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労災の休業補償はいくら?計算方法と申請手続きを社労士が解説

こんにちは。

もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。

労災の休業補償とは、仕事中や通勤中のけが・病気によって働けず、賃金を受けられないときに、休業中の生活を支えるための制度です。

一定の要件を満たすと、休業4日目以降について、原則として給付基礎日額の60%に休業特別支給金の20%を加えた、合計80%相当が支給されます。

ただし、実際の支給額は事故前の賃金、休業日数、休業中に支払われた賃金などによって変わります。

また、最初の3日間の取り扱い、業務災害と通勤災害の違い、申請書の作成方法など、初めて手続きをする方には分かりにくい部分があります。

この記事では、労災の休業補償を受けられる条件から、金額の計算方法、支給期間、必要書類、退職後の取り扱いまで、社会保険労務士の実務目線で分かりやすく解説します。

  • 休業補償給付を受けられる条件
  • 支給額と給付基礎日額の計算方法
  • 待期期間や支給が終了する時期
  • 申請書類、提出先、振込までの流れ

労災の休業補償はいくら?計算・期間・申請方法

労災の休業補償でもらえる金額と条件

労災の休業補償は、仕事を休めば自動的にもらえるものではありません。

業務または通勤が原因となったけがや病気を療養するために働けず、賃金を受けていないことなど、所定の要件を満たす必要があります。

特に注意したいのは、会社を欠勤した日と、労災保険上の支給対象日が必ずしも一致するとは限らないことです。

医師が労働できないと認めた期間、会社から支払われた賃金、所定休日、短時間勤務の有無などを整理したうえで判断します。

まずは、どのような場合に支給対象となるのか、1日あたりの金額がどのように決まるのか、最初の3日間は誰が補償するのかを確認していきましょう。

休業補償給付の支給要件

労災保険における休業中の給付は、仕事が原因となった業務災害の場合には「休業補償給付」、通勤が原因となった通勤災害の場合には「休業給付」と呼ばれます。

名称は異なりますが、基本的な支給要件や給付内容は同じです。

この記事では、両方をまとめて説明するときは、休業補償給付または休業に関する給付と表現します。

休業補償給付を受けるには、原則として次の3つの要件をすべて満たさなければなりません。

  • 業務上または通勤によるけが・病気を療養していること
  • 療養のため労働することができないこと
  • 労働できない日について賃金を受けていないこと

業務または通勤との関係が必要

最初の要件は、けがや病気が業務または通勤と関係していることです。

工場の機械で指を負傷した、建設現場で転落した、介護業務中に腰を痛めた、通勤途中に交通事故に遭ったといったケースが代表例です。

ただし、勤務時間中に起きた出来事であれば、必ず業務災害になるわけではありません。

私的な行為が原因となった場合や、業務との関係が極めて薄い場合には、労災と認められない可能性があります。

反対に、会社の敷地外で起きた事故であっても、出張や社用での移動中など、業務との関係が認められれば労災の対象になることがあります。

会社が「労災ではない」と考えていても、それだけで請求できなくなるものではありません。

労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは、会社ではなく労働基準監督署です。

本人と会社で見解が異なる場合でも、事故の経緯や資料を整理して請求することはできます。

療養のため労働できないこと

実務上、特に確認が必要なのが「療養のため労働できないか」という点です。

単に本人が不安だから休んだというだけではなく、けがや病気の状態、医師の診断、実際の仕事内容などを踏まえて判断されます。

例えば、足を負傷した方であっても、立ち仕事には就けないものの、座って行う事務作業には就ける場合があります。

このようなケースでは、すべての業務について労働不能といえるか、会社に配置可能な軽作業があるかなども確認されることがあります。

反対に、事務職であっても、強い痛みや薬の副作用により長時間座ることができない場合や、医師から安静を指示されている場合には、労働できないと認められる可能性があります。

傷病名だけで機械的に決まるのではなく、本人の症状と担当業務の組み合わせで考えることが大切です。

私が実務で確認するときも、「骨折だから休業」「軽傷だから出勤可能」と単純には判断しません。

どの動作ができないのか、通勤は可能か、会社に代替業務があるか、医師は就業についてどのような意見を示しているかを一つずつ整理します。

賃金を受けていないこと

休業日に会社から通常どおりの賃金が支払われている場合、原則としてその日は休業補償給付の対象になりません。

労災の休業補償給付は、労働できず賃金を受けられないことによる収入減少を補う制度だからです。

一方で、会社から賃金の一部だけが支払われた場合には、支払われた金額や労働時間に応じて給付額が調整されることがあります。

午前中だけ通院して午後から勤務した場合や、短時間勤務で復職した場合などが該当します。

このような部分休業では、単純に「出勤したから不支給」「1日休んだから全額支給」とは限りません。

実際に働いた時間、その日に支払われた賃金、平均賃金との差額などを確認する必要があります。

給与明細だけでは分からないこともあるため、勤怠記録と賃金台帳を併せて確認するのが実務上のポイントです。

年次有給休暇を使用した日は、通常、賃金を受けている日になります。

そのため、有給休暇を使用した日と休業補償給付を重ねて受け取ることは、原則としてできません。

有給休暇を使うか、欠勤として休業補償給付を請求するかは、給付開始までの生活費や会社の制度も踏まえて検討する必要があります。

有給休暇を先に使ってしまった後で労災申請を始めるケースもあります。

この場合、会社が有給休暇の処理を取り消して欠勤に変更するかどうかによって、請求できる日が変わることがあります。

会社側の給与処理にも影響するため、本人だけで判断せず、早めに人事労務担当者へ確認してください。

休業4日目から支給対象になる

さらに、労災保険から給付が始まるのは、原則として休業4日目からです。

最初の3日間は待期期間となり、労災保険から休業補償給付は支給されません。

ただし、4日間連続して会社を欠勤しなければならないという意味ではありません。

待期期間の数え方や所定休日の取り扱いについては、後ほど詳しく説明します。

支給要件を確認するときは、事故発生日、初診日、医師が労働不能と認めた期間、実際の欠勤日、所定休日、賃金の支給状況を時系列に並べると整理しやすくなります。

労災保険の全体的な仕組みや、どのような事故が対象になるかについては、 労災保険の基本と対象になるケースの解説 も参考にしてください。

給付基礎日額の計算方法

給付基礎日額の計算方法

休業補償給付の金額を計算する際の基礎になるのが、 給付基礎日額 です。

給付基礎日額は、原則として労働基準法上の平均賃金に相当する金額です。

基本的には、事故が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その3か月間の暦日数で割って計算します。

賃金締切日が定められている場合は、通常、事故発生日の直前の賃金締切日からさかのぼった3か月間を使用します。

例えば、毎月末日締めの会社で10月15日に事故が発生した場合、一般的には7月1日から9月30日までの賃金と暦日数をもとに計算します。

給付基礎日額の基本的な計算式

事故前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の暦日数

計算対象となる3か月の決め方

給付基礎日額の計算では、事故発生日から単純に90日間をさかのぼるわけではありません。

賃金締切日がある場合は、その直前の締切日を基準に3か月を区切ります。

例えば、給与が毎月20日締めで、事故が10月10日に起きた場合、直前の賃金締切日は9月20日です。

この場合、一般的には6月21日から9月20日までの期間を使います。

事故が10月25日に起きた場合は、直前の締切日が10月20日となるため、7月21日から10月20日までが対象期間になります。

ここは計算を間違えやすいところです。

給与明細に記載された支給月だけで判断すると、実際の賃金算定期間とずれることがあります。

賃金締切日と給与支払日の両方を確認してください。

賃金総額に含まれるもの

計算に含める賃金は、毎月の基本給だけではありません。

残業代、休日労働手当、深夜労働手当、役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当、通勤手当など、労働の対償として支払われたものは、原則として賃金総額に含まれます。

通勤手当については、実費弁償に近い印象を持つ方も多いのですが、労働基準法上の賃金に該当する形で支払われていれば、平均賃金の計算に含めるのが原則です。

また、現金ではなく定期券を現物で支給している場合でも、賃金として評価する必要が生じることがあります。

一方、結婚祝い金や見舞金など任意的・恩恵的に支払われるもの、出張旅費など実費弁償的なもの、賞与のように3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、原則として平均賃金の計算から除かれます。

項目 原則的な取り扱い 確認ポイント
基本給 含める 欠勤控除や日割計算の有無を確認
残業代 含める 対象期間中に実際に支払われた額を確認
通勤手当 原則として含める 定期券の現物支給も確認
役職・資格手当 原則として含める 労働の対償として支払われているか確認
賞与 原則として除外 3か月を超える期間ごとの支払いか確認
結婚祝い金・見舞金 原則として除外 就業規則上の支給条件も確認

月給20万円の場合の計算例

例えば、毎月末日が賃金締切日で、事故前3か月の給与が毎月20万円だったとします。

対象となる3か月間の暦日数が92日であれば、計算は次のようになります。

20万円 × 3か月 ÷ 92日 = 約6,521円73銭

1円未満を切り上げると、この場合の給付基礎日額は6,522円が目安になります。

「月給20万円なら、1日あたり約6,666円ではないのか」と感じる方もいると思います。

月給を30日で割れば約6,666円になりますが、平均賃金は原則として暦日数で割るため、31日ある月や28日しかない月が含まれると金額が変わります。

また、対象期間中に残業代が毎月異なる場合は、その実額を加えて計算します。

基本給20万円でも、3か月間に残業代が合計9万円あれば、賃金総額は69万円となり、給付基礎日額も高くなります。

時給制や日給制は最低保障も確認する

日給制、時給制、出来高払制の労働者については、通常の暦日数で割る方法だけでは、実際の労働日数に比べて平均賃金が低くなることがあります。

そのため、賃金総額を労働日数で割った金額の60%と比較する最低保障の計算が必要になる場合があります。

例えば、週2日だけ働くパートタイマーの場合、3か月間の賃金を90日程度の暦日数で割ると、1日あたりの金額が非常に低くなります。

このような場合は最低保障額と比較し、高い方を平均賃金として扱う仕組みがあります。

また、入社してから3か月未満で事故が起きた場合、産前産後休業や育児休業などが算定期間に含まれる場合、会社の都合による休業期間がある場合などは、通常と異なる取り扱いが必要です。

給付基礎日額は、単純に月給を30日で割ればよいとは限りません。

残業代や各種手当、欠勤控除、賃金締切日、入社日、日給制・時給制の最低保障などによって計算が変わります。

正確な金額は、給与明細だけでなく賃金台帳や雇用契約書も確認したうえで計算してください。

休業補償給付の計算方法については、厚生労働省も給付基礎日額の60%と休業特別支給金20%を合わせて支給する仕組みを案内しています。

制度の最新情報は、 厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法」 をご確認ください。

休業補償給付は賃金の約8割

休業4日目以降については、原則として休業1日につき、次の2つが支給されます。

給付の種類 1日あたりの支給額
休業補償給付または休業給付 給付基礎日額の60%
休業特別支給金 給付基礎日額の20%
合計 給付基礎日額の80%相当

そのため、労災の休業補償は、一般に「賃金の約8割」と説明されます。

ただし、正確には毎月の手取り額や月給額の80%ではなく、 給付基礎日額の80%相当 です。

手取り額の80%ではない

例えば、毎月の総支給額が30万円、税金や社会保険料を差し引いた手取りが24万円だったとしても、24万円の80%が支給されるわけではありません。

事故前3か月間の賃金から給付基礎日額を算出し、その日額に支給対象日数を掛けて計算します。

一方で、労災保険の給付は原則として非課税です。

そのため、総支給額と比べると80%相当でも、通常の給与の手取り額と比較した場合には、差が比較的小さく感じられることがあります。

ただし、休業期間中も社会保険の被保険者資格が続いている場合、健康保険料や厚生年金保険料の本人負担分が自動的に免除されるわけではありません。

労災給付から社会保険料が天引きされるわけではありませんが、会社へ別途支払う必要が生じることがあります。

30日間休業した場合の計算例

例えば、給付基礎日額が6,522円で、待期期間を除いて30日間が支給対象となる場合、一般的な計算例は次のようになります。

休業補償給付:6,522円 × 60% × 30日 = 約117,396円

休業特別支給金:6,522円 × 20% × 30日 = 約39,132円

合計:約156,528円

実際の支給額では、給付ごとの端数処理が行われるため、上記の単純計算と数円程度の差が生じることがあります。

上記は、あくまで支給額をイメージするための一般的な目安として考えてください。

また、「30日間会社を休んだ」という場合でも、最初の3日間が待期期間であれば、労災保険から支給されるのは原則として27日分です。

すでに別の休業期間で待期が完成している場合や、支給対象期間の途中から数えた30日間であれば、30日分が支給されることもあります。

休日も支給対象になることがある

休業補償給付は、会社の所定労働日だけを対象にする制度ではありません。

医師から労働不能と認められ、療養のため働けず、賃金を受けていない状態であれば、土曜日、日曜日、祝日などの所定休日も支給対象に含まれることがあります。

月給制の方は「休日分も月給に含まれているのではないか」と疑問に思うかもしれません。

しかし、休業によって月給が支払われていない場合や欠勤控除が行われている場合には、休日を含めた暦日単位で支給されることがあります。

ただし、会社が休業期間中も月給の一部または全部を支払っている場合には、賃金を受けている日として調整される可能性があります。

給与規程上の欠勤控除方法と、実際の給与計算を確認することが必要です。

短時間勤務や一部出勤の場合

治療を続けながら短時間勤務をするケースもあります。

例えば、午前中に通院して午後から勤務した場合や、1日8時間勤務から4時間勤務へ変更した場合です。

この場合、部分的に労働不能であり、実際に支払われた賃金が一定額を下回るときは、差額をもとに休業補償給付が支給される可能性があります。

出勤した日だから一律に対象外になるわけではありません。

ただし、部分休業の計算は、勤務時間だけでなく、その日に支払われた賃金額を確認して行います。

固定月給をどのように時間換算するか、通院時間を欠勤控除したかなどによって結果が変わるため、勤務先の給与担当者と労働基準監督署へ確認した方がよいでしょう。

税金と社会保険料の取り扱い

休業補償給付と休業特別支給金は、いずれも原則として非課税です。

所得税や住民税は課されず、通常は年末調整や確定申告で給与所得として申告する必要もありません。

一方、会社が独自に上乗せして支給する補償や見舞金については、その支給根拠や金額によって税務上の取り扱いが変わることがあります。

名称が「休業補償」であっても、すべてが当然に非課税になるわけではありません。

休業補償給付は社会保険料の算定対象にもなりません。

ただし、休職中も会社との雇用関係が続き、社会保険の被保険者資格が継続している場合は、健康保険料や厚生年金保険料そのものが自動的に免除されるわけではありません。

休業中の本人負担分を給与から控除できない場合、毎月会社へ振り込む、復職後に精算するなど、会社ごとの取り扱いを確認しておきましょう。

住民税についても、前年の所得をもとに課税されるため、休業した年の収入が減っても、すぐに負担がなくなるわけではありません。

会社が特別徴収を続けられない場合は、本人が納付書で支払う普通徴収へ切り替わることもあります。

待期期間3日間の取り扱い

待期期間3日間の取り扱い

休業補償給付は、休業した初日から支給されるわけではありません。

休業の最初の3日間は待期期間とされ、労災保険からの給付は4日目から始まります。

待期期間については、「3日間連続して休まなければならない」「会社の休日は数えない」と誤解されていることがあります。

しかし、労災保険の待期は、健康保険の傷病手当金とは数え方が異なります。

待期の3日間は連続していなくてもよい

労災では、待期の3日間が必ずしも連続している必要はありません。

例えば、月曜日と火曜日に療養のため休業し、水曜日に一度出勤した後、木曜日に再び休業した場合でも、月曜日、火曜日、木曜日の3日間で待期が完成する可能性があります。

その後の休業日が4日目として、労災保険からの給付対象になります。

ただし、それぞれの休業日について、同一の労災傷病を療養するために労働できなかったことが必要です。

月曜日と火曜日は労災傷病、木曜日は別の私傷病で休んだという場合には、同じ待期期間として数えられない可能性があります。

待期期間を整理するときの確認事項

  • 休業日は同じ労災傷病によるものか
  • 医師が労働できないと認めた期間に含まれるか
  • その日に賃金を受けていないか
  • すでに過去の休業で待期が完成していないか

所定休日も待期に含まれる場合がある

土曜日、日曜日、祝日などの所定休日であっても、療養のため労働できない状態が続き、賃金を受けていないなどの要件を満たせば、待期期間に含まれる場合があります。

例えば、金曜日に労災事故が発生し、医師から月曜日まで安静を指示されたケースを考えます。

金曜日が休業1日目、土曜日が2日目、日曜日が3日目として待期が完成し、月曜日が休業4日目となる可能性があります。

ただし、事故当日に所定労働時間の一部を働いた場合、事故当日を待期1日目として数えるかどうかは、事故の発生時刻や賃金の支払い状況によって確認が必要です。

所定労働時間中に事故が起きた業務災害では、事故当日を待期期間に含める取り扱いになることがありますが、給与が全額支払われている場合の給付計算は別途整理します。

待期期間は「欠勤した出勤日だけ」で数えるとは限りません。

休日を含めるかどうかは、療養のため労働できない状態であったか、賃金を受けていたか、医師の証明期間に含まれるかなどを確認して判断します。

業務災害では会社が3日分を補償する

待期期間中の補償については、業務災害と通勤災害で取り扱いが異なります。

仕事が原因となった業務災害では、労働基準法第76条に基づき、事業主が休業1日につき平均賃金の60%を休業補償として支払う義務があります。

そのため、最初の3日間については、原則として会社から補償を受けることになります。

ここでいう会社の休業補償は、労災保険から支給される休業補償給付とは別のものです。

労災保険は4日目から国が支給し、最初の3日間は会社が補償するという役割分担になっています。

会社がこの3日分を有給休暇として処理することがありますが、本人が有給休暇の取得を請求していないのに、会社が一方的に有給休暇へ振り替えることは適切ではありません。

業務災害として会社が休業補償を支払うのか、本人の希望で有給休暇を使うのかは区別する必要があります。

通勤災害の待期期間は無給になる場合がある

一方、通勤災害は労働基準法上の災害補償の対象ではありません。

労災保険法によって4日目以降の給付対象にはなりますが、待期期間中について会社に法律上の補償義務はありません。

就業規則や会社独自の休業補償制度がなければ、通勤災害の最初の3日間は無給になることがあります。

これは、実際によく質問を受けるポイントです。

通勤途中の事故なのだから、仕事と関係しているように感じる方も多いと思います。

しかし、通勤災害は労災保険法上は保護される一方で、会社が直接責任を負う労働基準法上の業務災害とは区別されています。

通勤災害の待期3日間については、本人が希望すれば年次有給休暇を使う、会社独自の特別休暇を使う、欠勤として無給にするなどの対応が考えられます。

就業規則と会社の運用を確認してください。

一度待期が完成すれば通常はやり直さない

同じ労災傷病について一度待期期間が完成した後、いったん復職し、症状の悪化により再び休業した場合、通常は改めて3日間の待期を完成させる必要はありません。

例えば、骨折で1か月休業した後に復職し、数週間後に同じ骨折の治療のため再手術となったケースでは、再休業の初日から休業補償給付の対象となる可能性があります。

ただし、再休業が以前の労災傷病と無関係である場合や、新たな事故による別の傷病である場合には、新しい災害として待期期間を数えることがあります。

過去の支給決定通知や傷病名、再休業に至った経緯を確認する必要があります。

業務災害と通勤災害の違い

労災保険では、仕事が原因となった災害を業務災害、通勤が原因となった災害を通勤災害といいます。

休業4日目以降の給付率はどちらも同じですが、給付の名称、使用する請求書、待期期間中の会社の補償義務などに違いがあります。

項目 業務災害 通勤災害
主な原因 仕事や業務に起因するけが・病気 合理的な通勤経路や通勤方法によるけが・病気
給付の名称 休業補償給付 休業給付
主な請求書 様式第8号 様式第16号の6
4日目以降の給付 給付基礎日額の80%相当 給付基礎日額の80%相当
待期3日間の会社補償 原則として平均賃金の60% 法律上の支払義務なし

業務災害として認められる考え方

業務災害と認められるには、一般に業務遂行性と業務起因性が確認されます。

業務遂行性とは、労働者が会社の支配・管理下にある状態で事故や疾病が発生したかという観点です。

通常の勤務時間中に職場で作業していた場合だけでなく、出張中、社用車での移動中、会社の指示による行事への参加中なども、業務遂行性が認められる可能性があります。

業務起因性とは、業務と傷病との間に一定の因果関係があるかという観点です。

勤務中に突然倒れたとしても、業務と無関係な持病だけが原因であれば、業務災害と認められないことがあります。

反対に、長時間労働や強い心理的負荷によって脳・心臓疾患や精神障害を発症した場合には、勤務場所の外で症状が現れても業務災害と認められる可能性があります。

通勤災害として認められる経路

通勤災害に該当するためには、住居と就業場所との間などを、合理的な経路と方法で移動していることが必要です。

合理的な経路は、必ずしも最短経路だけではありません。

電車の混雑を避けるために別の駅を利用する、保育園へ子どもを送ってから勤務先へ向かう、道路工事を避けて迂回するといった事情があれば、複数の合理的な経路が認められることがあります。

通勤方法についても、電車、バス、自動車、自転車、徒歩など、通常利用される方法であれば対象になり得ます。

ただし、無免許運転など法令に反する方法を用いた場合でも、直ちに通勤災害から外れると一律に決まるわけではなく、個別の事情をもとに判断されます。

逸脱と中断がある場合

通勤途中に私的な目的で合理的な経路を外れた場合を逸脱、通勤とは関係のない行為を行った場合を中断といいます。

例えば、通勤途中に友人と長時間飲食するため繁華街へ向かった場合や、私的な娯楽施設へ立ち寄った場合には、その時点で通勤が中断したと判断される可能性があります。

原則として、逸脱または中断の後の移動も通勤として扱われません。

ただし、日用品の購入、病院での診察、選挙での投票、家族の介護など、日常生活上必要な一定の行為については例外があります。

その行為をしている最中は通勤として扱われませんが、行為を終えて合理的な経路に戻った後は、再び通勤として扱われることがあります。

保育園への送迎についても、住居と勤務先の間の合理的な経路として認められるケースがあります。

必ず「寄り道だから対象外」と考える必要はありません。

業務災害と通勤災害のどちらに当たるかは、本人や会社が最終決定するものではありません。

提出された請求書、事故状況、通勤経路、目撃者の説明などをもとに、労働基準監督署が判断します。

休業手当とは異なる制度

会社都合で仕事を休ませた場合に支払われる「休業手当」と、労災の「休業補償給付」は別の制度です。

休業手当は、会社の設備故障、受注減少、原材料不足など、使用者の責に帰すべき事由によって従業員を休ませた場合に、会社が平均賃金の60%以上を支払う制度です。

一方、労災の休業補償給付は、業務または通勤によるけがや病気の療養のため働けない場合に、国から支給される保険給付です。

支給理由、支給者、課税関係が異なります。

項目 労災の休業補償給付 会社都合の休業手当
根拠 労災保険法 労働基準法第26条
支給する者 事業主
対象 業務上・通勤による傷病 使用者の責任による休業
金額 給付基礎日額の80%相当 平均賃金の60%以上
税金 原則として非課税 給与所得として課税

「休業補償」と「休業手当」は言葉が似ていますが、同じ制度ではありません。

会社から休業手当を受けながら、同じ日について労災の休業補償給付も満額受け取るという仕組みではありません。

会社から支払われた金銭の性質と対象日を確認する必要があります。

労災の休業補償を申請する方法

休業補償給付は、労災事故を会社へ報告しただけでは支給されません。

所定の請求書に労働者本人、事業主、医療機関が必要事項を記入し、管轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。

長期間休業する場合は、一度申請すれば治癒まで自動的に振り込まれるわけではなく、休業期間ごとに繰り返し請求するのが一般的です。

会社と医療機関の証明を毎回受ける必要があるため、請求の流れを早めに決めておくと手続きが安定します。

申請に必要な書類から、提出先、支給までの期間、長期療養時の取り扱い、退職後の請求まで順番に確認します。

申請に必要な書類と提出先

休業補償給付の申請に使用する主な書類は、業務災害と通勤災害で異なります。

災害の種類 使用する主な書類
業務災害 休業補償給付支給請求書・複数事業労働者休業給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書(様式第8号)
通勤災害 休業給付支給請求書・複数事業労働者休業給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書(様式第16号の6)

請求書で記載する主な内容

請求書には、労働者本人が記入する欄だけでなく、事業主の証明欄と医療機関の証明欄があります。

本人が記載する主な内容は、氏名、生年月日、住所、振込先口座、事故の発生年月日、傷病名、請求する休業期間などです。

振込先口座は、原則として請求人本人名義の口座を記載します。

事業主は、事故発生状況、平均賃金、休業日、休業期間中に賃金を支払ったかどうかなどを証明します。

賃金計算のため、初回請求時には平均賃金算定内訳などの添付を求められることがあります。

医師は、傷病名、療養期間、療養のため労働できなかったと認められる期間などを証明します。

本人が実際に休んだ期間と、医師が労働不能と認めた期間が一致しない場合、すべての日について支給されるとは限りません。

申請の一般的な流れ

申請の一般的な流れは次のとおりです。

  1. 業務災害または通勤災害の発生を会社へ報告する
  2. 使用する請求書を確認する
  3. 本人が請求書の必要事項を記入する
  4. 会社に事業主証明を依頼する
  5. 医療機関に診療担当者証明を依頼する
  6. 事業場を管轄する労働基準監督署へ提出する

事故が起きたら、まず会社へ速やかに報告してください。

報告が遅れると、事故状況の確認、目撃者の確保、防犯カメラ映像の保存などが難しくなることがあります。

事故発生時には、発生日時、場所、作業内容、使用していた機械や道具、目撃者、負傷した部位を記録しておくとよいでしょう。

可能であれば、現場や負傷状況の写真も残しておきます。

通勤災害では、通常の通勤経路、事故が発生した場所、出発時刻、立ち寄りの有無、交通事故証明書などが重要になります。

自動車事故の場合は、相手方の氏名・連絡先・保険会社なども確認してください。

請求書の提出先

提出先は、原則として被災した労働者が勤務していた事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。

労働者本人の住所地を管轄する監督署とは限らないため、注意してください。

本社と実際の勤務先が異なる場合は、どの事業場の労災保険関係を使うのか確認が必要です。

支店、工場、建設現場などで独立して労災保険が成立している場合には、その事業場を管轄する監督署へ提出します。

建設業では、元請会社の労災保険を使用するケースもあります。

下請会社の従業員が建設現場で被災した場合、勤務先だけでなく、元請会社や現場責任者へも早めに報告してください。

業務災害に使用する書類の具体的な記載項目については、 労災の8号様式の書き方と提出方法 で詳しく解説しています。

医療機関の証明を受けるときの注意

休業補償給付の請求では、医療機関に診療担当者の証明を記載してもらいます。

医療機関によっては、証明書の作成に数日から数週間かかることがあります。

また、証明料が必要になる場合があります。

労災指定医療機関であっても、休業補償給付の請求書に証明を受ける手続きについては、窓口で方法を確認してください。

複数の医療機関へ転院した場合や、入院先と通院先が異なる場合には、それぞれの医療機関が証明できる期間を確認します。

ある医療機関が診療していない期間まで一括して証明することは難しいため、請求期間を分ける必要が生じることもあります。

会社が事業主証明を拒否した場合

会社が労災であることを認めず、事業主証明を拒否することもあります。

しかし、会社の証明が得られないことだけを理由に、労働者が労災保険を請求できなくなるわけではありません。

会社が事業主証明をしてくれない場合でも、請求を諦める必要はありません。

証明を得られない事情を労働基準監督署へ説明し、請求書を提出できる場合があります。

事故発生時の写真、メール、勤怠記録、作業日報、目撃者、受診記録など、業務との関係を説明できる資料を整理しておきましょう。

事業主証明は、会社が労災であることを最終的に認定する手続きではありません。

会社が事故の発生や賃金、休業状況などを証明するものです。

労災に該当するかどうかは、提出された資料をもとに労働基準監督署が判断します。

請求には2年の時効がある

休業補償給付の請求権は、原則として賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年で時効となります。

例えば、2026年7月1日の休業分については、原則として2026年7月2日から時効期間が進みます。

数か月分をまとめて請求することはできますが、長期間放置すると、古い休業日から順番に請求できなくなる可能性があります。

「会社が手続きをしてくれると思っていた」「治療が終わってからまとめて請求しようと思っていた」という理由でも、時効が自動的に止まるとは限りません。

休業が長引く場合は、1か月単位などで定期的に請求することをおすすめします。

請求書の様式は改訂されることがあるため、最新の書類は 厚生労働省「労災保険給付関係主要様式」 から確認してください。

休業補償はいつ振り込まれるか

休業補償はいつ振り込まれるか

休業補償給付がいつ振り込まれるかは、請求書を提出した時期、書類の記載内容、労災認定のための調査が必要かどうかによって変わります。

書類に不備がなく、業務災害または通勤災害であることが明確なケースでは、請求書の提出から支給決定・振込まで、おおむね1か月程度が一つの目安になります。

ただし、これは支給時期を保証するものではありません。

事故の発生状況や業務との因果関係について詳しい調査が必要な場合は、数か月以上かかることもあります。

初回申請に時間がかかりやすい理由

初回申請では、労働基準監督署が事故の業務遂行性や業務起因性、通勤経路、傷病との因果関係、平均賃金などを確認します。

単純な転倒事故や機械による負傷など、事故状況が明確なケースでは比較的スムーズに進むことがあります。

一方、発症までの経緯が長い腰痛、精神障害、脳・心臓疾患、過労との関係が問題になる疾病などは、勤務記録や医療記録を詳しく調査するため時間がかかります。

また、本人と会社で事故状況の説明が異なる場合、目撃者への聴取が必要な場合、第三者行為災害に該当する場合なども、支給決定までの期間が長くなることがあります。

初回の申請は、2回目以降より時間がかかることがあります。

初回は、労災に該当するかどうか、賃金額や給付基礎日額に誤りがないかなどを確認する必要があるためです。

書類の不備で支給が遅れることもある

請求書に記載漏れや誤りがあると、労働基準監督署から本人、会社、医療機関へ照会が行われます。

この確認が終わるまで審査が進まないため、結果的に振込が遅れることがあります。

よくある不備としては、請求期間と医師の証明期間が一致していない、事業主が証明した休業日数と勤怠記録が合わない、振込口座の名義が本人名義でない、平均賃金の計算資料が不足している、通勤経路の記載が不明確といったものがあります。

提出前には、本人、会社、医療機関が記載した日付を見比べてください。

特に、休業期間の開始日と終了日、賃金を受けた日、医師が労働不能と認めた期間の整合性が重要です。

長期休業は1か月単位の請求が一般的

長期休業の場合、数か月分をまとめて請求することもできますが、生活費を確保する観点から、1か月単位で請求するのが一般的です。

例えば、毎月末日までの休業期間について会社と医療機関の証明を受け、翌月に提出する流れにすると、請求漏れを防ぎやすくなります。

ただし、毎回の証明に時間がかかる医療機関もあります。

月末締めで請求書を作成する場合は、翌月の診察日に証明を依頼するのか、医事課へ書類を預けるのかなど、医療機関の運用を確認しておきましょう。

会社側でも、給与計算が確定しないと賃金支払状況を証明できないことがあります。

給与締切日と支払日を踏まえ、毎月何日頃に会社へ書類を依頼するか決めておくとスムーズです。

請求のサイクルを決めておくことが大切です。

本人が医療機関へ証明を依頼する日、会社が賃金支払状況を確認する日、労働基準監督署へ提出する担当者をあらかじめ決めておくと、毎月の振込時期が安定しやすくなります。

支給決定後の振込

支給が決定すると、労働基準監督署から支給決定通知が送付され、指定した本人名義の口座へ振り込まれます。

通知書と入金の順番は、郵便事情や金融機関の処理によって前後することがあります。

振込名義は、一般的な会社名ではなく、国の支払を示す名称で表示されることがあります。

入金額だけではどの期間の給付か分からないこともあるため、支給決定通知は保管してください。

支給額が想定より少ない場合は、待期期間が除かれている、賃金を受けた日が控除されている、医師の証明期間が短い、部分休業として計算されているなどの理由が考えられます。

支給決定通知の対象期間と日数を確認しましょう。

進捗を確認したい場合

申請後の進捗や支給時期を確認したい場合は、請求書を提出した労働基準監督署へ問い合わせます。

問い合わせの際は、提出日、氏名、生年月日、勤務先、事故発生日、傷病名、請求期間などを伝えられるようにしてください。

会社や社会保険労務士が代理で提出している場合は、受付日や控えの有無も確認するとよいでしょう。

ただし、調査中の案件では、具体的な支給日を回答できないことがあります。

生活費が不足する可能性がある場合は、労災給付だけを待つのではなく、会社の貸付制度、自治体の生活相談、社会福祉協議会の制度なども早めに確認することが重要です。

休業補償はいつまで続くのか

労災の休業補償給付には、健康保険の傷病手当金のような「通算1年6か月まで」という一律の支給上限はありません。

療養のため働くことができず、賃金を受けていない状態が続く限り、原則として支給対象となります。

数年間にわたって療養が続く場合でも、支給要件を満たしていれば、休業補償給付が継続する可能性があります。

期間の長さだけで打ち切られる制度ではない

「事故から1年6か月たつと休業補償が終わる」と誤解されることがありますが、1年6か月の経過だけで一律に終了するわけではありません。

療養開始から1年6か月を経過した時点で傷病が治っておらず、傷病等級第1級から第3級に該当する場合は、休業補償給付から傷病補償年金へ切り替わります。

一方、傷病等級第1級から第3級には該当しないものの、療養のため働けず、賃金を受けていない状態が続いている場合は、休業補償給付が継続する可能性があります。

つまり、1年6か月は単純な支給期限ではなく、傷病の状態を確認し、年金へ切り替えるかどうかを判断する節目と考えると分かりやすいでしょう。

支給が継続する基本条件

休業補償給付が継続するためには、最初の申請時と同じく、労災傷病の療養中であること、療養のため労働できないこと、賃金を受けていないことが必要です。

医師から就労可能と判断された後も本人の判断だけで休み続けている場合や、労災傷病とは別の理由で欠勤している場合には、支給対象にならない可能性があります。

また、会社が通常の賃金を支払うようになった場合は、賃金を受けていないという要件を満たさなくなります。

会社独自の休業補償や所得補償保険から金銭を受け取った場合は、その性質によって労災給付との調整の有無が異なります。

状態 主な取り扱い
療養中で働けず、賃金を受けていない 休業補償給付が継続する可能性
療養開始から1年6か月経過し、傷病等級1級から3級に該当 傷病補償年金等へ切り替え
回復して就労可能になった 休業補償給付が終了
症状固定となった 療養・休業給付が終了し、障害給付を検討

復職したら必ず終了するとは限らない

フルタイムで元の業務へ復帰し、通常どおりの賃金を受けるようになれば、基本的に休業補償給付は終了します。

しかし、短時間勤務や軽作業で段階的に復職する場合には、賃金の減少分について部分休業として給付対象になる可能性があります。

医師の就業上の意見、勤務時間、実際に支払われた賃金を確認して判断します。

例えば、1日8時間勤務の方が治療のため1日4時間勤務となり、賃金も半分程度になった場合、一定の要件を満たせば差額をもとに休業補償給付が支給されることがあります。

一方、本人と会社の合意により勤務時間を短くしたものの、医師はフルタイム勤務が可能と判断している場合には、療養のため労働できないという要件が認められない可能性があります。

復職後に再び休業した場合

一度復職した後に、同じ労災傷病が悪化して再び働けなくなる場合もあります。

この場合、療養の必要性や再休業と労災傷病との関係が認められれば、再び休業補償給付の対象となる可能性があります。

例えば、腰の負傷で一度復職したものの、業務を再開した後に症状が悪化し、医師から再び休業を指示されたケースです。

以前の労災傷病との因果関係が確認できれば、再休業分を請求できることがあります。

ただし、別の私傷病や個人的な事情による欠勤は、労災の休業補償給付の対象にはなりません。

再休業の診断書、診療記録、復職後の仕事内容、症状が悪化した経緯などを整理することが重要です。

会社から休職期間満了や退職を求められたとしても、それだけで労災保険給付が終了するわけではありません。

雇用契約上の取り扱いと、労災保険の支給要件は分けて考える必要があります。

打ち切りと傷病年金への切り替え

休業補償給付が終了する代表的なケースは、けがや病気が治癒したとき、働ける状態まで回復したとき、または症状固定となったときです。

労災保険における治癒には、けがや病気が完全に治った場合だけでなく、 症状固定 も含まれます。

症状固定とはどのような状態か

症状固定とは、治療を続けてもこれ以上大きな改善が期待できず、症状が安定した状態をいいます。

痛みやしびれ、関節の可動域制限などが残っていても、医学的に治療効果が期待できない段階になれば、症状固定と判断されることがあります。

例えば、骨折後に骨は癒合したものの、関節の動きに一定の制限が残り、リハビリを続けても改善が見込めない場合です。

この場合、症状が残っていても、労災保険上は治癒として療養補償給付が終了する可能性があります。

症状固定は、「症状がすべてなくなった」という意味ではありません。

症状が残っていても、治療による改善が期待できない段階に達すれば、療養補償給付と休業補償給付は原則として終了します。

症状固定の時期は、本人や会社が一方的に決めるものではありません。

主治医の医学的意見、治療内容、症状の経過などを踏まえて判断されます。

会社から「治療期間が長いので症状固定にしてほしい」と言われたとしても、治療の必要性が残っているかどうかは医学的な判断です。

本人としては、現在の治療内容、今後期待できる効果、症状固定後の見通しを主治医へ確認した方がよいでしょう。

症状固定後は障害給付を検討する

症状固定後に一定の障害が残った場合は、障害の程度に応じて障害補償年金、障害年金、障害補償一時金または障害一時金を請求できる可能性があります。

業務災害では障害補償給付、通勤災害では障害給付と呼びます。

障害等級は第1級から第14級まであり、第1級から第7級は年金、第8級から第14級は一時金が基本です。

後遺症が残っていても、自動的に障害給付が支給されるわけではありません。

所定の請求書を提出し、医師の診断書や検査結果をもとに障害等級の認定を受ける必要があります。

症状固定後は休業補償給付が終了するため、障害給付の請求まで時間が空くと、収入面で不安が生じることがあります。

症状固定が近いと説明された段階で、障害給付の対象になる可能性や必要書類を確認しておくことが重要です。

傷病補償年金への切り替え

療養開始から1年6か月を経過しても治癒しておらず、傷病の程度が傷病等級第1級から第3級に該当する場合は、休業補償給付に代わって傷病補償年金が支給されます。

通勤災害の場合は傷病年金です。

傷病補償年金への切り替えは、通常の休業補償給付のように労働者が毎月請求して決定される仕組みではありません。

療養開始から1年6か月を経過した後、労働基準監督署が傷病の状態を確認し、要件に該当すれば職権で支給決定します。

傷病等級第1級から第3級は、常時または随時の介護が必要となるような重い状態などが対象です。

療養が1年6か月を超えた方が全員、傷病補償年金へ切り替わるわけではありません。

傷病等級第1級から第3級に該当しない場合でも、療養のため働けず、賃金を受けていない状態が続いていれば、休業補償給付が継続する可能性があります。

1年6か月経過後に必要となる届出

療養開始から1年6か月を経過しても治っていない場合は、傷病の状態等に関する届など、労働基準監督署から求められる書類を提出します。

この届出は、傷病補償年金の支給要件に該当するかを確認するためのものです。

主治医に傷病の状態を証明してもらう必要があるため、書類が届いたら早めに医療機関へ依頼してください。

期限までに提出しないと確認が遅れる可能性があります。

住所変更や転院をしている場合、労働基準監督署からの書類が届かないこともあるため、連絡先が変わったときは提出先の監督署へ連絡しておきましょう。

会社が独自に打ち切ることはできない

会社から「長期間休んでいるので労災は打ち切りになる」「退職日で労災も終わる」と言われるケースがあります。

しかし、会社が労災保険給付の終了を最終決定するわけではありません。

休業補償給付が継続するかどうかは、医師の意見、療養状況、就労能力、賃金の支払い状況などをもとに労働基準監督署が判断します。

一方で、会社の休職制度や雇用契約がいつまで続くかは、就業規則や労働契約上の別の問題です。

労災給付が続いていても、雇用関係について別途検討が必要となる場合があります。

労災による療養中の解雇には法律上の制限がありますが、すべてのケースで永久に解雇できないという意味ではありません。

打切補償、傷病補償年金、事業継続の状況などにより判断が変わるため、最終的な判断は専門家にご相談ください。

退職後や副業中でも受給できるか

退職後や副業中でも受給できるか

労災の休業補償給付は、退職したことだけを理由に終了するものではありません。

退職後も、労災によるけがや病気を療養しており、そのため働くことができず、賃金を受けていないという要件を満たしていれば、引き続き休業補償給付を受けられる可能性があります。

労災保険の受給権は、退職によって変更されません。

会社を辞めた後でも、治療費に関する療養補償給付や休業補償給付を継続して請求できます。

自己都合退職でも会社都合退職でも継続できる

退職理由が自己都合であるか、会社都合であるかによって、休業補償給付の受給権が直ちに変わるわけではありません。

本人が療養に専念するため退職した場合、会社の休職期間満了によって退職した場合、会社が廃業した場合などでも、支給要件を満たす限り給付が継続する可能性があります。

ただし、退職後に症状が回復し、働ける状態になった場合は、実際に就職していなくても、療養のため労働できないという要件を満たさなくなる可能性があります。

「仕事が見つからないこと」と「労災傷病により働けないこと」は別の問題です。

退職後も定期的な請求が必要

退職後も、一度の請求だけで自動的に給付が続くわけではありません。

長期休業の場合は、在職中と同様に、一定期間ごとに請求書を提出します。

退職後の請求では、退職前までの賃金や休業状況について会社の証明が必要になる場合があります。

退職時に会社との関係が悪化していると、証明の依頼に時間がかかることもあるため、可能であれば在職中に今後の申請方法を確認しておくと安心です。

具体的には、退職後の請求書を誰へ送るのか、会社側の担当者は誰か、返送までどれくらいかかるか、医療機関と会社のどちらへ先に証明を依頼するかを決めておくとよいでしょう。

退職前に、過去の請求書の控え、支給決定通知、給与明細、雇用契約書、就業規則、会社担当者の連絡先を保管しておくと、退職後の申請が進めやすくなります。

会社がなくなった場合や証明を拒否した場合

会社が倒産・廃業して事業主証明を受けられない場合でも、労災の請求権が当然になくなるわけではありません。

また、退職をめぐって会社と紛争になり、会社が証明を拒否することもあります。

その場合は、証明を得られない理由を労働基準監督署へ説明してください。

賃金台帳の代わりとなる給与明細、源泉徴収票、銀行口座への給与振込記録、雇用契約書、勤怠記録などを提出し、賃金額や休業状況を確認してもらうことがあります。

会社の証明がないからといって、本人が事実と異なる内容を記入したり、空欄のまま長期間放置したりするのは避けましょう。

まずは管轄の労働基準監督署へ事情を説明することが大切です。

退職後に別の会社で働いた場合

退職後に別の会社へ就職し、通常どおり働いて賃金を受けるようになった場合は、その就労状況に応じて休業補償給付が調整または不支給になることがあります。

一方、短時間だけ働いた場合や、労災傷病のため一部の業務しかできない場合には、部分休業として給付対象になる可能性があります。

新しい勤務先で働き始めたことを隠して休業補償給付を請求すると、過払い分の返還や不正受給の問題につながります。

勤務日、労働時間、賃金額を正確に申告してください。

自営業を始めた場合も同様です。

給与がないから当然に休業状態であるとは限りません。

実際に事業活動を行い、労働能力を使って収入を得ている場合には、休業の実態について確認される可能性があります。

副業・兼業者は賃金を合算する場合がある

副業や兼業をしている方については、2020年9月1日以降に発生した一定の労災事故について、複数の勤務先の賃金を合算して給付基礎日額を算定する仕組みが導入されています。

例えば、本業で月25万円、副業で月5万円の賃金を受けている方が、本業中に労災事故に遭った場合、一定の要件を満たせば、本業だけでなく副業先の賃金も合算して給付額が計算されます。

従来は災害が発生した勤務先の賃金だけで計算されていたため、副業・兼業者の実際の収入減少を十分に補えないことがありました。

現在は複数の勤務先で受けている賃金を合算することにより、より実態に近い給付額となる仕組みです。

副業先の存在を申告しないと、賃金合算の確認が進まない可能性があります。

複数の勤務先で働いている場合は、休業補償給付の請求時に、すべての勤務先、賃金額、勤務日数、労働時間を正確に伝えてください。

一方の会社では働ける場合

複数の勤務先で仕事の内容が異なる場合、一方の会社では働けないものの、もう一方の会社では働けることがあります。

例えば、本業が重量物を扱う仕事、副業が在宅で行う事務作業である場合、腰を負傷して本業を休んでいても、副業の事務作業は続けられる可能性があります。

この場合、副業先で賃金を受けているから直ちに休業補償給付がすべて不支給になるとは限りません。

各勤務先での就労状況や賃金額をもとに、支給対象と給付額が判断されます。

反対に、医師から全面的な安静を指示されているにもかかわらず、別の勤務先で通常どおり働いている場合には、労働不能の説明と矛盾する可能性があります。

主治医へすべての仕事内容を伝え、就業可能な範囲を確認することが重要です。

複数の仕事の負荷を合算する制度

複数の仕事の負荷を総合して、脳・心臓疾患や精神障害などの業務上認定を判断する仕組みもあります。

単独の勤務先だけでは長時間労働や心理的負荷の認定基準に達しない場合でも、複数の勤務先における労働時間や負荷を総合評価して労災と認められることがあります。

副業先を会社に伝えていない場合でも、労災申請ではすべての勤務先を申告する必要があります。

タイムカード、シフト表、給与明細、業務メールなど、各勤務先での労働状況を確認できる資料を保管してください。

労災の休業補償で困らないために

労災の休業補償は、業務中または通勤中のけが・病気によって働けず、賃金を受けられない期間の生活を支える重要な制度です。

支給要件を満たす場合、休業4日目以降について、原則として給付基礎日額の60%の休業補償給付と、20%の休業特別支給金を合わせた80%相当が支給されます。

ただし、最初の3日間は待期期間となります。

業務災害では会社に平均賃金の60%を補償する義務がありますが、通勤災害では会社に法律上の支払義務がないという違いがあります。

申請には、業務災害では様式第8号、通勤災害では様式第16号の6を使用します。

長期休業の場合は、1か月単位などで継続して請求するのが一般的です。

  • 労災保険からの支給は原則として休業4日目から
  • 支給額は給付基礎日額の80%相当
  • 休業補償給付に一律の支給期間上限はない
  • 退職後も要件を満たせば受給を継続できる
  • 副業中の方は複数の勤務先の賃金を合算できる場合がある

事故直後に記録を残す

労災の休業補償で困らないために、事故が起きた直後から記録を残してください。

事故の日時、場所、作業内容、周囲の状況、目撃者、負傷した部位、会社へ報告した日時、最初に受診した医療機関などを整理します。

業務指示がメールやチャットで行われていた場合は、その履歴も保存しておきましょう。

通勤災害では、通常の通勤経路、事故現場、利用した交通手段、寄り道の有無が重要です。

地図上に経路を示し、交通事故の場合は警察へ届出を行って交通事故証明書を取得できるようにしておきます。

事故から時間がたつほど、本人や目撃者の記憶は曖昧になります。

会社が労災申請に協力的であっても、後から労働基準監督署に詳しい説明を求められることがあるため、記録は早いほど役立ちます。

医師へ仕事内容を具体的に伝える

休業補償給付では、療養のため労働できないことが要件です。

そのため、主治医には職種名だけでなく、実際の仕事内容を具体的に伝える必要があります。

例えば、「建設業です」と伝えるだけでは、現場作業なのか、重機運転なのか、施工管理なのか、事務作業なのか分かりません。

重量物の重さ、立ち作業の時間、高所作業の有無、車の運転時間などを伝えることで、医師も就労可能性を判断しやすくなります。

軽作業や短時間勤務で復職を検討するときも、会社が用意できる業務内容を医師へ示してください。

「軽作業なら可能」という意見だけでは、会社と本人で軽作業のイメージが異なり、復職後の再発につながることがあります。

休業日と賃金支払いを毎月確認する

実務では、待期期間の日数、有給休暇を使用した日、会社から一部賃金が支払われた日、所定休日、復職後の再休業などによって判断が分かれることがあります。

そのため、休業が長期化する場合は、毎月の勤怠記録と給与明細を確認してください。

本人が休業したと考えていても、会社側では有給休暇、特別休暇、欠勤、休職など別の区分で処理していることがあります。

特に月給制の場合、欠勤控除が翌月に行われる会社もあります。

請求期間中に賃金を受けたかどうかを確認するときは、給与の支払日だけでなく、どの勤務期間に対応する賃金なのかを見る必要があります。

毎月保管しておきたい資料

  • 給与明細
  • 勤怠記録や出勤簿
  • 医師の診断書や就労に関する意見書
  • 休業補償給付請求書の控え
  • 支給決定通知
  • 会社や医療機関との連絡記録

月給の80%と考えない

給付基礎日額の計算には、事故前の賃金台帳、給与明細、賃金締切日、各種手当などの確認が必要です。

単純に月給の80%が支給されると考えると、実際の金額との間に差が生じることがあります。

残業代が多かった方は、基本給だけで試算するより給付基礎日額が高くなる可能性があります。

一方、賞与は原則として通常の平均賃金計算に含まれないため、年収の80%が補償されるわけではありません。

また、休業補償給付は非課税ですが、休業中の社会保険料や前年所得に対する住民税などの支払いが残ることがあります。

毎月の給付見込額だけでなく、休業中に支払う固定費も確認しておきましょう。

会社任せにせず請求状況を確認する

会社が請求書を作成して提出してくれる場合でも、最終的な請求人は労働者本人です。

どの期間を請求したのか、いつ提出したのか、次回はいつ請求するのかを本人も把握してください。

会社側で書類が止まっていた、医療機関へ証明を依頼していなかった、振込口座に誤りがあったといった理由で支給が遅れることがあります。

請求書を会社へ渡すときは、コピーや写真を残しておきましょう。

会社や社会保険労務士が提出した場合は、提出日を確認し、支給決定通知も保管してください。

判断に迷う場合は早めに相談する

労災の休業補償は、制度の基本だけを見ると、4日目から給付基礎日額の80%相当が支給される比較的分かりやすい仕組みに見えます。

しかし、実際には、事故が業務災害に該当するか、医師がどの期間を労働不能と証明するか、会社が賃金をどのように処理したか、所定休日を含めるか、部分復職をどう扱うかなど、個別に整理すべき事項が多くあります。

特に、会社が労災申請に協力しない場合、長期療養で症状固定が問題になっている場合、退職を求められている場合、精神障害や脳・心臓疾患を申請する場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

正確な情報は公式サイトをご確認ください。

制度や様式、給付額の取り扱いは改正される可能性があります。

最新の情報は厚生労働省、都道府県労働局、管轄の労働基準監督署で確認してください。

個別の事故が業務災害に該当するか、休業日をどのように整理するか、会社から支払われた賃金との調整をどうするかによって、申請内容は変わります。

最終的な判断は専門家にご相談ください。

社会保険労務士、弁護士、医療機関、管轄の労働基準監督署など、それぞれの専門分野を踏まえて確認することが大切です。

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