こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
育休後に職場へ復帰せず退職した場合でも、雇用保険の受給要件を満たしていれば失業保険の基本手当を受けられる可能性があります。
ただし、育児のためすぐに働けない状態であれば、その時点では基本手当を受給できません。
この場合に重要になるのが、被保険者期間の確認、受給期間の延長、そして育児を理由とする特定理由離職者の取扱いです。
特に育休中は賃金が支払われない期間が長くなるため、単純に退職前2年間だけを見て受給資格がないと判断しないことが大切です。
また、育児休業給付金を受け取った後に退職すると返還しなければならないのか、不正受給にならないのかという相談も実際によくあります。
この記事では、育休後に退職する場合の失業保険について、退職から受給までの流れに沿って整理します。
- 育休後に退職した場合の失業手当の受給条件
- 育休中の被保険者期間と算定対象期間の考え方
- 特定理由離職者と受給期間延長の関係
- 育児休業給付金の返還や不正受給の注意点

育休後の退職と失業保険の受給条件
育休後の退職と失業保険を考えるときは、単に「育休を取った後に辞めたか」だけで判断することはできません。
まず、基本手当を受けるための失業状態にあるかを確認し、そのうえで被保険者期間や離職理由を確認します。
育休によって賃金が支払われなかった期間がある場合には、通常とは異なる期間の数え方も関係します。
育休後でも失業手当は受けられる
育児休業を取得した後、職場へ復帰せずそのまま退職したとしても、それだけを理由に失業手当の受給資格がなくなるわけではありません。
雇用保険の基本手当は、育児休業を取得したかどうかではなく、離職後に基本手当の受給要件を満たしているかによって判断されます。
そのため、育休明けに退職する場合も、原則として 被保険者期間の要件を満たし、働く意思と能力があり、求職活動を行える状態 になれば基本手当を受給できる可能性があります。
重要なポイント
育休後に退職したこと自体が、失業手当を受けられない理由になるわけではありません。
問題になるのは、退職後に働ける状態なのか、必要な被保険者期間があるのか、離職理由をどのように判断するのかという点です。
例えば、保育所に入れなかったため一度退職し、子どもの預け先が確保できた後に再就職を考えているケースがあります。
このような場合、退職直後は育児のため働けなくても、後から働ける状態になれば基本手当の受給手続きを進めることができます。
一方で、「会社を辞めれば自動的に失業手当がもらえる」という制度ではありません。
基本手当は離職そのものに対して支給される給付ではなく、再就職しようとしているにもかかわらず仕事に就けない期間を支える制度です。
したがって、育休後の退職では「辞めた後にもらえるか」だけではなく、 いつ働ける状態になるのか まで含めて考える必要があります。
育児中はすぐに失業手当を受給できない

基本手当を受けるには、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があり、実際に求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態であることが必要です。
そのため、子どもの預け先がなく、「しばらくは育児に専念するので働く予定はない」という状態では、基本手当を受給するための失業状態には当たりません。
育児のために会社を辞めた方から、「退職したのでハローワークへ行けばすぐ失業手当をもらえますか」と聞かれることがありますが、ここは実務上とても重要なポイントです。
退職しているだけでは受給できません
基本手当は、すぐに就職できる状態で求職活動を行う人を対象としています。
育児のため当面働けない場合は、基本手当をすぐ受け取るのではなく、受給期間の延長を検討します。
例えば、子どもが1歳になった時点で会社を退職したものの、保育所に入れず、少なくとも半年間は求職活動を行えないとします。
この半年間に基本手当を受けながら育児に専念するということは、原則としてできません。
そこで利用するのが後ほど説明する 受給期間の延長 です。
基本手当を受けられる期限を後ろへずらし、子どもの預け先が決まるなどして働ける状態になってから求職の申込みを行います。
つまり、育休後に退職する場合は「失業手当を受けられるか」と「今すぐ受けられるか」を分けて考える必要があります。
育休中の退職と失業保険の考え方
育休後の退職だけでなく、育児休業の途中で退職するケースもあります。
例えば、育休中に家庭の事情が変わった場合や、保育所への入所が難しく復職の見通しが立たなくなった場合などです。
育休の途中で退職しても、退職後の失業保険についての基本的な考え方は変わりません。
被保険者期間、離職理由、働ける状態かどうか、受給期間延長の必要性をそれぞれ確認します。
一方、育児休業給付金については、退職日との関係に注意が必要です。
2025年4月1日以降、育児休業給付の支給対象期間中に離職した場合の取扱いが変更され、要件を満たす場合には 原則として離職日までが支給対象 となる取扱いになっています。
育児休業給付金は在職中の育児休業に対する給付であり、基本手当は離職後の求職期間に対する給付です。
同じ雇用保険から支給されますが、目的と支給される時期が異なります。
そのため、育児休業給付金を受給した後に基本手当を受けること自体が、二重取りになるわけではありません。
在職中の育休期間と、退職後に実際に求職活動を始めた期間が別だからです。
会社側では、育休中に退職した場合、雇用保険の資格喪失手続きと離職証明書の作成に加え、育児休業給付金の申請対象期間を正確に区切る必要があります。
本人と会社で認識している退職日がずれないよう確認することも重要です。
被保険者期間は育休を含めて確認する

基本手当を受給するには、原則として離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上必要です。
ここでいう被保険者期間は、単純な勤続期間とは異なります。
離職日から1か月ごとに区切った期間について、原則として 賃金支払基礎日数が11日以上ある月 を1か月と数えます。
11日以上の月が必要数ない場合には、賃金支払基礎時間が80時間以上ある月を1か月として扱う仕組みもあります。
育休後の退職で問題になりやすいのは、育児休業中に会社から賃金が支払われていないケースです。
例えば1年間育児休業を取得してから退職した場合、退職前2年間のうち約1年間が無給の育休になっていることがあります。
育児休業中も雇用保険の被保険者資格そのものは続いていますが、 賃金が支払われていない月をそのまま被保険者期間の1か月として数えられるとは限りません。
| 確認項目 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 通常の離職 | 原則として離職前2年間に被保険者期間12か月以上 |
| 被保険者期間1か月 | 原則11日以上、または一定の場合80時間以上の賃金支払基礎がある月 |
| 育休中の無給期間 | 通常の被保険者期間として数えられない月が生じる |
| 特定理由離職者など | 一定の場合は離職前1年間に6か月以上でも受給資格を満たす |
このため、「会社には3年間勤めていたから大丈夫」と在籍年数だけで判断するのは避けたほうがよいでしょう。
もっとも、育児休業によって賃金を受けられなかった期間がある人が不利にならないよう、次に説明する算定対象期間の延長があります。
育休が長かったからといって、直ちに失業手当を受けられないと判断する必要はありません。
算定対象期間の延長で受給資格を確認する
育児休業によって被保険者期間が足りなく見える場合に重要なのが、 算定対象期間の延長 です。
離職前2年間の中に、疾病、負傷、出産、育児などによって引き続き30日以上賃金の支払いを受けられなかった期間がある場合、その期間を通常の算定対象期間に加えて被保険者期間を確認できます。
加算後の期間は最長4年間です。
したがって、育児休業で無給となっていた期間がある場合には、離職前2年間だけではなく、それより前の勤務期間までさかのぼって受給資格を確認できる場合があります。
算定対象期間の延長と受給期間の延長は別制度です
算定対象期間の延長は、基本手当を受けるために必要な被保険者期間を確認するための仕組みです。
一方、受給期間の延長は、退職後に基本手当を受けられる期限を後ろへ延ばす仕組みです。
この2つは名称が似ているため、相談の際にも非常に混同されやすいところです。
例えば、育休を1年取得して退職し、通常の離職前2年間だけを見ると被保険者期間が11か月しかないケースでも、育休による無給期間を考慮してさらに前まで算定対象期間を広げることで、12か月以上を確保できることがあります。
さらに、育児による退職が特定理由離職者に該当する場合には、通常の12か月ではなく、一定の場合に6か月以上の被保険者期間で受給資格を満たすことがあります。
育休後の退職では、 「育休中の月が数えられない=失業手当を受けられない」と単純に判断しないこと が重要です。
離職票や雇用保険の加入歴をもとに、ハローワークで実際の被保険者期間を確認してください。
育休後の退職と失業保険の手続き
受給資格を確認したら、次は離職理由と受給期間延長の手続きです。
育児のために退職した人は、一定の条件を満たすと特定理由離職者に該当する可能性があります。
一般的な自己都合退職とは給付制限や受給資格の考え方が異なるため、離職票の内容と退職後の手続きを順番に確認しましょう。
育児退職は特定理由離職者になりうる
妊娠、出産、育児などのために離職した人は、一定の条件を満たすと雇用保険上の 特定理由離職者 に該当する可能性があります。
特に育児の場合は、単に「子育てが大変だったので自己都合退職した」というだけではなく、育児によってすぐに職業に就くことができず、雇用保険の受給期間延長措置を受けていることが重要になります。
対象となる育児は、原則として3歳未満の子の養育です。
特定理由離職者については、一般的な自己都合退職とは異なる取扱いがあります。
代表的なのが、一定の場合に基本手当の受給資格が 離職前1年間に被保険者期間6か月以上 へ緩和されることと、正当な理由のない自己都合退職に対する給付制限が課されないことです。
特定理由離職者全体の対象範囲やメリットについては、 特定理由離職者の対象範囲とメリット でも詳しく整理しています。
会社が決めた離職理由だけで確定するわけではありません
会社は離職証明書に離職理由を記載しますが、雇用保険上の最終的な離職理由は、本人と会社双方の主張や資料を確認したうえでハローワークが判断します。
そのため、実際に育児が退職理由なのであれば、退職を申し出る際にその事情を会社へ伝えておくことが大切です。
保育所に入れなかったことなど、退職に至った事情を確認できる資料があれば保管しておきましょう。
会社側も、本人から育児を理由とする退職の申出を受けているのであれば、形式的に「本人から退職届が出たので通常の自己都合」と処理するのではなく、離職証明書に実際の経緯を反映させる必要があります。
給付制限なしで受給できる条件

特定理由離職者に該当した場合、正当な理由のない一般的な自己都合退職に設けられる離職理由による給付制限は原則としてありません。
2025年4月1日以降に正当な理由なく自己都合退職した場合には、原則として1か月の給付制限がありますが、育児による退職が特定理由離職者として認められれば、この給付制限を受けない取扱いになります。
ただし、 給付制限がないことと、7日間の待期がないことは別です。
| 項目 | 一般的な自己都合退職 | 育児による特定理由離職者 |
|---|---|---|
| 7日間の待期 | あり | あり |
| 離職理由による給付制限 | 原則あり | 原則なし |
| 被保険者期間 | 原則2年間に12か月以上 | 一定の場合1年間に6か月以上 |
したがって、「特定理由離職者になればハローワークで手続きをした翌日から失業手当が振り込まれる」というわけではありません。
まず求職の申込みと受給資格の決定を受け、待期を経たうえで、失業認定によって実際の支給対象日数が確定していきます。
一般的な自己都合退職の給付制限については、 自己都合退職の失業手当と給付制限 で詳しく解説しています。
また、育児のため退職したからといって自動的に特定理由離職者になるわけではありません。
受給期間延長措置を受けていることなど具体的な条件が関係するため、離職理由についてはハローワークで確認してください。
受給期間延長は早めの申請が重要
育休後の退職で最も重要な手続きの一つが、基本手当の 受給期間延長 です。
基本手当を受けられる受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。
その1年間を過ぎると、基本手当の所定給付日数が残っていても、その残りを受け取れなくなることがあります。
しかし、妊娠、出産、3歳未満の子の育児、病気やけが、親族の介護などにより、引き続き30日以上職業に就くことができない場合には、働けない日数を受給期間へ加算できます。
延長できる期間は原則として最長3年間で、本来の受給期間と合わせて 最大4年間 となります。
受給期間を延長しても、失業手当をもらえる日数そのものが増えるわけではありません。
延びるのは「基本手当を受け取ることができる期限」です。
例えば所定給付日数が90日なら、延長したから180日になるという意味ではありません。
受給期間延長の申請は、働けない状態が30日以上続いた場合に行います。
現在は、引き続き30日以上職業に就くことができなくなった日の翌日以降、延長後の受給期間の最後の日まで申請できる取扱いです。
ただし、「最後の日まで申請できるから後でいい」と考えるのはおすすめしません。
申請が遅くなると、受給期間を延長しても所定給付日数のすべてを受給できなくなる可能性があります。
育児で当面働けないことが明らかであれば、早めに管轄のハローワークへ相談するのが実務上安全です。
退職後から受給までの基本的な流れ
| 順番 | 本人が行うこと |
|---|---|
| 退職 | 会社から離職票を受け取る |
| 育児で働けない期間 | 必要に応じて受給期間延長を申請する |
| 働ける状態になった後 | ハローワークで求職の申込みを行う |
| 受給資格決定後 | 待期を経て失業認定を受ける |
| 受給中 | 求職活動を行い、原則として定期的に失業認定を受ける |
受給期間延長の必要書類や具体的な申請方法は個別事情によって異なることがあります。
制度の詳細は ハローワークインターネットサービスの基本手当の案内 など、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
失業手当の金額と日数はどう決まる
育休後に退職すると、「結局いくら失業手当をもらえるのか」が気になるところだと思います。
基本手当の金額は、原則として離職前の一定期間に支払われた賃金をもとに計算した賃金日額から基本手当日額を算出し、実際に認定された失業日数に応じて支給される仕組みです。
ここで注意したいのが、育児休業中は賃金が支払われていないことが多い点です。
単純に「育休中の給与が0円だったので失業手当もほとんど0円になる」という計算をするわけではありません。
離職票に記載される賃金や、基本手当の算定に用いる期間について個別に確認されます。
また、所定給付日数は離職理由、年齢、雇用保険の被保険者期間などによって異なります。
育児などの正当な理由によって退職した特定理由離職者の場合、給付制限については一般的な自己都合退職と異なる一方、所定給付日数については原則として一般の離職者と同じ体系で考えるケースがあります。
| 被保険者期間 | 一般的な所定給付日数の目安 |
|---|---|
| 10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
上記はあくまで一般的な目安です。
離職理由や年齢、雇用保険の加入状況によって扱いが変わる場合があります。
また、基本手当日額には年度ごとの上限額・下限額があり、制度改正によって金額が変わることがあります。
そのため、ネット上で見つけた過去の金額だけを使って家計を組むのは避けたほうがよいでしょう。
基本手当の日額や所定給付日数は、離職日、年齢、被保険者期間、離職理由などによって異なります。
数値はあくまで一般的な目安として考え、実際の金額はハローワークが行う受給資格決定や受給資格者証などで確認してください。
育児休業給付金の返還と不正受給

育休後に退職する方から特に多いのが、「育児休業給付金をもらったのに復職しなければ、全部返さなければならないのでしょうか」という相談です。
育児休業を開始した時点では職場復帰する予定で、要件を満たして適正に育児休業給付金を受給していたものの、その後の事情によって退職することになった場合には、 すでに適正に支給された育児休業給付金を、復職しなかったという理由だけで当然に返還するものではありません。
例えば、育休開始時には復職する予定だったものの、保育所へ入れなかった、家族の状況が変わった、育児と勤務の両立が困難になったなど、育休取得後に事情が変化することはあります。
一方で、育児休業給付は職場復帰を前提とする制度です。
育児休業を開始する時点ですでに退職することを決めており、職場へ復帰する意思がないにもかかわらず給付を受けることは問題になります。
最初から退職する予定だったケースには注意が必要です
「退職することは決めているけれど、育休期間が終わるまで籍だけ置いて育児休業給付金を受け取りたい」という場合は、育児休業給付の前提そのものに関わります。
不正受給と判断されれば、支給額の返還などを求められる可能性があります。
重要なのは、結果として復職しなかったことだけではなく、 育児休業を取得し給付を受けていた時点で、職場復帰の意思があったか という点です。
育児休業給付金の不正受給の具体例や発覚後の取扱いは、 育児休業給付金の不正受給事例と注意点 で詳しく解説しています。
また、2025年4月1日以降、育児休業給付を受給中にやむを得ず離職することとなった場合には、一定の要件のもと離職日まで支給対象となるよう取扱いが変更されています。
育児休業給付は制度改正も多いため、退職日と支給対象期間の具体的な関係については、 厚生労働省の育児休業給付の案内 も確認してください。
特に、退職時期を決めた時点と育児休業給付金の申請対象期間が重なっている場合には自己判断しないほうが安全です。
育休後の退職と失業保険の要点
育休後に職場へ復帰せず退職した場合でも、要件を満たせば失業保険の基本手当を受給することは可能です。
ただし、育児のため当面働けない場合には、その時点では基本手当を受給できません。
まず受給期間の延長を行い、子どもの預け先が決まるなどして働ける状態になってから求職の申込みを行うのが基本的な流れです。
- 育休後に退職しても基本手当の受給資格が当然になくなるわけではない
- 育児で働けない期間は基本手当を受給せず受給期間延長を検討する
- 育休中の無給期間がある場合は算定対象期間を最長4年間まで確認できる場合がある
- 育児による退職で受給期間延長措置を受けると特定理由離職者に該当する可能性がある
- 特定理由離職者には給付制限がなくても7日間の待期はある
- 適正に受給した育児休業給付金は復職しなかっただけで当然に返還するものではない
実務上は、 被保険者期間の確認、算定対象期間の延長、受給期間の延長、離職理由の判断 をそれぞれ分けて考えると整理しやすくなります。
また、会社から交付された離職票の離職理由が実際の事情と異なっている場合には、そのままにせずハローワークで申し出てください。
雇用保険上の離職理由は、会社の記載だけで一方的に確定するものではありません。
育休後の退職は、退職日、育休期間、賃金の支払状況、子どもの年齢、現在働ける状態かどうかによって取扱いが変わります。
制度上の金額や期間も改正される可能性がありますので、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
個別の離職理由や育児休業給付金の受給状況によって判断が分かれるケースもあります。
ご自身の状況について判断に迷う場合には、ハローワークや社会保険労務士など、最終的な判断は専門家にご相談ください。