日分の半額で1件あたりの上限を出す
- 一賃金支払期の賃金総額の10分の1で月の総額上限を出す
- 複数件ある場合は合計額が月の上限を超えないか確認する
会社側では、減給額の計算表を処分決定資料に添付しておくと、後から説明しやすくなります。
従業員側では、給与明細の控除額だけを見るのではなく、処分通知書に記載された処分理由、処分日、対象行為、減給額を確認してください。
書面がない場合は、会社に説明を求めることも大切です。
10分の1を超えた場合
複数の懲戒事案があり、計算上の減給額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超える場合、その月にまとめて全額を差し引くことはできません。
労働基準法第91条の総額上限に抵触する可能性があるためです。
この場合、超過分については次の賃金支払期以降に繰り越し、各賃金支払期の上限内で処理する方法が考えられます。
たとえば、月の上限が45,000円で、計算上の減給額が75,000円であれば、超過する30,000円を翌月以降に回すイメージです。
ただし、繰り越せるからといって、何でも長期間にわたって減給してよいという意味ではありません。
繰り越し処理をする場合には、もともとの懲戒事由ごとの減給額が1回あたりの上限内に収まっていることが前提です。
1件あたりの上限を超えた金額を、月ごとに分割すれば適法になる、という考え方は危険です。
たとえば、1つの事案について本来5,000円までしか減給できないのに、毎月5,000円ずつ6か月減給するような処理は、実質的に1件の制裁額が過大と判断される可能性があります。
また、繰り越しの処理を行う場合、会社側は従業員に対して、当月に控除する金額、翌月以降に繰り越す金額、繰り越しの理由を明確に説明する必要があります。
給与明細だけに控除額が出ている状態では、従業員にとって何の金額なのか分からず、トラブルになりやすいです。
繰り越し処理を行う場合でも、従業員に対して処分内容、対象行為、減給額、繰り越す金額を明確に伝えることが大切です。
書面で残しておかないと、後から未払賃金や処分の有効性をめぐるトラブルにつながることがあります。
繰り越し処理で残したい書面
実務上は、少なくとも懲戒処分通知書、減給額の計算表、繰り越し額の管理表を残しておくと安心です。
通知書には、対象となる行為、就業規則の該当条文、処分内容、減給額、実際に控除する時期を記載します。
計算表には、平均賃金、1件あたりの上限、一賃金支払期の総額上限、繰り越し額を整理します。
従業員側から見ると、会社から「上限を超えるので翌月も引きます」と説明された場合には、なぜ翌月に控除されるのか、もともとの対象行為は何か、1回あたりの上限を超えていないかを確認してください。
特に、同じ事案について長期間にわたって給与が下がり続けるような場合は、懲戒処分としての減給なのか、人事考課による賃金変更なのか、会社に説明を求める必要があります。
繰り越し処理は、適切に行えば実務上の対応として考えられますが、説明不足のまま行うと不信感を招きます。
会社側は、給与計算上の処理だけでなく、労務管理上の説明責任まで含めて対応することが大切です。
減給10分の1の適法な扱い
次に、減給を適法に行うための条件や、違法になりやすいケースを整理します。
企業側はリスク管理として、従業員側は自分の給与が適正に扱われているかを確認する視点として読んでいただくと分かりやすいです。
この章では、就業規則、懲戒処分の有効性、違法な減給、賞与、人事考課という順番で確認します。
減給の相談では、金額の話から始まることが多いのですが、実際にはその前提となる制度設計と手続きが非常に重要です。
就業規則に必要な定め
懲戒処分として減給を行うには、就業規則に減給の制裁が定められている必要があります。
就業規則に根拠がないまま減給を行うと、たとえ問題行動があったとしても、処分が無効と判断される可能性があります。
これは会社側にとって非常に大きなリスクです。
就業規則には、懲戒事由と懲戒処分の種類を具体的に定めておく必要があります。
たとえば、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など、会社が採用する処分の種類を整理し、その中に減給の制裁を位置付けます。
さらに、どのような行為が懲戒の対象になるのかも明確にしておく必要があります。
また、就業規則に書かれているだけでは十分ではありません。
従業員が確認できる状態で周知されていることも重要です。
社内サーバー、紙の備え付け、配布など、従業員が内容を知ることができる状態にしておく必要があります。
就業規則を作成して労働基準監督署に届け出ていても、従業員が見られない状態であれば、周知の面で問題になる可能性があります。
懲戒事由、懲戒処分の種類、手続き、減給の制裁 が整理されているかは、会社側が特に確認すべきポイントです。
従業員側も、減給を受けた場合は就業規則の該当条文を確認してください。
会社から就業規則の提示を受けていない場合は、どの規定に基づく処分なのかを確認することが大切です。
就業規則で確認したい項目
- 減給の制裁が懲戒処分として定められているか
- 対象行為が懲戒事由として定められているか
- 懲戒処分の手続きが定められているか
- 従業員に就業規則が周知されているか
- 賃金規程や給与規程との整合性があるか
就業規則が古い場合のリスク
中小企業では、創業時や従業員が10人を超えたタイミングで就業規則を作ったまま、長年見直していないケースがあります。
昔のひな形をそのまま使っていると、現在の働き方や社内ルールに合っていないことがあります。
たとえば、リモートワーク中の勤務態度、情報漏えい、SNS投稿、ハラスメントなど、近年問題になりやすい行為が規定に反映されていないこともあります。
就業規則が古いまま減給処分を行うと、対象行為が懲戒事由に該当するのか、処分の種類として減給が使えるのかが不明確になります。
私は実務で相談を受ける際、減給額の計算に入る前に、まず就業規則と懲戒規定を確認します。
根拠がなければ、金額をいくら慎重に計算しても処分の土台が弱くなるためです。
懲戒処分が有効な条件
減給の金額が労働基準法第91条の上限内であっても、それだけで懲戒処分が当然に有効になるわけではありません。
懲戒処分として有効といえるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
金額の問題はあくまで一部であり、処分全体の妥当性が問われます。
まず、就業規則に懲戒事由と処分内容が定められていることが必要です。
次に、対象となる行為がその懲戒事由に該当していることが必要です。
さらに、行為の重大性と処分の重さが釣り合っているか、いわゆる比例原則の観点も重要です。
軽微なミスに対して過大な減給を行えば、金額が上限内であっても不相当と判断される可能性があります。
手続き面も重要です。
従業員に事実関係を確認し、必要に応じて弁明の機会を与え、処分理由を明確にすることが求められます。
特に懲戒処分は、従業員の評価や今後の処遇にも影響するため、会社側の一方的な判断だけで進めるとトラブルになりやすいです。
従業員側としても、事実と違う内容で処分されそうな場合には、早い段階で説明や資料の確認を求めることが大切です。
- 就業規則に懲戒事由と処分内容が定められていること
- 対象行為が就業規則上の懲戒事由に該当すること
- 行為の重大性と処分の重さが釣り合っていること
- 弁明の機会など適正な手続きが取られていること
- 同じ事案に対して重ねて処分していないこと
中小企業では、感情的に減給を決めてしまい、後から手続き面で問題になることがあります。
私は実務上、減給処分を検討する場面では、金額計算より先に「そもそも懲戒処分として成立するか」を確認するようにしています。
社内の秩序維持は大切ですが、処分は冷静に、事実と規程に基づいて行う必要があります。
従業員側も、単に減給額だけを見るのではなく、処分理由が明確か、弁明の機会があったか、同じ件で別の処分を重ねられていないかを確認することが大切です。
たとえば、すでにけん責処分を受けた同じ事案について、後からさらに減給されるような場合には、二重処分の問題が生じる可能性があります。
懲戒処分では、事実確認が不十分なまま処分を出すことが大きなリスクになります。
会社側は、本人の説明、関係者の話、客観資料、過去の取扱いを確認したうえで判断する必要があります。
従業員側は、処分理由に誤りがある場合、感情的に反発するよりも、事実関係を整理して伝えることが大切です。
処分通知書に入れたい内容
処分通知書には、対象行為、発生日、該当する就業規則の条文、処分内容、減給額、減給を行う賃金支払期、弁明機会の有無などを記載しておくとよいです。
これらが不明確だと、後から会社側も説明に困りますし、従業員側も納得しにくくなります。
処分通知書は、単に会社の結論を伝える書類ではありません。
処分の根拠と手続きの適正さを示す重要な資料です。
特に減給は給与に直接影響するため、給与計算担当者と人事労務担当者の間でも情報共有をして、通知内容と給与明細の控除内容が一致するようにしておきましょう。
違法な減給となるケース
違法な減給になりやすい代表例は、就業規則に根拠がないケース、1件あたりの上限を超えているケース、一賃金支払期の総額上限を超えているケースです。
これらは、会社側が気づかないまま行ってしまうこともありますが、従業員から見ると給与が不当に差し引かれている状態になり得ます。
まず、就業規則に減給の制裁がない場合は、懲戒処分として減給する根拠が弱くなります。
問題行動があったとしても、会社が事後的に「これは減給に値する」と判断するだけでは足りません。
懲戒処分は、あらかじめ就業規則に定められ、従業員に周知されていることが基本です。
次に、1件あたりの減給額が平均賃金1日分の半額を超えている場合です。
これは、労働基準法第91条の半額制限に関わります。
月の総額が10分の1以内であっても、1件あたりの上限を超えていれば問題になる可能性があります。
逆に、1件あたりの上限を守っていても、複数件の合計が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超える場合には、その月の処理として問題になります。
また、実務で注意が必要なのが、 1つの懲戒事由に対して数か月にわたり10%ずつ減給するような処理 です。
毎月10分の1以内に収まっているように見えても、1事案に対する減給として平均賃金1日分の半額を超えていないか、慎重に検討する必要があります。
形式的には毎月の上限内でも、実質的には過大な制裁と見られる可能性があります。
10%以内なら常に適法、という理解は危険です。
1回あたりの上限、総額上限、就業規則の根拠、手続きの適正さを総合的に確認する必要があります。
| 違法になりやすいケース | 問題点 | 確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 就業規則に根拠がない | 懲戒処分としての根拠が不十分 | 就業規則、懲戒規程 |
| 1件あたりの上限超過 | 平均賃金1日分の半額を超える可能性 | 平均賃金計算表、処分通知書 |
| 月の総額上限超過 | 賃金総額の10分の1を超える可能性 | 給与明細、賃金台帳 |
| 継続的な10%減給 | 1事案への過大な制裁となる可能性 | 処分理由、減給期間、就業規則 |
違法な減給があった場合、減給分が未払賃金として問題になる可能性があります。
給与未払いの確認方法については、 労働基準監督署へ給料未払いを相談する方法 でも解説しています。
会社側は、減給処分を行う前に、就業規則、計算根拠、手続きの3点を確認してください。
従業員側は、減給された事実だけで違法と決めつけるのではなく、どの根拠に基づいて、どのように計算されているのかを確認することが大切です。
感情的な対立に発展する前に、資料をそろえて冷静に確認することが解決への近道です。
賞与から減給する場合
賞与も労働の対価として支給されるものであれば、賃金に該当します。
そのため、賞与支給月に懲戒処分として減給を行う場合は、賞与額を含めた賃金総額を前提に、10分の1の上限を考える場面があります。
ここは、給与だけの月と賞与支給月で上限額が変わる可能性があるため、実務でも迷いやすいポイントです。
たとえば、通常の月給が30万円で、賞与が60万円支給される月であれば、その月の賃金総額は90万円として考える場面があります。
この場合、一賃金支払期の総額上限は9万円という見方になります。
ただし、ここでも1件あたりの上限である平均賃金1日分の半額は別に確認しなければなりません。
賞与支給月だからといって、1件あたりの減給上限が自由に大きくなるわけではありません。
また、賞与からの減給と、賞与査定による減額は区別して考える必要があります。
懲戒処分として賞与から一定額を差し引く場合は、労働基準法第91条の制限が問題になります。
一方で、評価制度に基づいて賞与の支給額が下がる場合、それが懲戒処分ではなく人事評価の結果であれば、91条の減給制裁とは別の問題として扱われることがあります。
ただし、会社が「賞与査定」と説明していても、実質的に懲戒処分の代わりとして賞与を大きく減らしている場合は注意が必要です。
たとえば、具体的な評価基準がなく、特定の問題行動への制裁として賞与だけを大幅にカットしている場合には、実態として懲戒処分ではないかが問題になることがあります。
賞与支給月の減給では、賞与が賃金総額に含まれるか、懲戒処分としての減給なのか、人事評価による賞与減額なのかを分けて整理することが大切です。
名称ではなく、実態を見て判断する姿勢が必要です。
賞与規程と評価制度の確認
賞与に関するトラブルを防ぐには、賞与規程や評価制度を整えておくことが重要です。
賞与の支給対象者、算定期間、評価項目、欠勤や懲戒処分があった場合の取扱いなどを明確にしておくと、会社側も従業員側も判断しやすくなります。
従業員側としては、賞与が大きく下がった場合に、懲戒処分として減額されたのか、評価結果として支給額が下がったのかを確認することが大切です。
賞与は生活設計にも影響するため、説明が不十分だと不満が大きくなりやすい部分です。
会社側は、賞与の金額だけを通知するのではなく、必要に応じて評価の考え方を説明できるようにしておくとよいでしょう。
人事考課による減給
労働基準法第91条の減給制限は、懲戒処分としての減給に適用されます。
そのため、人事考課の結果として等級が下がる、役職が外れる、職務内容が変わることに伴って賃金が下がる場合は、直ちに91条の減給制裁と同じ扱いになるとは限りません。
ここは企業側も従業員側も混同しやすいところです。
たとえば、管理職から一般職に降格し、役職手当がなくなる場合があります。
また、職能等級や役割等級に基づく賃金制度で、評価結果により等級が下がり、基本給や手当が下がることもあります。
これらが就業規則や賃金規程、評価制度に基づいて適正に行われているのであれば、懲戒処分としての減給とは別に整理されることがあります。
ただし、会社が「査定」と説明していても、実質的には懲戒処分として給与を下げているような場合は注意が必要です。
名称ではなく、実態を見て判断される可能性があります。
たとえば、具体的な評価制度がないのに、特定のミスや問題行動を理由として急に給与を下げる場合は、懲戒処分としての減給制限や就業規則の根拠が問題になることがあります。
人事考課による賃金変更では、評価制度、賃金テーブル、降格基準、職務内容の変更、本人への説明が重要です。
制度があいまいなまま給与だけを下げると、労使トラブルになりやすい部分です。
企業側は、人事評価による賃金変更と懲戒処分としての減給を混同しないように設計する必要があります。
従業員側は、減給の理由が懲戒なのか、査定なのか、降格なのかをまず確認してください。
理由によって、確認すべき資料や争点が変わります。
| 区分 | 主な理由 | 確認すべき制度 | 91条との関係 |
|---|---|---|---|
| 懲戒処分としての減給 | 社内秩序違反、服務規律違反など | 就業規則、懲戒規程 | 原則として対象になる |
| 人事考課による減給 | 評価低下、等級変更、役割変更など | 賃金規程、評価制度 | 直ちに対象とは限らない |
| 役職手当の消滅 | 管理職から一般職への変更など | 役職規程、賃金規程 | 実態により確認が必要 |
| 欠勤控除 | 働いていない時間分の控除 | 賃金規程、勤怠記録 | 懲戒減給とは区別する |
制度がないまま給与を下げる危険性
人事考課による賃金変更では、制度の明確さが非常に重要です。
評価項目、評価期間、評価者、賃金への反映方法が不明確なまま給与を下げると、従業員から「なぜ下がったのか分からない」と受け止められます。
これは、会社への不信感や退職、紛争につながりやすいです。
私は実務で、賃金制度の相談を受ける際には、評価制度と賃金表が連動しているかをよく確認します。
評価結果を賃金に反映させるのであれば、従業員に説明できる基準が必要です。
会社側にとっては柔軟な人事運用も大切ですが、賃金は従業員の生活に直結するため、透明性を持たせることが欠かせません。
従業員側としては、給与が下がったときに、単に違法かどうかだけを見るのではなく、会社がどの制度に基づいて下げたのかを確認してください。
懲戒処分であれば就業規則と労働基準法第91条、人事考課であれば評価制度と賃金規程が中心になります。
減給10分の1の要点まとめ
減給の10分の1ルールは、懲戒処分として減給を行う際の重要な上限規制です。
ただし、実務では10分の1だけを見て判断するのではなく、1回あたりの上限、就業規則の根拠、処分理由、手続きの適正さを合わせて確認する必要があります。
会社側にとっては、減給処分は社内秩序を守るための選択肢の一つです。
しかし、賃金は従業員の生活に直接関わるため、法律上の制限や手続きが厳しく見られます。
金額が小さいから大丈夫、本人に問題があるから大丈夫、という考え方では不十分です。
事実確認、就業規則、計算根拠、説明書面をセットで整えることが大切です。
従業員側にとっては、減給を受けたときに、すぐに違法と決めつけるのではなく、どの種類の減給なのかを確認することが第一歩です。
懲戒処分としての減給なのか、人事考課による賃金変更なのか、欠勤や遅刻による控除なのかによって、見るべきルールが変わります。
そのうえで、1件あたりの上限や10分の1の総額上限を確認すると、問題点が整理しやすくなります。
減給10分の1の確認ポイント
- 1件あたり平均賃金1日分の半額を超えていないか
- 一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えていないか
- 就業規則に減給の制裁が明記されているか
- 懲戒事由と処分内容のバランスが取れているか
- 人事考課による減給と懲戒減給を混同していないか
会社側は、減給処分を急いで決める前に、就業規則、給与計算、処分手続きを一つずつ確認することが大切です。
従業員側は、給与明細や処分通知書を見て、不明点があれば早めに確認しましょう。
減給の問題は、放置すると未払賃金、懲戒処分の無効、職場内の信頼関係の悪化につながることがあります。
この記事の計算例は、あくまで一般的な目安です。
実際の判断は、賃金体系、就業規則、処分内容、過去の運用、本人への説明状況によって変わります。
会社側も従業員側も、個別事情を抜きにして一律に判断しないことが大切です。
最後に確認しておきたいこと
減給10分の1のルールは、数字だけを見ると単純に見えます。
しかし、実際の相談では、就業規則が古い、処分理由があいまい、平均賃金の計算根拠が残っていない、人事考課と懲戒処分が混ざっているなど、複数の問題が重なっていることが少なくありません。
だからこそ、順番に確認することが大切です。
企業側は、処分を行う前に、まず就業規則の根拠、次に懲戒事由への該当性、そして減給額の上限を確認してください。
従業員側は、処分通知書、給与明細、就業規則を見て、何に基づいていくら減給されたのかを確認してください。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
最終的な判断は専門家にご相談ください。
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