こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
移動時間が労働時間に入らないのはおかしいのではないか、という疑問には、法的に見てもおかしいケースと、残念ながら労働時間に当たりにくいケースの両方があります。
判断の中心になるのは、会社の指揮命令下に置かれている時間かどうかです。
会社から現場へ移動する場合、出張で休日に移動する場合、直行直帰で自宅から現場へ向かう場合など、見た目は似ていても結論が変わることがあります。
この記事では、移動時間と労働時間の関係について、従業員の方が自分の状況を確認しやすいように整理します。
企業側にとっても、勤怠管理や就業規則を見直す際に迷いやすいポイントですので、実務上の注意点もあわせてお伝えします。
- 移動時間が労働時間に含まれる基準
- 会社から現場や直行直帰の判断
- 出張や休日移動と残業代の考え方
- 未払い賃金を確認するための対処法
移動時間が労働時間外はおかしい?
まずは、移動時間が労働時間になるかどうかの基本的な考え方を押さえます。
実務では、単に会社のために移動しているかではなく、 その移動中にどの程度会社の指示や拘束を受けているか を見ます。
労働時間に含まれる基準
労働時間に含まれるかどうかを考えるとき、最初に押さえておきたいのは、会社がどう呼んでいるかではなく、実態としてどういう時間だったかです。
会社が「移動時間」「待機時間」「準備時間」と呼んでいても、その時間にあなたが会社の指示から自由ではなく、業務のために拘束されているのであれば、労働時間に当たる可能性があります。
労働基準法上の労働時間は、一般に 労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間 と整理されます。
ここで大事なのは、就業規則や雇用契約書に「移動時間は労働時間に含めない」と書かれていても、それだけで結論が決まるわけではないという点です。
実務では、規定の文言よりも、会社の指示、業務との関連性、移動中の自由度、移動せざるを得ない事情を具体的に見ます。
たとえば、会社に集合して朝礼を受け、その後に資材を積み込み、社用車で現場へ向かう時間は、単なる通勤とは異なります。
現場間を移動して次の作業に向かう時間も、あなたが自由に使える時間ではなく、業務の流れの中にある時間です。
一方で、自宅から最初の現場へ直接向かうだけで、途中の過ごし方に会社から特別な指示がない場合は、通勤に近い時間として扱われることがあります。
判断の入口は、移動している事実そのものではなく、指揮命令下にあるかどうかです。
- 会社の具体的な指示で移動しているか
- 移動中に業務対応を求められているか
- 移動中の時間を自由に使えるか
- 移動が作業や業務と一体になっているか
就業規則だけで決まらない理由
会社側から見ると、就業規則に明記しているから大丈夫だと考えがちです。
しかし、労働時間性の判断では、実態が優先されます。
たとえば、規則上は任意の集合とされていても、実際には集合しないと工具を受け取れない、朝礼でその日の指示を聞かないと仕事ができない、遅れると注意されるという運用であれば、任意とは言いにくいですよ。
逆に、従業員が自分の都合で会社に寄っているだけで、現場へ直行することも認められ、移動方法も自由に選べるのであれば、労働時間とまでは言いにくい場面もあります。
つまり、 移動時間が労働時間に含まれるかは、会社の名称ではなく、拘束の実態で見る ということです。
労働基準法の条文や労働時間・割増賃金の基本は、必要に応じて e-Gov法令検索「労働基準法」 で確認できます。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
指揮命令下かを確認
移動時間の相談では、「会社に言われて移動しているのに無給なのはおかしい」という声をよく聞きます。
この感覚は自然です。
ただ、法律上は感情面だけではなく、 移動中に会社の指示からどれだけ自由であったか を具体的に確認します。
ここを分けて考えると、自分のケースが労働時間に近いのか、通勤や単なる移動に近いのかが見えやすくなります。
指揮命令下にあるかを確認するときは、まず「その移動をしないという選択肢が実質的にあったか」を見ます。
会社が集合場所、出発時刻、移動経路、乗車する車、同乗者、持参物を指定している場合、自由度は低くなります。
さらに、移動中に上司から電話対応を求められる、顧客からの連絡に必ず応答するよう指示されている、車内で業務打ち合わせを行う、現場で使う重要物品を管理しながら移動する、といった事情があれば、労働時間性は強まります。
一方で、新幹線や飛行機に乗っているだけで、移動中の過ごし方が自由であり、特別な監視や作業を命じられていない場合は、労働時間に当たりにくいのが実務上の基本です。
読書をしても、寝ても、食事をしても、業務連絡に即時対応しなくてもよいのであれば、会社のための移動であっても、指揮命令下の程度は弱いと評価されやすくなります。
指揮命令下を示しやすい事情
| 確認項目 | 労働時間性が強まりやすい事情 | 労働時間性が弱まりやすい事情 |
|---|---|---|
| 移動の指示 | 集合場所・時刻・経路を会社が指定 | 移動方法を本人が自由に選べる |
| 移動中の過ごし方 | 電話・メール対応が義務 | 睡眠や読書など自由利用が可能 |
| 持参物 | 重要物品や機密資料の管理を指示 | 通常の私物や軽微な資料のみ |
| 業務との一体性 | 移動中に打ち合わせや作業準備を実施 | 単に目的地へ向かうだけ |
会社側も、移動中に電話対応や報告を当然のように求めている場合は注意が必要です。
勤怠上は移動時間を除外していても、実態として業務対応を義務づけていれば、後から労働時間と判断されるリスクがあります。
社労士として企業の勤怠運用を確認していると、ルール上は「移動中は自由」としながら、現場では上司が頻繁に指示を出しているケースがあります。
こうした場合、紙のルールと現場の運用がずれている状態です。
従業員側は、移動中にどのような指示を受けたのか、どの時間帯に業務対応したのかを残しておくと、後で説明しやすくなります。
会社から現場への移動
建設業、設備工事、介護、営業職などでは、会社から現場や客先へ移動する時間がよく問題になります。
実際によくある相談です。
特に建設業では、朝に事務所や資材置き場へ集まり、工具や材料を積み込んでから現場へ向かう運用が多いため、「いつから労働時間なのか」が曖昧になりやすいところです。
たとえば、朝いったん会社に集合し、そこで当日の作業指示を受け、資材や機材を積み込み、社用車で現場へ向かう場合は、単なる通勤とは言いにくくなります。
この場合、会社に集合した時点、または業務準備を始めた時点から労働時間と考える余地があります。
会社から現場への移動が、業務指示、準備作業、資材運搬と一体になっているためです。
特に、工具や資材の積み込み、現場で使う書類の確認、上司からの作業指示、車内での打ち合わせなどがある場合は、移動が業務と一体になっています。
会社から現場への移動時間がすべて無条件に無給でよいわけではありません。
移動時間という名前であっても、その中身が業務であれば、勤怠に反映させる必要が出てきます。
会社集合が問題になりやすい場面
会社集合が実質的に義務になっている場合は注意が必要です。
たとえば、朝礼に出ないと当日の現場が分からない、社用車でしか現場に入れない、資材や鍵を会社で受け取らないと作業できない、集合しないと評価や人間関係で不利益がある、といった場合です。
形式上は「任意」とされていても、実際には集合しない選択肢がないなら、労働時間と評価されやすくなります。
一方で、会社への立ち寄りが完全に任意で、従業員同士が都合に合わせて集合しているだけという場合は、労働時間と認められにくいことがあります。
重要なのは、会社が実質的に集合や立ち寄りを求めていたかどうかです。
企業側では、朝の集合を義務にしているのか、資材積み込みを誰が行うのか、現場までの運転者や同乗者にどのような役割を求めているのかを整理しておく必要があります。
曖昧なまま運用していると、未払い賃金の問題につながりやすい部分です。
従業員側も、集合時刻、出発時刻、現場到着時刻、積み込み作業の有無、指示を受けた内容を日々メモしておくと、事実関係を確認しやすくなります。
会社から現場への移動は、集合・準備・積み込み・指示があるかをセットで見ます。
単なる移動時間として一括りにせず、どの時点から会社の指示を受けていたかを区切って確認しましょう。
直行直帰の移動時間

直行直帰の場合は、どの区間の移動かで判断が変わります。
自宅から最初の現場や客先へ向かう時間は、通常の通勤時間に近いものとして扱われることが多く、労働時間には当たりにくいです。
ここは、従業員の方からすると「会社の指示でその現場へ行っているのに」と感じやすい部分ですが、法律上は通常の通勤に近い性質があると整理されます。
反対に、最初の現場から次の現場へ移動する時間、客先から別の客先へ向かう時間は、業務の途中で必要になる移動です。
このような現場間移動や客先間移動は、原則として労働時間に含めて考えるべきです。
なぜなら、すでに業務を開始した後で、会社の業務を遂行するために次の場所へ移動しているからです。
最後の現場や客先から自宅へ帰る時間は、通常は帰宅のための移動に近く、労働時間に当たりにくいと考えられます。
ただし、帰宅途中に会社へ立ち寄って日報を提出する、重要物品を返却する、社用車を会社に戻すことが義務になっている場合は、最後の現場から会社までの移動が業務の一部と評価されることがあります。
| 移動区間 | 一般的な判断 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| 自宅から最初の現場 | 通勤時間に近い | 通常は労働時間に当たりにくい |
| 現場から次の現場 | 業務上の移動 | 労働時間に当たりやすい |
| 最後の現場から自宅 | 帰宅の移動に近い | 通常は労働時間に当たりにくい |
直行直帰でも例外になり得るケース
ただし、自宅から最初の現場へ向かう途中でも、会社から特別な業務を命じられている場合は別です。
たとえば、重要物品を運ぶ、現場で使う機材を積んで移動する、移動中に顧客対応を義務づけられるような場合は、通勤時間と単純に割り切れないことがあります。
営業職であれば、移動中に顧客からの電話を必ず受けるよう指示されている場合、介護職であれば次の訪問先への連絡や記録入力を移動中に行うことが常態化している場合などです。
会社側は、直行直帰を導入する際に、勤怠の開始・終了時刻をどう記録するか、現場間移動をどう扱うか、移動中の業務対応を求めるのかを明確にしておく必要があります。
従業員側も、直行直帰だから全部が通勤時間だと諦めるのではなく、現場間移動や業務対応が含まれていないかを確認してください。
直行直帰は効率的な働き方ですが、勤怠管理が雑になるとトラブルになりやすい制度です。
特に複数現場を回る働き方では、最初と最後の移動だけでなく、途中の移動時間を分けて記録することが大切です。
出張の移動時間と残業
出張時の移動時間は、とても誤解が多いテーマです。
会社の命令で遠方へ移動しているため、すべて労働時間になると考えたくなるところですが、実務上の原則は少し違います。
出張の移動は、会社の業務に関連していることは確かですが、移動中に自由利用ができる場合、直ちに労働時間とは扱われにくいのです。
一般には、出張のために新幹線や飛行機で移動するだけの時間は、移動中の自由利用が認められやすいため、労働時間には当たりにくいとされています。
休日に出張先へ前日移動する場合や、平日の勤務時間外に長距離移動する場合でも、直ちに残業や休日労働になるとは限りません。
ここは、読者の感覚としてはかなり納得しづらいところかなと思います。
ただし、出張中の移動でも、現金、機密書類、納品物、重要機材などの管理を会社から指示されている場合や、移動中にパソコン作業、資料作成、Web会議、電話対応を命じられている場合は、労働時間として考える余地が出てきます。
単なる乗車ではなく、移動中に業務上の責任や作業があるからです。
出張の移動時間は、単なる移動か、移動中にも業務を命じられているかで判断が分かれます。
出張移動で確認したい実務ポイント
出張移動で確認したいのは、移動中に何をしていたか、会社から何を求められていたか、移動しなければならない日時がどの程度指定されていたかです。
たとえば、会社が指定した便に乗る必要があるだけで、移動中は自由に過ごせる場合と、移動中に上司と資料を確認し、到着までに提案書を完成させるよう指示されていた場合では、評価が違います。
また、出張旅費規程で日当が支給されている場合もあります。
日当は出張による負担を補う趣旨で設けられることが多いですが、日当があるからといって、労働時間に当たる移動中の業務まで当然に残業代不要になるわけではありません。
手当の趣旨と割増賃金の支払いは、分けて考える必要があります。
残業代の考え方を詳しく確認したい場合は、 残業代は1時間でいくらが平均?
統計と計算方法を社労士が解説も参考になります。
実際の計算では、基礎賃金、割増率、労働時間数、既に支払われている手当を分けて確認します。
出張中の移動が長時間であっても、それだけで残業代が発生するとは限りません。
一方で、移動中に具体的な業務指示がある場合は、移動時間だから対象外と単純に処理しないことが重要です。
休日移動は労働時間か
休日に出張先へ移動するケースも、「これで休日がつぶれるのに無給なのはおかしい」と感じやすい場面です。
私も相談を受ける中で、納得しにくいポイントだと感じます。
家族との予定を入れられない、長時間の移動で疲れる、翌日の仕事に備えて実質的に拘束されるという意味では、負担があるのは確かです。
しかし、休日に移動したという事実だけで、必ず休日労働になるわけではありません。
行政通達でも、出張のため休日に旅行する場合であっても、旅行中に物品の監視など別段の指示がある場合を除き、休日労働として取り扱わなくても差し支えないという考え方が示されています。
つまり、休日の新幹線移動や飛行機移動が長時間であっても、移動中に自由に過ごせるのであれば、法的には労働時間とされにくいのが基本です。
ただし、これは「休日移動は全部無給で当然」という意味ではありません。
たとえば、会社から重要な納品物を持って移動するよう指示されている、移動中に顧客対応や資料作成を命じられている、現地到着後すぐに業務に入るため移動中も準備を義務づけられている、といった場合は個別に判断が必要です。
休日移動中に会社から作業を命じられている場合、重要物品を監視している場合、到着後すぐに業務を行うため移動中も準備を義務づけられている場合などは、単なる移動として処理できない可能性があります。
休日労働と休日移動は分けて考える
休日労働になるかどうかは、休日に「労働した」といえるかがポイントです。
会社の法定休日に実際の作業をした場合、休日労働として割増賃金の対象になる可能性があります。
一方、休日に目的地へ移動しただけで、移動中に自由利用があり、業務上の監視や作業がない場合は、休日労働とは扱われにくくなります。
とはいえ、会社としては法的に問題がない場面でも、従業員の負担感を無視しない運用が望ましいです。
実務では、休日移動に対して出張日当や移動手当を設ける、翌日の始業時刻を調整する、長距離移動を勤務時間内に収めるよう配慮する、といった対応をする会社もあります。
これは必ずしも法律上の義務とは限りませんが、労務管理上は大切な視点です。
休日労働や割増賃金の扱いは、会社の休日設定、法定休日か所定休日か、実際の労働時間、就業規則の定めによっても変わります。
制度や取扱いは変更される可能性もあるため、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
個別の出張命令や旅費規程の内容によって結論が変わることもあります。
移動時間と労働時間がおかしい時の対処

ここからは、あなたの移動時間の扱いに疑問がある場合に、どこを確認し、どのように証拠を残し、会社や専門家に相談すればよいかを整理します。
感情的に会社と対立する前に、事実を順番に確認することが大切です。
所定労働時間内の移動

所定労働時間内、たとえば9時から18時までが勤務時間で、その時間中に客先訪問や現場間移動をしている場合、その移動時間は基本的に労働時間として扱うべきです。
勤務時間中に業務上必要な場所へ移動しているのであれば、その時間は会社の業務遂行のために使われており、従業員が自由に私用で過ごしている時間ではありません。
営業職が午前中にA社を訪問し、午後にB社へ移動する時間、介護職が利用者宅から次の利用者宅へ移動する時間、建設業で現場から別の現場へ移る時間などは、業務の途中で必要になる移動です。
これは、仕事の合間に個人的に移動しているわけではありません。
むしろ、その移動がなければ次の業務ができないため、業務と一体の時間といえます。
もし所定労働時間内の移動を勤怠から除外し、その結果として実労働時間が少なく記録されている場合は注意が必要です。
特に、移動時間を除外することで残業代が発生しないように見えている場合、未払い賃金の問題につながることがあります。
勤怠表上は7時間勤務でも、実際には移動を含めて9時間拘束されていたというケースは、実務でも確認が必要になります。
中小企業では、勤怠システム上の区分が「作業時間」と「移動時間」に分かれていても、賃金計算上はどちらも労働時間として扱うべきケースがあります。
表示上の区分と法律上の労働時間は、必ずしも同じではありません。
移動時間を除外していないか確認する方法
まず、勤怠記録の打刻時刻と実際の行動を照らし合わせてください。
会社に出勤してから現場へ移動した時間、現場から次の現場へ移動した時間、客先訪問のために移動した時間が、勤怠上どのように扱われているかを確認します。
日報やスケジュール表がある場合は、移動区間ごとに時刻を書き出してみると分かりやすいです。
会社側は、労働時間管理の観点から、作業時間だけでなく移動時間も含めて実態を把握する必要があります。
特に外回りや現場仕事では、事務所にいる時間だけを勤務時間として扱うと、実際の労働時間と大きくずれることがあります。
採用時や雇用契約書の説明でも、直行直帰や現場間移動の扱いを確認しておくと、後のトラブルを防ぎやすいですよ。
移動中の業務対応
移動中に仕事をしている場合は、移動方法や時間帯にかかわらず、労働時間として考える余地が強くなります。
電車内で資料作成をする、会社の指示でメール返信をする、社用スマホで顧客対応をする、Web会議に参加する、といったケースです。
移動中だから労働時間ではない、という単純な整理はできません。
ポイントは、その業務対応が 会社から指示されたものか 、または事実上対応せざるを得ない状態だったかどうかです。
単に本人が任意でメールを見ていた場合と、会社が即時対応を求めていた場合では、判断が変わります。
たとえば、移動中でも顧客からの電話には必ず出るように言われている、チャットには即レスが当然になっている、移動中に報告書を完成させるよう求められている場合は、自由な移動時間とは言いにくくなります。
実務では、明確な命令がなくても、毎回移動中に対応することが当然になっていた、対応しないと注意される、上司から頻繁に連絡が来る、といった事情があると、黙示の指示が問題になることがあります。
会社としては「本人が勝手にやっていた」と言いたくなる場面でも、実際には移動中の対応を前提に業務が回っていたのであれば、慎重に見なければなりません。
移動中に仕事をしている証拠 として、メールの送受信時刻、チャット履歴、通話履歴、Web会議の参加履歴、作成ファイルの更新時刻などを残しておくと、後から状況を説明しやすくなります。
証拠は業務内容と時刻をセットで残す
移動中の業務対応を説明するには、「何時から何時まで移動していたか」と「その間に何をしたか」の両方が必要です。
交通ICカードの履歴だけでは、移動していたことは分かっても、業務をしていたことまでは分かりません。
逆に、メール履歴だけでは、その時間が移動中だったかどうかが分からないことがあります。
そのため、できれば日々のメモに、出発時刻、到着時刻、移動区間、移動中に行った業務、指示した人、使用したツールを簡単に残しておきましょう。
完璧な記録でなくても、継続的なメモは後で状況を説明する助けになります。
会社側も、移動中の業務対応を求めるなら、その時間を勤怠管理上どう扱うのかを明確にすることが大切です。
移動中のスマホ確認がすべて労働時間になるわけではありません。
任意の確認なのか、会社の指示や業務上の必要に基づく対応なのかを分けて考えることが重要です。
建設業の移動時間
建設業では、移動時間の扱いが特に問題になりやすいです。
朝に会社や資材置き場へ集合し、工具や材料を積み込んで、職長や上司の指示を受けてから現場へ向かう運用が多いからです。
現場が毎日変わる、複数人で社用車に乗る、道具や資材を運ぶ、現場到着前に段取りを確認する。
こうした特徴があるため、単純な通勤時間とは違う事情が出てきます。
この場合、会社に集合した後の時間をすべて単なる通勤と見るのは難しいことがあります。
資材積み込みや作業段取り、現場への移動が一連の業務として行われているのであれば、労働時間に含めるべき可能性があります。
特に、集合時刻が決められている、遅れると注意される、資材積み込みをしないと作業が始められない、運転者が会社から指定されているといった事情は重要です。
一方で、従業員が自分の判断で任意に会社へ寄っているだけ、移動方法も会社が指定していない、現場へ直行することも自由に認められている、という事情があれば、判断は変わります。
建設業だから必ず会社集合後の移動が労働時間になるわけではありません。
あくまで、会社がどこまで関与し、どの程度業務と一体になっているかを見ます。
建設業では「昔からこうしている」という運用が残りやすい一方で、勤怠管理や割増賃金の確認は年々厳しく見られています。
会社側は、集合の義務、資材積み込みの扱い、運転者の負担、現場間移動の勤怠記録を整理しておくことが重要です。
建設業で確認したいチェック項目
| 項目 | 確認内容 | 労働時間性の見方 |
|---|---|---|
| 集合 | 会社や資材置き場への集合が義務か | 義務なら労働時間性が強まる |
| 積み込み | 工具・資材・材料の積み込みを行うか | 作業と一体なら労働時間になりやすい |
| 指示 | 朝礼や車内で作業指示を受けるか | 指揮命令下と評価されやすい |
| 運転 | 誰が社用車を運転するか指定されるか | 運転者は特に拘束性が強い |
| 直行 | 現場へ直接行く選択肢があるか | 自由に直行できるなら判断が変わる |
36協定や労働基準監督署への届出の基本を確認したい場合は、 労働基準監督署への届出を社労士が企業実務向けに解説 も参考になります。
移動時間を含めると時間外労働が増える職場では、協定時間との関係も確認が必要です。
従業員側は、朝の集合から現場到着までの実態を整理し、会社側は、現場運用と勤怠記録が一致しているかを見直すことが大切です。
移動時間の残業代

移動時間が労働時間に当たる場合、その時間を含めて1日の労働時間や1週間の労働時間を計算します。
その結果、法定労働時間を超える部分があれば、時間外労働として割増賃金、いわゆる残業代が問題になります。
移動時間そのものを賃金計算から外していると、実際には残業が発生しているのに、給与明細上は残業なしに見えてしまうことがあります。
たとえば、所定労働時間中の現場間移動を除外して勤怠を付けていた会社で、実際には移動時間を含めると1日8時間を超えていた場合、その超えた部分について残業代が発生する可能性があります。
朝の会社集合後の移動、現場間移動、移動中の業務対応などを加えると、毎日30分から1時間程度の差が出るケースもあります。
これが数か月、数年続くと、金額としても無視できません。
残業代の計算では、単に移動時間の分だけ時給を掛ければよいとは限りません。
法内残業、法定時間外労働、深夜労働、休日労働、固定残業代の有無などを分けて確認します。
ここは給与明細だけを見ても分かりにくいことが多いです。
特に固定残業代がある会社では、その手当が有効に機能しているのか、何時間分として明示されているのか、超過分が支払われているのかを確認する必要があります。
残業代の計算方法は、 基本給20万円の残業代はいくら?
社労士が実務で解説でも具体的に解説しています。
実際の金額は、月平均所定労働時間、手当、割増率、勤務制度によって変わるため、あくまで一般的な目安として確認してください。
残業代を確認するときの流れ
まず、移動時間を含めた実際の労働時間を日ごとに整理します。
次に、会社の所定労働時間と法定労働時間を分けて確認します。
法定労働時間は原則として1日8時間、1週40時間ですが、変形労働時間制などを採用している会社では別の確認が必要になる場合があります。
さらに、深夜時間帯や休日労働が含まれるかも確認します。
残業代の確認では、移動時間が労働時間かどうかを判断したうえで、どの割増率の対象になるかを分けて考えることが重要です。
労働時間や割増賃金は、読者の生活や会社の賃金負担に直接関わります。
制度や計算方法は個別事情によって変わるため、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
最終的な判断は専門家にご相談ください。
移動時間の賃金請求
移動時間が労働時間に当たる可能性がある場合、いきなり会社へ強く請求する前に、まずは事実関係を整理することをおすすめします。
労務相談では、感覚としては正しくても、証拠が足りずに説明が難しくなることがあります。
特に移動時間の問題は、日々の積み重ねで発生するため、後から思い出そうとしても正確な時刻や指示内容が曖昧になりやすいです。
確認したい資料は、勤怠記録、給与明細、業務指示メール、チャット履歴、交通ICカードの履歴、カーナビや社用車の走行記録、日報、現場の入退場記録などです。
移動時間そのものだけでなく、どのような指示を受けていたかを示す資料も重要です。
たとえば、朝の集合指示、出発時刻の指定、資材積み込みの指示、移動中の電話対応依頼、現場間移動のスケジュールなどが分かる資料です。
未払い賃金の請求には時効があります。
2020年の法改正以降、賃金請求権の消滅時効は5年に延長されつつ、当分の間は3年とされています。
ただし、具体的な対象期間や請求できる範囲は事案によって変わります。
厚生労働省も、未払賃金が請求できる期間などの延長について案内しています(出典: 厚生労働省「労働者の皆さま 未払賃金が請求できる期間などが延長されます」 )。
時効や請求額は、退職日、賃金支払日、固定残業代の有無、会社の勤怠記録、既払い手当などによって変わります。
最終的な判断は専門家にご相談ください。
会社へ伝える前に整理すること
会社へ相談する際は、「移動時間が全部おかしい」と伝えるよりも、「会社集合後に資材を積み込んで現場へ向かう時間」「現場間移動の時間」「移動中に指示された業務対応の時間」のように、区間と内容を分けて伝えると話が整理しやすくなります。
会社側も、具体的な区間や日付が示されると、勤怠記録や運用を確認しやすくなります。
| 整理する内容 | 具体例 | 確認できる資料 |
|---|---|---|
| 移動区間 | 会社から現場、現場から次の現場 | 日報、スケジュール、地図履歴 |
| 時刻 | 集合、出発、到着、作業開始 | 勤怠、交通IC履歴、入退場記録 |
| 会社の指示 | 集合指示、積み込み指示、電話対応指示 | メール、チャット、業務連絡 |
| 給与処理 | 移動時間が賃金対象外になっている | 給与明細、賃金規程、就業規則 |
従業員側は感情的に詰め寄る前に、事実を整理して相談することが大切です。
企業側は、相談を受けた段階で現場運用を確認し、必要に応じて勤怠の修正、賃金の精算、就業規則や運用ルールの見直しを検討するのが実務的です。
移動時間と労働時間がおかしい時の相談
移動時間と労働時間の扱いがおかしいと感じたときは、まず自分のケースがどの類型に近いかを確認しましょう。
会社から現場への移動なのか、直行直帰なのか、出張の移動なのか、所定労働時間内の移動なのかで、判断の入口が変わります。
ここを整理しないまま相談すると、話が大きくなりすぎて、かえって結論が見えにくくなります。
そのうえで、会社の指示、移動中の自由度、業務対応の有無、物品管理の有無、勤怠記録の扱いを整理します。
これらを確認すると、労働時間に含まれる可能性がある移動時間と、通勤や自由利用の移動として扱われやすい時間が見えてきます。
移動時間のすべてが労働時間になるわけではありませんが、移動時間のすべてが労働時間外になるわけでもありません。
移動時間が労働時間に当たるかは、最終的には個別具体的な事情で判断されます。
不満や違和感は大切な出発点ですが、実務上は証拠と事実の整理が欠かせません。
相談先ごとの使い分け
相談先としては、会社の人事労務担当、労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士などがあります。
まず社内で確認できる環境であれば、人事労務担当に対して、移動区間、時刻、業務指示、勤怠処理を整理して相談するのが現実的です。
会社が制度を誤解しているだけで、運用の見直しにつながるケースもあります。
会社へ相談しにくい場合や、未払い賃金の疑いが強い場合は、労働基準監督署に相談する方法があります。
ただし、労働基準監督署に相談する場合も、具体的な資料があると話が進みやすいです。
未払い賃金の請求額が大きい、退職後に請求したい、会社と争いになりそうという場合は、弁護士への相談も検討してください。
社会保険労務士は、勤怠管理や就業規則、会社の労務運用の整理という面で相談しやすい専門家です。
企業側も、従業員から「移動時間の扱いがおかしい」と言われたときは、単に就業規則の文言だけで回答せず、実態を確認する必要があります。
集合の義務、業務指示、移動中の対応、手当の位置づけを見直すことで、トラブルを予防しやすくなります。
特に外回り、建設業、介護、出張の多い職種では、採用時や雇用契約時に移動時間の扱いを説明しておくことが重要です。
移動手当や出張日当を支給している会社もありますが、それが残業代の代わりになるとは限りません。
手当の趣旨、支給条件、割増賃金との関係を分けて確認しましょう。
移動時間と労働時間がおかしいと感じる場面には、法的に問題があるケースも、法律上は労働時間に当たりにくいケースもあります。
大切なのは、会社への不満だけで判断せず、指揮命令下にあったか、移動中に自由があったか、業務と一体だったかを具体的に見ることです。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
個別事情によって結論が変わりますので、最終的な判断は専門家にご相談ください。