こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
懲戒解雇と退職金の関係では、従業員を懲戒解雇したからといって、退職金まで当然にゼロになるわけではありません。
会社に退職金制度があり、その従業員が規程上の支給対象となっている場合には、まず退職金についてどのような権利が生じるのかを確認し、そのうえで不支給や減額が認められるかを別に判断する必要があります。
たとえば、経理担当者による横領が発覚し、懲戒解雇すること自体には十分な理由があるとしても、それだけで「退職金も全額払わなくてよい」とは限りません。
退職金規程に不支給・減額の根拠があるか、その行為が長年の勤続の功を失わせるほど重大なものか、会社にどの程度の損害を与えたのか、職務上の地位や権限を悪用したものなのか、といった事情を確認して判断します。
特に中小企業では、懲戒解雇の有効性、退職金の不支給、横領による損害賠償、解雇予告除外認定などを一つの問題として考えてしまいやすいところです。
しかし、これらはそれぞれ根拠となるルールや判断基準が異なります。
会社として適切な対応を取るためには、一つずつ論点を切り分けることが重要です。
この記事では、懲戒解雇と退職金の基本的な考え方から、不支給・減額に必要となる要件、裁判例の考え方、横領があった場合の損害賠償との関係、中退共を利用している場合の注意点まで、会社側の実務を中心に詳しく整理します。
- 懲戒解雇でも退職金が当然にゼロにならない理由
- 退職金を不支給・減額するために必要な2つの要件
- 横領や重大な規律違反があった場合の実務対応
- 中退共や支給後に不正が発覚した場合の注意点

懲戒解雇で退職金はどうなるのか
まずは、懲戒解雇と退職金の基本的な関係から整理します。
大切なのは、 懲戒解雇が有効かどうかと、退職金を不支給にできるかどうかは別の判断 だという点です。
懲戒解雇が有効だから退職金も自動的にゼロになるわけでも、反対に退職金の一部を支給しなければならないから懲戒解雇が無効になるわけでもありません。
退職金制度の有無、規程の内容、退職金の性格、非違行為の重大性を順番に確認していきます。
懲戒解雇でも退職金は原則発生する
ここでいう「原則発生する」とは、すべての会社に退職金を支払わなければならないという意味ではありません。
そもそも、民間企業には退職金制度そのものを設けなければならない一般的な法律上の義務はありません。
退職金制度を設けていない会社であれば、退職した従業員に対して当然に退職金を支給しなければならないわけではありません。
一方で、会社が就業規則、退職金規程、労働契約などによって退職金制度を設け、対象者、勤続年数、支給率、計算方法、支払時期などを具体的に定めている場合には話が変わります。
一定の条件を満たせば退職金を受け取れる制度として運用されていれば、その規程に基づいて退職金の請求権が生じることになります。
最初に確認するのは「懲戒解雇だから退職金を払わなくてよいか」ではなく、「この会社の退職金制度では、本来いくらの退職金が生じるのか」です。
その金額を把握したうえで、不支給または減額する根拠があるのかを検討するのが実務上の正しい順序です。
退職金には二つの性格がある
懲戒解雇で退職金を全額不支給にできるかを考えるうえで、退職金の性格を理解しておくことが重要です。
退職金には一般に、 賃金の後払い的な性格 と、 長年の勤務に対する功労報償的な性格 の両方があると考えられています。
たとえば、勤続20年の従業員について、退職時の基本給と勤続年数を基準として退職金額が算出される制度を考えてみてください。
このような制度では、長期間働いたことによって毎年少しずつ退職金の基礎となる価値が積み上がっていくため、在職中の労働に対する対価を退職時にまとめて受け取るという意味合いがあります。
これが賃金の後払い的な性格です。
その一方で、会社へ長く勤務し、企業の発展に貢献したことに対する報償という意味もあります。
こちらが功労報償的な性格です。
そのため、会社に対して極めて重大な背信行為をした場合には、「これまでの功労を評価して退職金を支払う前提が失われた」という考え方が生じます。
つまり、退職金には「過去の労働に対する対価」という側面と「長年の功労に報いる」という側面が共存しています。
この二つの性格があるため、懲戒解雇された従業員について、単純に「最後に悪いことをしたのだから全部ゼロ」と処理することには慎重さが求められます。
退職金制度があるかを最初に確認する
実際の相談では、「懲戒解雇した場合の退職金はどうなりますか」と聞かれたとき、私はまず退職金規程を確認します。
会社によって退職金制度はかなり違います。
就業規則の中に退職金条項が入っている会社もあれば、別冊の退職金規程を設けている会社もあります。
中退共だけを利用している会社もあれば、自社退職金と中退共を併用している会社もあります。
さらに、正社員だけが対象なのか、一定以上の勤続年数が必要なのか、自己都合退職と会社都合退職で支給率が異なるのかなど、制度の内容によって結論は変わります。
懲戒解雇が有効であることと、退職金の全額不支給が有効であることはイコールではありません。
懲戒処分と退職金を一つの問題として処理せず、「本来の退職金はいくらか」「その全部または一部を失わせる根拠があるか」という二段階で考えることが大切です。
退職金を不支給・減額できる2要件

会社が懲戒解雇した従業員の退職金を不支給または減額しようとする場合、実務では大きく二つの要件を確認します。
| 確認する要件 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 規程上の根拠 | 就業規則や退職金規程に不支給・減額事由が明確に定められているか |
| 非違行為の重大性 | それまでの勤続の功を抹消・減殺するほどの重大な背信行為と評価できるか |
この二つは両方重要です。
たとえば、従業員による横領が発覚したケースを考えてみましょう。
横領は会社財産を故意に侵害する行為ですから、懲戒処分との関係では非常に重大な非違行為になり得ます。
しかし、会社の退職金規程を確認すると、「勤続3年以上の社員が退職した場合には別表に基づき退職金を支給する」とだけ定められており、懲戒解雇時の不支給について何も書かれていない。
このような状態で会社が後から「横領したのだから退職金は当然ゼロ」と判断するのは危険です。
反対に、退職金規程に「懲戒解雇された者には退職金を支給しない」と明確に書いてあったとしても、それだけですべての懲戒解雇について全額不支給が認められるわけでもありません。
たとえば、懲戒解雇の根拠には、横領や背任のような極めて重大な行為だけでなく、会社の規程によっては無断欠勤、重大な業務命令違反、会社の信用を害する行為などさまざまなものが定められています。
懲戒解雇事由に該当するという形式的な判断だけで、長年積み上げた退職金をすべて失わせることが常に相当とは限りません。
規程がある=必ず全額不支給にできる、という関係ではありません。
規程上の根拠を確認したうえで、その行為の重大性、故意性、会社への損害、職務との関連性、勤続年数、過去の勤務状況などを個別に評価する必要があります。
三段階で考えると整理しやすい
会社側では、懲戒解雇と退職金を次の三段階に分けて考えると整理しやすくなります。
- そもそも懲戒解雇という処分が有効と評価できるか
- 退職金規程上、不支給または減額する根拠があるか
- その事案で全額不支給まで行うことが相当か
第一段階では、就業規則上の懲戒事由、事実関係、証拠、本人への弁明の機会、過去の処分との均衡などを確認します。
第二段階では退職金規程の条文を確認します。
そして第三段階では、これまでの勤続の功を全部失わせるほどの背信性があるかを評価します。
この三つをまとめて「懲戒解雇だから退職金ゼロ」としてしまうと、どこに法的な弱点があるのか分からなくなります。
特に紛争になったときには、会社がどの資料を基に、どのような事情を評価して不支給割合を決定したのかが問われる可能性があります。
そのため、私は会社側には、結論だけでなく 判断過程を残すこと をおすすめしています。
調査報告書、本人の弁明、損害額の資料、懲戒委員会等の議事記録、退職金規程の該当条文などを整理し、「なぜ全額不支給なのか」「なぜ一部支給なのか」を後から説明できる状態にしておくことが重要です。
退職金規程に不支給条項が必要
退職金制度を設けている会社では、まず就業規則と退職金規程を確認してください。
労働基準法第89条では、退職手当に関する制度を設ける場合、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、支払時期に関する事項を就業規則へ記載することが求められています。就業規則の作成・届出や記載事項の基本は就業規則とは(作成・届出・記載事項)で解説しています。
法令の条文を確認したい場合は、 e-Gov法令検索「労働基準法」 で、退職手当については第89条、賃金の全額払いについては第24条、解雇予告については第20条を確認できます。
(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)
そして、退職金について不支給事由や減額事由を設けるのであれば、それは退職金額の決定に直結する重要な条件ですから、あらかじめ規程上明確にしておくことが重要です。
不支給条項は具体的に設計する
たとえば、実務では次のような内容を規程へ置くことが考えられます。
- 懲戒解雇された者について退職金の全部または一部を支給しない旨
- 非違行為の内容や情状により一部を支給できる旨
- 退職後に在職中の重大な非違行為が判明した場合の取扱い
- すでに支給した退職金について返還を請求できる場合の定め
ここで実務上おすすめしたいのは、単純に「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」とだけ定めて終わらせないことです。
懲戒解雇といっても、非違行為の内容はさまざまです。
数年間にわたり会社資金を横領していたケースと、一度の重大な服務規律違反によって懲戒解雇となったケースでは、退職金を全額失わせることの相当性が同じとは限りません。
そのため、「全部または一部を支給しないことがある」「情状を考慮して一部を支給することがある」といった形で、事案に応じた判断ができる制度設計を検討する価値があります。
懲戒規定だけ整えても不十分
実際に就業規則を確認していると、懲戒規定はかなり詳しく作られているのに、退職金規程との連動が弱い会社があります。
たとえば、就業規則には「横領、背任その他会社に重大な損害を与えたときは懲戒解雇とする」と書いてある一方で、退職金規程には「退職した社員には所定の退職金を支払う」としか定めていないケースです。
この場合、「懲戒解雇できる根拠」はあっても、「退職金を不支給にする根拠」が別途問題になります。
懲戒規定と退職金規程はセットで確認してください。
就業規則の懲戒条項だけを整備しても、退職金不支給の問題まで自動的に解決するわけではありません。
問題発覚後に条項を追加しても遅い
さらに注意したいのが、問題行為が発覚してから退職金規程を変更するケースです。
「今の規程では退職金を止められそうにないから、すぐに規程を改定してこの従業員にも適用しよう」と考えるのはおすすめできません。
退職金は労働者にとって重要な労働条件です。
既存の権利を不利益に変更する場合には、労働契約法上の就業規則変更の合理性なども問題になります。
特定の従業員の問題が発覚してから、その人の退職金を減らす目的で制度を変更すれば、紛争リスクはさらに高くなります。
だからこそ、問題が起きていない平時に規程を整備しておくことが重要です。
退職金規程を見直す際は、懲戒解雇時の不支給・減額だけではなく、諭旨退職の場合、退職後に不正が発覚した場合、自社退職金と外部制度を併用している場合なども含めて確認しておくと、実際のトラブル時に判断しやすくなります。
全額不支給には重大な背信行為が必要

退職金規程に不支給条項がある場合でも、全額を不支給とするには、その従業員のそれまでの勤続の功を失わせるほど重大な背信行為があるかが重要になります。
ここが、懲戒解雇と退職金を考えるうえで最も判断の難しい部分です。
規程に「懲戒解雇された者には退職金を支給しない」と書いてあると、会社としては条文をそのまま適用すればよいように見えます。
しかし、退職金には賃金の後払い的な性格もあるため、長期間積み重ねた退職金をすべて失わせるには、それに見合うだけの重大な事情が必要だと考えられています。
重大性を判断する主なポイント
- 行為が故意によるものか
- 会社に直接損害を与えたか
- 損害額や影響の大きさ
- 職務上の立場や権限を悪用したか
- 行為が反復・継続していたか
- 隠蔽や虚偽説明があったか
- 会社の信用や企業秩序への影響
- 勤続年数やそれまでの勤務状況
これらは一つだけで判断するものではありません。
たとえば損害額が同じ100万円であっても、業務上の単純なミスによって損害を発生させたケースと、経理担当者が会社から預かった銀行印やインターネットバンキングの権限を利用して意図的に100万円を着服したケースでは、背信性は大きく異なります。
横領は全額不支給の根拠が強くなりやすい
特に会社資金の横領では、会社から与えられた職務上の信頼を利用して会社財産を故意に侵害しているため、重大な背信行為と評価されやすい傾向があります。
さらに、単発ではなく数年間継続していた、帳簿を書き換えていた、架空の取引先を作っていた、会社から事情を聞かれても虚偽説明を続けた、といった事情が加われば、背信性は一層強くなります。
一方で、「横領」という言葉だけで全額不支給が自動的に決まるわけではありません。
具体的な金額、期間、本人の地位、会社への影響、返還状況、勤続年数などを確認する必要があります。
私生活上の非行は会社との関連性も見る
私生活上の犯罪や非行の場合には、さらに慎重な評価が必要です。
もちろん、私生活上の行為であれば何をしても退職金に影響しないという意味ではありません。
会社名が大きく報道された、業務の性質上特に高い倫理性が求められる職種だった、会社の社会的信用に重大な影響を与えた、といった事情があれば、企業秩序との関連性は強くなります。
ただし、会社の財産を直接横領したケースなどと比べると、どこまで勤続の功を失わせるのかについて、より丁寧な判断が必要になることがあります。
「懲戒解雇できるほど重大」なのかと、「長年の退職金を全部失わせるほど重大」なのかは、同じ基準ではありません。
これは会社側にとって非常に大切な視点です。
懲戒解雇を決定した直後は、経営者や管理者も強い憤りを感じていることがあります。
しかし、その感情のまま退職金を全額カットするのではなく、「全額不支給」「一定割合の減額」「通常支給」のどこまで客観的に説明できるのかを検討してください。
一部支給という選択肢があることも重要です。
全額不支給まで正当化できるか微妙なケースでは、非違行為によって功労が一定程度失われたとして減額を検討する余地があります。
ただし、何割なら安全という一律の基準はありません。
最終的な割合は個別事情によって判断することになります。
懲戒解雇の退職金に関する主な判例
懲戒解雇と退職金の関係を理解するうえで代表的なのが、小田急電鉄事件の東京高裁平成15年12月11日判決です。
この事件では、鉄道会社の従業員が電車内で痴漢行為を行い、過去にも同種行為があったことなどを背景として懲戒解雇されました。
裁判所は懲戒解雇自体については有効と判断しましたが、退職金については全額不支給まで認めず、本来の退職金額のおおむね3割に相当する額の支払いを認めています。
この裁判例を紹介すると、「では懲戒解雇なら3割払えばよいのですか」と聞かれることがありますが、そういう意味ではありません。
判例の割合をそのまま自社へ当てはめない
小田急電鉄事件で重要なのは「3割」という数字そのものではなく、 懲戒解雇の有効性と退職金全額不支給の相当性が分けて検討された という点です。
鉄道会社の従業員による電車内での痴漢行為ですから、会社の社会的信用や事業との関係でも軽視できない事情があります。
それでも、それまでの勤続の功をすべて消滅させるほどの事情があるかについては別に評価されました。
| 行為の類型 | 退職金判断で見られやすい点 |
|---|---|
| 横領・背任 | 会社への直接的損害、職務上の信頼悪用、故意性、継続性 |
| 私生活上の非行 | 職務との関連、企業の信用への影響、報道や社会的影響 |
| 重大な経歴詐称 | 採用判断への影響、職務遂行との関係、詐称期間や内容 |
| 競業行為 | 競業の程度、機密情報の利用、会社への実害など |
裁判例を見ると、会社資金の横領や背任など、会社に直接的な財産的損害を与え、職務上の信頼を根本から裏切る行為については、退職金の全額不支給が認められる方向へ働きやすいと考えられます。
その一方で、私生活上の非行や競業行為などについては、行為そのものの悪質性だけでなく、会社への具体的な影響、職務との関連性、営業秘密の持ち出しの有無などによって判断が分かれます。
同じ行為でも会社によって評価は変わる
ここも重要です。
同じ「飲酒運転」「情報漏えい」「競業行為」でも、会社や職種が違えば影響の程度は変わります。
たとえば、自動車を運転すること自体が主要業務である会社と、運転業務とほとんど関係がない会社とでは、飲酒運転が企業秩序へ与える影響の評価が同じとは限りません。
顧客の高度な機密情報を扱う管理職による情報持ち出しと、機密情報へのアクセス権限を持たない従業員の行為についても同様です。
裁判例で認められた支給割合を、自社の退職金減額率として機械的に使用しないでください。
「過去の事件で3割だったから当社も3割」「似た事件で全額不支給だったから当社もゼロ」という決め方は危険です。
裁判例は、結論だけではなく「どの事情を重く評価してその結論に至ったのか」を見るものです。
自社で判断するときには、退職金制度の内容、勤続期間、従業員の地位、行為の故意性、反復性、会社への損害、社会的信用への影響などを自社の事情として整理してください。
懲戒解雇と退職金の不支給が争われる事案では、個別事情によって結論が大きく変わります。
高額な退職金を全額不支給とする場合など、紛争時の影響が大きいケースでは、過去の裁判例も踏まえて弁護士等の専門家と検討するのが安全です。
懲戒解雇で退職金を止める実務対応
ここからは、実際に従業員の横領や重大な規律違反が発覚した会社を想定して、どのように処理すべきかを整理します。
退職金だけを先に考えるのではなく、懲戒解雇の手続き、退職金規程の確認、損害賠償、解雇予告、中退共などを分けて処理するのがポイントです。
重大な不正が発覚した直後ほど論点が一気に押し寄せます。
だからこそ、順番を決めて処理することが大切です。
全額払い原則と退職金不支給の関係
懲戒解雇時の退職金について、「労働基準法には賃金全額払いの原則があるのだから、退職金を減額すること自体が違法なのではないか」と疑問を持つ方もいると思います。
この点は、 そもそも退職金請求権がいくら発生するのかという問題 と、 すでに発生した退職金から会社が別の債権を差し引く問題 を分けて考える必要があります。
退職金の支給条件が就業規則や退職金規程などによって明確に定められ、労働者が権利として請求できる制度になっている場合には、その退職金は労働基準法上の賃金に該当し得ます。
労働基準法第24条では、賃金について原則として通貨で、直接労働者に、その全額を支払うことを定めています。
一方で、有効な退職金規程の中に不支給・減額条項があり、その条項に基づいて「この場合には退職金の全部または一部を支給しない」と判断されるのであれば、最初から発生する退職金額がいくらなのかという問題になります。
損害賠償と退職金は分けて考える
ここで特に注意したいのが、横領などによって会社が従業員に損害賠償請求権を持っている場合です。
たとえば、従業員が会社から500万円を横領し、本来の退職金が300万円だったとします。
会社側からすると、「500万円返してもらう必要があるのだから、退職金300万円は払わず、差額の200万円だけ請求すればよい」と考えたくなるところです。
しかし、ここで会社が行っていることが「退職金規程に基づく不支給」なのか、それとも「発生した退職金300万円と会社の損害賠償請求権500万円を相殺している」のかで法的な整理が異なります。
「退職金不支給」と「会社の損害を退職金から差し引くこと」は同じではありません。
前者は退職金請求権がどこまで発生するかという問題です。
後者は、すでに発生した退職金債権と会社の損害賠償債権を相殺できるかという問題です。
退職金が労働基準法上の賃金に該当する場合には、会社が有する損害賠償債権を理由として一方的に相殺することは、賃金全額払いの原則との関係で慎重な検討が必要になります。
会社の損害額と退職金額を別々に確定する
実務では、まず退職金規程を基に「不支給条項を適用しなければ退職金はいくらなのか」を計算します。
次に、規程上の不支給・減額条項と非違行為の重大性を評価し、最終的な退職金支給額を判断します。
それとは別に、横領額や会社が被った実損を資料から確定し、損害賠償請求を行うかを検討します。
退職金の計算表と損害額の計算表は分けて作る。
このように整理しておくと、退職金不支給と損害賠償の根拠が混ざりにくくなります。
本人が自発的に相殺へ同意する場合についても、形式的に同意書へ署名させれば何でも有効になるとは考えない方がよいでしょう。
労働者の自由な意思に基づく合意なのかが問題になる可能性があります。
特に、懲戒解雇を通告する場で突然「この書類に署名しなければ刑事告訴する」といった形で合意を求めれば、その合意自体が争われるリスクがあります。
退職金が高額であったり、横領額との相殺を検討していたりする場合には、会社だけで処理を決めず、最終的な判断は専門家にご相談ください。
解雇予告除外認定とは別に判断する

懲戒解雇の相談で非常に多い誤解の一つが、「労働基準監督署から解雇予告除外認定を受ければ、退職金も払わなくてよい」というものです。
これは別の制度です。
労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に解雇を予告するか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うことが定められています。
予告期間が30日に満たない場合には、不足日数分の平均賃金を支払うことで予告期間を短縮する仕組みです。
ただし、一定の場合には解雇予告の例外があります。
その一つが、労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇し、行政官庁の認定を受ける場合です。
一般に解雇予告除外認定と呼ばれるものです。
解雇予告除外認定 =解雇予告や解雇予告手当の問題
退職金不支給 =退職金規程と非違行為の重大性の問題
つまり、横領を理由として解雇予告除外認定が得られたとしても、その認定によって退職金請求権まで消えるわけではありません。
退職金については、会社の就業規則や退職金規程を確認し、不支給条項の有無と背信行為の重大性を別途判断します。
懲戒解雇の有効性とも完全には同じではない
さらに注意していただきたいのが、解雇予告除外認定を受けたことと、民事上の懲戒解雇の有効性も完全に同じ問題ではないという点です。
会社としては、就業規則上の懲戒事由に該当するか、事実関係を十分に立証できるか、処分が重すぎないか、本人へ弁明の機会を与えているか、同種事案との均衡が取れているかなどを確認する必要があります。
そのため、実務では少なくとも次の三つを別々に確認します。
- 懲戒解雇そのものが有効か
- 解雇予告手当を支給せず即時解雇できるか
- 退職金を全部または一部不支給にできるか
横領のような重大事案では、この三つすべてについて会社側に有利な事情がそろうこともあります。
しかし、根拠となる制度が別である以上、一つの結論から残り二つを自動的に決めてはいけません。
「労働基準監督署が認定したから懲戒解雇も退職金不支給も問題ない」と考えないでください。
解雇予告除外認定を受けた場合でも、退職金については別に規程と個別事情を確認する必要があります。
会社内で事案を管理するときも、「懲戒処分」「解雇予告」「退職金」「損害賠償」のチェック項目を分けておくと見落としを防ぎやすくなります。
支給後に不正が発覚した場合の返還
難しいのが、従業員の退職時には不正に気付かず退職金を支給し、その後の内部調査や会計確認などで横領や重大な不正が発覚したケースです。
たとえば、経理担当者が通常の自己都合退職として退職し、会社が退職金500万円を支給したとします。
その数か月後、後任者が過去の銀行取引を確認したところ不自然な送金が見つかり、調査した結果、退職した従業員による長期間の横領だったことが分かった。
このようなケースです。
会社としては、「在職中に分かっていれば懲戒解雇し、退職金も不支給にしていた。
支給した500万円を返してほしい」と考えるでしょう。
返還条項をあらかじめ設けておく
このような事態を想定するのであれば、退職金規程に、退職後に在職中の重大な非違行為が判明した場合の返還請求について定めておくことが考えられます。
たとえば、在職中に懲戒解雇事由に該当する重大な行為があり、退職後にその事実が判明したときは、退職金の全部または一部の返還を請求できる旨を明記しておく方法です。
ただし、返還条項があれば、過去のどのような問題行為でも当然に退職金全額を返還させられるわけではありません。
退職金不支給の場合と同じように、その行為がどれほど重大なのか、長年の勤続の功をどこまで失わせるのか、返還させる金額が相当なのかなどが問題になる可能性があります。
退職後の不正発覚を想定する場合には、「不支給条項」だけでなく「支給後に重大な非違行為が判明した場合の返還請求」まで規程上検討しておくことがポイントです。
支給前に疑いがある場合
一方、退職金の支給前に横領などの疑いが生じた場合には、できるだけ速やかに事実調査を行う必要があります。
具体的には、会社の銀行口座、会計システム、経費精算データ、請求書、領収書、メール、アクセスログなどの資料を保全します。
本人へ事情聴取を行う場合も、何を質問し、本人がどのように回答したのかを記録してください。
ここで避けたいのは、客観的な証拠を確保する前に本人へ問い詰め、データや資料を削除されてしまうことです。
横領や情報持ち出しなどでは、調査の順番も重要になります。
ただし、「何となく怪しい」というだけで退職金をいつまでも支給しないという対応もおすすめできません。
退職金規程に支払時期が定められている場合にはその内容を確認する必要がありますし、退職時の金品返還に関する労働基準法第23条との関係など、個別の制度設計や請求状況によって確認すべき事項があります。
重大な不正の疑いがある場合は、証拠保全と調査を急ぐ一方、単なる疑いだけを理由として漫然と退職金を保留し続けないことが重要です。
特に支払期限が迫っている場合や、高額な退職金・返還請求・刑事告訴が絡む場合には、早い段階で弁護士等へ相談してください。
証拠を時系列で残す
退職後に不正が発覚したケースでは、「いつ会社が何を把握したのか」も重要になります。
退職前には会社が不正を認識していなかったこと、退職後のどの調査で何が見つかったのか、本人がどの取引に関与していたのか、会社が受けた損害はいくらなのかを時系列で整理しましょう。
退職金の返還だけでなく、損害賠償や刑事手続きまで進む可能性がある事案では、証拠の保存方法も慎重に考える必要があります。
元データを上書きせず保存する、アクセス履歴を確保する、紙資料について原本を管理するといった対応も重要です。
問題が起きてから規程を整備しても、その退職者との関係では間に合わない場合があります。
退職金制度を設けている会社は、平時の段階で返還条項まで点検しておくとよいでしょう。
横領時の退職金と損害賠償の考え方
「会社のお金を横領した従業員にまで退職金を払う必要があるのか」という相談は、会社側からすると非常に納得しにくいテーマだと思います。
長期間信頼して経理を任せてきた従業員による横領が発覚すれば、経営者が強い怒りを感じるのは当然です。
しかも、会社に数百万円、場合によってはそれ以上の損害が生じている状況で、さらに退職金の支払いまで検討しなければならないとなれば、「なぜそこまで会社が負担しなければならないのか」と感じるでしょう。
ただ、実務では感情と法的処理を分けなければなりません。
横領があった場合、会社が検討する事項は少なくとも次のように分かれます。
| 論点 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 懲戒解雇 | 懲戒事由、事実認定、弁明の機会、処分の相当性 |
| 退職金 | 不支給・減額条項、背信行為の重大性、勤続の功 |
| 損害賠償 | 横領額、証拠、返還済額、会社の実損 |
| 刑事対応 | 被害届・告訴等を行うか、証拠保全の状況 |
| 解雇予告 | 予告手当の要否、除外認定を申請するか |
横領額を客観的に確定する
まず重要なのは、横領額を会社側の推測だけで決めないことです。
銀行口座から不明な出金が1,000万円あったとしても、その全額を一人の従業員が横領したとは限りません。
正規の会社支出が混在している可能性もありますし、一部がすでに返還されていることもあります。
銀行の取引履歴、振込先口座、会計仕訳、請求書、領収書、現金出納帳、業務システムのアクセス履歴、メール、本人の説明などを突き合わせ、どの取引が不正なのかを個別に特定します。
特に長期間の横領では、会社側も経理処理を誤っていたり、証憑が不足していたりすることがあります。
「帳簿上合わない金額=全部本人の横領」と短絡しないことが重要です。
職務上の信頼を悪用したか
退職金不支給を検討するうえでは、金額だけでなく行為態様も重要です。
たとえば、長年経理を任されていた従業員が、会社のインターネットバンキングを操作できる立場を利用し、架空の支払いを作って自分の口座へ送金し、その後に会計データまで改ざんしていたのであれば、会社から与えられた信頼を意図的に悪用しています。
さらに、それが数年間反復されていたのであれば、偶発的な一度の行為とは背信性の程度が大きく異なります。
このような事案では、退職金規程に明確な不支給条項があることを前提として、全額不支給を検討する根拠は強くなります。
一方で、全額不支給が法的に確実とは言い切れない場合には、退職金の一部を支給し、会社が被った損害については別途損害賠償請求をするという整理も考えられます。
退職金を支給することと、横領による損害賠償責任を免除することは別です。
退職金については退職金規程と非違行為の重大性から判断し、会社が被った損害は損害賠償として別に整理します。
会社側も証拠を残しておく
横領事案では、本人から自白が取れたことで調査を終わらせてしまう会社もあります。
しかし、後から本人が「強く問い詰められたので認めただけだ」と主張する可能性も考えておかなければなりません。
自白だけに依存せず、銀行口座や会計データなど客観的な証拠をそろえてください。
本人に確認書を書いてもらう場合も、「私は500万円横領しました」という結論だけではなく、どの期間に、どの方法で、どの取引を行ったのかを具体的に整理できる方が事実認定には役立ちます。
また、懲戒解雇を行うのであれば、本人へ弁明の機会を与えることも重要です。
会社側が事実だと考えている内容と本人の説明が食い違っている場合には、その違いを調査したうえで判断します。
懲戒解雇、退職金不支給、損害賠償のいずれでも、最終的に重要になるのは「会社がどこまで事実を立証できるか」です。
横領額が大きい場合や刑事告訴を検討する場合には、労務だけで完結しません。
証拠保全や損害賠償請求、刑事手続きについて弁護士と連携しながら進めることをおすすめします。
中退共では会社だけで減額できない

会社が中小企業退職金共済、いわゆる中退共を利用している場合は、自社で積み立てる退職金制度とは扱いが異なります。
ここは非常に重要です。
自社の退職金規程に「懲戒解雇された従業員には退職金を支給しない」と書いてあったとしても、その条項だけで中退共から支払われる退職金を会社が自由にゼロにすることはできません。
中退共では、事業主が掛金を納付し、退職時には中退共から退職した従業員本人へ退職金が支給される仕組みになっています。
減額には厚生労働大臣の認定が必要
懲戒解雇などを理由として中退共の退職金を減額したい場合には、会社が独自に金額を決めるのではなく、制度上定められた減額手続きを行います。
中退共の公式Q&Aでは、懲戒解雇等の場合に退職金を減額するためには厚生労働大臣の認定を受ける必要があること、さらに事業主が希望する減額額が従業員にとって過酷と認められる場合には金額が変更されることがあるとされています。
また、 中退共では退職金を全額減額することはできない と案内されています。
現在の手続きや期限を確認する場合は、 中小企業退職金共済事業本部「懲戒解雇の場合には退職金を減額することができますか?」 をご確認ください。
(出典:中小企業退職金共済事業本部「Q&A」)
中退共は「会社が掛金を負担したのだから、懲戒解雇なら会社が自由に取り戻せる」という制度ではありません。
自社退職金の不支給判断と、中退共の減額手続きは分けて考える必要があります。
減額分は会社へ戻らない
さらに、中退共の退職金について減額が認められた場合でも、その減額された金額が会社へ返金されるわけではありません。
中退共の公式案内では、減額された部分は共済制度における長期加入者の退職金支払財源へ繰り入れられ、事業主には返還されないとされています。
この点を知らず、「懲戒解雇ならこれまで納めた掛金の一部が会社へ戻る」と考えている経営者もいますので注意してください。
手続期限にも注意する
中退共の懲戒解雇時の減額は、事後的にいつでも申請できるものではありません。
中退共の現在の公式案内では、厚生労働大臣の認定を受けるための申請について、退職日の翌日から起算して20日以内といった期限が案内されています。
また、認定後の中退共への手続きにも期限があります。
こうした期限や申請方法、必要書類は制度改正や運用変更によって変わる可能性があります。
実際に手続きを行う際は、古い解説記事や社内資料だけを頼りにせず、 正確な情報は公式サイトをご確認ください。
外部拠出型制度は自社規程だけで処理しない
中退共に限らず、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、特定退職金共済などを利用している場合にも、それぞれの法令・規約・制度上の手続きがあります。
会社の退職金規程に懲戒解雇時の不支給条項があるからといって、外部制度に積み立てられた資産まで会社の判断だけで没収できるとは限りません。
そのため、退職金制度を導入するときには、単に掛金や税務上のメリットだけでなく、「懲戒解雇時にどこまで会社側で給付を調整できる制度なのか」も理解しておく必要があります。
懲戒時の柔軟な給付設計を重視する会社では、自社規程による退職金部分と外部拠出制度の役割を分けて設計する方法も考えられます。
ただし、制度選択には資金繰り、税務、従業員の福利厚生、将来の運用負担など複数の要素がありますので、懲戒時の取扱いだけで制度を決めるのはおすすめしません。
懲戒解雇と退職金で押さえるポイント
懲戒解雇と退職金の問題では、「懲戒解雇したのだから退職金もゼロ」という考え方から入らないことが最も重要です。
会社側では、まず事実関係を固め、それから懲戒処分、退職金、損害賠償、解雇予告といった論点を一つずつ分けて検討します。
- 非違行為の事実と証拠を固める
- 懲戒解雇の根拠と手続きの適正性を確認する
- 就業規則・退職金規程の不支給、減額条項を確認する
- 勤続の功を失わせるほど重大な背信行為か評価する
- 全額不支給、一部支給、通常支給のどれが相当か検討する
- 損害賠償や解雇予告除外認定は別の問題として処理する
- 決定理由と判断資料を記録として残す
まず事実を固めてから処分を決める
特に重要なのが最初の事実確認です。
横領や情報漏えいの疑いがあるとき、会社が最初から「本人が犯人だ」と決めつけて処分を進めるのは危険です。
銀行取引、会計データ、電子メール、アクセスログ、勤怠記録、関係者の説明など、客観的な資料を集めます。
そのうえで本人から事情を聞き、会社が把握している事実と本人の説明を比較します。
そして、就業規則上のどの懲戒事由に該当するのか、懲戒解雇という最も重い処分が相当なのかを判断します。
この段階で「懲戒解雇」と「退職金不支給」を同時に決めてしまわず、懲戒解雇の判断を固めた後に退職金規程を確認する方が整理しやすいです。
全額不支給か一部減額かを理由付けする
退職金規程に不支給条項がある場合には、次に非違行為の重大性を評価します。
全額不支給とするのであれば、なぜ長年の勤続の功をすべて失わせるほど重大なのかを説明できるようにしてください。
たとえば、長期間にわたる会社資金の横領であれば、「横領だから」という一言だけでなく、職務上の地位を悪用したこと、故意に反復継続していたこと、帳簿を改ざんして隠蔽したこと、会社に多額の損害を与えたことなどを具体的に整理します。
一方、そこまでの背信性があるか判断が難しい場合には、一定割合の減額という選択肢も含めて検討します。
退職金の減額割合について「横領なら100%」「私生活上の非行なら50%」といった一律の基準はありません。
退職金制度の内容や個別事情によって判断が変わるため、過去の裁判例に出てくる割合だけを機械的に当てはめないでください。
従業員側から見ても当然にゼロとは限らない
この記事は会社側の実務を中心に説明していますが、従業員側から見ても重要な点があります。
懲戒解雇されたとしても、会社に退職金制度があり、規程上の支給対象であるなら、懲戒解雇という理由だけで当然に退職金が全額消えるわけではありません。
会社から「懲戒解雇だから退職金はゼロです」と伝えられた場合には、まず就業規則や退職金規程のどの条項を根拠としているのか、不支給理由は何なのかを確認することになります。懲戒解雇を通告される前に自分から退職する選択肢については懲戒解雇される前に退職するとどうなるかで整理しています。
不支給や減額について争いがある場合には、都道府県労働局のあっせん、労働審判、訴訟などが選択肢になることがあります。
なお、懲戒解雇された場合の雇用保険の基本手当については、退職金とは別の制度です。
離職理由によって給付制限等の取扱いが問題になることがありますので、「退職金が支給されるか」と「失業給付をいつから受けられるか」は分けて確認してください。
会社側は平時の規程整備が最も重要
実際に問題が発生してから会社ができることには限界があります。
横領が発覚して初めて退職金規程を開き、「懲戒解雇時の不支給条項がない」と気付いても、問題を起こした本人にだけ後から新しい不支給ルールを適用することは簡単ではありません。
だからこそ、平時の規程整備が重要です。
少なくとも、退職金制度を設けている会社では、次の点を定期的に確認しておくことをおすすめします。
- 懲戒解雇時の不支給・減額条項があるか
- 全額不支給だけでなく一部減額を選択できる規定になっているか
- 退職後に重大な不正が発覚した場合の取扱いを定めているか
- 自社退職金と中退共など外部制度との関係を整理しているか
- 退職金の計算方法と支払時期が明確になっているか
- 懲戒規定と退職金規程の内容に矛盾がないか
懲戒解雇と退職金で最も大切なのは、問題が発生したときに感情ではなく、事実・証拠・規程に基づいて判断できる状態をあらかじめ作っておくことです。
特に横領、背任、重大な情報漏えいなどでは、経営者として「なぜ退職金まで払わなければならないのか」と感じるのは自然だと思います。
しかし、退職金には長期間の勤務に対する賃金の後払い的な性格もあるため、懲戒解雇の有効性とは別に判断する必要があります。
反対に、退職金規程に明確な不支給条項があり、それまでの勤続の功を失わせるほど重大な背信行為が認められるのであれば、全額または一部を不支給とする余地があります。
重要なのは、「払うか、払わないか」という結論から考えるのではなく、 規程上の根拠があるか、非違行為の重大性はどの程度か、会社がその判断を証拠によって説明できるか という順番で考えることです。
懲戒解雇や退職金の全額不支給は、従業員の生活だけでなく、会社の法的責任や将来の紛争にも大きな影響を与える判断です。
事案ごとに就業規則、退職金規程、証拠、勤続状況、非違行為の内容、過去の裁判例などを確認する必要があります。
最終的な判断は専門家にご相談ください。
また、法令、行政手続き、中退共などの制度は改正・変更される場合があります。
実際に手続きを行う際の 正確な情報は公式サイトをご確認ください。
実際に問題が起きてから退職金規程を確認するのではなく、平時のうちに不支給・減額条項、情状による一部支給、退職後に不正が判明した場合の返還、外部退職金制度との関係まで点検しておくことをおすすめします。