こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
労災の診断書を医師が書いてくれない場合でも、すぐに障害補償給付を諦める必要はありません。
診察した医師は、正当な理由がない限り診断書の交付を拒めないとされています。
ただし、まだ症状固定に至っていない場合や、転院直後で医師が治療経過を十分に把握していない場合には、後遺障害に関する診断書をすぐに作成してもらえないことがあります。
また、医師には患者が希望する内容をそのまま記載する義務があるわけではなく、診察や検査によって医学的に確認できる事実を記載することになります。
実際によくある相談ですが、医師と対立するような伝え方をすると、その後の治療や診断書作成が進みにくくなることもあります。
まずは医師が作成に応じない理由を確認し、症状や治療経過を整理したうえで、転院前の医師への相談や労働基準監督署への相談などを順番に進めることが大切です。
この記事では、労災の診断書を書いてくれない主な理由、医師法上の考え方、主治医への依頼方法、転院した場合の対応、診断書の費用や作成期間、後遺障害等級の認定に備えるための確認事項まで、社会保険労務士の実務目線で詳しく解説します。
- 労災の診断書を医師が作成しない主な理由
- 医師法上の診断書交付義務とその例外
- 診断書を書いてもらえない場合の対処法
- 後遺障害等級の認定に備える確認ポイント

労災の診断書を書いてくれない主な理由
労災の診断書を書いてもらえないときは、単に医師が非協力的であるとは限りません。
後遺障害の診断書を作成する時期に達していない、医師が後遺障害に該当する症状ではないと考えている、転院によって治療経過を把握できていないなど、複数の理由が考えられます。
特に、通常の診断書と障害補償給付の請求に使用する診断書を混同していると、医師との話がかみ合わないことがあります。
まずは、どの給付を請求するために、どの書類を作成してもらう必要があるのかを整理しておきましょう。
後遺障害診断書と様式10号の役割
労災によるけがや病気の治療を続けても一定の障害が残った場合には、その障害の程度に応じて、労災保険の障害補償給付などを請求できる可能性があります。
業務上の災害による障害であれば障害補償給付、複数の事業場での業務を原因とする場合は複数事業労働者障害給付、通勤災害であれば障害給付という名称になります。
業務災害または複数業務要因災害について障害に関する給付を請求するときに使用するのが、一般に 労災の様式第10号 と呼ばれる請求書です。
通勤災害の場合は、原則として様式第16号の7を使用します。
ここで注意したいのは、 様式第10号そのものが後遺障害診断書ではない という点です。
様式第10号は、労働者が労働基準監督署長に対して障害補償給付などを請求するための書類です。
これとは別に、医師または歯科医師が作成する労働者災害補償保険診断書を添付します。
様式第10号と診断書の違い
- 様式第10号は労働者が障害補償給付などを請求するための書類
- 診断書は医師が症状固定時点の障害や医学的所見を記載する書類
- 必要に応じてレントゲン、CT、MRIなどの資料も添付する
厚生労働省は、障害に関する給付の請求に使用する様式第10号や様式第16号の7、関連するパンフレットなどを公開しています。
書類は労働基準監督署でも入手できますが、古い様式を使用すると追加対応が必要になる可能性があります。
依頼前に最新の様式を確認しておくとよいでしょう。
障害補償給付などの請求では、診断書に記載された傷病名、症状固定日、残存する障害、自覚症状、他覚所見、画像所見、関節可動域などが重要な資料になります。
ただし、診断書だけで等級が自動的に決まるわけではありません。
労働基準監督署が診断書や画像資料、治療経過、必要な調査結果などを総合的に確認して判断します。
医師に障害等級を決めてもらうのではなく、等級認定の判断に必要な医学的事実を正確に記載してもらう という理解が重要です。
医師が後遺障害には該当しないと思うと話した場合でも、それだけで労災保険上の結論が確定するわけではありません。
主治医と労働基準監督署の役割
| 関係者 | 主な役割 | 行わないこと |
|---|---|---|
| 主治医 | 症状、検査結果、画像所見、可動域などを医学的に評価して診断書へ記載する | 労災保険上の障害等級を最終決定すること |
| 労働者 | 請求書を作成し、症状や生活上の支障を正確に医師へ伝える | 診断書の内容を自分で追記または変更すること |
| 労働基準監督署 | 提出資料や調査結果を確認し、給付の可否や障害等級を判断する | 医師に医学的事実と異なる内容を書かせること |
請求書や診断書の様式、記載例、請求手続の詳細については、 厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係)」 で確認できます。
制度や様式は変更されることがあるため、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
症状固定前は診断書を依頼できない

この見出しでいう診断書は、一般的な勤務先提出用の診断書ではなく、障害補償給付などの請求に添付する後遺障害に関する診断書を指します。
通常の診断書であれば治療途中でも作成されることがありますが、後遺障害診断書は、原則として症状固定時点に残っている障害を評価するための書類です。
労災保険では、業務上または通勤による負傷や疾病が治った後に一定の障害が残った場合、障害補償給付などの対象になる可能性があります。
ここでいう治ったとは、必ずしも事故前の状態まで完全に回復したことだけを意味しません。
治療を続けても、それ以上の医療効果を期待することが難しく、症状が安定した状態も、労災実務では 治ゆ または 症状固定 として扱われます。
たとえば、骨折部分は癒合したものの関節の動きに制限が残った場合や、治療を続けても痛みやしびれの程度が長期間変化しない場合などです。
一方で、手術後の経過観察中である、リハビリによる改善が期待されている、追加の検査や治療が予定されているといった段階では、将来どの程度の障害が残るのかを確定できません。
このような時期に後遺障害診断書の作成を依頼しても、医師からまだ書けないと言われることがあります。
症状固定前だから診断書を一切請求できないという意味ではありません。
治療や休業に必要な通常の診断書は、治療途中でも作成されることがあります。
症状固定後に作成する後遺障害診断書とは、目的と記載内容が異なります。
病院へ依頼するときは、何の手続に使う診断書なのかを明確に伝えましょう。
症状固定の時期を急がない
障害補償給付を早く請求したいという気持ちから、早めに症状固定としてもらいたいと考える方もいます。
しかし、症状固定後は、原則として療養補償給付による治療の段階から、残存障害に対する給付を検討する段階へ移ります。
治療による改善の可能性が残っているのに症状固定を急ぐと、必要な治療を受ける機会や、障害の状態を十分に評価する機会に影響する可能性があります。
症状固定日は給付の種類や請求時期にも関わるため、患者本人の希望だけで決めるものではありません。
症状固定の時期は、治療内容、治療期間、症状の推移、検査結果、今後の改善可能性などを踏まえ、医師が医学的に判断します。
ただし、労災保険上の治ゆの判断について、労働基準監督署が確認を行う場合もあります。
医師からまだ書けないと言われたときの確認事項
- 現在は症状固定前という判断なのか
- 今後予定されている治療や検査はあるか
- どの程度の期間、経過を見る予定なのか
- 症状固定を検討する目安は何か
- 後遺障害診断書以外の診断書なら作成できるか
たとえば、「まだ書けません」とだけ言われた場合は、「症状固定前だからでしょうか」「追加の検査が終われば作成を検討できますか」と具体的に確認すると、今後の見通しが分かりやすくなります。
私が実務で相談を受ける際も、医師が診断書そのものを拒んでいるのではなく、依頼する時期が早かったというケースがあります。
まずは拒否と決めつけず、現在の治療段階と作成可能になる条件を確認することが大切かなと思います。
後遺障害なしと判断されるケース
主治医が、現在の症状は後遺障害として残る程度ではないと考え、後遺障害診断書の作成に消極的になることがあります。
医師から、検査では異常が見つからない、治療によって十分に改善している、後遺障害には当たらないと思うなどと説明されるケースです。
たとえば、痛みやしびれの訴えはあるものの、レントゲン、CT、MRIなどの画像上に明確な異常がない場合や、神経学的検査で客観的な所見が得られない場合には、医師が障害の存在を医学的に評価しにくいことがあります。
また、関節の動きが悪いと本人が感じていても、測定すると左右差がほとんどない場合や、治療終了時点で仕事や日常生活への支障が軽減している場合もあります。
こうした状況では、医師が後遺障害診断書を作成する必要性に疑問を持つことがあります。
しかし、 労災保険上の障害等級に該当するかどうかを最終的に判断するのは労働基準監督署 です。
主治医は医学的な状態を評価しますが、労災保険上の障害等級を最終決定する立場ではありません。
そのため、医師へは「後遺障害に該当すると書いてください」と求めるのではなく、症状固定時点で残っている症状、診察所見、検査結果、画像所見などを、医学的に確認できる範囲で正確に記載してもらうよう依頼することが現実的です。
主治医への伝え方の例
「障害等級に該当するかどうかは労働基準監督署が判断すると理解しています。
現在残っている症状や検査結果について、先生が医学的に確認できる範囲で診断書へ記載していただけないでしょうか」と、診断内容を誘導しない形で相談するとよいでしょう。
自覚症状と他覚所見の違い
後遺障害診断書では、本人が感じている痛み、しびれ、違和感、動かしにくさなどの 自覚症状 と、診察や検査によって医師が確認できる 他覚所見 の両方が重要になります。
痛みやしびれは外見から分かりにくいため、受診のたびに症状を具体的に伝えておく必要があります。
診察時に一度だけ伝えただけでは、治療期間を通じた継続的な症状として把握されにくいことがあります。
伝える際は、単に痛いと説明するのではなく、どの部分が、いつから、どの程度、どのような動作で悪化し、仕事や生活にどのような支障が出ているかを具体化します。
| 曖昧な伝え方 | 具体的な伝え方 |
|---|---|
| 首が痛い | 首を右へ向けると右肩から腕にかけて痛みが走る |
| 手がしびれる | 右手の親指と人差し指に毎日しびれがあり、細かい作業が続けにくい |
| 膝が動かない | 膝を深く曲げられず、階段を下りるときに痛みが強くなる |
| 仕事ができない | 10キログラム程度の荷物を持つ作業ができず、同僚の補助が必要になった |
ただし、診断書に希望どおりの表現を書いてもらえるとは限りません。
実際には存在しない症状を記載するよう求めたり、検査結果と異なる内容を求めたりすることはできません。
医師が医学的に確認した事実を記載する書類だからです。
医師が後遺障害なしと考えている場合でも、まずはその理由を聞き、どの検査結果や診察所見からその判断に至ったのかを確認しましょう。
必要な検査が未実施であるなら、その検査を行う医学的必要性について相談することも考えられます。
転院直後に作成を断られる理由

転院後の医師に後遺障害診断書を依頼したものの、治療期間が短いことや、以前の経過が分からないことを理由に断られるケースがあります。
これは実務上、珍しい話ではありません。
後遺障害診断書には、症状固定時点の状態だけでなく、傷病名、治療経過、検査結果、症状がどのように推移したかなどを踏まえた医学的評価が必要です。
転院直後の医師は、事故直後の症状、手術前後の経過、リハビリの内容、過去の画像、投薬の効果などを十分に把握できていません。
限られた回数の診察だけで、それまでの長い治療経過を評価し、残存障害に責任を持って記載することに慎重になるのは、医師の立場から見ても一定の理由があります。
特に、転院時に紹介状を持参していない、画像データが引き継がれていない、本人の説明だけで過去の治療内容を確認できないといった場合には、医師が診断書を作成するための情報が不足します。
医師法第20条では、医師が自ら診察しないで診断書を交付することを原則として禁止しています。
転院先の医師が患者を診察していたとしても、後遺障害を評価するために必要な診察期間や資料が不足している場合、すぐに作成できないと判断することがあります。
転院したという事実だけで診断書を書いてもらえなくなるわけではありません。
問題になりやすいのは、転院そのものではなく、治療経過や検査資料が十分に引き継がれていないことです。
転院前後の医療機関で情報をつなぐことが重要になります。
転院時に引き継ぎたい資料
- 前の医療機関からの紹介状
- 診療情報提供書
- レントゲン、CT、MRIなどの画像データ
- 画像検査の読影所見
- 手術記録や退院時の記録
- リハビリの実施内容と経過
- 処方薬や注射などの治療履歴
- 関節可動域や筋力などの測定記録
転院前の病院で長期間治療を受けていた場合は、以前の主治医へ診断書作成を相談する方法があります。
ただし、以前の主治医が最後に診察した時点では症状固定しておらず、その後の状態を確認していない場合には、症状固定時の障害を評価できないこともあります。
反対に、現在の主治医は症状固定時点の状態を確認できますが、事故直後からの治療経過を把握していないことがあります。
この場合、転院前の診療情報や画像資料を現在の医師へ提供し、経過を確認してもらったうえで作成を依頼することが考えられます。
転院後の進め方
- 現在の医師に作成できない理由を確認する
- 転院前の診療情報が不足していないか確認する
- 不足資料を前の病院から取り寄せる
- 現在の医師に必要な診察期間を確認する
- 前の主治医にも作成可能か相談する
どちらの医師に依頼すべきかは、治療経過によって異なります。
以前の医師と現在の医師の双方へ事情を説明し、どちらが症状固定時の状態を適切に評価できるかを相談して進めることが現実的ですよ。
症状固定が近い段階で転院を検討している場合は、転院後の治療だけでなく、将来の診断書作成に必要な資料が引き継がれるかも確認しておきましょう。
医師法上の診断書交付義務
医師法第19条第2項では、診察もしくは検案をし、または出産に立ち会った医師は、診断書などの交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒んではならないと定められています。
したがって、実際に診察を担当した医師が、単に忙しい、書類作成が面倒である、責任を負いたくないといった理由だけで診断書の交付を拒むことは、正当な理由として認められない可能性があります。
一方で、この規定は、患者が希望する内容をすべて診断書へ書くよう医師に義務付けるものではありません。
医師には診断書を交付する義務がありますが、記載内容については、診察、検査、治療経過などに基づき、医師自身が医学的に判断します。
たとえば、患者が後遺障害に該当すると記載してほしいと希望しても、医師が医学的に確認できなければ、そのとおりに記載する義務はありません。
また、患者が訴えていない症状や、実際の検査結果と異なる内容を記載することもできません。
医師法第19条と第20条の関係
医師法第19条第2項が診断書の交付義務を定めている一方、医師法第20条では、医師が自ら診察しないで診断書を交付することを原則として禁止しています。
つまり、医師は正当な理由なく交付を拒むことはできませんが、診察していない患者や、診断に必要な情報を確認できない状態で、無条件に診断書を作成できるわけでもありません。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 診察した医師が単に忙しいことを理由に断る | 正当な拒否理由に当たらない可能性がある |
| 医師が本人を診察していない | 無診察での診断書交付が問題となる可能性がある |
| 転院直後で治療経過が分からない | 必要な資料や診察期間が不足している可能性がある |
| まだ症状固定前である | 後遺障害を確定して記載する時期に達していない可能性がある |
| 希望する医学的内容を書いてもらえない | 交付拒否ではなく、医師の医学的判断の問題である場合がある |
診断書をすぐに作成できない相応の事情としては、本人を診察していない場合、必要な検査が終わっていない場合、症状固定前の場合、第三者からの依頼で本人の同意を確認できない場合、不正利用が疑われる場合などが考えられます。
医師法上の義務を最初から強く主張することはおすすめしません。
医師に対して法律違反だと一方的に主張すると、治療上の信頼関係が悪化することがあります。
まずは、作成できない理由、作成可能になる時期、追加で必要な診察や資料があるかを冷静に確認しましょう。
また、病院の受付で断られた場合でも、主治医本人が作成を拒否したとは限りません。
受付担当者が書類の種類を誤解していたり、病院内の手続上、指定の窓口で申請する必要があったりすることがあります。
受付や医事課には、障害補償給付の請求に添付する労災の診断書であることを伝え、主治医へ作成可能か確認してもらいましょう。
難しい場合は、医師本人の判断なのか、病院の事務手続上の問題なのかも確認します。
医師法第19条および第20条の条文は、 e-Gov法令検索「医師法」 で確認できます。
法律の適用は個別の事実関係によって異なるため、最終的な判断は専門家にご相談ください。
労災の診断書を書いてくれない時の対処法
診断書の作成に応じてもらえないときは、感情的に交渉するのではなく、理由を確認して一つずつ対応することが大切です。
主治医への伝え方を工夫するだけで進むこともあれば、過去の診療記録を取り寄せる、転院前の医師へ相談する、労働基準監督署へ手続を確認するといった対応が必要になることもあります。
ここからは、診断書を作成してもらうための伝え方、転院がある場合の対応、相談窓口、費用、記載内容の確認まで、実務上検討したい対応を順番に解説します。
主治医へ症状を正確に伝える方法
後遺障害診断書の作成を依頼するときは、単に痛い、しびれる、動かしにくいと伝えるだけではなく、症状をできる限り具体的に説明することが重要です。
医師は、患者本人の申告だけでなく、診察、検査、画像所見、治療経過などを踏まえて診断書を作成します。
本人が感じている症状を正確に伝えることは大切ですが、客観的な医学所見との整合性も確認されます。
診察時間は限られているため、その場で思いついた内容を断片的に話すだけでは、症状の全体像が医師へ十分に伝わらないことがあります。
特に、痛みやしびれのように外見から分かりにくい症状は、部位、程度、頻度、継続時間、悪化する動作などを整理しておくと伝わりやすくなります。
症状を整理するときのポイント
- 症状が残っている身体の部位
- 痛みやしびれの種類と程度
- 症状が続く時間と発生する頻度
- どのような動作で症状が強くなるか
- 仕事上できなくなった作業
- 着替え、入浴、睡眠など日常生活への影響
- 事故直後から現在までの症状の変化
- 薬やリハビリによって改善した点と残った点
たとえば、右肩が痛いとだけ伝えるのではなく、腕を肩より上へ上げられない、棚の上に物を置けない、荷物を持つと痛みが強くなる、右側を下にして眠れないなど、具体的な動作や生活上の支障を説明します。
手のしびれであれば、どの指にしびれがあるのか、常時あるのか、特定の姿勢で強くなるのか、ボタンを留める作業やパソコン入力に影響しているのかまで整理するとよいでしょう。
症状メモを作るときの注意
医師へ渡すために長文の主張書面を作る必要はありません。
症状の部位、頻度、悪化する動作、仕事や生活への影響を簡潔にまとめ、診察時の説明を補助する資料として使うとよいでしょう。
症状の一貫性も大切
受診日によって説明する部位が大きく変わる、事故から長期間たって初めて新しい症状を伝える、診療録に残っている内容と診断書作成時の説明が大きく異なるといった場合、事故との関係や症状の継続性が分かりにくくなることがあります。
これは、症状が変化してはいけないという意味ではありません。
症状が広がった、軽くなった、別の動作で痛みが出るようになったなど、実際に変化した場合は、その経過を正確に伝える必要があります。
通院中から簡単な記録を残し、いつ、どのような症状があり、医師へ何を伝えたかを把握しておくと、診断書を依頼する段階でも説明しやすくなります。
診断書の依頼時に伝えたいこと
障害等級の認定を医師に求めるのではなく、症状固定時点の自覚症状、他覚所見、検査結果、画像所見、関節可動域などを、医学的に確認できる範囲で正確に記載してほしいと伝えましょう。
会社の担当者が本人の同意なく医師へ直接連絡し、診断内容を確認しようとすると、医療情報やプライバシーの取扱いが問題になることがあります。
会社側は必要な診断書の提出を案内することはできますが、診断内容や障害の評価へ介入しないよう注意が必要です。
社労士として相談を受ける際も、医師に特定の結論を書いてもらうことより、本人が現在の症状を正確に説明できているか、診療記録や検査結果がそろっているかをまず確認します。
診断書は交渉で有利な表現を引き出す書類ではなく、医学的事実を整理する書類だからです。
転院前の医師へ依頼する方法

転院先の医師が治療経過を十分に把握できていないことを理由に診断書を作成しない場合は、転院前の主治医へ相談する方法があります。
特に、事故直後から長期間にわたって診察し、手術、投薬、リハビリ、検査の経過を確認していた医師であれば、症状がどのように変化したかを把握している可能性があります。
ただし、転院前の医師へ依頼すれば必ず作成してもらえるわけではありません。
以前の医師が診察していた時点では症状固定しておらず、転院後の状態を診察していない場合には、最終的な障害の状態を評価することが難しいこともあります。
たとえば、手術を行った病院からリハビリ専門の病院へ転院し、その後に症状固定となった場合、手術を担当した医師は事故直後や手術の状態を詳しく把握していますが、症状固定時点の関節可動域や生活上の支障を把握していない可能性があります。
一方、転院先の医師は症状固定時点の状態を診察していますが、手術前後の詳しい経過を把握していないことがあります。
この場合は、どちらか一方だけでなく、診療情報を共有してもらうことが重要です。
転院前の医師へ相談する手順
- 転院前の病院へ診断書作成の受付方法を確認する
- 現在の状態を診察せずに作成できるか確認する
- 必要であれば転院前の病院を再受診する
- 現在の医師から診療情報を提供してもらう
- どの医師が症状固定日を判断するのか確認する
- 診断書作成に必要な検査が不足していないか確認する
病院によっては、診断書の依頼を受付窓口や医事課で行い、後日主治医が作成可否を判断する流れになっています。
以前の主治医へ直接連絡できるとは限らないため、まずは病院の正式な受付方法を確認してください。
診療情報を転院先へ提供する
転院前の医師が作成できない場合は、以前の治療記録を現在の医師へ提供し、経過を把握してもらったうえで作成を依頼する方法があります。
カルテそのものを患者が自由に持ち運べるとは限りませんが、診療情報提供書、画像データ、検査結果、退院時要約などを発行してもらえる場合があります。
発行方法、期間、費用は医療機関によって異なるため、医事課や患者相談窓口へ確認しましょう。
| 資料 | 確認できる主な内容 |
|---|---|
| 診療情報提供書 | 傷病名、治療内容、転院理由、今後の治療方針 |
| 画像データ | 骨折、神経圧迫、組織損傷などの画像情報 |
| 検査結果 | 神経学的検査、筋力、可動域などの客観的数値 |
| 手術記録 | 手術方法、損傷部位、術中に確認された状態 |
| リハビリ記録 | 機能回復の経過、訓練内容、残存する制限 |
症状固定が近い段階での転院は慎重に検討しましょう。
転院には通院距離、専門医への受診、主治医との関係など相応の事情があると思います。
ただし、治療経過が分断されると、誰が後遺障害を評価するのかが不明確になることがあります。
転院前に診療情報の引継ぎと将来の診断書作成について確認しておくことが大切です。
以前の主治医と現在の主治医の意見が異なる場合や、双方とも作成が難しいという場合は、労働基準監督署へ現在の状況を説明し、請求手続をどのように進めるべきか相談しましょう。
労働基準監督署へ相談する方法
主治医へ事情を説明しても診断書を作成してもらえず、作成できない理由も明確でない場合には、労災保険を取り扱う労働基準監督署へ相談する方法があります。
労災保険給付の請求先は、原則として労災事故に関係する事業場を管轄する労働基準監督署です。
障害補償給付などの請求書を提出すると、労働基準監督署が診断書、画像資料、治療経過などを確認し、必要な調査を行ったうえで給付の可否や障害等級を判断します。
労働基準監督署は、医師に対して特定の障害等級に該当すると書くよう求めたり、医学的事実と異なる内容を記載させたりする機関ではありません。
しかし、どの様式を使用するのか、診断書が得られない場合にどのような対応を検討するのか、必要な資料は何かといった手続上の相談はできます。
相談前に整理しておきたい情報
- 労災事故が発生した日と具体的な状況
- 勤務先と事故が発生した事業場
- 傷病名と負傷した部位
- これまでに受診した医療機関
- 転院した時期とその理由
- 医師へ診断書を依頼した日
- 作成できないと言われた理由
- 症状固定について受けた説明
- 現在残っている症状
- 手元にある診療記録や画像資料
相談時に、医師が書いてくれないとだけ伝えるより、いつ、誰に、何の診断書を依頼し、どのような理由で断られたかを時系列で説明する方が、状況を理解してもらいやすくなります。
病院の受付で断られたのか、主治医本人から医学的理由を説明されたのかによっても対応が異なります。
受付段階で止まっている場合は、まず主治医へ作成可否を確認してもらうよう案内される可能性があります。
労働基準監督署へ相談するときの伝え方
「障害補償給付の請求を検討していますが、主治医から診断書を作成できないと言われました。
症状固定の説明は受けています。
今後、どのような資料を準備し、どのように手続を進めればよいでしょうか」と、請求手続について相談するとよいでしょう。
会社が協力しない場合
会社が労災申請に協力しない、事業主証明をしてくれない、労災ではないと言われたという場合でも、労働者本人が労働基準監督署へ相談することはできます。
労災保険給付の支給可否を最終的に判断するのは会社ではありません。
会社が労災ではないと考えていても、労働者が請求し、労働基準監督署が事実関係を調査することができます。
会社が労災申請に協力しない場合の考え方については、 労災がない会社といわれた場合の実務対応 でも詳しく解説しています。
一般的な制度内容については労災保険相談ダイヤルなどの窓口を利用できる場合もあります。
ただし、電話番号、受付時間、相談体制は変更される可能性があるため、 正確な情報は公式サイトをご確認ください 。
医師との調整だけでなく、会社への損害賠償請求、安全配慮義務、第三者への請求、認定結果に対する不服申立てなどが関係する場合は、労災問題に詳しい弁護士へ相談することも検討してください。
社会保険労務士は、労災保険の請求手続、必要書類、労働基準監督署への説明方法などについて助言できますが、医師に代わって診断書を作成したり、医学的内容を決定したりすることはできません。
それぞれの専門家の役割を踏まえて相談先を選ぶことが大切です。
診断書の費用と作成期間の目安
労災の後遺障害診断書を作成してもらう際には、医療機関から診断書料を請求されます。
診断書料は全国一律ではなく、医療機関が定める料金によって異なります。
一般的には3,000円から1万円程度になることがありますが、大学病院や大規模病院、特殊な証明を伴う書類では、これより高くなる場合もあります。
これはあくまで一般的な目安であり、実際の料金は依頼する医療機関へ確認してください。
障害に関する給付の請求に必要な診断書については、労災保険から一定額の診断書料が支給される取扱いがあります。
一般的な目安として4,000円とされていますが、診断書料が4,000円を超えた場合の差額や具体的な請求方法は、個別の取扱いを確認する必要があります。
診断書料に関する金額は、あくまで一般的な目安です。
制度上の支給額、請求方法、医療機関の料金は変更される可能性があります。
領収書を保管し、正確な情報は公式サイトまたは管轄の労働基準監督署へご確認ください。
依頼前に病院へ確認すること
- 診断書の料金
- 料金を支払う時期
- 完成までの目安
- 依頼に必要な様式
- 本人確認書類の有無
- 受取方法
- 郵送対応の可否
- 領収書の発行方法
診断書の作成期間も医療機関によって異なります。
一般的には1週間から4週間程度かかることがありますが、病院の規模、主治医の勤務日、確認する資料の量、追加検査の有無などによっては、それ以上必要になることもあります。
診断書の作成は、通常の診察とは別に、過去の診療録、検査結果、画像所見、手術記録などを確認しながら行われます。
複数の診療科を受診している場合や、別の病院から資料を取り寄せる必要がある場合には、作成期間が長くなりやすいです。
| 時間がかかりやすい事情 | 考えられる対応 |
|---|---|
| 複数の診療科を受診している | どの診療科の医師が作成するか事前に確認する |
| 過去の診療記録が別の病院にある | 早めに診療情報提供を依頼する |
| 追加検査や可動域測定が必要 | 次回診察日と検査日を確認する |
| 主治医の診察日が少ない | 受付締切や依頼日を早めに確認する |
| 記載内容の確認に時間がかかる | 依頼時に使用目的と必要書類を明確にする |
請求期限を意識して早めに準備する
障害補償給付などの請求には時効があります。
診断書の完成までに時間がかかることを考えず、請求期限が迫ってから依頼すると、書類の準備が間に合わない可能性があります。
症状固定が決まった段階で、病院の受付や医事課へ必要な様式、料金、作成期間、受取方法を確認しましょう。
医師へ診断書を依頼する日と、病院の窓口で正式に書類を受け付ける日は異なることもあります。
診断書を受け取ったら、診断書料の領収書も必ず保管してください。
労災保険へ診断書料を請求する際に、領収書の添付や提示が必要になることがあります。
診断書を受け取った後に記載漏れが見つかると、再度病院へ訂正を依頼し、さらに時間がかかる可能性があります。
受領時には、氏名、傷病名、症状固定日などの基本事項に明らかな誤りがないか確認しておきましょう。
記載不備を防ぎ等級認定に備える

診断書を作成してもらえたとしても、必要な内容が十分に記載されていなければ、残っている障害の状態が労働基準監督署へ正確に伝わらない可能性があります。
後遺障害等級は、診断書だけを見て機械的に決まるものではありません。
診断書、画像資料、治療経過、検査結果、本人への聴取、必要に応じた専門医の意見などが総合的に確認されます。
それでも、医師が作成する診断書は、症状固定時点の医学的状態を示す中心的な資料です。
記載漏れや不明確な表現があると、追加資料の提出を求められたり、障害の状態を十分に評価できなかったりする可能性があります。
受け取った診断書で確認したい項目
- 氏名や生年月日に誤りがないか
- 傷病名と負傷部位が正確か
- 症状固定日が記載されているか
- 治療期間に明らかな誤りがないか
- 現在の自覚症状が記載されているか
- 他覚所見や検査結果が記載されているか
- 画像所見への言及があるか
- 関節可動域の測定値が記載されているか
- 健側との比較が分かるか
- 複数の障害部位が漏れなく記載されているか
たとえば、肩や膝などの関節機能障害を申請する場合、関節可動域の具体的な数値が重要になります。
単に動きが悪いと記載されているだけでは、どの程度の制限があるのか判断しにくいことがあります。
神経症状についても、痛みやしびれがあるという自覚症状だけでなく、MRIなどの画像所見、神経学的検査の結果、筋力低下、知覚障害などの他覚所見が確認されることがあります。
| 不備の例 | 考えられる影響 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 関節可動域の数値がない | 機能障害の程度を判断しにくい | 測定が行われたか医師へ確認する |
| 画像所見の記載がない | 症状を裏付ける客観的資料が分かりにくい | 画像検査の結果が診療録にあるか確認する |
| 自覚症状が一部しかない | 残存症状の全体像が伝わらない | 診察時に伝えた内容と照合する |
| 負傷部位の記載が不正確 | 請求する障害との対応関係が不明確になる | 傷病名や左右の記載を確認する |
| 症状固定日がない | 障害を評価する基準時点が分からない | 主治医へ記載の必要性を確認する |
患者自身で診断書へ追記や訂正をしてはいけません。
医師が作成した診断書に本人が文字を書き加えたり、数字を修正したりすると、書類の信用性に重大な問題が生じます。
記載漏れや誤記と思われる箇所がある場合は、必ず病院へ確認し、必要であれば医師に訂正してもらってください。
記載されていない症状がある場合
本人が伝えた症状が診断書に記載されていない場合は、まず、その症状をいつ、どのように医師へ伝えたかを確認します。
診療録に記載がない場合や、医師が医学的に確認できないと判断した場合には、希望どおりに追記してもらえないことがあります。
診断書を受け取った後に初めて新しい症状を主張すると、事故との因果関係や症状の継続性を確認する必要が生じます。
通院中から、実際に感じている症状を継続的かつ具体的に伝えておくことが大切です。
また、診断書の表現が専門的で、本人が期待した表現と違う場合でも、直ちに不備とは限りません。
医学用語として適切に記載されている可能性があります。
分からない部分は、病院へ意味を確認するか、労働基準監督署や専門家へ相談しましょう。
診断書だけでなく関連資料も整理しましょう。
画像データ、検査結果、手術記録、リハビリ経過、装具の使用状況などが、障害の状態を確認する資料になることがあります。
何を提出すべきかは傷病や障害の内容によって異なります。
認定結果に疑問がある場合には、審査請求などの不服申立てを検討できる可能性があります。
ただし、手続には期限があり、認定理由や医学的資料を確認したうえで対応を考える必要があります。
障害等級の見通しは、傷病名だけで単純に判断できません。
症状固定時の状態、検査所見、治療経過、仕事や日常生活への影響などにより異なるため、 最終的な判断は専門家にご相談ください 。
労災の診断書を書いてくれない時のまとめ
労災の診断書を書いてくれない場合でも、直ちに医師法違反と決めつけたり、障害補償給付を諦めたりする必要はありません。
最初に確認したいのは、医師が診断書を作成しない理由です。
まだ症状固定前である、転院直後で治療経過を把握していない、後遺障害を評価するための検査が終わっていない、依頼した書類の種類が病院へ正しく伝わっていないなど、現時点で作成できない理由がある場合もあります。
また、医師が後遺障害には当たらないと考えている場合でも、それだけで労災保険上の障害等級が決まるわけではありません。
障害等級を最終的に判断するのは労働基準監督署です。
医師には、後遺障害に該当すると結論付けてもらうのではなく、症状固定時点の自覚症状、他覚所見、検査結果、画像所見、関節可動域などを、医学的に確認できる範囲で正確に記載してもらうことが重要です。
対応の基本的な順番
- 依頼している診断書の種類を確認する
- 診断書を作成できない理由を医師へ確認する
- 症状固定前なら今後の治療予定を確認する
- 現在の症状と生活・仕事への影響を整理する
- 症状固定時点の状態を記載してほしいと依頼する
- 転院前の診療記録や画像資料を引き継ぐ
- 必要に応じて転院前の主治医へ相談する
- 解決しない場合は労働基準監督署へ相談する
医師とは対立せず理由を確認する
医師法では、診察した医師は正当な理由なく診断書の交付を拒めないとされています。
一方で、医師には患者の希望どおりの医学的内容を書く義務まではなく、診察していない事実や医学的に確認できない症状を記載することもできません。
実務上は、医師へ法律上の義務を強く主張するよりも、なぜ作成できないのか、どの条件が整えば作成できるのかを落ち着いて確認する方が進みやすいです。
「障害等級は労働基準監督署が判断すると理解していますので、先生が現在確認できる症状や検査結果を記載していただけないでしょうか」と伝えることで、医師に等級判断を求めているのではないことが伝わります。
転院している場合は診療情報をつなぐ
転院直後の医師が書けないという場合は、以前の治療経過を確認できる資料が不足していないかを確認しましょう。
紹介状、診療情報提供書、画像データ、検査結果、手術記録などを現在の医師へ提供することで、作成を検討してもらえる可能性があります。
以前の主治医が長期間の経過を把握している場合は、その医師へ作成可能か相談する方法もあります。
ただし、症状固定時点の状態を診察していなければ作成が難しいこともあるため、以前と現在の主治医の双方へ相談することが大切です。
困ったときは早めに相談する
医師が診断書を作成しない理由が分からない、病院と話が進まない、会社も協力してくれないという場合は、管轄の労働基準監督署へ相談してください。
労災の障害に関する給付は、症状固定の時期、診断書の内容、検査所見、治療経過などを踏まえて個別に判断されます。
インターネット上の一般的な情報だけで、自分は何級になる、絶対に認定されないなどと判断するのは避けた方がよいでしょう。
請求を検討している場合は、書類の準備を先延ばしにしないことも重要です。
診断書の作成には数週間以上かかることがあり、過去の診療記録の取寄せにも時間が必要です。
請求期限や必要書類を早めに確認しておきましょう。
診断書の様式、診断書料、相談窓口、請求手続などは変更される可能性があります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください 。
また、医師法上の拒否に当たるか、どの医師に診断書を依頼するべきか、認定結果に対して不服申立てを行うべきかといった判断は、個別の治療経過や証拠資料によって異なります。
判断に迷う場合や、医師との調整が長期化している場合は、 最終的な判断は専門家にご相談ください 。