こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
労災による休業中でも、有給休暇そのものが使えなくなるわけではありません。
ただし、有給休暇を取得して会社から賃金を受けた日については、原則として労災保険の休業補償給付を同時に受け取ることはできません。
会社から「労災だから有給は使えない」と言われたり、反対に「労災を申請する前に有給を全部使ってください」と求められたりすると、どちらの説明が正しいのか迷いますよね。
実際によくある相談ですが、有給休暇を取得する権利と、労災保険から休業補償給付が支給される条件は、別の制度として整理する必要があります。
簡単にいえば、労災中でも有給休暇を取得できる場合はありますが、有給休暇として賃金を受けた日を、無給の休業日として労災保険へ請求することはできないという関係です。
休業期間中のすべての日について、必ず有給か休業補償給付のどちらか一方だけを選び続けなければならないわけではなく、日ごとに使い分けることもできます。
この記事では、労災と有給休暇の併用ルール、待期期間の扱い、有給と休業補償の金額面での違い、会社が有給取得を拒否または強制した場合の対応まで、社会保険労務士の実務目線で詳しく解説します。
給与明細や勤怠記録を見るときの確認ポイントにも触れますので、会社から受けた説明が正しいのか判断する材料にしてください。
- 労災中に有給休暇を取得できる条件
- 有給と休業補償給付を同時に受け取れない理由
- 待期期間に有給を使う場合の注意点
- 会社に有給を拒否または強制された場合の対応

労災中は有給が使えないのか
労災によるケガや病気で仕事を休む場合、有給休暇の権利が当然になくなるわけではありません。
一方、有給休暇を使った日と労災保険の休業補償給付を受ける日には、賃金の支払いを基準とした調整が必要です。
この点を理解するには、「有給休暇を申請できるか」という労働基準法上の問題と、「その日について休業補償給付が支給されるか」という労災保険上の問題を分けて考えることが大切です。
まずは、それぞれの制度がどのようにつながっているのかを確認していきましょう。
労災中でも有給休暇は取得できる
年次有給休暇は、労働基準法第39条に基づいて労働者に与えられる休暇です。
所定の継続勤務期間や出勤率などの要件を満たして付与された有給休暇は、業務上のケガや通勤中の事故によって療養していることだけを理由として消滅するものではありません。
そのため、労災による休業期間のうち、本来は出勤する予定だった所定労働日について、労働者が有給休暇の取得を希望することは可能です。
会社が「労災として処理することになったので、有給休暇は一切使えません」と一律に説明している場合は、その理由をもう少し具体的に確認したほうがよいでしょう。
労災中に有給を使えないという説明は、必ずしも正確ではありません。
正しくは、有給休暇を取得して賃金が支払われた日は、原則として労災保険の休業補償給付の対象にならないという関係です。
有給休暇の利用目的は原則として自由
年次有給休暇は、原則として労働者が希望する時季に取得する制度であり、休暇中に何をするかまで会社の許可を受けるものではありません。
旅行、家族の用事、休養、通院など、利用目的は基本的に労働者の判断に委ねられています。
したがって、業務上のケガの療養、通院、リハビリ、静養などを目的として有給休暇を申請した場合でも、その目的だけを理由として会社が取得を制限することは通常できません。
労災であることと、有給休暇の利用目的は、直接的には別の問題です。
厚生労働省の解説でも、年次有給休暇は原則として労働者が指定する時季に与えるものとされ、一定の場合に限って使用者が時季変更権を行使できると説明されています。
制度の基本的な考え方については、 (出典:厚生労働省「年次有給休暇」) をご確認ください。
所定休日や休職期間には使えない場合がある
もっとも、有給休暇は、もともと働く義務がある日の労働義務を免除し、賃金を保障する制度です。
そのため、会社の所定休日、法定休日、退職後の日など、最初から労働義務がない日には、通常は有給休暇を充てられません。
また、就業規則に基づいて休職が発令され、休職期間中は労働義務が免除されている場合も、有給休暇を取得できるかについて別の検討が必要です。
休職開始前の欠勤期間には有給休暇を使えても、休職開始後は使えないという取扱いになることがあります。
ここは実務で認識がずれやすいところです。
会社が「有給は使えない」と説明していても、その意味が「労災だから使えない」のではなく、「すでに休職期間に入り、労働義務がない日だから使えない」という場合があります。
説明の理由を確認せずに、直ちに違法だと判断しないことも大切です。
まず勤怠上の期間を整理する
私が相談を受けたときは、最初に事故日、医師が労働できないと判断した期間、有給休暇を申請した日、会社が欠勤として処理した日、休職開始日を時系列で整理します。
同じ「会社を休んでいる期間」であっても、勤怠上の扱いがすべて同じとは限らないためです。
- 事故または発症があった日
- 医師が療養のため働けないと証明した期間
- 本人が有給休暇を申請した日
- 会社が無給の欠勤として処理した日
- 就業規則に基づく休職が開始した日
- 復職した日または退職した日
実務では、「労災による欠勤期間」「有給休暇の取得日」「休職期間」が一続きに扱われ、本人も会社も区別できていないことがあります。
まず勤怠記録と就業規則を確認し、どの日に労働義務があったのかを整理することが、正しい判断への第一歩になります。
有給休暇の残日数があるだけで、休業期間中のすべての日に使えるとは限りません。
対象日が所定労働日であることや、休職発令前であることなど、個別の状況を確認してください。
有給と休業補償は同時に受け取れない

労災保険の休業補償給付は、業務上のケガや病気によって働けず、その結果として賃金を受けられない日の所得を補う制度です。
通勤災害の場合は休業給付と呼ばれますが、基本的な支給要件は共通しています。
休業補償給付または休業給付を受けるためには、一般に次の3つの要件を満たす必要があります。
- 業務上または通勤による負傷や疾病の療養中であること
- 療養のため労働できないこと
- 労働できない日について賃金を受けていないこと
有給を使った日は賃金を受けている
有給休暇を取得すると、実際には勤務していなくても、その日に対応する賃金が会社から支払われます。
そのため、通常の有給休暇を1日単位で取得した日は、 賃金を受けていないという休業補償給付の要件を満たさなくなり、原則として給付の支給対象外になります。
ここで重要なのは、「有給休暇を使ったことが悪いから給付されない」のではないという点です。
休業補償給付は、賃金を受けられなかったことによる収入の減少を補う制度です。
有給休暇によってその日の賃金が保障されているのであれば、同じ収入減少に対して労災保険からも給付する必要がないという制度設計になっています。
同じ日について、有給休暇による賃金と休業補償給付を満額ずつ受け取ることはできません。
有給を使った日を休業補償給付の請求日から除外するのが基本です。
日を分けて使うことはできる
一方で、休業期間の全日について、有給休暇か休業補償給付のどちらか一方に統一しなければならないわけではありません。
たとえば、休業開始から3日間を有給休暇にし、4日目以降を無給の休業として休業補償給付を請求することは可能です。
また、休業期間の途中に有給休暇を1日だけ取得し、それ以外の日を休業補償給付の対象とすることも考えられます。
申請対象となる日を正しく区分できていれば、日ごとに使い分けること自体に問題はありません。
| 休業日 | 勤怠処理の例 | 会社からの賃金 | 休業補償給付 |
|---|---|---|---|
| 1日目 | 有給休暇 | 支給あり | 原則として対象外 |
| 2日目 | 有給休暇 | 支給あり | 原則として対象外 |
| 3日目 | 無給の休業 | 支給なし | 待期期間として整理 |
| 4日目以降 | 無給の休業 | 支給なし | 要件を満たせば対象 |
ただし、待期期間がいつ完成するかは、実際に療養のため働けなかった日や賃金の支払い状況などを踏まえて判断されます。
表は一般的な考え方を示すための例であり、個別の支給決定は労働基準監督署が行います。
半日勤務や時間単位年休は扱いが異なる
午前中だけ通院し、午後から勤務した場合や、時間単位の有給休暇を取得した場合は、1日単位の有給休暇とは扱いが異なる可能性があります。
療養のため所定労働時間の一部だけ働けず、実際に支払われた賃金が一定額に満たない場合には、部分算定による休業補償給付の対象になることがあります。
このようなケースでは、勤務した時間、通院した時間、時間単位年休を取得した時間、実際に支払われた賃金を確認する必要があります。
単純に「少しでも働いたから対象外」「有給を1時間使ったから全日対象外」と判断できるものではありません。
半日勤務、時間単位年休、短時間勤務、複数事業所で勤務している場合は計算が複雑になりやすいため、給与担当者と労働基準監督署へ事前に確認することをおすすめします。
休業補償給付の仕組みと傷病手当金との違いについては、 労災と傷病手当金の支給額や待期期間の違い でも詳しく解説しています。
業務上または通勤中の傷病なのか、私傷病なのかによって利用する制度が異なるため、あわせて整理しておくとよいでしょう。
賃金を受けた日は給付対象外になる
労災保険では、単に会社を休んだかどうかだけでなく、その休業日について賃金を受けているかを確認します。
有給休暇を取得した日は、実際に勤務していなくても会社から賃金が支払われるため、通常は休業補償給付の対象日から除外します。
この「賃金を受けた日」という考え方は、有給休暇だけに関係するものではありません。
会社が休業中も基本給を全額支給した場合、会社独自の補償制度に基づいて賃金を支払った場合、休業した時間の一部について賃金を受けた場合なども、支給額や対象日の確認が必要です。
有給日と無給日が混在するケース
たとえば、労災によって月曜日から金曜日まで休み、月曜日と火曜日を有給休暇、水曜日から金曜日を無給の欠勤として処理した場合を考えてみましょう。
月曜日と火曜日は有給休暇分の賃金が支払われるため、原則としてその2日間は休業補償給付の対象になりません。
水曜日から金曜日については、療養のため労働できず、賃金を受けていないという要件を満たしているかを確認します。
さらに、休業初日から3日間の待期期間がどのように完成するかを整理し、4日目以降に該当する日について給付を請求します。
| 確認項目 | 見るべき資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 勤怠区分 | 出勤簿・勤怠システム | 有給、欠勤、休職のどれか |
| 賃金の支払い | 給与明細・賃金台帳 | 休業日に対応する賃金があるか |
| 本人の申請 | 年休申請書・メール | 本人が有給を希望したか |
| 労働不能期間 | 診断書・請求書の医師証明 | 療養のため働けない期間 |
手当が支給された場合は中身を確認する
会社から何らかの金額が支払われている場合でも、給与明細に金額が載っているという理由だけで、休業補償給付がすべて不支給になるとは限りません。
重要なのは、その支払いがどの期間の労働に対する賃金なのか、休業日に対応する賃金なのかという点です。
たとえば、前月の残業代が休業中の給与支給日に支払われた場合、その残業代は過去の勤務に対する賃金です。
休業当日の賃金が支払われたこととは区別して考えます。
一方、休業期間中も基本給を減額せず全額支給している場合は、休業日に対応する賃金を受けていると判断される可能性があります。
通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当などが月額で支払われているケースもあります。
休業中に一部の手当だけが継続支給された場合は、賃金の支払い状況に応じて休業補償給付が調整される可能性があるため、支給名目だけではなく計算方法まで確認することが必要です。
給与明細に金額が載っているだけで自己判断しないことが重要です。
何の名目で、どの勤務日または休業日に対応する賃金が支払われたのかによって扱いが変わります。
請求書と給与計算を一致させる
休業補償給付の請求書には、休業した期間、療養のため働けなかった期間、賃金を受けなかった日などを記載し、事業主の証明を受ける欄があります。
有給取得日と無給の休業日が混在している場合は、出勤簿、賃金台帳、有給休暇の申請記録を照合し、請求内容と給与計算を一致させなければなりません。
私が実務で確認するときも、本人から聞いた休業日だけで請求書を作るのではなく、会社が実際にどの勤怠区分で処理し、どの賃金を支払ったのかまで確認します。
「本人は無給の欠勤を希望していたが、会社が有給として処理していた」「給与担当者は有給だと思っていたが、有給申請が提出されていなかった」といった食い違いは珍しくありません。
この食い違いを放置すると、休業補償給付の対象日として申請した日に有給分の賃金も支払われている状態になり、後から請求書や給与計算の修正が必要になることがあります。
場合によっては、すでに受け取った給付の返還が問題になるため、早い段階で整理しておくことが大切です。
本人、上司、人事担当者、給与担当者、労災手続きの担当者で、休業日ごとの処理を共有してください。
特に締日をまたぐ長期休業では、毎月の請求前に勤怠と賃金を照合するのが安全です。
労災の待期期間に有給を使える

労災保険の休業補償給付または休業給付は、休業した初日から直ちに支給されるわけではありません。
一般に、業務上または通勤による傷病の療養のため働けず、賃金を受けない日のうち、最初の3日間は待期期間となり、4日目から労災保険による給付の対象になります。
この待期期間に有給休暇を充てることは可能です。
有給休暇を使えば、その日について会社から有給休暇分の賃金を受けられるため、休業開始直後の収入減少を抑えやすくなります。
ただし、業務災害と通勤災害では、待期期間中の会社の補償義務が異なるため、単純に有給を使ったほうがよいとは限りません。
待期期間は通算で考える
待期期間は、原則として連続した3日でなければ完成しないものではなく、一定の要件を満たす休業日を通算して考えます。
会社の所定休日を含め、療養のため労働できない状態が続いている日が待期期間に含まれることもあります。
たとえば、金曜日に労災事故が発生し、土曜日と日曜日が会社の休日であっても、その期間を通じて療養のため働けない状態であれば、待期期間として数えられる可能性があります。
一方、事故当日に通常どおり勤務を終えてから受診し、労働不能となったのが翌日からである場合などは、起算日の判断が変わることがあります。
待期期間の具体的な数え方については、事故が起きた時刻、早退の有無、所定休日、医師が証明する労働不能期間などを確認する必要があります。
自己判断で「3営業日」と考えないようにしてください。
業務災害と通勤災害の違い
| 区分 | 待期期間 | 会社による補償 | 有給休暇の利用 |
|---|---|---|---|
| 業務災害 | 休業初日から3日目まで | 原則として平均賃金の60%の休業補償が必要 | 本人が希望すれば利用を検討できる |
| 通勤災害 | 休業初日から3日目まで | 労働基準法上の休業補償義務は原則としてない | 本人が希望すれば利用を検討できる |
業務災害の場合、待期期間中は労災保険から休業補償給付が支給されませんが、労働基準法第76条に基づき、原則として会社が平均賃金の60%の休業補償を行います。
そのため、有給休暇を使わなければ必ず無収入になるわけではありません。
これに対して、通勤災害については、会社に労働基準法上の休業補償義務は原則としてありません。
就業規則や会社独自の補償制度がなければ、待期期間中は無給になることがあります。
そのため、通勤災害では、本人が希望して有給休暇を使う実益が比較的大きくなるケースがあります。
休業補償給付の支給要件、待期期間、支給額の基本については、厚生労働省の請求手続案内でも確認できます。
(出典:厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」)
待期期間に有給を使うかは本人の意思で決める
待期期間に有給休暇を利用するかどうかは、原則として労働者本人の意思を確認して決めます。
会社が「待期期間には労災保険から給付が出ないので、有給にしておきました」と本人に確認せず処理することは適切ではありません。
特に業務災害の場合は、会社に休業補償義務が生じることがあります。
本人が有給休暇を希望していないにもかかわらず、会社が休業補償の負担を避けるために有給へ振り替えるような処理は問題になり得ます。
一方で、本人が当面の収入を優先し、待期期間を有給休暇にしたいと希望することは可能です。
有給休暇であれば、通常は会社の定める年休賃金が支給されるため、平均賃金の60%となる休業補償より受取額が多くなることがあります。
待期期間に有給休暇を使うかどうかは、 業務災害か通勤災害か、会社から休業補償が支払われるか、有給休暇を何日残したいか、休業が長引く見込みがあるか を確認して決めるのが実務的です。
会社へ確認しておきたい事項
- 今回の傷病を業務災害と通勤災害のどちらで処理する予定か
- 待期期間に会社から休業補償が支払われるか
- 有給休暇の使用は本人が選択できるか
- 有給を使わない日は勤怠上どの区分になるか
- 4日目以降の休業補償給付をいつ請求するか
- 医師の証明を依頼する請求期間はいつからいつまでか
待期期間の処理を曖昧にしたまま給与計算を進めると、後から有給残日数を戻したり、休業補償を追加で支払ったりする必要が生じます。
休業が始まった段階で、本人と給与担当者の認識を合わせておくことが大切ですよ。
なお、待期期間の数え方や個別の給与処理によって判断が変わることがあります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
有給と休業補償はどちらが得か
有給と休業補償のどちらが得かは、金額だけでなく、休業期間、有給休暇の残日数、給付が振り込まれるまでの期間、今後有給を使う予定があるかなどを含めて判断する必要があります。
金額だけを比較すると、有給休暇を使ったほうが、その日に受け取る金額が多くなるケースが一般的です。
有給休暇を取得した日は、就業規則で定められた計算方法に基づき、通常の賃金、平均賃金、標準報酬月額を基準とする金額などが支払われます。
一方、労災保険の休業補償給付は、一般に給付基礎日額の60%に相当する保険給付と、20%に相当する休業特別支給金を合わせ、合計80%相当が支給される仕組みです。
| 選択肢 | 一般的な受取額 | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 有給休暇 | 会社所定の年休賃金 | 短期的な収入減少を抑えやすい | 有給休暇の残日数が減る |
| 休業補償給付等 | 給付基礎日額の合計80%相当 | 有給休暇を残せる | 請求から支給まで時間がかかる場合がある |
短期休業では有給が有利な場合がある
休業が数日程度で終わる見込みがあり、手元の収入をなるべく減らしたくない場合は、有給休暇を使う選択が考えられます。
通常の賃金に近い金額が給与支給日に支払われるため、生活費の見通しを立てやすいこともメリットです。
また、休業補償給付は請求書の作成、医師の証明、事業主の証明、労働基準監督署の審査を経て支給されます。
初回の支給まで一定の期間を要することがあるため、直近の生活費を確保する目的で有給休暇を使いたいという相談もあります。
ただし、有給休暇の賃金が必ず通常勤務時の賃金と完全に同額になるとは限りません。
会社が採用している年休賃金の計算方法によって支給額は異なります。
給与明細を見る際は、基本給だけでなく、日割り控除、固定手当、変動手当の扱いも確認してください。
長期休業では有給を残す判断も重要
休業が数週間から数か月に及ぶ見込みであれば、有給休暇を早い段階ですべて使い切ることが最善とは限りません。
復職後の通院、リハビリ、体調不良、家族の用事などで、有給休暇が必要になる可能性があるためです。
労災による療養が長期化した場合でも、支給要件を満たしている期間については、休業補償給付を請求できます。
有給休暇を残しながら休業補償給付を受け、復職後の通院日に有給を使うほうが、長期的には使いやすいこともあります。
実務では、「とりあえず有給を全部使ってから考えましょう」と処理した結果、復職後の通院に使える有給が残っていないというケースがあります。
休業がどれくらい続くか分からない段階だからこそ、すべてを一度に使い切らない選択肢も検討しておきたいところです。
単純な100%対80%では比較できない
有給休暇は100%、休業補償給付は80%と説明されることがありますが、実際の手取り額をその比率だけで比較することはできません。
有給休暇の賃金計算方法、給付基礎日額、所得税、住民税、社会保険料、会社独自の上乗せ補償などによって差が生じるためです。
休業補償給付や休業特別支給金は、一般の給与と税務上の取扱いが異なります。
一方、労災で休業していても、健康保険料や厚生年金保険料の本人負担が当然に免除されるわけではありません。
給与が支払われない月でも、会社から社会保険料の振込みを求められることがあります。
毎月の生活費を計算するときは、受け取る給付額だけでなく、給与から控除できなくなった社会保険料や住民税を、別途会社へ支払う必要があるかも確認してください。
判断するときのチェックリスト
- 医師から説明された休業予定期間
- 現在の有給休暇の残日数
- 有給休暇を使った場合の賃金額
- 休業補償給付の概算額
- 初回給付までの生活費を確保できるか
- 休業中の社会保険料や住民税の支払方法
- 復職後も通院やリハビリが続く可能性
- 会社独自の休業補償制度の有無
どちらが得かは、目先の支給率だけでなく、休業予定期間、有給休暇の残日数、復職後の通院予定、給付までの生活費を含めて判断することが大切です。
労災保険の支給内容は個別事情によって異なります。
数値はあくまで制度上の一般的な目安として捉え、会社の給与規程や給付基礎日額を確認してください。
最終的な判断は専門家にご相談ください。
労災で有給を使えない会社への対応
会社から有給休暇の取得を拒否されたり、反対に有給消化を求められたりした場合は、すぐに対立するのではなく、会社がどの制度をどのように処理しようとしているのかを確認しましょう。
説明の表現が不正確なだけなのか、休職制度が適用されているのか、時季変更権を行使しようとしているのか、それとも実際に不適切な勤怠処理が行われているのかを切り分けることが重要です。
ここからは、会社の対応に疑問を感じた場合の確認方法を解説します。
会社が有給取得を拒否できる場合
年次有給休暇は、原則として労働者が指定した時季に取得できます。
会社が事前に承認しなければ権利が発生しないという性質のものではありません。
そのため、有給休暇の残日数があり、対象日が本来の所定労働日であれば、労働者は希望する日を指定して取得を申し出ることができます。
もっとも、どのような場合でも必ず希望日どおりに取得できるわけではありません。
労働者が指定した日に休暇を与えることで事業の正常な運営を妨げる場合、会社には時季変更権が認められることがあります。
時季変更権は有給を消滅させる制度ではない
時季変更権とは、有給休暇そのものを取り消したり、取得理由を審査して不許可にしたりする権利ではありません。
労働者が指定した取得日を、事業運営への具体的な支障を避けるため、別の日に変更する権利です。
たとえば、同じ部署の大半の従業員が同じ日に有給休暇を希望し、代替要員を確保する努力をしても業務を維持できない場合などは、時季変更権が検討されます。
ただし、単に「繁忙期だから」「人手不足だから」「上司が認めていないから」という抽象的な説明だけで、常に行使できるものではありません。
会社の規模、業務の内容、本人の担当業務、代替要員の確保可能性、同じ日に休む人数、会社が行った調整努力などを踏まえて判断されます。
人手不足が慢性化しているという会社側の事情だけで、有給休暇を恒常的に取得させない運用は問題があります。
労災で働けない人への時季変更は慎重な検討が必要
労災による療養のため、医師から労働できないと判断されている人については、通常の有給申請とは事情が異なります。
会社が有給取得日を別の日に変更したとしても、元の取得日に出勤できる状態になるわけではないからです。
会社が時季変更権を主張する場合は、「有給を認めない」という結論だけでなく、具体的にどのような事業上の支障が生じるのか、取得日をいつに変更するのかを確認してください。
単に労災手続きと有給処理を同時に行うのが面倒という理由は、時季変更権の理由にはなりません。
労災で現実に就労できない状態であっても、有給休暇の取得が当然に認められると断定できるわけではありません。
対象日に労働義務があるか、休職が発令されているかなども確認する必要があります。
休職期間中は別の問題になる
すでに会社の就業規則に基づいて休職が発令され、その休職期間中は労働義務が免除されている場合、年次有給休暇を取得できないことがあります。
これは会社が時季変更権を行使したというより、有給休暇によって免除する対象となる労働義務が存在しないためです。
会社が「有給は使えません」と説明したときは、労災を理由に拒否しているのか、休職期間中だから取得対象にならないと説明しているのかを区別してください。
休職開始日がいつなのか、本人に休職命令が通知されているか、就業規則にどのような定めがあるかを確認します。
なお、会社が有給休暇を使わせない目的で、就業規則に沿わず遡って休職扱いにするような処理は別の問題を生じます。
勤怠記録や通知書の日付を確認し、処理に不自然な点がある場合は専門家へ相談してください。
会社から拒否された場合は、「有給の残日数がない」「対象日が休日」「休職期間中」「時季変更権の行使」「労災だから一律に不可」のどの理由なのかを書面やメールで確認すると、問題を整理しやすくなります。
労災を理由に有給を拒否する問題点

会社が「労災の申請をした人は有給休暇を使えない」「労災扱いと有給扱いは選べない」と一律に説明するのは問題があります。
有給休暇を取得した日が休業補償給付の対象外になることと、有給休暇を申請する権利そのものがなくなることは同じではありません。
会社側としては、同じ日について賃金と休業補償給付が重複しないよう、有給取得日を休業補償給付の請求対象から除外する必要があります。
しかし、その事務処理を理由として、対象となり得る日の有給申請自体を一律に拒否することは適切とはいえません。
まず会社の説明の意味を確認する
実務では、担当者が「有給は使えません」と説明していても、詳しく聞くと「有給を使った日は休業補償給付を請求できません」という意味だったということがあります。
この場合、有給休暇そのものを拒否しているのではなく、併用できない点を簡略化して説明したことで誤解が生じています。
反対に、本当に「労災事故で休む人には有給休暇を認めない」という社内運用をしているケースもあります。
説明の意味によって対応が変わるため、次のように具体的に質問してみてください。
- 有給休暇の申請自体が認められないという意味か
- 有給を取得すると休業補償給付が出ないという意味か
- すでに休職期間へ入っているという意味か
- 時季変更権を行使する予定なのか
- 有給を使わない日は欠勤と休職のどちらで処理されるか
有給申請の記録を残す
会社から有給を使わせてもらえない場合は、口頭のやり取りだけで終わらせず、有給休暇を申請した事実が分かる記録を残しておくとよいでしょう。
社内の勤怠システム、年休申請書、メール、業務用チャットなど、通常の申請方法に従って手続きを行います。
申請時には、対象日を明確にしてください。
「労災で休んでいる期間を全部有給にしたい」とまとめて伝えるだけでは、休職開始日や所定休日が混在し、会社も処理を判断できないことがあります。
何月何日を有給にしたいのか、日付ごとに示すことが重要です。
会社が申請を拒否した場合は、その理由も確認します。
できれば「労災だから認めない」「休職期間中だから認めない」など、会社の説明が分かるメールを保存してください。
後から相談するときに、本人と会社の認識を正確に伝えやすくなります。
確認すべきなのは、有給休暇を申請できない理由です。
労災保険と併用できないこと、休職中であること、時季変更権の行使は、それぞれ異なる論点です。
会社側も制度を分けて説明する必要がある
会社側は、「労災だから有給は使えない」とだけ説明するのではなく、有給取得日は賃金が支払われるため休業補償給付の対象から外れることや、休職期間中は労働義務がないため年休取得の対象にならない場合があることを、分けて説明する必要があります。
また、有給を使う場合と使わない場合の給与処理、待期期間の休業補償、4日目以降の労災請求についても、できる限り書面で案内することが望ましいです。
担当者ごとに異なる説明をすると、本人の不安が強くなり、後から紛争につながりやすくなります。
私が会社側の相談を受ける場合も、本人の希望を確認する書面を作り、日ごとの勤怠区分を明確にするようお伝えしています。
有給を利用する日、待期期間として処理する日、休業補償給付を請求する日を一覧にすると、給与担当者と労災担当者の情報共有もしやすくなります。
会社の説明に疑問があっても、無断欠勤の形にしないことが大切です。
医師の診断書を提出し、療養のため働けないことと、有給休暇を希望する日を会社へ明確に伝えてください。
会社による有給消化の強制はできない
会社が労災による休業を認識した際に、「まず有給休暇を全部使ってから労災を申請してください」「待期期間は自動的に有給になります」と説明することがあります。
しかし、労働者本人の意思を確認せず、一方的に有給休暇として処理することは避けるべきです。
有給休暇は、本来、労働者が取得時季を指定して利用する制度です。
会社には年5日の時季指定義務や、労使協定に基づく計画的付与制度がありますが、それらの適法な手続きとは関係なく、労災による欠勤日を会社の判断だけで有給休暇へ振り替えられるわけではありません。
有給休暇を使うか、無給の休業日として休業補償給付を請求するかは、原則として労働者本人の意思を確認して決めます。
年5日の時季指定義務とは分けて考える
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、会社には一定の範囲で年5日を取得させる義務があります。
この制度を理由に、会社が労災による休業日を有給休暇として指定しようとすることがあります。
しかし、会社が時季指定を行う場合でも、労働者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努める必要があります。
また、本人がすでに取得した日数や計画的付与による日数も確認しなければなりません。
「年5日取らせる義務があるので、労災の欠勤日はすべて有給にします」という処理が当然に認められるものではありません。
さらに、年5日の時季指定義務は、有給をすべて消化させる義務ではありません。
本人が20日の有給を保有していたとしても、会社が残りの日数まで自由に指定できる制度ではない点に注意が必要です。
待期期間の休業補償を避ける目的の振替は問題
特に業務災害の待期期間については、会社に労働基準法上の休業補償義務が生じる場合があります。
会社がその負担を避ける目的で、本人の同意なく有給休暇を使ったことにする対応は問題になり得ます。
もちろん、本人が事情を理解したうえで、「平均賃金の60%の休業補償より、有給休暇を使って賃金を受けたい」と希望するのであれば、その意思に基づいて有給処理をすることは考えられます。
重要なのは、本人が選択肢と影響を理解し、自分の意思で選んでいるかという点です。
本人の署名があるだけで、常に任意の選択と認められるわけではありません。
「有給を使わなければ労災申請をしない」などと会社が圧力をかけている場合は、別の問題が生じます。
会社から有給消化を求められたときの確認事項
- 有給休暇の利用は本人の任意か
- 利用しない場合は欠勤と休職のどちらになるか
- 今回の傷病は業務災害か通勤災害か
- 業務災害の待期期間中に休業補償が支払われるか
- 4日目以降の休業補償給付をいつ請求するか
- 有給取得日が労災請求の対象から除外されるか
- 本人が希望した日数だけ有給を使えるか
確認するときは、「有給を使いたくありません」と伝えるだけでなく、「待期期間は会社の休業補償として処理されるのか」「4日目以降は無給の休業として労災請求するのか」まで具体的に質問すると、話が整理しやすくなります。
給与明細と有給残日数を確認する
中小企業では、労災手続きと給与計算を別の担当者が処理し、情報共有が十分でないこともあります。
上司は欠勤として報告したのに、給与担当者が気を利かせて有給へ変更していたということも、実務では起こり得ます。
悪意があるとは限りませんが、本人の希望と異なる勤怠処理になっていないか、給与明細、勤怠システム、有給休暇の残日数を確認しておきましょう。
特に給与締日をまたぐ場合は、翌月になってから有給残日数の減少に気付くことがあります。
本人の希望と異なる有給処理が判明した場合は、いつ、誰の判断で有給へ変更されたのかを確認し、必要に応じて勤怠や給与の修正を依頼します。
修正によって賃金の返金、休業補償の追加支払い、労災請求書の訂正などが必要になる場合があります。
有給を使う意思を確認するときは、対象日、使用日数、使用しない日の処理、休業補償給付への影響を記載した書面を作ると、本人と会社の認識違いを防ぎやすくなります。
労災を欠勤扱いにされた場合の確認

労災によって仕事を休んだ日が欠勤扱いになること自体は、直ちに違法というわけではありません。
有給休暇を使わず、会社から賃金が支払われない日であれば、勤怠上は欠勤として記録されることがあります。
労災認定を受けたからといって、会社が必ず通常の賃金を全額支払わなければならないわけではありません。
業務災害の待期期間については会社の休業補償が問題となり、4日目以降は労災保険の休業補償給付によって所得を補うのが基本的な仕組みです。
欠勤扱いと労災申請は両立する
勤怠上の欠勤は、会社の給与計算や人事管理のための区分です。
一方、労災保険の休業補償給付は、国の労災保険制度に基づいて支給される給付です。
そのため、会社の勤怠上は欠勤と記録されながら、その日について労災保険から休業補償給付を受けるということはあります。
重要なのは、欠勤扱いになった結果として賃金が支払われない日について、休業補償給付の請求手続きが適切に進められているかです。
また、業務災害の待期期間については、会社による休業補償が必要かどうかも確認しなければなりません。
欠勤扱いだから労災にならないわけではありません。
勤怠区分、賃金の支払い、労災保険の給付は、それぞれ分けて確認してください。
確認しておきたい資料
実務では、次の資料を照合すると状況を整理しやすくなります。
- 出勤簿や勤怠システムの記録
- 有給休暇の申請履歴と残日数
- 給与明細と賃金台帳
- 医師が証明した労働不能期間
- 休業補償給付の請求書の写し
- 会社から受け取った休職通知書
- 就業規則の欠勤や休職に関する規定
- 会社独自の災害補償規程
まず、医師が療養のため働けないと判断した期間と、会社が欠勤として記録した期間が一致しているかを確認します。
医師の証明期間より会社の欠勤期間が長い場合は、労災保険の対象外となる日が含まれている可能性があります。
次に、給与明細を確認し、欠勤控除の対象日数、基本給や手当の支給額、有給休暇の日数が勤怠記録と一致しているかを見ます。
請求書の控えがある場合は、賃金を受けなかった日として記載された期間とも照合してください。
賞与や人事評価への影響にも注意する
労災による休業期間を欠勤として記録した結果、賞与、昇給、人事評価、退職金などへ影響することがあります。
ただし、どのような取扱いでも直ちに認められるわけではなく、法令、就業規則、賃金規程、賞与規程などに照らして個別に判断する必要があります。
たとえば、賞与の算定期間中に勤務していない日数を一定の方法で反映する規定がある場合、休業日数が賞与額へ影響することはあり得ます。
一方、労災で休業したこと自体を理由に、合理的な根拠なく著しく不利益に扱う運用には問題が生じる可能性があります。
皆勤手当についても、支給条件の定め方や欠勤の定義によって判断が異なります。
「労災なのだから必ず皆勤扱いになる」「欠勤記録があるので必ず不支給になる」と一律に判断せず、賃金規程を確認してください。
会社から評価を下げる、降格する、退職を求めるなどの説明を受けた場合は、理由と根拠規定を書面で確認してください。
労災休業を理由とした不利益な取扱いには慎重な検討が必要です。
解雇制限と退職勧奨は分けて考える
業務上の負傷や疾病の療養のため休業する期間と、その後30日間については、労働基準法上、解雇が制限されるのが原則です。
ただし、打切補償を行った場合などの例外があるほか、通勤災害については同じ解雇制限がそのまま適用されるわけではありません。
また、会社が一方的に解雇することと、本人へ退職を勧める退職勧奨は法的な性質が異なります。
退職届や合意書へ署名すると、自分の意思で退職したと扱われる可能性があるため、その場で即答しないようにしてください。
労災による療養中に解雇通知や退職勧奨を受けた場合は、業務災害か通勤災害か、休業期間、会社から示された理由、就業規則の規定を整理し、早めに専門家へ相談することが大切です。
健康保険で受診した場合の切り替え
労災に該当する可能性があるにもかかわらず、病院で健康保険を使って受診している場合は、後から労災保険への切り替えや医療費の精算が必要になることがあります。
休業補償給付の請求だけを進め、治療費の処理を放置しないようにしてください。
詳しい手続きは、 労災から健康保険へ切り替える際の手続きと注意点 も参考にしてください。
医療機関、健康保険組合または協会けんぽ、労働基準監督署への手続きが関係するため、受診先へ早めに事情を伝えることが重要です。
労災申請中でまだ認定結果が出ていなくても、勤怠や給与の処理は毎月進みます。
結果を待つだけでなく、当面どの区分で給与計算し、認定後にどのように精算するのかを会社へ確認しておきましょう。
労災で有給が使えない時の相談先
会社から労災を理由に有給取得を拒否された場合や、本人の同意なく有給消化された場合は、まず人事担当者、総務担当者、給与担当者へ処理の根拠を確認しましょう。
「有給が使えない」という説明が、休業補償給付と同じ日に併用できないという意味なのか、休職期間中で労働義務がないという意味なのか、時季変更権を行使するという意味なのか、それとも会社が単純に取得を認めていないのかによって、適切な対応が変わります。
最初に社内で確認する
まずは、直属の上司だけでなく、実際に勤怠や給与を処理する部署へ確認してください。
上司が労災保険や有給休暇の制度を正確に理解しているとは限らず、会社としての正式な取扱いと異なる説明をしていることもあります。
質問するときは、「有給が使えないのはなぜですか」と漠然と尋ねるのではなく、具体的に確認するのが効果的です。
- 何月何日は有給休暇として申請できるか
- 申請できない場合の根拠は何か
- すでに休職期間へ入っているか
- 有給を使わない日は無給になるか
- 待期期間の会社補償はどうなるか
- 休業補償給付の請求は誰が進めるか
- 有給を使った日は請求対象から除外されるか
社内の回答は、できる限りメールや書面で残しておきましょう。
口頭で説明を受けた場合は、自分から「本日、次のように説明を受けたと理解しています」と確認メールを送る方法もあります。
労働基準監督署へ相談する内容
労災保険の休業補償給付については、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署が主な窓口です。
支給要件、待期期間の数え方、請求書の記載方法、有給取得日が混在する場合の申請方法などを確認できます。
会社が労災申請に協力しない場合でも、会社の判断だけで労災保険の請求権がなくなるわけではありません。
事業主証明を得られない事情を説明し、本人から請求できる場合もあります。
会社が「労災ではない」と言っているだけで申請を諦めず、労働基準監督署へ相談してください。
ただし、労働基準監督署は、すべての個別トラブルについて本人の代理人として会社と交渉する機関ではありません。
未払いの休業補償や有給休暇に関する法違反の相談はできますが、損害賠償や退職条件など、民事上の交渉には別の相談先が必要になることがあります。
総合労働相談コーナーや専門家へ相談する
有給休暇の拒否や強制、会社との話し合い、配置転換、評価、退職勧奨など、労災保険の給付以外の労働問題も含む場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーを利用できます。
相談内容によっては、助言・指導やあっせん制度について案内を受けられることがあります。
社会保険労務士には、労災保険の請求手続き、給与計算、就業規則、有給休暇の取扱いなどを相談できます。
会社と労働者の認識を整理し、どの部分が給付手続きの問題で、どの部分が労務管理上の問題なのかを切り分けたい場合に適しています。
解雇、退職勧奨、慰謝料や損害賠償の請求、会社との法的な交渉や訴訟を検討している場合は、労働問題を扱う弁護士への相談が必要になることがあります。
加入している労働組合がある場合は、組合を通じて会社と話し合う方法もあります。
| 相談内容 | 主な相談先 | 相談前に準備するもの |
|---|---|---|
| 休業補償給付の支給要件や申請 | 労働基準監督署 | 請求書、勤怠記録、給与明細 |
| 有給の拒否や強制に関する一般相談 | 総合労働相談コーナー | 会社とのメール、就業規則 |
| 労災手続きや給与処理の整理 | 社会保険労務士 | 診断書、賃金台帳、勤怠資料 |
| 解雇や損害賠償などの法的交渉 | 弁護士 | 通知書、証拠資料、経緯のメモ |
相談前に時系列を作る
相談する際は、会社とのメール、就業規則、給与明細、勤怠記録、診断書、労災請求書の控えなどを準備しておくと、状況を説明しやすくなります。
資料がすべてそろっていなくても相談はできますが、事故発生から現在までの時系列を簡単に作っておくとよいでしょう。
- 労災事故または発症があった日
- 最初に医療機関を受診した日
- 医師から休業を指示された期間
- 会社へ報告した日と相手
- 有給休暇を申請した日
- 会社から拒否または消化を求められた日
- 給与明細を受け取った日
- 労災請求書を提出した日
事実関係が整理されていると、相談先も問題点を把握しやすくなります。
感情的なやり取りが続いている場合でも、「誰が悪いか」から話し始めるのではなく、日付、会社の説明、実際の勤怠処理、賃金の支払いを順番に示すことが解決への近道です。
会社へ問い合わせる前に、就業規則や給与明細を持って専門家へ相談し、確認すべき事項を整理する方法もあります。
会社と対立するためではなく、制度上の論点を正確に理解するための相談です。
労災中でも、有給休暇の権利が一律に使えなくなるわけではありません。
ただし、有給休暇を取得して賃金を受けた日は、原則として休業補償給付の対象外になります。
同じ日について両方を満額で受け取るのではなく、休業期間中の日ごとに、有給休暇を利用する日と休業補償給付を請求する日を整理する必要があります。
会社から説明を受けたときは、「有給を取得すること自体ができない」のか、「有給を取得した日は休業補償給付が出ない」のか、「すでに休職期間へ入っているため有給の対象日にならない」のかを区別してください。
ここを切り分けるだけでも、会社との認識違いを解消しやすくなります。
また、有給休暇を使うかどうかは、目先の受取額だけで判断しないことが大切です。
休業が長引く可能性、有給休暇の残日数、復職後の通院、給付が支給されるまでの生活費なども含めて検討してください。
労災で有給が使えないと言われたら、まず理由を確認しましょう。
有給と休業補償給付の同日併用ができないことと、有給休暇の申請を一律に拒否されることは、同じ問題ではありません。
個別の勤怠処理、休職制度、賃金の支払状況、医師が証明する労働不能期間によって結論が変わることがあります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
会社との調整や給付申請に不安がある場合、最終的な判断は専門家にご相談ください。