こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
結論からお伝えすると、パートやアルバイトとして働いている方も、原則として労災保険の対象になります。
正社員より勤務時間が短い、週に数日しか働いていない、雇用保険には加入していないといった理由だけで、労災保険が使えなくなるわけではありません。
仕事中に転倒してケガをした、商品の運搬中に腰を痛めた、調理作業中にやけどをしたといった業務中の事故だけでなく、一定の要件を満たす通勤途中の事故についても労災保険の対象になる可能性があります。
また、「会社からパートは労災に入っていないと言われた」「会社が労災として処理してくれない」という場合でも、それだけで労働者の権利がなくなるわけではありません。
労災保険の適用や認定は、会社が自由に決められるものではないためです。
一方、パートの労災では、休業した場合にいくら補償されるのか、勤務日数が少ない場合の平均賃金をどう計算するのか、複数の会社を掛け持ちしている場合はどう扱われるのかなど、正社員とは違った点で疑問が生じやすくなります。
実際の相談でも、「週20時間働いていないから対象外だと思っていた」「給与明細から労災保険料が引かれていないので未加入だと思っていた」というケースがあります。
このあたりは雇用保険や社会保険と混同しやすいところです。
この記事では、パートの労災について、対象となる条件から休業補償、掛け持ち勤務、通勤災害、会社が手続きをしてくれない場合の対応まで、初めて制度を確認する方にも分かるよう実務目線で詳しく解説します。
- パートやアルバイトが労災保険の対象になる条件
- 雇用保険と労災保険の加入条件の違い
- 休業補償や掛け持ち勤務の給付額の考え方
- 会社が労災手続きに協力しない場合の対応

パートの労災は誰が対象になる?
まず押さえておきたいのは、労災保険では「正社員かパートか」という雇用形態の名称そのものは、基本的な適用判断の基準ではないということです。
健康保険・厚生年金や雇用保険では、所定労働時間や勤務先の規模など一定の加入要件が設けられています。
そのため、「短時間勤務だから労災にも入っていないのでは」と考えてしまう方は少なくありません。
しかし、労災保険は考え方が大きく異なります。
会社に雇用され、賃金を受け取って働く労働者であれば、勤務時間が短いパートやアルバイトでも原則として対象になります。
ここでは、パートが労災保険の対象となる基本原則から、勤務時間、雇用保険との違い、保険料、会社が加入手続きをしていなかった場合まで順番に確認していきます。
パートでも労災保険は適用される
パートやアルバイトであっても、会社に雇用されて賃金を受け取って働いている労働者であれば、原則として労災保険の対象です。
労災保険は、仕事を原因とするケガや病気、障害、死亡などの「業務災害」と、一定の要件を満たす通勤途中の事故などの「通勤災害」について、必要な保険給付を行う制度です。
ここで重要なのは、正社員、契約社員、パート、アルバイト、日雇いといった社内での呼び方によって対象者を分けているわけではないということです。
労働基準法上の労働者に該当するかどうかが基本になります。
たとえば、会社から勤務時間や仕事内容について指示を受け、その仕事の対価として時給や日給を受け取っている一般的なパート従業員であれば、通常は労災保険の対象となる労働者として扱われます。
パートだから労災を使えない、ということではありません。
重要なのは雇用契約上の名称ではなく、会社に使用され、その対価として賃金を受け取って働いている労働者であるかどうかです。
勤務初日の事故でも対象になり得る
労災保険には、「入社して何か月以上働かなければ使えない」という待機期間のような加入条件もありません。
たとえば、パートとして採用され、勤務初日に職場で転倒して負傷した場合でも、仕事との関係が認められれば労災保険給付の対象になる可能性があります。
「まだ保険の手続きが終わっていないから使えない」という仕組みではない点も知っておきたいところです。
また、週2日しか勤務していないパートが勤務中に階段で転倒した場合や、飲食店のアルバイトが調理中に熱湯でやけどをした場合、スーパーの品出し中に重量物を持ち上げて負傷した場合なども、雇用形態だけを理由として対象外になるものではありません。
仕事中なら必ず労災になるわけではない
一方で、「職場で発生したケガならすべて自動的に労災になる」という意味ではありません。
実際の認定では、労働者が会社の支配・管理下にあったか、仕事や職場の設備などが原因となってケガや病気が発生したのかといった事情が確認されます。
たとえば、勤務時間中でも私的な行為だけを原因としてケガをした場合などは、業務災害として認められないことがあります。
逆に、休憩時間中の事故でも施設管理上の問題が関係しているなど、具体的な事情によって判断が変わります。
つまり、 「パートか正社員か」と「その事故が労災として認められるか」は別の問題 として整理する必要があります。
労災の基本的な認定の考え方について詳しく確認したい場合は、 労災とは?
認定基準・給付内容・申請の流れも参考にしてください。
(出典:厚生労働省「パート、アルバイトなどの非正規雇用でも、労災保険給付を受け取ることができるのでしょうか」)
労災保険に勤務時間の条件はない

パートの方から特によく聞かれるのが、「週20時間未満なので労災には入っていませんよね」という質問です。
結論として、 労災保険には「週20時間以上働いていること」という加入条件はありません。
この週20時間という数字は、雇用保険や短時間労働者の社会保険について目にする機会が多いため、労災保険にも同じ基準があると思われやすいのですが、制度としては別のものです。
1日数時間、週1日や週2日の勤務であっても、労働者として雇用されていれば原則として労災保険の対象になります。
たとえば、「土曜日だけ勤務している」「繁忙期だけ短期間働いている」「1日3時間だけ清掃の仕事をしている」という場合でも、労働時間が短いことだけを理由として労災保険から外れるわけではありません。
「1日4時間、週2日勤務だから労災保険には加入していない」という考え方は適切ではありません。
労災保険、雇用保険、健康保険・厚生年金では、それぞれ適用の考え方が異なります。
労災保険は一人ずつ加入手続きをする仕組みではない
もう一つ理解しておきたいのが、労災保険では健康保険や雇用保険のように、「この従業員について資格取得届を提出して個別に加入させる」という考え方を基本としていないことです。
原則として、労働者を一人でも使用する事業について労災保険の保険関係が成立し、その事業で働く労働者が補償対象になります。
そのため、入社時に「労災保険に加入しました」という通知を受け取っていなかったとしても、それだけで未加入と判断することはできません。
健康保険であれば資格情報を確認する仕組みがありますし、雇用保険には被保険者番号があります。
一方、一般的なパート従業員に「あなたの労災保険証」が交付される仕組みではありません。
学生アルバイトでも基本的な考え方は同じ
学生アルバイトも同じです。
学生の場合、雇用保険では原則として適用除外となるケースがありますが、労災保険については「学生だから対象外」という扱いにはなりません。
たとえば高校生や大学生が飲食店でアルバイト中にやけどをしたり、小売店で作業中に転倒したりした場合でも、業務災害に該当すれば労災保険給付を受けられる可能性があります。
実務では、この「雇用保険には入っていないけれど、労災保険は対象」という状態が普通にあります。
制度ごとに判定することが大切です。
労災保険で確認するポイントは、何時間働いているかよりも、まず労働者として雇用されているかどうかです。
短時間勤務であることを理由に、仕事中のケガについて労災申請を諦める必要はありません。
雇用保険と労災保険の違い
パートの労災を理解するうえで、雇用保険との違いを整理しておくと非常に分かりやすくなります。
2026年8月時点では、一般的な雇用保険の被保険者となるためには、原則として1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上引き続き雇用されることが見込まれることなどが基本的な要件になります。
一方、労災保険には、このような週20時間という勤務時間の基準はありません。
| 項目 | 労災保険 | 雇用保険 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 業務災害・通勤災害への補償 | 失業・育児休業・介護休業などへの給付 |
| パートの時間要件 | 原則として勤務時間による除外なし | 原則週20時間以上 |
| 雇用見込み | 短期間でも労働者であれば原則対象 | 原則31日以上の雇用見込み |
| 学生アルバイト | 原則対象 | 原則として適用除外となる場合あり |
| 労働者の保険料負担 | なし | あり |
「雇用保険に入っていない=労災も使えない」という関係ではありません。
たとえば、週15時間勤務のパートであれば、一般的には雇用保険の週20時間要件を満たさないことがあります。
しかし、その人が勤務中に業務を原因としてケガをすれば、労災保険の対象になる可能性があります。
両保険の加入条件や保険料負担の違いをさらに詳しく知りたい場合は、 労災保険と雇用保険の違い|加入条件と保険料を実務で確認 でも整理しています。
同じ「保険」でも目的がまったく違う
そもそも、雇用保険と労災保険では制度の目的が違います。
雇用保険は、失業した場合の基本手当をはじめ、育児休業給付や介護休業給付など、雇用の継続や生活の安定を支える役割を持つ制度です。
これに対して労災保険は、仕事または通勤を原因として負傷したり病気になったりした労働者に対し、治療、休業、障害、死亡などに応じた補償を行う制度です。
目的が違うため、対象となる条件も違うわけです。
社会保険とも別に考える必要がある
さらに混同しやすいのが、健康保険・厚生年金です。
パートの社会保険については、通常の労働者の4分の3以上働く場合の基準や、一定の勤務先で働く短時間労働者に関する加入要件などがあります。
そのため一人のパート従業員について、たとえば「労災保険は対象、雇用保険は対象外、健康保険・厚生年金も対象外」という状態もあり得ます。
反対に、勤務時間が長くなれば、労災保険に加えて雇用保険や健康保険・厚生年金にも加入することがあります。
採用時の労務管理では、この制度ごとの切り分けがとても重要です。
私もパートの入社手続きを確認するときは、労災・雇用保険・社会保険を一つの基準で判断しないよう整理します。
「パートは保険に入る・入らない」と一括りに考えないことがポイントです。
労災保険、雇用保険、健康保険・厚生年金は、それぞれ別々に適用を確認します。
パートの雇用保険と労災保険の関係をさらに詳しく確認したい方は、 雇用保険と労災保険のみのパートを社労士が実務で解説 も参考にしてください。
労災保険料は会社が全額負担する

労災保険についてもう一つ誤解されやすいのが、保険料です。
労災保険料は原則として全額を事業主が負担します。
パートやアルバイト本人の給与から労災保険料を控除する仕組みではありません。
そのため、毎月の給与明細を確認しても「労災保険料」という控除項目が表示されていないのが通常です。
ここから「自分は労災保険料を払っていないから、労災保険には入っていないのでは」と不安になる方がいますが、これは制度の仕組み上当然のことです。
給与から労災保険料が引かれていなくても問題ありません。
労災保険料は原則として事業主が全額負担するため、パート本人の給与明細に控除項目がないのが通常です。
会社は賃金総額を基礎に保険料を納める
一般的な労災保険料は、その事業で労働者に支払う賃金総額に、事業の種類ごとに定められた労災保険率を掛けることによって計算します。
業種によって労災事故の発生リスクが異なるため、労災保険率も一律ではありません。
たとえば危険を伴う作業が多い業種と、比較的事故リスクの低い業種では保険率が異なります。
ここでのポイントは、パート本人が自分の保険料を個別に会社へ支払う制度ではないということです。
雇用保険では労働者負担分がありますし、健康保険・厚生年金も原則として会社と労働者の双方が保険料を負担します。
そのため、給与明細では雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料が控除されている場合があります。
労災保険だけ控除されていないため、かえって「加入していないのかな」と感じるわけですが、むしろ労災保険についてはその状態が通常です。
会社が本人から労災保険料を取るものではない
労災保険料は事業主負担ですので、会社が「あなたの労災保険料」として通常の給与から本人負担分を控除する制度ではありません。
給与明細に見慣れない「労災保険料」という控除がある場合は、何の名目で控除しているのか会社へ確認したほうがよいでしょう。
ただし、給与控除の適法性については、その名称だけでは判断できません。
別の会社制度に基づく保険料等を指している可能性もあるため、実際の明細や規程を確認する必要があります。
労災保険料を自分で払っていないことは、労災保険を使えない理由にはなりません。
「保険料を払っていないから申請できない」と会社から説明された場合は、制度が混同されていないか確認してみましょう。
なお、労災保険率や年度ごとの取扱いは改定されることがあります。
会社側が具体的な保険料を確認する場合には、その年度の厚生労働省の労働保険料率表など最新の公式資料を確認することが重要です。
未加入の会社でも労災は請求できる
「会社から、うちは労災に入っていないと言われました」という相談もあります。
この場合、まず押さえておきたいのは、 本来労災保険の適用事業であるにもかかわらず、会社が保険関係の成立手続きを行っていなかったとしても、それだけを理由として被災したパート従業員が労災保険給付を受けられなくなるわけではない ということです。
労災保険は、原則として労働者を一人でも使用する事業に適用される制度です。
そのため、会社が「加入するかどうか」を自由に選べる民間保険とは性質が違います。
「会社が労災保険の手続きをしていないから、あなたは労災を使えません」という説明を、そのまま受け入れる必要はありません。
業務または通勤を原因とする事故であれば、会社の加入手続きの状況とは別に労災保険給付を請求できる可能性があります。
会社の手続き漏れと労働者の補償は分けて考える
会社が本来行うべき労災保険の成立手続きをしていなかった場合、その問題は基本的には事業主側の問題として処理されます。
未手続きだった期間について労働保険料が遡って徴収されたり、追徴金が発生したりすることがあります。
また、未手続き期間中に労災事故が発生し、一定の要件に該当する場合には、国が給付した金額の一部または全部について事業主から費用徴収が行われることがあります。
しかし、こうした事業主への措置と、負傷した労働者に必要な給付を行うかどうかは分けて考えられています。
「会社がミスをしたため、パート本人も補償を一切受けられない」という仕組みではありません。
会社が「労災ではない」と言っている場合も同じ
もう一つよくあるのが、「会社は労災には入っているけれど、この事故は労災ではないと言われた」というケースです。
この場合も、会社の見解だけで最終決定されるわけではありません。
会社には事故の状況について事実確認を行う役割がありますし、会社として「業務とは関係がないのではないか」という意見を持つことはあります。
しかし、労災保険給付を支給するかどうかを最終的に判断するのは、会社ではありません。
労働者から請求を受けた労働基準監督署が必要な調査を行い、支給・不支給を判断します。
会社の「未加入」と会社の「労災ではない」という判断は、どちらも労働者が請求できないことを意味しません。
会社の説明に疑問がある場合には、雇用契約書、給与明細、事故発生時の状況が分かる資料、会社とのメールやチャット、目撃者の情報、医療機関の診療内容などを整理しておくとよいでしょう。
実際に手続きを進めるか迷う場合は、管轄する労働基準監督署へ事故の経緯を説明して相談する方法があります。
パートの労災で受けられる補償と手続き
パートであっても、労災として認められれば正社員と同じ労災保険制度に基づいて必要な給付を受けることができます。
ただし、「正社員と同じ給付」というのは、同じ種類の制度を利用できるという意味です。
休業補償などの具体的な金額は被災前の賃金を基礎に計算されるため、誰でも同じ金額を受け取れるわけではありません。
特にパートでは、勤務日数が少ないことによる平均賃金の最低保障や、複数の勤務先を掛け持ちしている場合の賃金の扱いが重要になります。
ここからは、治療費、休業補償、掛け持ち勤務、通勤災害、会社が手続きをしてくれない場合の対応まで、実際に労災事故が起きたときに知っておきたい内容を具体的に確認します。
労災で受けられる主な給付
仕事や通勤を原因としてケガや病気をした場合、労災保険にはその状況に応じて複数の給付が用意されています。
「労災=治療費だけ」というイメージを持つ方もいますが、実際には治療、休業、障害、死亡、介護など、その後の生活まで含めて幅広い給付があります。
| 主な給付 | 主な内容 | 具体的な場面 |
|---|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 労災による傷病の治療 | 病院で診察・治療を受ける場合 |
| 休業(補償)等給付 | 休業中の所得補償 | 療養のため仕事を休み、賃金を受けられない場合 |
| 障害(補償)等給付 | 障害が残った場合の年金・一時金 | 治療後も一定の後遺障害が残った場合 |
| 遺族(補償)等給付 | 遺族に対する年金・一時金 | 労災によって労働者が死亡した場合 |
| 葬祭料等 | 葬祭に関する給付 | 労災による死亡後に葬祭を行う場合 |
| 介護(補償)等給付 | 一定の介護費用への給付 | 重い障害により介護を受けている場合 |
治療については自己負担がない仕組みが基本
業務災害で労災保険指定医療機関を受診し、所定の手続きを行う場合には、必要な療養を原則として窓口で治療費を負担せずに受けることができます。
つまり、通常の健康保険のように窓口で3割を負担するという仕組みではありません。
一方、労災指定医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合には、いったん治療費を支払い、その後に療養の費用を請求する形になることがあります。
受診時には、仕事中または通勤途中の事故であることを医療機関へ伝えることが重要です。
仕事が原因のケガについて、最初から健康保険を使って処理するのが正しいとは限りません。
業務災害や通勤災害に該当する可能性がある場合は、医療機関と勤務先に事故の状況を正確に伝えてください。
治療が終わった後にも給付が続く場合がある
労災によるケガが重く、治療しても一定の障害が残った場合には、障害の程度に応じて障害(補償)等給付の対象となる可能性があります。
また、労災事故によって労働者が死亡した場合には、一定の遺族に対する遺族(補償)等給付や葬祭料等が用意されています。
パートだからこれらの給付が利用できないということではありません。
ただし、各給付にはそれぞれ支給要件や請求書類があります。
ケガをした時点では治療だけの問題に見えていても、長期療養や障害が残るケースでは別の給付が関係してくることがあります。
実務では、事故直後の5号様式などだけを考えて、その後の休業補償や障害給付の確認が抜けるケースもあります。
長期化した場合ほど、どの給付が利用できるのかを整理していくことが大切です。
パートの休業補償はいくらになる?

労災によるケガや病気の療養のため働くことができず、賃金を受けていない場合には、一定の要件を満たすことで休業(補償)等給付を受けることができます。
原則として休業4日目から、1日につき 給付基礎日額の60%に相当する休業(補償)等給付と、20%に相当する休業特別支給金を合わせた80%相当 が支給されます。
ただし、ここで注意したいのは「普段もらっている日給の80%」「毎月の給料の80%」と単純に計算するわけではないということです。
まず給付基礎日額を計算する
休業補償を計算するときは、まず「給付基礎日額」を確認します。
給付基礎日額は、原則として労働基準法上の平均賃金に相当する額です。
一般的には事故が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金を基礎として計算します。
賃金締切日が定められている場合には、その直前の賃金締切日から遡って計算するなど細かなルールがあります。
また、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金など、通常の平均賃金の算定に含まれないものもあります。
休業補償の「80%」は、単純に普段の日給へ80%を掛ける計算とは限りません。
まず給付基礎日額を算定し、その金額を基礎として給付額を計算します。
パートでは平均賃金の最低保障が重要
ここがパートの労災で特に重要なポイントです。
時給制や日給制のパートは、1か月の勤務日数が正社員より少ないことがあります。
仮に月10日しか勤務していない人について、3か月間に受け取った賃金をその3か月間の暦日数で単純に割ると、実際に働いた日の賃金よりかなり低い平均賃金になる可能性があります。
そこで労働基準法上、日給制・時給制などの労働者については平均賃金に最低保障の仕組みがあります。
一般的には、算定期間中の対象となる賃金を実労働日数で割り、その60%に相当する額などを確認し、通常の平均賃金計算との比較を行います。
勤務日数の少ないパートほど、この最低保障額を確認する意味が大きくなります。
パートの休業補償が「思ったより極端に低い」と感じた場合は、平均賃金の最低保障が適切に確認されているかを見ることも実務上のポイントです。
最初の3日間は待期期間
労災保険の休業(補償)等給付は、休業初日から支給されるわけではありません。
最初の3日間は待期期間となり、労災保険からの休業給付は原則として4日目から支給されます。
業務災害の場合には、この待期期間について事業主が労働基準法上の休業補償を行う必要があります。
原則として平均賃金の60%以上です。
一方、通勤災害の場合は、労働基準法上の業務災害に対する使用者の災害補償責任とは異なるため、待期3日間について会社に同じ休業補償義務はありません。
この違いはかなり重要です。
仕事中の事故なのか、通勤途中の事故なのかによって、最初の3日間の扱いが変わるからです。
また、会社から一部賃金が支払われた日や、所定労働時間の一部だけ働いた日については給付額の計算が変わることがあります。
具体的な休業補償の計算や待期期間については、 労災の休業補償はいくら?
計算方法と申請手続きでも詳しく解説しています。
掛け持ちパートの労災給付の計算
スーパーと飲食店、介護施設と別の事業所、平日の事務職と休日のアルバイトなど、複数の職場でパートを掛け持ちしている方も珍しくありません。
こうした掛け持ち勤務の場合、以前は事故が発生した勤務先の賃金のみをもとに労災保険給付の金額が算定されることがありました。
しかし、複数の勤務先から得ていた収入によって生活している人にとって、一つの会社の賃金だけで休業補償を計算すると、実際に失われる収入との差が大きくなる問題がありました。
そこで2020年9月1日から、複数の事業で働く「複数事業労働者」について労災保険給付の仕組みが変更されています。
複数の勤務先の賃金を合算する
現在は、一定の複数事業労働者について、 事故が起きた勤務先だけではなく、複数の勤務先について算定した賃金をもとに給付基礎日額を決める仕組み になっています。
たとえば、A社のパートで月8万円、B社のパートで月10万円を得て生活している人を考えてみます。
B社で労災事故に遭い、ケガによってA社にもB社にも出勤できなくなったとします。
この場合にB社の月10万円だけを基礎に休業補償を考えると、実際にはA社分を含めた月18万円の収入に影響が出ているにもかかわらず、生活実態を十分に反映できません。
そのため、複数事業労働者については、それぞれの就業先について算定した給付基礎日額に相当する額を合算する考え方が設けられています。
掛け持ちパートでは、事故が起きた会社以外の勤務先の賃金も重要になります。
労災申請時には「ほかの勤務先では働いていません」と誤って処理されないよう、掛け持ちの状況を正確に伝えてください。
事故が起きていない勤務先の情報も必要になる
複数勤務先の賃金を合算するためには、当然ながら事故が発生していない勤務先についても賃金等の確認が必要になります。
そのため、副業や掛け持ちを会社へ伝えていない場合には、労災申請をきっかけとして他の勤務先の存在に関する確認が行われる可能性があります。
ただし、「掛け持ちをしているから労災上不利になる」という意味ではありません。
複数の仕事から得ていた収入をより実態に近い形で補償へ反映するための制度です。
複数の仕事の負荷を合わせて評価する仕組みもある
2020年の制度改正では、給付額だけでなく労災認定の考え方についても「複数業務要因災害」という仕組みが設けられました。
脳・心臓疾患や精神障害などでは、一つの勤務先だけを見れば業務上の負荷が認定基準に達していなくても、複数の勤務先での業務負荷を総合すると非常に大きな負荷になっている場合があります。
そこで、一定の場合には複数の事業における業務上の負荷を総合的に評価して認定を判断します。
これは、複数の仕事を掛け持ちする働き方が珍しくなくなった現在では重要な制度です。
(出典:厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」)
通勤中の事故も労災の対象になる
パートの労災は、勤務時間中の事故だけが対象ではありません。
自宅から勤務先へ向かっている途中や、仕事を終えて勤務先から自宅へ帰る途中などで事故に遭った場合、法律上の「通勤」に該当すれば通勤災害として労災保険給付の対象になる可能性があります。
たとえば、出勤途中に歩道で転倒した、自転車通勤中に自動車と接触した、電車通勤中に駅の階段で転落した、退勤途中に交通事故に遭ったといったケースが考えられます。
パートだから通勤災害が対象外ということはありません。
合理的な経路と方法であるかを確認する
通勤災害として認められるためには、単に「仕事へ行く途中だった」というだけではなく、労災保険法上の通勤に該当する必要があります。
基本的には、住居と就業場所との間の往復などを、合理的な経路および方法で行っているかがポイントになります。
ここでいう合理的な経路は、「毎日必ず同じ道」「最短距離の道」でなければならないという意味ではありません。
公共交通機関を利用する場合に複数の経路が考えられることもありますし、道路工事や渋滞によって迂回することもあります。
具体的な事情を踏まえて合理性が判断されます。
交通手段についても、自動車、自転車、電車、バス、徒歩など、通常の通勤手段であるかどうかを具体的に確認します。
自宅と勤務先の間で発生した事故なら、どのような場合でも通勤災害になるわけではありません。
私的な目的で通勤経路を大きく外れたり、通勤とは関係のない行為によって移動を中断したりした場合には、通勤として扱われない部分が生じることがあります。
寄り道をしたら必ず対象外になるわけではない
通勤災害で特に質問が多いのが「帰りに買い物をしたら労災ではなくなるのか」という点です。
通勤途中に経路を外れたり、移動を中断したりすると、原則としてその後の移動は通勤として扱われないことがあります。
ただし、日常生活上必要な一定の行為については例外が設けられており、その行為を終えて合理的な通勤経路に戻った後について、再び通勤として扱われる場合があります。
したがって、「コンビニに寄った」「子どもの送迎をした」「病院に行った」という事実だけを取り出して、直ちに通勤災害ではないと判断することは適切ではありません。
寄り道の目的、場所、時間、経路、事故が発生した時点などを確認する必要があります。
掛け持ち先から次の勤務先への移動も確認する
掛け持ちパートでは、自宅と会社の往復だけでなく、第一の勤務先から第二の勤務先へ移動している途中に事故が起きることもあります。
こうした「就業場所から別の就業場所への移動」についても、一定の要件を満たせば労災保険上の通勤に該当する可能性があります。
掛け持ち勤務では、どの会社の仕事を終え、どこへ向かっていたのかが非常に重要です。
通勤途中に事故が起きたら、事故の日時、場所、出発地、目的地、通った経路、交通手段、寄り道の有無と目的を記録しておきましょう。
後から記憶だけで説明するより、地図やスマートフォンの履歴など客観的な情報があると整理しやすくなります。
会社が労災手続きをしてくれない場合

実務上、特に問題になりやすいのが、労災の可能性がある事故について会社が手続きに協力してくれないケースです。
「パートだから労災は使わないでほしい」「会社としては労災ではないと思っている」「自分で転んだのだから会社に責任はない」「健康保険で病院へ行ってほしい」と言われることがあります。
こうした説明を受けると、パートという立場から「会社がそう言うなら仕方がない」と諦めてしまう方もいます。
しかし、 労災保険給付を支給するかどうかを最終的に決定するのは会社ではありません。
労災申請は労働者本人が行うもの
労災保険給付は、被災した労働者などが請求を行い、その請求に基づいて労働基準監督署が必要な調査を行ったうえで支給・不支給を決定します。
会社は請求書に事故の事実や賃金等について証明するなど、実務上重要な役割を持っています。
しかし、会社が「労災ではない」と考えているからといって、労働者が請求すること自体をできなくする権限を会社が持っているわけではありません。
会社が労災だと認めてくれなくても、労働者本人から請求することは可能です。
会社と事故原因について意見が一致しない場合も、最終的な支給・不支給は労働基準監督署長が判断します。
事業主証明を拒否されても請求はできる
労災保険の請求書には、事業主が事故の発生状況や賃金などを証明する欄があります。
通常は会社の協力を得て必要な証明を受けたうえで提出します。
ところが、「会社は労災と認めていないから証明しない」と拒否されることがあります。
この場合でも、事業主証明がないという理由だけで労災保険の請求ができなくなるわけではありません。
会社から証明を得られない事情を労働基準監督署へ説明し、対応を相談することができます。
この点は非常に重要です。
「会社の印鑑がもらえないから申請自体が不可能」と考えて放置しないようにしてください。
会社が対応しない場合は証拠を整理する
会社と事故の認識が食い違っている場合には、感情的にやり取りを続けるより、まず事実関係を整理することをおすすめします。
- 事故が起きた日時と場所
- 事故当時に行っていた仕事内容
- 上司や同僚へ報告した日時
- 事故を見ていた人の氏名
- 会社とのメール・LINE・チャット
- 事故現場の写真や防犯カメラの有無
- 病院を受診した日時と診断内容
- 休業した日と賃金支払いの状況
事故直後は内容を覚えていても、数週間、数か月経つと細かな部分は曖昧になります。
特に事故発生時の写真や会社とのメッセージは、後から再現できないことがあります。
労災になるか分からない段階でも保存しておくとよいでしょう。
労災隠しと労災認定は別の問題
会社が法律上必要な労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり、虚偽の報告をしたりして労働災害の発生を隠す行為は、一般に「労災隠し」と呼ばれます。
報告義務があるにもかかわらず報告をしなかった場合や虚偽報告をした場合には、労働安全衛生法上、50万円以下の罰金の対象となることがあります。
ただし、会社が労災かどうかについて異なる見解を持っているだけで、直ちに労災隠しになるわけではありません。
「労災保険給付として認定されるか」と「会社が法定の報告を故意に隠しているか」は分けて整理する必要があります。
会社側としても、事故が発生したという事実を隠すのではなく、必要な報告や労災手続きへの協力を行い、そのうえで事故原因の調査と再発防止を進めることが重要です。
労働者側も、会社との対立そのものを目的にする必要はありません。
まず事実を整理して会社へ伝え、それでも手続きが進まない場合には、所轄の労働基準監督署へ相談するという流れが実務的です。
パートの労災で困ったときの対応まとめ
パートだからという理由だけで、労災保険の対象外になるわけではありません。
会社に雇用され、賃金を受け取って働いている労働者であれば、正社員、パート、アルバイト、日雇いなどの雇用形態を問わず、原則として労災保険の対象です。
また、週20時間という基準も労災保険の加入条件ではありません。
雇用保険に加入していない短時間パートや学生アルバイトであっても、仕事や一定の通勤を原因としてケガや病気をした場合には、労災保険給付を受けられる可能性があります。
事故が起きた直後に確認したいこと
実際に仕事中や通勤中の事故が起きたら、まず次の点を確認しておきましょう。
- 事故の日時・場所・作業内容を記録する
- 可能であれば事故現場の写真を残す
- 会社や上司へ速やかに事故を報告する
- 目撃者がいる場合は誰だったか確認する
- 医療機関へ仕事中または通勤中の事故であることを伝える
- 休業した日と給与の支払い状況を確認する
- 掛け持ち勤務がある場合は他の勤務先も確認する
- 会社が対応しない場合は労働基準監督署への相談を検討する
「軽いケガだから」と事故の記録を残さず、数日後に症状が悪化するケースもあります。
その時点になって会社へ報告すると、「いつ、どこでケガをしたのか」「本当に仕事が原因なのか」という確認に時間がかかることがあります。
特に転倒、腰痛、捻挫などは、外見から事故の状況が分かりにくいことがあります。
小さな事故でも、まず事実を記録して会社に報告しておくことが大切です。
パートでは休業補償の計算も確認する
パートの労災で見落としやすいのが、休業補償の金額です。
勤務日数が少ない時給制・日給制のパートでは、平均賃金の最低保障額を確認する必要があります。
また、二つ以上の勤務先を掛け持ちしている場合には、事故が発生した会社だけでなく、他の勤務先の賃金を含めて給付基礎日額を算定する仕組みがあります。
単純に「この会社では月5万円しかもらっていないから、5万円だけで計算される」とは限りません。
パートの労災では、「対象になるか」と「いくら給付されるか」を分けて確認することが大切です。
対象者については雇用形態や勤務時間で安易に除外せず、給付額については賃金形態、勤務日数、掛け持ちの有無まで確認しましょう。
会社から断られてもそこで終わりではない
そして、この記事で特にお伝えしたいのが、 「パートだから労災を使えない」と自己判断しないこと です。
会社が労災保険の成立手続きをしていなかった場合でも、労働者が当然に補償を受けられなくなるわけではありません。
会社が事業主証明をしてくれない場合でも、請求そのものが不可能になるわけではありません。
さらに、会社が「これは労災ではない」と考えていても、それだけで支給・不支給が確定するものでもありません。
一方で、仕事中に発生したすべてのケガや病気が必ず労災として認定されるわけではない点にも注意が必要です。
業務との因果関係、事故の状況、通勤経路、寄り道の内容、休業の状況など、個々の事情を確認して判断されます。
パートの労災で迷ったときは、「パートだから」という理由で考えるのではなく、事故と仕事・通勤との関係を具体的に整理することが第一歩です。
労災保険制度や雇用保険の適用要件、保険料率、各種給付の取扱いは、法改正や制度改定によって変更される可能性があります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
また、個別の事故について労災に該当するか、どの請求書を使用するのか、休業補償がどの程度になるのか、会社がどのような手続きを行う必要があるのかは、実際の状況によって異なります。
判断に迷う場合には、管轄の労働基準監督署や社会保険労務士などへ具体的な事情を伝えて確認し、 最終的な判断は専門家にご相談ください。
もりおか社会保険労務士事務所では、労災事故が発生した際の各種手続きだけでなく、会社側の労働者死傷病報告、事故発生時の初動対応、原因整理、再発防止を含めた労務管理についても実務的な視点から対応しています。