労災

労災の手続きは何から始める?申請の流れと必要書類を整理

こんにちは。

もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。

仕事中や通勤中にケガをしたとき、労災の手続きは自動的に進むわけではありません。

労災の具体的な内容は、労災は通勤中も対象?通勤災害の認定基準と手続きの記事で確認できます。

労災については、労災の交通費はどこまで出る?支給条件と計算方法を実務を解説した記事で詳しく整理しています。

労災についてさらに詳しく知りたい場合は、労災保険と雇用保険の違いを解説した記事も参考にしてください。

原則として、被災した労働者やその遺族が必要な請求書を提出し、労災保険給付を請求する必要があります。請求主体と会社の役割分担については、 労災申請は誰がする?会社と本人の役割を実務で詳しく確認 で詳しく解説しています。

労災については、労災の診断書は必要?費用・様式・もらい方を実務を解説した記事で詳しく整理しています。

ただ、初めて労災に遭った方にとっては、会社に何を伝えるのか、病院ではどう説明するのか、どの書類を使うのか、どこへ提出するのかなど、分からないことが多いと思います。

業務災害と通勤災害でも使用する様式が異なるため、最初に全体の流れを整理することが大切です。

この記事では、労災が発生してから給付を受けるまでの流れ、病院での手続き、必要書類、休業補償、申請期限、会社が協力してくれない場合の対応まで、社会保険労務士の実務目線で順番に解説します。

  • 労災が発生してから申請するまでの流れ
  • 労災の種類ごとに必要となる書類と提出先
  • 休業補償や通勤災害を申請するときの注意点
  • 会社が手続きに協力しない場合の対応方法

労災の手続き完全ガイド|流れ・必要書類・期限を解説

労災の8号様式については、労災の8号様式の書き方と提出方法をまとめた記事で詳しく整理しています。

労災の手続きと基本的な流れ

労災の手続きを進めるうえで最初に理解しておきたいのは、労災保険が「事故が起きたら自動的に給付される制度」ではないということです。

労災についてさらに詳しく知りたい場合は、労災は退職後も受給できる?補償と申請手続きを実務について整理した記事も参考にしてください。

労災については、労災は後から申請できる?退職後・期限・手続きを実務を解説した記事で詳しく整理しています。労災についてさらに詳しく知りたい場合は、労災の申請期限はいつまで?時効2年・5年と注意点をまとめた記事も参考にしてください。労災の具体的な内容は、労災で指定病院以外を受診したら?費用と手続きを実務の記事で確認できます。

まず災害の状況を整理し、業務災害なのか通勤災害なのかを確認したうえで、受けたい給付に対応した請求書を用意します。業務災害・通勤災害の基本的な認定基準や給付内容は、 労災の認定基準と受けられる給付の全体像 で整理しています。

ここでは、事故発生直後から治療、休業補償の請求までの基本的な流れを確認していきます。

労災申請から給付までの流れ

仕事中や通勤中にケガをした場合、まず優先すべきなのは当然ながら治療です。

重大な事故であれば、労災の書類を準備してから病院へ行く必要はありません。

救急搬送を含め、必要な治療を優先してください。

そのうえで、できるだけ早い段階で会社に事故の発生を報告します。

いつ、どこで、どのような作業をしていたときに、何が原因で負傷したのかを整理しておくと、その後の労災申請がスムーズです。

労災保険は請求しなければ給付が始まりません。

会社が労災事故として把握しているだけでは、労働者本人に療養費や休業補償が自動的に支給されるわけではない点が重要です。

一般的な手続きの流れは、次のようになります。

  1. 事故や疾病の発生状況を会社へ報告する
  2. 医療機関を受診し、仕事中または通勤中の災害であることを伝える
  3. 業務災害か通勤災害かを整理する
  4. 受けたい労災保険給付に応じた請求書を準備する
  5. 必要に応じて事業主や医療機関の証明を受ける
  6. 医療機関または労働基準監督署へ請求書を提出する
  7. 労働基準監督署による必要な調査を経て支給・不支給が決定される

ここで実務上よくある誤解が、 会社が労災かどうかを最終的に決めるわけではない という点です。

会社が「これは本人の不注意だから労災ではない」「会社に責任はない」と考えていたとしても、それだけで労災保険の対象外になるわけではありません。

労災保険給付の支給・不支給を判断するのは、請求を受けた労働基準監督署長です。

逆に、会社が「労災です」と認めたから必ず給付されるわけでもありません。

事故の発生状況や業務との関係などを踏まえて、行政が判断します。

そのため、労働者側も会社側も、最初から認定結果を決めつけるのではなく、まず事実関係を正確に整理して手続きを進めることが大切です。

労災手続きで必要となる書類

労災手続きで必要となる書類

労災の必要書類は一種類ではありません。

治療を受ける場合、治療費を立て替えた場合、仕事を休んだ場合、後遺障害が残った場合など、受けようとする給付によって使用する様式が変わります。

さらに、同じ給付でも 業務災害と通勤災害では様式番号が異なります。

実務でも非常に間違いやすいポイントです。

手続き 業務災害 通勤災害 主な提出先
指定医療機関で治療 様式第5号 様式第16号の3 医療機関等
治療費を立替払い 様式第7号 様式第16号の5 労働基準監督署
休業に対する給付 様式第8号 様式第16号の6 労働基準監督署
後遺障害が残った場合 様式第10号など 様式第16号の7など 労働基準監督署
死亡した場合の遺族給付 様式第12号など 様式第16号の8など 労働基準監督署

たとえば、仕事中に機械で手を負傷して労災保険指定医療機関を受診するのであれば、基本的に使用するのは様式第5号です。

一方、出勤途中の交通事故であれば通勤災害となるため、同じ治療でも様式第16号の3を使用します。

また、休業した場合には治療のための書類だけでは足りません。

休業4日目以降の給付を受けるためには、業務災害なら様式第8号、通勤災害なら様式第16号の6による別の請求が必要です。

労災では「事故について一度申請すれば、治療費も休業補償もすべて自動的に処理される」という仕組みではありません。

給付の種類ごとに必要な手続きがある と考えると分かりやすいでしょう。

厚生労働省では各種請求書の様式を公開しています。

様式は改正されることもあるため、実際に申請するときは 厚生労働省の労災保険給付関係主要様式 から最新のものを確認してください。

労災指定病院を受診した場合

労災によるケガで病院を受診するときは、その医療機関が「労災保険指定医療機関等」かどうかによって手続きが変わります。

労災保険指定医療機関で治療を受ける場合、業務災害であれば「療養補償給付たる療養の給付請求書」の様式第5号、通勤災害であれば様式第16号の3を医療機関の窓口へ提出するのが基本です。

労災についてさらに詳しく知りたい場合は、労災の領収書は必要?紛失時と費用請求手続きの注意点をまとめた記事も参考にしてください。

必要な手続きが整えば、 労災の対象となる治療について原則として窓口で治療費を負担せずに療養を受けられます。

病院を受診するときは、受付で「仕事中のケガです」「通勤途中の事故です」と伝えてください。

健康保険を使うケガなのか労災として扱うケガなのかで、医療機関側の処理が異なります。

実際によくあるのが、本人が労災だと考えずに健康保険証やマイナ保険証を使って受診してしまうケースです。

しかし、業務上または通勤による負傷であれば、原則として健康保険と労災保険を本人の希望で自由に選択するものではありません。

すでに健康保険を使ってしまった場合でも、その時点ですべて終わりというわけではありません。

医療機関や加入している健康保険へ連絡し、労災へ切り替えるための処理が必要になることがあります。

この場合の具体的な対応については、 健康保険への切り替えが必要になるケースと手順 でも詳しく解説しています。

また、様式第5号の記載では、事故の日時や発生状況、事業場の情報などを記入します。

会社に記入を依頼する部分もあるため、病院から「労災の5号様式を持ってきてください」と言われたら、会社の担当者へ早めに連絡しましょう。

様式第5号そのものの記入方法については、 労災の5号様式の書き方と提出先 も参考にしてください。

労災の具体的な内容は、労災で薬局を変更する方法と様式6号の書き方・注意点について整理した記事で確認できます。労災保険関係成立票についてさらに詳しく知りたい場合は、労災保険関係成立票の書き方と記入例を現場実務について整理した記事も参考にしてください。

指定病院以外で受診した場合

指定病院以外で受診した場合

労災保険指定医療機関ではない病院を受診したからといって、労災保険が利用できなくなるわけではありません。

ただし、治療費の受け取り方が変わります。

指定医療機関以外で治療を受けた場合は、原則としていったん治療費を支払い、その後に労災保険へ療養費を請求する流れになります。

業務災害であれば様式第7号、通勤災害であれば様式第16号の5を使用し、必要な証明を受けたうえで所轄の労働基準監督署へ提出します。

受診先 治療費の扱い 主な手続き
労災指定医療機関 原則として窓口負担なし 5号または16号の3を提出
指定医療機関以外 原則として一度立て替える 7号または16号の5で費用請求

急な事故では、搬送先が労災指定医療機関かどうかまで確認できないこともあります。

そのような場合に「指定病院ではなかったから労災にならない」と考える必要はありません。

一方で、後から費用を請求するためには、医療機関の証明などが必要になります。

領収書や診療に関する資料は捨てずに保管しておくことをおすすめします。

また、薬局を利用した場合や、治療途中で病院を変更した場合には別の手続きが必要になることがあります。

医師の指示でコルセットや膝装具などの治療用装具を作り、装具業者に代金を支払った場合も、業務災害なら様式第7号(1)、通勤災害なら様式第16号の5(1)で費用を請求します。装着証明書などの必要書類や提出先は、労災の治療用装具を請求する方法|必要書類と7号を整理で確認できます。

事故直後から転院、休業、復職まで一つの書類で完結する制度ではないため、状況が変わったときには必要な様式を確認することが大切です。

休業補償を受けるための手続き

労災によるケガや病気の治療のため働くことができず、そのため賃金を受けられない場合には、一定の要件を満たすことで休業に対する労災保険給付を受けられます。

業務災害では「休業補償給付」、通勤災害では「休業給付」と呼ばれます。

給付は原則として休業4日目からで、1日につき給付基礎日額の60%相当の休業補償給付または休業給付に、20%相当の休業特別支給金が加わります。

したがって、一般的には 給付基礎日額の80%相当 が一つの目安になります。

80%という数字は通常の給与額の80%と必ず一致するわけではありません。

給付基礎日額の計算や、休業期間中に賃金が支払われているかなどによって実際の支給額は変わります。

副業などで複数の会社に雇用されている人が労災にあった場合は、全ての勤務先の賃金を合算して給付基礎日額を計算します。対象になる人や請求書の別紙の書き方は、二以上事業所勤務の労災はどうなる?給付と手続きを整理で確認できます。

最初の3日間は待期期間

休業初日から3日目までは待期期間となり、労災保険から休業補償給付・休業給付は支給されません。

ここで特に注意したいのが、業務災害と通勤災害の違いです。

業務災害の場合、待期期間の3日間については、原則として事業主が労働基準法に基づき平均賃金の60%以上の休業補償を行います。

一方、通勤災害については、会社にこの労働基準法上の休業補償義務はありません。

同じ労災保険を利用するケースでも、最初の3日間の扱いが異なります。

休業の請求書も別に必要

休業補償を受けるには、業務災害では様式第8号、通勤災害では様式第16号の6を所轄の労働基準監督署へ提出します。

休業が長期間続く場合、すべての療養が終わるまで待ってから一度に請求する必要はありません。

実務では一定期間ごとに区切って請求していくことも一般的です。

休業補償については、支給額の計算や待期期間など確認するポイントが多いため、詳しくは 支給額の計算方法と待期期間の考え方 もあわせて確認してください。

労災の手続きで注意すべきポイント

労災の基本的な申請方法を理解したら、次に確認したいのが例外的なケースです。

特に通勤災害、申請期限、会社が協力してくれないケース、退職後の請求は相談の多いポイントです。

また、会社側には労災保険の請求への協力とは別に、労働者死傷病報告などの手続きが必要になる場合があります。

通勤災害の手続きと必要書類

通勤途中の事故も、一定の要件を満たせば労災保険の対象となります。

ただし、仕事中の事故である業務災害とは別に「通勤災害」として手続きを行います。

代表的な例として、自宅から勤務先へ向かう途中に交通事故に遭った場合や、帰宅途中に駅の階段で転倒した場合などがあります。

通勤災害では、住居と就業場所との間などを、 就業に関して合理的な経路および方法で移動していたか が重要になります。

会社へ届け出ている通勤経路と少し違っていたからという理由だけで、直ちに通勤災害ではなくなるわけではありません。

労災保険上の「合理的な経路および方法」に該当するかどうかで判断されます。

一方、通勤とは関係のない目的で大きく経路を外れたり、移動を中断したりした場合、その後の移動が原則として通勤に該当しなくなることがあります。

ただし、日用品の購入、医療機関での診療など、日常生活上必要な一定の行為をやむを得ない事情で最小限行った場合には、その行為をしている間を除き、合理的な通勤経路へ戻った後は再び通勤として扱われる場合があります。

そのため、通勤災害では単純に「いつもの道だったか」だけを見るのではなく、出発地点、目的地、事故地点、移動の目的、経路を変更した理由などを整理することが重要です。

また、使用する書類も業務災害とは異なります。

  • 指定医療機関で治療を受ける場合は様式第16号の3
  • 治療費を立て替えた場合は様式第16号の5
  • 休業給付を受ける場合は様式第16号の6

交通事故など相手方がいる事故では、通常の労災請求書とは別に第三者行為災害に関する届出などが必要になる場合もあります。

事故の状況によって必要書類が増えるため、早めに所轄の労働基準監督署へ確認するのが確実です。

労災申請の期限と時効

労災申請の期限と時効

労災保険は、事故から何年経っても自由に請求できる制度ではありません。

給付の種類ごとに請求権の時効が定められています。

特に「会社が手続きをしてくれると思って待っていた」「治療が全部終わってからまとめて申請しようと思っていた」というケースでは注意が必要です。

主な給付 時効の目安 主な起算の考え方
療養費の請求 2年 費用を支出した日の翌日から
休業(補償)等給付 2年 賃金を受けない日ごとに翌日から
葬祭料等 2年 労働者が死亡した日の翌日から
介護(補償)等給付 2年 対象となる月ごとに進行
障害(補償)等給付 5年 傷病が治癒した日の翌日から
遺族(補償)等給付 5年 労働者が死亡した日の翌日から

なかでも休業補償は注意が必要です。

休業期間全体について一つの時効が進むのではなく、 賃金を受けなかった日ごとに請求権が発生し、それぞれについて時効が進みます。

たとえば長期間休業しているにもかかわらず、何年も請求しないまま放置すると、古い休業日から順番に請求できなくなる可能性があります。

時効が近い案件では、自分で起算日を判断して手続きを先延ばしにしないことが大切です。

事故から時間が経過している場合は、早めに労働基準監督署へ相談してください。

なお、労災保険給付は種類によって起算日の考え方も異なります。

正確な情報は公式サイトをご確認ください。

会社が行う労災対応と手続き

ここまでは主に被災した労働者側の手続きを説明してきましたが、労災が発生した場合には会社側にも対応すべき事項があります。

まず、本人から事故の報告を受けたら、事故発生日時、場所、作業内容、負傷の状況、目撃者の有無などを整理します。

再発防止という観点でも、事実関係を早い段階で残しておくことが重要です。

また、労働者が労災保険給付を請求するために事業主の証明が必要となった場合、会社には必要な助力を行うことが求められます。

労災請求と労働者死傷病報告は別の手続き

会社側で特に間違えやすいのが、 労災保険給付の請求と労働者死傷病報告を同じ手続きだと考えてしまうこと です。

労災保険給付の請求は、被災労働者などが保険給付を受けるための手続きです。

一方、労働者死傷病報告は、一定の労働災害が発生したことを会社から労働基準監督署へ報告する安全衛生上の手続きです。

したがって、5号様式や8号様式を作成したからといって、会社側の労働者死傷病報告まで完了したことにはなりません。

業務上の災害で労働者が死亡または休業した場合には、休業日数などに応じて労働者死傷病報告が必要になります。

死亡または休業4日以上のケースと、休業4日未満のケースでは報告時期が異なるため注意してください。

また、2025年1月から労働者死傷病報告は原則として電子申請が義務化されています。

電子申請が困難な事情がある場合の取扱いも含め、会社側は最新の提出方法を確認する必要があります。

なお、一般的な通勤災害は労働者死傷病報告の対象となる業務災害とは扱いが異なります。

労災保険の給付対象であることと、会社の労働者死傷病報告の対象であることは分けて整理しましょう。

労働者死傷病報告そのものの提出期限・書き方・電子申請の詳細は、 労災の報告書とは?提出期限・書き方・電子申請を実務で確認 で確認できます。

労災の具体的な内容は、労災の略図の書き方と電子申請をまとめた記事で確認できます。

業務災害の待期3日にも注意

もう一つ会社側が確認しておきたいのが、休業初日から3日目までの待期期間です。

業務災害については、この期間には労災保険から休業補償給付が出ない代わりに、原則として会社が平均賃金の60%以上の休業補償を行う必要があります。

給与計算上、単純に欠勤控除だけをしてしまうケースがありますが、業務災害である場合には別途休業補償の検討が必要です。

労災があまり発生しない中小企業では特に迷いやすい実務ポイントです。

会社が手続きしてくれない場合

労働者から非常によく出る質問の一つが、「会社が労災の手続きをしてくれない場合はどうすればいいですか」というものです。

まず押さえておきたいのは、 会社が協力しないからといって、労働者が労災保険を請求できなくなるわけではない ということです。

労災保険の請求人は原則として被災労働者本人などです。

会社が労災申請を認めるかどうかによって、請求する権利そのものが決まるわけではありません。

事業主証明を拒否されても請求できる

労災保険の請求書には、災害発生状況などについて事業主が証明する欄があります。

そのため、会社から証明を拒否されると「会社の印がなければ申請できないのでは」と考える方もいます。

しかし、 会社から事業主証明を受けられない場合でも、労災保険給付の請求自体は可能です。

その場合は、事業主証明を得られない事情を説明したうえで、所轄の労働基準監督署へ相談してください。

「会社が労災ではないと言っている」ことと「行政が労災ではないと判断した」ことは同じではありません。

労災保険の支給・不支給は、提出された資料や調査結果などをもとに労働基準監督署長が判断します。

会社と事故原因について認識が違う場合も、感情的なやり取りを続けるより、事故当日の状況を客観的に整理することが重要です。

勤務表、作業指示、メール、チャット、事故現場の写真、目撃者、医療機関の記録など、事故と仕事との関係を確認できる資料があれば保存しておきましょう。

会社が必要な対応をしてくれない場合は、所轄の労働基準監督署や労働局へ相談できます。

本人だけで何度も会社と交渉するより、早い段階で行政窓口へ事情を説明した方が手続きの整理につながるケースもあります。

退職後でも労災申請はできる

労災事故の後に会社を退職した場合、「もう会社を辞めたから労災は使えないのでは」と考える方がいますが、退職したことだけを理由として、在職中に発生した労災に関する給付を受ける権利がなくなるわけではありません。

たとえば、在職中の業務災害による治療が退職後も続いている場合や、退職後も労災による傷病のため働くことができない場合など、要件を満たせば退職後も労災保険給付の対象となる可能性があります。

退職と労災保険給付の終了は必ずしも同じタイミングではありません。

会社との雇用関係が終了したことと、労災保険上の給付要件は分けて考える必要があります。

また、「退職後になって仕事が原因だったと分かった」というケースでも、直ちに申請できなくなるとは限りません。

ただし、前述したとおり労災保険給付には時効があります。

また、時間が経過するほど事故当時の記録が失われたり、関係者の記憶が曖昧になったりする可能性があります。

退職後に請求を考えている場合には、事故が起きた日、勤務していた会社・事業場、当時の仕事内容、負傷・発症までの経緯、受診した医療機関などを整理しておくとよいでしょう。

会社をすでに退職しており事業主証明を得ることが難しい場合にも、まずは労働基準監督署へ相談してください。

会社と連絡が取れないという理由だけで自己判断して申請を諦める必要はありません。

労災隠しに該当するケース

労災隠しに該当するケース

労災の話になると「会社が申請してくれないのは労災隠しではないか」という疑問もよく出てきます。

ここで大切なのは、 労災保険の請求と労働者死傷病報告を区別すること です。

一般に労災隠しとして問題になるのは、労働者死傷病報告を提出しなければならない労働災害が発生しているにもかかわらず、会社が故意に報告しなかったり、虚偽の内容を報告したりするケースです。

たとえば、仕事中に従業員が負傷して一定期間休業したにもかかわらず、会社が労働基準監督署への必要な報告を行わず、業務外の事故として処理するよう従業員に求めるようなケースでは問題となる可能性があります。

会社が5号様式や8号様式を作ってくれないことだけで、直ちに法律上の労災隠しと断定できるわけではありません。

労災保険給付の請求と、会社に義務付けられている労働者死傷病報告は別の手続きだからです。

一方で、会社が「労災にすると保険料が上がるから健康保険を使ってほしい」「労基署には報告しないでほしい」などと働きかけ、必要な報告を行わないような場合には、慎重な対応が必要です。

労働者死傷病報告を提出しないことや虚偽の内容を報告することは、労働安全衛生法違反として罰則の対象となる可能性があります。

労働者側としては、自分で会社を「労災隠しだ」と断定して争うことよりも、まず発生した事実を整理して労働基準監督署へ相談することをおすすめします。

労災についてさらに詳しく知りたい場合は、労災を会社が認めない場合の申請方法と証明拒否への対処ポイントを解説した記事も参考にしてください。労災の具体的な内容は、労災の診断書を書いてくれない理由と対処法を実務をまとめた記事で確認できます。

会社側も、「本人が労災申請を希望していないから報告しなくてもよい」という考え方は避けるべきです。

労災保険給付を本人が請求するかどうかと、会社に法令上の報告義務があるかどうかは別問題です。

労災の手続きは早めに進めよう

労災の手続きで最も大切なのは、事故が起きた後に必要な対応を一つずつ整理し、できるだけ早く進めることです。

まず治療を優先し、会社へ事故を報告します。

そのうえで業務災害か通勤災害かを整理し、治療を受けるための書類、休業した場合の書類など、必要な給付ごとに手続きを行います。

労災の基本的な手続きは次の順番で考えると整理しやすくなります。

  • 事故・疾病の発生状況を記録する
  • 会社へ報告する
  • 医療機関で労災であることを伝える
  • 業務災害か通勤災害かを確認する
  • 必要な給付に対応した請求書を準備する
  • 医療機関または労働基準監督署へ提出する
  • 休業が続く場合は休業給付も忘れず請求する

特に覚えておいてほしいのは、 会社が手続きをしてくれるのを待つだけではなく、労災保険は労働者本人などが請求する制度だということ です。

会社が協力してくれる場合には、会社の労務担当者と連携しながら進めれば問題ありません。

一方、会社が労災と認めない、事業主証明をしてくれない、必要な説明をしてくれないという場合でも、それだけで請求を諦める必要はありません。

また、治療費、休業補償、障害給付、遺族給付などで手続きや時効が異なります。

特に過去の事故や長期間の休業があるケースでは、時間を置くほど手続きが難しくなる可能性があります。

制度の詳細や様式は変更されることがありますので、正確な情報は 厚生労働省「労働災害が発生したとき」 などの公式サイトをご確認ください。

また、業務上かどうかの判断が難しい事故、会社との認識が大きく異なるケース、長期間の休業や後遺障害を伴うケースなどでは、個別の事情によって対応が変わります。

最終的な判断は専門家にご相談ください。



-労災