労災

労災は後から申請できる?退職後・期限・手続きを実務で確認

こんにちは。

もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。

労災は、事故や発症の直後に手続きをしていなくても、原則として請求権の時効が完成していなければ後から申請できます。

すでに会社を退職している場合や、会社が労災申請に協力してくれない場合でも、それだけを理由に申請できなくなるわけではありません。

仕事中や通勤途中にケガをしたものの、その場では労災だと思わず健康保険を使ってしまったというケースは、実際によくある相談です。

会社から健康保険で受診するよう言われ、後になって「これは本来、労災だったのではないか」と気付くケースもあります。

ほかにも、事故当時は軽いケガだと思っていたものの、しばらくして症状が悪化したケースや、退職してから労災保険の対象になる可能性を知ったケースなど、後から手続きを検討する理由はさまざまです。

ただし、後から申請できるからといって、いつまでも手続きを先送りできるわけではありません。

労災保険には給付ごとに請求期限があり、特に休業に関する給付は休業した日ごとに時効が進んでいきます。

また、時間が経過するほど事故当時の勤務記録や写真、目撃者の記憶などが確認しにくくなります。

そのため、「後からでも申請できる」という制度上の話と、「後から申請したほうがよい」という実務上の話は分けて考える必要があります。

この記事では、労災を後から申請できる条件、退職後や会社が非協力的な場合の対応、健康保険から労災保険への切り替え、時効を過ぎた場合の考え方まで、実務の流れに沿って整理します。

労災の手続きについて基本から確認したい場合は、労災の申請手続き全体を整理した記事も参考にしてください。

  • 労災を後から申請できる条件
  • 退職後や会社が協力しない場合の対応
  • 健康保険から労災へ切り替える方法
  • 労災給付の時効と期限を過ぎた場合の対応

労災は後から申請できる?期限・退職後の手続きを解説

労災を後から申請できる条件と期限

まず確認したいのは、事故から時間が経っていること自体で労災申請ができなくなるわけではないという点です。

重要なのは、対象となる給付の請求権がまだ時効にかかっていないか、そして業務や通勤と傷病との関係を確認できるかです。

さらに、すでに退職している、会社が申請に協力してくれない、健康保険を使用してしまったといった事情がある場合には、それぞれを分けて整理する必要があります。

退職や会社の協力の有無も含めて、順番に整理していきます。

労災は後からでも申請できる

労災保険は、事故が起きた時点で自動的に保険給付が振り込まれる制度ではありません。

被災した労働者などが必要な請求を行い、その内容について労働基準監督署が調査したうえで、支給または不支給が決定されます。

そのため、事故直後に労災申請をしなかったからといって、それだけで請求する権利を失うわけではありません。

対象となる労災保険給付の時効が完成していなければ、事故から時間が経過した後でも請求できる可能性があります。

労災申請で重要なのは「事故直後に申請したか」だけではなく、「請求する給付の時効が完成していないか」を確認することです。

事故当日に労災だと分からなくても申請できる

たとえば、仕事中に転倒して病院へ行ったものの、そのときは単なる自分の不注意だと思い健康保険で治療したとします。

後になって、仕事中に発生した事故であれば労災保険の対象になり得ると知ることもあるでしょう。

このような場合でも、健康保険を使ったから労災申請ができないというわけではありません。

請求期限内であり、事故と業務との関係などが確認できれば、後から労災保険の手続きを進めることができます。

実務では、「自分が転んだだけなので労災ではないと思っていた」という相談もあります。

しかし、労災保険の対象になるかどうかと、労働者本人に不注意があったかどうかは必ずしも同じ問題ではありません。

たとえば作業中に足を滑らせた、階段を踏み外した、荷物を持ち上げた際に腰を痛めたなど、本人の動作をきっかけとして負傷した場合でも、業務との関係が認められれば労災保険の対象になる可能性があります。

会社ではなく労働基準監督署が判断する

また、労災になるかどうかを労働者本人や会社が最終的に決めるものでもありません。

労災保険の請求を受けた労働基準監督署が、事故の発生状況、仕事内容、勤務状況、医療機関の記録など必要な事実関係を確認して判断します。

そのため、「会社から労災ではないと言われたから申請しなかった」という場合でも、その説明だけで労災の可能性がなくなったとは限りません。

反対に、会社が「これは労災です」と考えて請求書を作成した場合でも、必ず支給されるわけではありません。

会社が行う事業主証明と、労働基準監督署による労災認定は別のものです。

厚生労働省も、労働災害によって負傷した場合などには請求書を提出し、労働基準監督署において必要な調査を行ったうえで保険給付を行う仕組みを案内しています。

(出典:厚生労働省「労働災害が発生したとき」)

後から申請する場合は証拠の確保が重要

制度上は後から請求できるとしても、時間が経過すれば何の問題もないということではありません。

労災かどうかを判断するためには、「いつ」「どこで」「何をしているときに」「どのように負傷したか」といった事実関係を確認する必要があります。

ところが、事故から半年、1年、2年と時間が経過すると、当時の勤務表が手元にない、メールが削除されている、現場の状況が変わっている、目撃した同僚が退職しているといったことが起こります。

後から労災申請する場合に確認したい資料

  • 事故当日の勤務表やタイムカード
  • 事故報告書や業務日報
  • 事故現場や負傷箇所の写真
  • 会社への報告メールやチャット
  • 同僚や上司など目撃者の情報
  • 初診時の診療記録や診療明細書
  • 医療機関や薬局の領収書

これらがすべて必要というわけではありませんが、確認できる資料が多いほど事故当時の状況を説明しやすくなります。

私が実務で後からの労災申請について相談を受ける場合も、最初に「いつ起きたのか」「誰に報告したのか」「最初に病院へ行ったのはいつか」という時系列を確認します。

申請期限だけでなく、事実関係を確認しやすいうちに動くという意味でも、後から労災の可能性に気付いた時点で早めに整理しておくことが重要ですよ。

退職後でも労災は申請できる

退職後でも労災は申請できる

すでに事故当時の会社を退職している場合でも、労災保険の請求を諦める必要はありません。

労働者災害補償保険法では、 保険給付を受ける権利は労働者の退職によって変更されない ことが定められています。

つまり、労災事故の後に会社を辞めたからといって、在職中に発生した労災について保険給付を受ける権利が当然になくなるわけではありません。

(出典:e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」)

判断されるのは事故当時の業務との関係

退職後の労災申請で考えるべきなのは、「今、その会社の従業員かどうか」ではありません。

重要なのは、負傷や疾病の原因となった出来事が発生した当時、労働者として業務に従事しており、その業務と傷病との間に労災保険上の関係が認められるかどうかです。

たとえば、在職中に工場で転倒して足を負傷し、その後会社を退職したとしても、事故そのものが在職中に発生した事実は変わりません。

在職中に重量物を扱う業務で腰を痛め、退職後も治療が継続しているケースも同様です。

また、業務が原因となった疾病の場合には、事故のように原因となる出来事が一瞬で発生するとは限りません。

退職後になって症状が顕在化したり、仕事との関係が疑われたりすることもあります。

その場合も、「もう会社を辞めたから」という理由だけで労災請求の可能性を排除する必要はありません。

退職したことだけを理由として、在職中に発生した労災の受給権がなくなるわけではありません。

ただし、退職後であっても各給付の時効は進むため、退職したまま長期間放置するのは避けましょう。

退職後は会社との連絡が難しくなりやすい

法律上は退職後でも請求できますが、実務では在職中より手続きが進めにくくなるケースがあります。

その大きな理由が、事故当時の資料と関係者へのアクセスです。

勤務表、タイムカード、業務日報、事故報告書、社内メール、現場写真などは、在職中であれば会社を通じて比較的確認しやすいでしょう。

しかし、退職すると会社のシステムへログインできなくなり、以前のメールやチャットを自分では確認できなくなることがあります。

事故を目撃した同僚自身が退職してしまうこともあります。

特に、会社との関係が悪化した状態で退職しているケースでは、「いまさら会社へ連絡したくない」という方もいると思います。

その気持ちは理解できますが、労災申請のために必要な事実関係と、退職時の人間関係の問題は分けて考えたほうがよいでしょう。

退職後の申請では時系列を自分で整理する

すでに退職している場合には、まず自分の手元に残っている情報だけでも構いませんので、事故から現在までの経過を書き出してください。

退職後に整理しておきたい項目

  • 事故または症状が発生した年月日
  • 事故当日の勤務時間と仕事内容
  • 事故が発生した場所
  • 会社の誰に、いつ報告したか
  • 事故を見ていた人がいるか
  • 初めて医療機関を受診した日
  • 医師へ仕事中の事故だと伝えたか
  • 休業を開始した日と休業期間
  • 会社を退職した日

この時系列があるだけでも、労働基準監督署で事情を説明するときの分かりやすさがかなり違います。

また、退職後に療養が続き、休業に関する給付を継続して請求するようなケースでは、請求回数や請求対象期間によって事業主証明の取扱いが異なる場合があります。

「退職したのだから会社には一切関係がない」と決めつけず、使用する請求書と証明が必要な期間を労働基準監督署へ確認してください。

退職後でも申請できる一方、時間が経つほど資料収集は難しくなります。

退職後の労災申請では、受給権の有無と証拠を集めやすいかどうかは別の問題 と考えておくと分かりやすいかなと思います。

会社が協力しなくても申請できる

労災申請について非常に多い誤解が、「会社が認めてくれなければ申請できない」というものです。

実際には、労災保険給付を請求する主体は、原則として被災した労働者本人です。

会社は申請書の作成を手伝ったり、事故の発生状況や賃金などについて事業主証明をしたりしますが、 会社そのものが労災として認定する権限を持っているわけではありません。

会社の同意は労災認定の条件ではない

会社から、「本人の不注意だから労災ではない」「会社には責任がないから労災にできない」と言われることがあります。

ここで注意したいのは、労災保険の給付と会社の責任を同じものとして考えないことです。

労災保険では、仕事が原因となって発生した負傷や疾病などに対して給付を行います。

会社側に安全管理上の落ち度があったかどうかは、損害賠償などを検討する際には重要ですが、会社に過失がなければ直ちに労災保険の対象外になるという仕組みではありません。

たとえば、会社が十分に安全対策を行っていた現場で、労働者が通常の作業中に転倒して負傷した場合を考えると分かりやすいでしょう。

会社側に安全配慮義務違反があるかどうかとは別に、業務中の事故として労災保険給付の対象になるかを検討することになります。

「労災保険の対象になるか」と「会社が事故について法的責任を負うか」は別の問題です。

会社が責任を認めていないことだけを理由に、労災保険を請求できなくなるわけではありません。

会社を通さずに相談することもできる

会社が申請書を渡してくれない、書類作成に応じない、労災を使わないよう求められているといった場合には、労働者本人から所轄の労働基準監督署へ相談できます。

労災保険の請求書は会社だけが入手できる書類ではありません。

厚生労働省のウェブサイトから様式を入手することもできますし、労働基準監督署で相談しながら必要な様式を確認することもできます。

実務では会社が書類を準備して労働者へ渡すことが多いため、「会社が手続きをしてくれない=自分では何もできない」と思ってしまいやすいところです。

しかし、会社が手続きを代行することと、労働者本人に請求権があることは分けて考える必要があります。

会社と本人の役割については、 労災請求の主体は誰か、会社との役割分担 でも整理しています。

会社と認識が違う場合は事実を分けて整理する

一方、会社が協力しないケースをすべて「労災隠し」と考えるのも適切ではありません。

たとえば、労働者は「仕事中に転んだ」と説明している一方で、会社が事故当日の勤務記録を確認すると休憩時間中の私的行為だったなど、事実関係そのものについて認識が食い違っていることがあります。

そのような場合、会社として事実と異なる内容を証明することはできません。

労働者側は、自分が把握している事故の経緯を具体的に説明し、会社側は会社が確認できている事実を説明します。

そのうえで、必要な調査を経て労働基準監督署が判断するという流れになります。

会社との間で意見が食い違っている場合は、「労災か労災でないか」という結論だけで話し合うより、事故が起きた時刻、場所、仕事内容、目撃者、会社への報告内容など、客観的な事実を一つずつ整理することが大切です。

労災を申請すること自体と、会社を責めることは同じではありません。

会社との対立を必要以上に大きくせず、保険給付については労働基準監督署の判断を受けるという整理が、実務では重要です。

事業主証明を拒否された場合の対応

事業主証明を拒否された場合の対応

労災保険の請求書には、事故の発生日、災害の発生状況、賃金などについて会社が証明する欄があります。

そのため、会社から事業主証明を断られると、「会社のハンコや証明がないから申請書を提出できない」と考えてしまう方が少なくありません。

しかし、 事業主証明を得られないことだけを理由として、労働者本人の労災請求ができなくなるわけではありません。

証明を得られない事情を労基署へ伝える

会社が証明を拒否している場合には、まず所轄の労働基準監督署へ相談してください。

「会社に事業主証明を依頼したが断られた」「会社へ連絡しているが返事がない」「会社がすでに廃業している」など、証明を得られない事情をそのまま説明します。

会社から証明を受けられないケースでは、証明欄が完成していないことを理由として最初から請求を諦めるのではなく、労働基準監督署の案内に従って申請を進めることが重要です。

その後、労働基準監督署が必要と判断すれば、会社へ事故の発生状況などを確認することがあります。

労働者本人の説明だけではなく、会社の説明、勤務記録、医療記録、関係者からの聴取などを踏まえて事実関係が調査されることになります。

事業主証明を拒否されたからといって、自分で会社の証明欄を完成させてはいけません。

会社の証明を得られないのであれば、その事実をそのまま労働基準監督署へ伝えてください。

事業主証明は会社による労災認定ではない

会社側が事業主証明を拒否する理由として、「証明すると会社が労災だと認めたことになるのではないか」という誤解があります。

しかし、会社が申請書の事実関係について証明することと、労災保険上の業務災害・通勤災害として最終判断することは別です。

たとえば、「○月○日に勤務していた」「この時間帯にこの作業を担当していた」「事故後に本人から報告を受けた」という事実について会社が確認できるのであれば、その事実を証明することと、法律上の労災認定を会社が行うことは同じではありません。

逆に、会社が確認できない事故状況について、労働者から求められたからという理由だけで「事実に相違ありません」と証明する必要があるという意味でもありません。

会社として事実関係に異論があるのであれば、確認できる事実と会社の認識を労働基準監督署へ説明することになります。

証明拒否と損害賠償責任も分けて考える

もう一つ混同されやすいのが、事業主証明と会社の損害賠償責任です。

会社が事業主証明をしたからといって、「事故について会社に過失があり、損害賠償責任を全面的に認めた」という意味になるわけではありません。

労災保険から保険給付を受けるための認定と、安全配慮義務違反などを理由とする会社への民事上の損害賠償請求は、異なる制度として整理する必要があります。

実務では、会社側がこの点を誤解していることで事業主証明が進まないケースがあります。

労働者としては会社に無理に労災認定を求めるのではなく、「事実として確認できる部分の証明を依頼している」という整理で話をすると進みやすくなることがあります。

それでも会社が証明しない場合は、そこで手続きを止めないことが大切です。

特に事故から時間が経っているケースでは、会社とのやり取りを何か月も続けている間にも時効が進んでしまいます。

証明が得られない段階で労働基準監督署へ相談し、どのように請求書を提出すればよいか確認しましょう。

労災申請の時効は2年または5年

労災を後から申請するときに、最初に確認してほしいのが時効です。

労災保険給付は種類によって請求できる期間が異なり、代表的な給付では 2年または5年 の時効が設けられています。

「労災は事故から2年まで」と一括りに覚えてしまうと間違いやすいので注意してください。

給付ごとに時効期間が異なるだけでなく、いつから時効が進み始めるかという起算点も違います。

給付の種類 主な時効期間 主な起算時期
療養の費用 2年 費用を支出した日ごとにその翌日から
休業(補償)等給付 2年 賃金を受けない日ごとにその翌日から
障害(補償)等給付 5年 傷病が治癒した日の翌日から
遺族(補償)等給付 5年 被災労働者が死亡した日の翌日から
葬祭料等 2年 被災労働者が死亡した日の翌日から
介護(補償)等給付 2年 介護を受けた月の翌月1日から

上記は代表的な給付について整理したものです。

実際の請求では、事故の日だけを見るのではなく、何の給付を請求するのか、その請求権がいつ発生したのかを確認する必要があります。

休業補償は休業日ごとに時効が進む

特に注意したいのが休業(補償)等給付です。

休業補償については、「事故の日から2年以内に一度請求すれば、過去の休業期間をすべて請求できる」という仕組みではありません。

賃金を受けなかった日ごとに請求権が発生し、それぞれについて時効が進みます。

たとえば、長期間にわたり休業しているものの労災申請をしていなかった場合、請求する時点から見て新しい休業日は時効になっていなくても、古い休業日から順番に請求権が消滅している可能性があります。

この仕組みは、後から申請する方にとって非常に重要です。

「治療が全部終わってからまとめて申請しよう」「会社との話がまとまってから申請しよう」と考えているうちに、古い休業期間の時効が進んでしまうことがあるからです。

後からまとめて申請すればよいと考えて放置するのは避けてください。

特に2年近く前から休業している場合は、請求可能な期間が毎日少しずつ失われていく可能性があります。

療養の費用も支払日ごとに確認する

健康保険を使わず治療費を自費で支払った場合や、労災指定医療機関以外で治療費を立て替えた場合には、療養の費用を請求することがあります。

この場合も、「事故の日から一律2年」と考えるのではなく、原則として費用を支出した日ごとに時効を確認します。

たとえば、2年間にわたって何度も通院している場合、最初の受診分と最近の受診分では時効の完成時期が異なります。

古い領収書が出てきた場合には、事故日だけでなく領収書に記載された支払日を確認してください。

障害給付は症状固定の時期が重要

障害(補償)等給付では、単純に事故日から5年間という整理ではありません。

傷病が治癒した日、労災実務でいう症状固定の時期が重要になります。

治療を続けても大幅な改善が期待できない状態になった時点で身体に一定の障害が残っている場合、障害等級に該当するかを確認していくことになります。

症状固定の時期は医学的な判断が関係するため、「事故から5年以上経ったから障害給付も無理だ」と単純に判断できないケースがあります。

労災を後から申請する場合は、「事故から何年経ったか」だけで判断せず、 請求したい給付の種類と、その給付について時効がいつから進むのか を確認することが重要です。

事故から相当期間が経っている場合や、どの給付を請求できるのか判断しにくい場合には、早めに労働基準監督署や専門家へ確認することをおすすめします。

労災を後から申請する方法と注意点

後から労災申請する場合も、基本的な仕組みは事故直後に請求する場合と同じです。

ただし、すでに健康保険を使っている、会社を退職している、自費で治療しているなど、時間が経過したことで追加の精算や資料整理が必要になることがあります。

また、療養の給付、療養の費用、休業補償、障害給付など、何を請求したいのかによって使用する書類も変わります。

ここからは具体的な進め方を確認します。

後から労災申請する手続きの流れ

労災を後から申請する場合は、いきなり請求書を書き始めるより、事故の状況と現在までの経過を整理してから必要な給付を確認するとスムーズです。

特に事故から時間が経っているケースでは、複数の問題が同時に存在していることがあります。

たとえば、「健康保険を使っている」「すでに退職している」「3か月休業した」「会社が労災だと認めていない」という状況です。

これを一度に解決しようとすると複雑に見えますが、一つずつ分けると整理できます。

まず事故から現在までを時系列にする

最初に、事故または発症に関係する出来事を時系列で整理してください。

  • 事故や症状が発生した日
  • 発生した場所
  • そのとき行っていた仕事
  • 会社へ報告した日と相手
  • 最初に病院を受診した日
  • 健康保険または自費で支払った内容
  • 休業した期間
  • 退職している場合は退職日

事故から時間が経過しているほど、記憶だけに頼ると日付や出来事の順序が曖昧になります。

勤務表、タイムカード、業務日誌、メール、チャット、写真、診療明細書などと照らし合わせることをおすすめします。

特に初診日は重要です。

事故から受診までに期間が空いている場合、なぜすぐ受診しなかったのか、その間の症状はどうだったのかといった経過を確認されることがあります。

たとえば「事故当日は痛みが軽く、翌日以降に腫れが強くなったため3日後に病院へ行った」というのであれば、その経過を説明できるようにしておきましょう。

後から申請するケースでは、簡単なメモでも構いませんので「○月○日:事故」「○月○日:上司に報告」「○月○日:初診」「○月○日:休業開始」のように並べると、その後の書類作成がかなり楽になります。

必要な労災給付を確認する

次に、何について労災保険を請求したいのかを整理します。

治療そのものについて給付を受けたいのか、自分で支払った治療費を請求したいのか、仕事を休んだ期間について休業補償を請求したいのか、治療後に障害が残ったのかによって手続きは異なります。

主な状況 検討する主な給付 確認するポイント
現在も治療中 療養(補償)等給付 指定医療機関か、費用を自己負担しているか
治療費を自己負担した 療養の費用 領収書、支払日、医療機関の証明
治療のため仕事を休んだ 休業(補償)等給付 休業期間、賃金の支払い、医師の証明
治療後も障害が残った 障害(補償)等給付 症状固定日と障害の程度

業務災害と通勤災害でも使用する様式が異なります。

また、同じ治療に関する手続きでも、労災指定医療機関で現物給付を受ける場合と、いったん治療費を立て替えて後から費用請求する場合では書類が異なります。

休業補償を請求する場合の書類については、 労災の8号様式の書き方と提出方法を実務の流れで確認 でも詳しく整理しています。

所轄の労働基準監督署へ提出する

必要な請求書と添付資料を準備したら、給付の種類に応じて所轄の労働基準監督署などへ提出します。

後から申請するケースでは、書類をすべて自分だけで完成させようとしなくても構いません。

会社がすでに存在しない、事業主証明をしてもらえない、どの様式を使えばよいか分からない、健康保険の精算が終わっていないといった事情がある場合は、その状態で労働基準監督署へ相談してください。

特に時効が近い場合には、書類や資料が完全にそろうまで何か月も待つことが適切とは限りません。

「完璧な申請書が完成してから相談しよう」と考えた結果、時効期間を過ぎてしまうことは避けなければなりません。

事故から長期間が経過している場合には、まず請求期限を確認してください。

私としては、後からの申請ほど「書類を書く」より先に「時効と時系列を確認する」ことをおすすめします。

ここが整理できれば、次に何をすればよいのかがかなり見えやすくなります。

健康保険を使った後の切り替え方法

健康保険を使った後の切り替え方法

仕事中や通勤途中のケガにもかかわらず、健康保険を使って病院を受診してしまうケースは珍しくありません。

事故当日は本人も労災だと思っていなかった、受付で健康保険証を出してそのまま受診した、会社から健康保険で受診するよう言われたなど、理由はさまざまです。

業務災害や通勤災害に該当する傷病は、原則として労災保険で取り扱います。

しかし、 健康保険を使ったという事実だけで、その後の労災申請ができなくなるわけではありません。

最初に医療機関へ切り替え可能か確認する

まずは受診した医療機関へ連絡し、仕事中または通勤途中の事故だったことを伝えてください。

そのうえで、健康保険から労災保険への切り替えを医療機関側で行えるか確認します。

医療機関がまだ健康保険者への請求処理を完了していないなどの事情があれば、健康保険として行った会計を取り消し、労災扱いへ変更できることがあります。

この段階で切り替えられれば、すでに窓口で支払った健康保険の自己負担分について返金を受けるなど、医療機関側で精算することになります。

具体的な精算方法は医療機関によって異なるため、受付や医事担当者へ確認してください。

医療機関で変更できない場合は健康保険者へ連絡する

一方、すでに医療機関が健康保険へ診療報酬を請求している場合など、医療機関の窓口だけでは労災へ変更できないことがあります。

その場合には、加入している健康保険組合や協会けんぽなどへ、「仕事中の事故について健康保険を使用してしまった」旨を連絡します。

一般的な確認の流れ

  • 医療機関へ労災事故だったことを連絡する
  • 院内で労災へ切り替えられるか確認する
  • 切り替えできなければ健康保険者へ誤使用を申し出る
  • 健康保険が負担した医療費の精算方法を確認する
  • 必要書類をそろえて労災保険へ療養の費用を請求する

たとえば医療費総額が10万円で、健康保険を使用して窓口で3万円を支払っていた場合を考えてみましょう。

一般的な3割負担のケースでは、残りの7万円相当を健康保険者が医療機関へ支払っています。

本来労災保険で処理すべき治療であれば、健康保険者が負担した部分についても精算が必要になります。

7割分を先に用意できない場合も相談できる

ここで問題になりやすいのが、一時的な立替負担です。

治療費が数万円程度なら対応できても、入院や手術を伴うと健康保険者が負担した金額が数十万円、場合によってはそれ以上になることがあります。

「そんな金額を一度に返せないので、労災へ切り替えられない」と考えてしまうかもしれません。

しかし、健康保険から給付された医療費の返納によって請求人に大きな経済的負担が生じる場合に備えて、 労働基準監督署へ「事前申出」(同意書の提出を伴います)を行うことで、健康保険者と労災保険との間で直接調整が行われ、返還額を自分で全額立て替えずに済む取扱い があります。

この事前申出は自動的に適用されるものではなく、労働者本人が労働基準監督署へ申し出る必要があります。高額な返納を求められている場合には、自己判断で立て替えを急がず、まず健康保険者と労働基準監督署へ具体的な状況を説明し、事前申出の対象になるか確認してください。

健康保険から労災保険への切り替え方法は、医療機関が健康保険へ請求済みか、健康保険者から返納通知が出ているかなど、現在どの段階にあるかによって変わります。

先に自己判断で全額を支払うのではなく、医療機関・健康保険者・労働基準監督署へ手順を確認してから進めることが大切です。

なお、労災保険へ請求したからといって必ず労災認定されるわけではありません。

労災として支給されるかどうかは、事故と業務・通勤との関係などについて審査されたうえで決定されます。

そのため、健康保険との精算が絡むケースでは、労災請求と健康保険の処理を並行して整理する必要があります。

自費で治療した場合の費用請求方法

事故当初から健康保険を使わず、治療費を10割自己負担している場合でも、労災として認められれば療養に要した費用を請求できる可能性があります。

また、労災指定医療機関ではない病院を受診したため、いったん治療費を自分で支払っているケースでも、療養の費用を請求する手続きがあります。

「自費で払ってしまったから労災はもう使えない」というわけではありません。

指定医療機関かどうかで手続きが異なる

労災指定医療機関で労災として治療を受ける場合には、原則として労働者が窓口で治療費を負担せず、療養そのものを給付として受ける仕組みがあります。

これに対して、労災指定医療機関ではない医療機関で治療を受けた場合などには、いったん本人が費用を負担し、その後、療養の費用として請求する方法があります。

業務災害で病院や診療所へ支払った費用を請求する場合には、一般に様式第7号(1)などを使用します。

通勤災害では様式が異なり、薬局、柔道整復師、はり・きゅう、訪問看護などでも使用する様式の枝番号等が異なることがあります。

そのため、「自費で払ったから7号を書けばよい」とだけ覚えるのではなく、何に対して費用を支払ったのかを確認してください。

領収書と診療内容を確認できる資料を残す

後から申請する場合に特に大切なのが、 実際に支払った費用を確認できる資料を残しておくこと です。

  • 医療機関の領収書
  • 診療明細書
  • 薬局の領収書
  • 薬剤の明細
  • 治療用装具を購入した場合の領収書
  • 健康保険者へ返還した場合の領収書
  • 診療報酬明細書など健康保険者から交付された資料

特に、医療機関を複数受診している場合は、病院ごとに領収書を分けて保管すると整理しやすくなります。

病院で診察を受け、別の薬局で薬を受け取っている場合には、病院分と薬局分の両方を確認してください。

領収書は「金額を確認するため」だけのものではありません。

いつ、どの医療機関等へ、何の費用を支払ったかを確認し、療養の費用の時効を整理するうえでも重要な資料になります。

領収書を紛失していてもすぐ諦めない

後から労災申請しようとしたところ、「1年前の領収書なので捨ててしまった」ということもあります。

領収書がないからといって、何も確認せず直ちに請求を諦める必要はありません。

まず、受診した医療機関へ連絡し、支払った事実や金額を確認できる資料を発行できないか相談してみてください。

医療機関によっては領収証明書などを発行できる場合がありますが、対応や費用は医療機関ごとに異なります。

そのうえで、どの資料が必要になるかを労働基準監督署へ確認しましょう。

労災における領収書の扱いや健康保険からの切り替えについては、 労災の領収書は必要?紛失時と費用請求手続きの注意点 でも詳しく解説しています。

治療費以外の支出も確認する

療養に関する費用というと病院の診察代だけをイメージしやすいのですが、実際には傷病の内容によってさまざまな費用が発生します。

たとえば、医師の指示に基づいて治療用装具を作成した、院外薬局で薬を購入した、一定の条件のもとで通院のための移送費が発生したといったケースです。

治療に関連して支払った費用がある場合には、領収書を捨てずに保管してください。

ただし、支払った費用がすべて労災保険から支給されるわけではなく、それぞれ支給要件や必要な手続きがあります。

自費治療では2年の時効に注意する

療養の費用を後から請求する場合には時効にも注意が必要です。

費用を支出した日ごとに請求権が発生し、原則としてその翌日から2年で時効となります。

たとえば1年間毎月通院していたのであれば、それぞれの支払日について時効を確認することになります。

「最後に病院へ行った日から2年以内だから全部請求できる」とは限りません。

古い領収書がある場合には、まず領収書に記載された支払日を並べてみてください。

後から申請するケースでは、治療内容だけでなく、この「いつ支払ったのか」という確認も非常に重要です。

時効を過ぎた場合の損害賠償請求

時効を過ぎた場合の損害賠償請求

労災保険給付の時効が完成してしまった場合、原則としてその給付について後から労災保険から支給を受けることはできません。

そのため、後から申請しようとしている場合には、まず時効が完成していないか確認することが最優先になります。

ただし、ここで「労災保険の時効を過ぎたので、事故に関して一切何も請求できない」とまで考えるのは早い場合があります。

労災保険と会社への損害賠償は別の制度

事故について会社に安全配慮義務違反などの法的責任が認められる場合には、労災保険とは別に、会社に対する民事上の損害賠償請求が問題になることがあります。

労災保険の時効と、民事上の損害賠償請求権の時効は別の制度です。

労災保険の請求期限を過ぎたからといって、民事上の請求まで当然に消滅しているとは限りません。

労災保険では、原則として会社に過失があること自体を保険給付の条件としていません。

たとえば通常の業務を行っている最中に事故が発生し、業務災害として認められるのであれば、会社に法的な落ち度があるかどうかとは別に労災保険給付が問題になります。

これに対して、会社へ損害賠償を請求する場合には話が変わります。

安全配慮義務違反や不法行為など、会社に民事上の責任が認められるかを検討する必要があります。

労災認定されたから会社に過失があるとは限らない

ここは、労働者側だけでなく会社側でも混同されやすいポイントです。

労働基準監督署から労災として認定されたからといって、自動的に「会社に安全配慮義務違反があった」と確定するわけではありません。

反対に、会社に過失が認められる可能性がある事故でも、労災保険の各給付について時効が完成していれば、時効になった労災保険給付をそのまま受けられるわけではありません。

制度ごとに要件と時効が異なるため、分けて検討する必要があります。

労災給付と損害賠償は調整されることがある

すでに労災保険から一定の給付を受けている場合に、同じ事故について会社や第三者へ損害賠償を求めるときには、同じ損害について二重に補償されないよう調整が問題になる場合があります。

交通事故による通勤災害や、業務中に第三者の行為によって負傷したケースでは、相手方の自動車保険や損害賠償と労災保険給付との関係も整理する必要があります。

そのため、「労災でもらえるものは全部もらい、さらに同額を会社や加害者へ請求できる」と単純に考えることはできません。

損害賠償では、治療費、休業損害、後遺障害に関する損害、慰謝料など、損害項目ごとの検討が必要になる場合があります。

労災保険の給付内容とは完全に一致しないため、個別の計算が必要です。

民事上の時効は弁護士へ早めに相談する

民事上の損害賠償請求にも消滅時効があります。

ただし、いつから時効が進むか、どの時効期間が適用されるかは、事故の時期、損害の内容、請求の法的根拠などによって判断が異なる可能性があります。

また、労災事故によって重い後遺障害が残っているケースでは、損害額も大きくなりやすいため、時効について自己判断するのはおすすめしません。

会社への民事上の損害賠償請求は、労災保険給付の請求とは別の法律問題です。

実際に会社への損害賠償請求を検討する場合は、弁護士へ相談してください。

また、そもそも労災保険の時効が完成しているのかについても、事故の日だけでは判断できません。

療養の費用なら費用を支出した日、休業補償なら賃金を受けなかった日、障害給付なら治癒した日など、給付ごとに起算点が異なります。

「事故から2年以上経っているから全部無理だろう」と自己判断せず、まずどの給付について時効が問題になっているのかを整理することが先です。

労災を後から申請するなら早めに対応

労災は、事故直後に申請していなかったとしても、それだけで請求できなくなる制度ではありません。

時効が完成していなければ、退職後であっても、会社が労災申請に協力してくれない場合であっても、後から申請できる可能性があります。

健康保険を使ってしまった場合や、自費で治療している場合も、状況に応じた精算や費用請求を行うことで労災保険の手続きを進められることがあります。

ただし、「後から申請できる」という言葉だけを見て、さらに先送りするのはおすすめできません。

まず時効と事故の時系列を確認する

後から労災申請しようと思ったら、最初に事故の日付だけを確認するのではなく、事故から現在までの経過を整理してください。

労災を後から申請するときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

  • 事故や発症の日時と業務内容を整理する
  • 最初に医療機関を受診した日を確認する
  • 現在までの治療や休業の状況を確認する
  • 健康保険や自費で支払った金額と書類を整理する
  • 対象となる労災保険給付の時効を確認する
  • 会社の協力が得られなければ労働基準監督署へ相談する
  • 必要な請求書を提出できる部分から手続きを進める

特に休業(補償)等給付は、賃金を受けなかった日ごとに時効が進みます。

申請を先送りするほど、請求できる期間が少なくなる可能性があるため注意が必要です。

証拠も時間とともに集めにくくなる

時効以外にも、後からの申請には時間の問題があります。

事故から時間が経つほど、勤務記録、事故報告書、写真、メール、チャットなどを確認しにくくなります。

同僚の記憶も時間が経てば曖昧になりますし、目撃者がすでに退職して連絡先が分からないこともあります。

会社自体が移転したり廃業したりする可能性もあります。

「後から申請できる」ということと、「後回しにしても不利益がない」ということは全く別です。

後から申請することを決めたのであれば、事故当時の資料をできるだけ早く確保してください。

複数の問題は一つずつ切り分ける

実務では、後からの労災申請ほど複数の問題が重なっているケースが多いです。

「退職済み」「健康保険を使用」「会社が証明しない」「半年休業している」といった状況を見ると、手続きが非常に複雑に感じると思います。

しかし、それぞれは別の問題です。

困っていること まず確認すること
退職している 時効と事故当時の資料
会社が協力しない 事業主証明なしでの提出方法を労基署へ相談
健康保険を使った 医療機関で切り替え可能か確認
治療費を自費で払った 領収書と支払日を確認
長期間休業している 休業日ごとの時効を確認

このように分けると、次に何を確認すべきかが見えてきます。

会社とのトラブルがあっても請求手続きとは分ける

会社が労災を認めない、退職時にトラブルがあった、会社へ連絡したくないという事情がある場合もあるでしょう。

ただ、会社との人間関係の問題と、労災保険の請求権はできるだけ分けて考えたほうがよいです。

会社との間で事故について認識が違うのであれば、労働者は自分が把握している事実を説明し、会社は会社として把握している事実を説明します。

最終的に労災保険を支給するかどうかを判断するのは会社ではありません。

会社との話し合いが終わるまで申請を待ち続け、その間に時効を迎えることは避けたいところです。

労災保険の給付内容、請求期限、必要書類、健康保険との精算方法などは、個別の状況によって取扱いが異なることがあります。

正確な情報は公式サイトをご確認ください。

事故から長期間が経過している場合、会社と事実関係に争いがある場合、損害賠償請求も検討している場合などは判断が複雑になります。

最終的な判断は専門家にご相談ください。

労災を後から申請しようと考えているのであれば、まず事故の日付、受診した日、治療費を支払った日、休業した期間を確認してください。

そして、手元にある領収書、診療明細書、勤務表、事故当時のメールや写真などをまとめておきましょう。

会社の協力が得られない場合でも、その時点で申請を諦める必要はありません。

事業場を管轄する労働基準監督署へ現在の状況を説明し、必要な請求書や提出方法を確認してください。

私が特にお伝えしたいのは、 「今から申請できるか」を調べている時点で、さらに後回しにしないこと です。

請求できる可能性があるのであれば、間に合う部分から手続きを進めることが大切です。

-労災