こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
育児休業給付金の不正受給とは、偽りその他不正の行為によって、本来受けられない給付を受けたり、受けようとしたりすることをいいます。
ただし、申請ミスや理解不足があったからといって、すぐに悪質な不正受給と決めつけられるわけではありません。
実務では、意図的な虚偽申告なのか、うっかりした申告漏れなのかを分けて考えることがとても大切です。
この記事では、育児休業給付金の不正受給事例をもとに、どのようなケースが問題になりやすいのか、返還や罰則はどう考えるのか、気づいたときにどう対応すべきかを整理します。
- 育児休業給付金の不正受給にあたる行為
- 副業や退職、賃金申告で注意すべき点
- 返還命令や納付命令などのペナルティ
- 申請ミスに気づいたときの実務対応
育児休業給付金の制度全体(条件・金額・手続き)については雇用保険の育児休業給付金とはで詳しく解説しています。

育児休業給付金の不正受給事例

まずは、育児休業給付金の不正受給がどのようなものかを整理します。
育休中の方が不安に感じやすい副業、退職、復職予定、賃金申告などは、実際によく相談を受けるテーマです。
大事なのは、 悪意ある虚偽申告 と、 やむを得ない事情や単純な申請ミス を分けて考えることです。
ここを混同すると、必要以上に不安になったり、逆に本当に危ない行為を軽く見てしまったりします。
育児休業給付金は、育児中の生活を支える重要な制度です。
その一方で、雇用保険から支給される公的な給付である以上、申請内容の正確性が強く求められます。
本人だけでなく、会社の担当者、給与計算担当者、社会保険労務士など、関係者が複数いる手続きだからこそ、どこかで認識がずれるとトラブルになりやすいところです。
不正受給の定義と返還義務

育児休業給付金の不正受給とは、簡単にいうと、事実と異なる内容を申告して、本来受けられない給付を受けることです。
たとえば、実際には働いて賃金を受け取っているのに、支給申請書では就業なし、賃金なしとして申告するようなケースが典型です。
育児休業給付金は、雇用保険から支給される給付です。
そのため、支給を受けるためには、育児休業中であること、一定の受給要件を満たしていること、休業中の就業日数や賃金額が正しく申告されていることが前提になります。
単に「育休を取っているから当然にもらえる」という制度ではなく、申請ごとに休業実態や賃金の状況を確認する仕組みになっています。
ここで注意したいのは、 故意ではない申請ミスでも、結果として多く受け取っていた分は返還が必要になることがある という点です。
一方で、単なる記載ミスや確認不足と、意図的に虚偽の内容を申告した不正受給では、扱いの重さが変わります。
実務上も、本人が何を認識していたのか、会社にどのように伝えていたのか、申請書類にどのような記載があったのかを分けて確認します。
不正受給と単なるミスは分けて考える
たとえば、会社の担当者が賃金額を誤って入力した、育休終了日と復職日を取り違えた、賞与や手当の扱いを誤解していたというケースでは、まずは過払い分の返還や訂正が中心になります。
もちろん、結果として多く受け取っていれば返還は必要になり得ますが、それだけで直ちに悪質な不正と決めつけるのは早いです。
一方で、就労している事実を隠した、退職しているのに在職中と偽った、会社にもハローワークにも事実を伝えず申請を続けたという場合は、話が変わります。
これは単なるミスではなく、制度上の要件を満たしているように見せる行為だからです。
育児休業給付金の不正受給事例を考えるうえでは、ここが一番大切な線引きかなと思います。
実務上のポイント
- 事実と異なる申告で給付を受けると返還対象になる可能性がある
- 故意の虚偽申告は不正受給として重く扱われる
- 単純な申請ミスでも過払い分の返還は必要になる場合がある
- 不安がある場合は放置せず、会社やハローワークに確認する
育児休業給付金の基本要件は、休業前の雇用保険加入状況や賃金支払基礎日数などによって判断されます。
妊娠中の休職などが絡む場合は、受給要件の見方も少し複雑になりますので、関連する基本要件については、 妊娠中ずっと休職でも育休手当は出るかを解説した記事 も参考になります。
なお、不正受給の取扱いについては、返還命令や納付命令、事業主等の連帯責任が問題になります。
制度の根拠を確認したい場合は、厚生労働省の資料も確認しておくとよいでしょう(出典: 厚生労働省「不正受給について」 )。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
不正受給がバレる主な理由
育児休業給付金の不正受給は、本人が黙っていれば分からないというものではありません。
会社の賃金台帳、出勤簿、雇用保険の届出内容、税務関係の情報、ハローワークへの申請書類など、複数の記録が関係します。
育児休業給付金は、本人の自己申告だけで支給されるわけではなく、会社が休業期間や賃金支払いの状況を証明する仕組みになっています。
たとえば、育休中に会社で勤務していた記録がある、他の事業所で働いていた形跡がある、退職日と給付対象期間が合わない、会社から賃金が支払われているのに申請書には記載がない、といった場合は、後から確認される可能性があります。
給与計算データ、出勤簿、雇用保険の資格喪失届、離職票関係の情報などは、別々に見えても最終的には整合性が問われます。
また、事業主側が提出する証明内容と、本人の実態が合っていない場合も問題になります。
育児休業給付金は本人だけで完結する手続きではなく、会社が証明する部分もあるため、会社側の確認不足がトラブルにつながることもあります。
中小企業では、社長や総務担当者が「本人がそう言っているから」と処理してしまうこともありますが、実務上は書類と実態の確認が欠かせません。
発覚しやすい典型パターン
不正受給が発覚しやすいのは、申請内容と客観資料にズレがあるときです。
たとえば、育休中なのに給与台帳に通常の賃金が計上されている、出勤簿に勤務日がある、退職手続きが済んでいるのに育休給付の申請が続いている、復職日以降の期間まで給付対象として申請されている、といった場合です。
副業やアルバイトの場合も、勤務先が変われば絶対に分からないというものではありません。
雇用保険の加入状況、給与支払い、住民税や所得税の情報、本人や会社への確認など、状況によって確認のきっかけは生じます。
大切なのは、「バレるかどうか」ではなく、申請内容が事実と合っているかどうかです。
バレるかどうかで判断しないことが大切です
不正受給のリスクは、単に発覚するかどうかの問題ではありません。
後から返還命令や納付命令を受けると、家計への影響が大きくなります。
疑問がある時点で確認し、正しい内容に直すことが結果的に一番安全です。
| 確認されやすい資料 | 見られるポイント | 問題になりやすいズレ |
|---|---|---|
| 賃金台帳 | 育休中の賃金支払い | 賃金ありなのに申請書で賃金なし |
| 出勤簿 | 勤務日数や勤務時間 | 就業しているのに休業扱い |
| 雇用保険の届出 | 資格喪失日や在職状況 | 退職後も在職中として申請 |
| 支給申請書 | 就業日数や賃金額 | 実態と異なる記載 |
実務では、従業員側が「この程度なら申告しなくてもよいと思っていた」と話すケースもあります。
しかし、育児休業給付金では、休業中の就業や賃金の有無が給付額に直接影響します。
自己判断で省略せず、申請書の内容に合わせて正確に確認することが必要です。
会社側も、本人に確認しただけで終わらせず、賃金台帳や出勤簿と照らし合わせることが大切です。
復職意思がない場合の注意点
育児休業給付金は、育児休業を取得し、その後に職場へ復帰することを前提とした制度です。
そのため、最初から復職する意思がないにもかかわらず、在職中であるかのように育休を取得し、給付を受ける場合は、不正受給として問題になる可能性があります。
制度の趣旨としては、育児のために一時的に働けない期間の生活を支え、雇用継続を後押しするものだからです。
たとえば、育休開始前から退職することを決めていた、復職するつもりがまったくないのに会社へは復職予定と説明していた、退職予定を隠して申請を続けた、といったケースは注意が必要です。
特に、退職日や転職予定が具体的に決まっているにもかかわらず、会社には「復職します」と伝え、給付を受け続けるような場合は、単なる気持ちの変化とは見られにくいです。
一方で、育休開始時点では復職するつもりだったものの、その後に保育園が決まらない、体調が悪化した、家庭の事情が変わったなどの理由で退職に至ることもあります。
このような場合まで、直ちに不正受給になるわけではありません。
実際によくある相談です。
小さなお子さんの体調、保育園の状況、家族の転勤、親族の介護など、育休開始時には想定していなかった事情が出てくることは珍しくありません。
問題になるのは最初から復職意思がないケース
重要なのは、育休開始時点の意思と、その後の事情変更です。
最初は復職する予定だったけれど、育休中にやむを得ない事情が生じて退職することになった場合と、最初から復職する気がなかったのに育休給付を受けるためだけに在職を続けた場合では、意味が違います。
ただし、本人の内心だけで判断されるわけではありません。
会社とのやり取り、退職相談の時期、転職活動の状況、退職届の提出時期、支給申請の内容などから総合的に見られます。
そのため、退職の可能性が出てきた場合は、曖昧なまま申請を続けるのではなく、会社に状況を伝え、いつまでが給付対象になるのかを確認することが必要です。
復職しなかったら必ず返還、ではありません
育休開始時点で復職意思があったか、その後の事情変更があったか、退職が決まった時点で適切に申告したかが重要です。
退職が決まった後も、在職しているかのように申請を続けることは避けなければなりません。
中小企業では、育休復帰の時期や勤務条件について、会社と本人の認識がずれていることがあります。
たとえば、会社はフルタイム復帰を前提にしているが、本人は時短勤務でなければ難しいと考えている。
会社は復職日を決めたつもりだが、本人は保育園の結果待ちだと思っている。
このようなズレがあると、育児休業給付金の申請にも影響します。
復職できるか迷いが出た段階で、会社の担当者に状況を伝え、ハローワークへの申請に影響があるかを確認しておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
感情的に「もう戻れないかも」と思っている段階と、退職を正式に決めた段階は分けて整理するとよいですよ。
育休中の副業やバイトの扱い

育休中の副業やアルバイトは、すべてが直ちに不正受給になるわけではありません。
ただし、育児休業給付金の支給申請では、休業中の就業日数や賃金の有無を確認する必要があります。
そのため、働いた事実や収入を申告しないまま給付を受けると、不正受給と判断される可能性があります。
特に注意したいのは、他社でアルバイトをした場合や、業務委託、副業収入がある場合です。
雇用されて働くのか、個人として仕事を受けるのかによって確認すべき点は変わりますが、いずれにしても、育休中の就労実態や収入が給付に影響する可能性があります。
会社の就業規則で副業が禁止または許可制になっている場合は、給付金とは別に、会社のルール違反の問題も出てきます。
育休中は、育児のために休業している期間です。
したがって、本来の勤務先で働いていないとしても、別の場所で継続的に働いている場合には、給付の前提と整合するかを確認する必要があります。
たとえば、週に何日もアルバイトをしている、育休前と同じくらいの時間働いている、まとまった収入を得ているという場合は、育児休業中といえるのかという点から確認が必要になります。
少額や短時間でも申告不要とは限らない
実務で多いのは、「少しだけだから大丈夫だと思った」という相談です。
数時間の手伝い、知人の仕事のサポート、在宅での副業、短期のアルバイトなど、本人としては軽い気持ちでも、支給申請上は就業日数や賃金の確認が必要になることがあります。
ポイントは、金額が大きいか小さいかだけではありません。
育児休業給付金は、休業中の就業状況によって支給額や支給可否が変わる制度です。
したがって、就業日数、就業時間、賃金額、仕事の継続性、勤務先との関係などを総合的に見て確認する必要があります。
副業収入がある場合は、税金の申告だけでなく、育児休業給付金の申請内容にも影響しないかを確認してください。
副業で特に注意したいケース
- 他社でアルバイトをして賃金を受け取った
- 勤務日数や勤務時間を申告していない
- 会社に副業を伝えず、支給申請書にも反映していない
- 育休中なのに実態として通常勤務に近い働き方をしている
副業前に確認したい実務項目
- 勤務先の就業規則で副業が認められているか
- 副業の勤務日数や勤務時間を記録できるか
- 報酬や賃金の支払日、金額を把握できるか
- 育児休業給付金の支給申請書に反映が必要か
- 育児に支障がない働き方として説明できるか
実務では、「数日だけ手伝った」「短時間だから関係ないと思った」という相談もあります。
しかし、問題は本人の感覚ではなく、給付の申請内容として申告が必要かどうかです。
副業やバイトをする場合は、事前に会社の就業規則と育児休業給付金の申請上の扱いを確認してください。
迷う場合は、会社の担当者に副業の内容、日数、報酬見込みを具体的に伝えたうえで、ハローワークへの確認も含めて進めるのが安全です。
復職済みなのに申請するケース
実際には職場に復帰しているのに、育児休業を継続しているものとして申請を続けるケースは、典型的な不正受給事例の一つです。
育児休業給付金は、育児休業中であることを前提に支給されるため、復職した後の期間については原則として給付の対象ではありません。
復職した日を境に、給付対象期間の考え方が変わるということです。
たとえば、月の途中で復職したにもかかわらず、その後も休業しているものとして申請した場合、復職日以降の扱いを正しく確認する必要があります。
申請対象期間と実際の勤務実態がずれていると、過払いが発生する可能性があります。
復職日が1日違うだけでも、申請期間や賃金の扱いに影響することがあるため、日付の確認は非常に重要です。
会社側でも、復職日、出勤日、賃金支払いの有無を正しく管理することが重要です。
特に、短時間勤務で復帰した場合や、慣らし保育に合わせて一部だけ勤務した場合などは、育休終了日と就業実態の整理があいまいになりやすいです。
本人は「まだ本格復帰ではない」と思っていても、制度上は就労再開として扱われる場面があります。
慣らし保育や時短復帰の時期は要注意
復職まわりで迷いやすいのが、慣らし保育の時期です。
保育園に入園してすぐに通常勤務へ戻れるとは限らず、最初の数日は短時間保育になることもあります。
そのため、会社と相談して有給休暇を使う、一部在宅で対応する、短時間勤務から始めるといったケースがあります。
このとき、育児休業がいつ終了したのか、実際に勤務した日はいつなのか、賃金はどのように支払われるのかを整理しておかないと、育児休業給付金の最後の申請でズレが生じます。
本人としては「まだ完全に復帰していない」という感覚でも、申請上は勤務日や賃金が発生していれば記載が必要になることがあります。
復職時に確認したい項目
- 正式な育児休業終了日
- 実際に勤務を再開した日
- 復職月に支払われる賃金の内容
- 最後の支給申請の対象期間
| 場面 | 確認したいこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 月途中で復職 | 復職日と支給対象期間 | 復職日以降を休業として申請しない |
| 時短勤務で復帰 | 勤務日数と賃金額 | 通常勤務でなくても就労実態を確認する |
| 慣らし保育中 | 休業、有休、勤務の区分 | 会社の勤怠処理と申請内容を合わせる |
| 在宅で一部対応 | 業務時間と賃金発生の有無 | 連絡だけか就労かを区別する |
復職の前後は、本人も会社も手続きが重なります。
社会保険料の免除終了、勤務条件の変更、時短勤務の開始など、確認すべき事項が多くなります。
給付金の申請だけを切り離して考えず、復職日を基準に全体を整理することが大切です。
会社の担当者としては、復職日を決めたら、給与計算、勤怠管理、育児休業給付金の最終申請まで一連で確認しておくと安全です。
退職後も受給した場合のリスク
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者として雇用が継続していることを前提とする給付です。
そのため、退職しているにもかかわらず、在職中であるかのように申請を続けると、不正受給として問題になる可能性があります。
退職すると、育児休業をしている状態ではなくなるため、退職日以降の給付をどう扱うかは慎重に確認しなければなりません。
特に危険なのは、退職日が決まっているのに会社やハローワークに伝えず、育休が続いているものとして申請をするケースです。
退職後は、原則として育児休業給付金の受給資格を失うため、退職日以降の申請には慎重な確認が必要です。
会社が退職の事実を把握しているのに申請を続ける場合は、会社側の責任も問題になります。
ただし、育休中や育休終了後に復職できず、結果として退職することになった場合でも、そのことだけで直ちに不正受給になるわけではありません。
育休開始時点で復職意思があり、その後にやむを得ない事情で退職に至ったのであれば、問題の中心は、退職が決まった後の申告が適切だったかどうかです。
ここを必要以上に怖がっている方は多いです。
退職予定と退職決定は分ける
育休中に「復職できるか分からない」と悩むことはあります。
保育園が決まらない、子どもの体調が安定しない、家族の協力が得られない、職場の勤務時間と保育時間が合わないなど、現実的な問題が出てくるからです。
この段階では、まだ退職が決定しているとは限りません。
一方で、会社へ退職の意思を正式に伝えた、退職日が決まった、退職届を提出した、転職先への入社日が決まったという段階になれば、育児休業給付金の申請にも影響します。
退職が決まっているのに、その後も何もなかったように申請を続けるのは危険です。
退職が決まったら早めに確認しましょう
退職日、最後に受けられる可能性がある給付対象期間、会社の申請状況を確認してください。
自分では判断しにくい場合は、会社の担当者またはハローワークに相談するのが安全です。
退職まわりで避けたい対応
- 退職日が決まっているのに会社へ伝えない
- 退職後も在職中として支給申請を続ける
- 転職先が決まっているのに復職予定として説明する
- 会社と本人で退職日や育休終了日の認識が違う
従業員側から見ると、退職を言い出しにくい事情もあると思います。
育休を取らせてもらった会社に申し訳ない、復職できないと言いにくい、保育園の結果が出るまで判断できない、という気持ちも分かります。
しかし、給付金の申請は公的な手続きです。
後から返還や説明を求められる負担を考えると、退職の可能性が具体的になった段階で、早めに整理しておくことをおすすめします。
育児休業給付金の不正受給事例と対処法

ここからは、実際に問題になりやすい申告漏れや育休延長のケース、罰則、返還通知を受けたときの対応を確認します。
育児休業給付金の不正受給事例は、悪質な虚偽申告だけでなく、制度を正しく理解していなかったことから発生する場合もあります。
不安なときほど、自己判断で放置しないことが重要です。
早めに確認し、必要に応じて訂正することで、問題が大きくなる前に対応できる場合があります。
ここでは、従業員本人の注意点だけでなく、会社側が確認すべき実務ポイントにも触れていきます。
育休中の賃金申告漏れ

育休中に会社から賃金が支払われた場合、その内容は育児休業給付金の支給申請で確認する必要があります。
育児休業給付金は、休業中に支払われた賃金額によって、給付額が減額されたり、不支給となったりする場合があるためです。
つまり、育休中に賃金があるかどうかは、単なる参考情報ではなく、給付額に関係する重要な情報です。
たとえば、育休中に一部勤務をした、引き継ぎ対応をして賃金が発生した、会社から手当や給与の一部が支払われたにもかかわらず、申請書では賃金なしと記載した場合は注意が必要です。
実際に支払われた金額と申請内容が合っていなければ、後から返還を求められる可能性があります。
本人が「会社がやっているから大丈夫」と思っていても、申請内容と実態が違えば問題になります。
ここで混同しやすいのが、会社との連絡そのものです。
育児や体調、復職時期の確認、簡単な引き継ぎ連絡をしただけで、すぐに不正受給になるわけではありません。
問題になるのは、 就労実態があり、賃金が発生しているのに申告しないこと です。
育休中でも、会社から連絡が来ること自体はあります。
大事なのは、それが業務としての労働なのか、単なる事務連絡なのかという区別です。
連絡と就労の違いを整理する
たとえば、復職予定日の確認、保育園の入園状況の連絡、社会保険料や住民税の説明、会社貸与品の確認などは、通常、それだけで就労とはいえないことが多いです。
一方で、取引先対応、資料作成、会議参加、部下への業務指示、売上処理、給与計算など、会社の業務として成果を出す活動をしている場合は、就労実態として確認が必要です。
また、賃金が発生していない場合でも、就業日数として確認が必要になることがあります。
逆に、賃金が支払われている場合は、その支払いが何に対するものなのかを確認しなければなりません。
給与、手当、賞与、精算金、過去勤務分の支払いなど、名目だけで判断せず、支給対象期間との関係を見ます。
賃金申告で確認すること
- 育休中に勤務した日があるか
- 勤務に対して賃金が支払われたか
- 手当や給与の一部が支給されていないか
- 支給申請書の記載と賃金台帳が一致しているか
| 会社との関わり | 就労性の確認 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 復職日の相談 | 通常は就労とは限らない | 賃金発生の有無を確認 |
| 業務資料の作成 | 就労にあたる可能性がある | 作業日や時間を記録 |
| 会議参加 | 業務参加として確認が必要 | 賃金支払いの有無を確認 |
| 過去勤務分の給与支給 | 支給対象期間との関係を確認 | いつの労働に対する賃金か整理 |
中小企業では、給与計算担当者と育休給付の申請担当者が別で、情報共有が十分でないこともあります。
本人としても、会社から何か支払いがあった場合は、育児休業給付金の申請に影響しないか確認しておくと安心です。
会社側では、支給申請前に賃金台帳と勤怠データを確認するだけでも、申告漏れを防ぎやすくなります。
延長目的の落選狙い申請
育児休業給付金は、保育所等に入れないなどの事情がある場合、一定の要件のもとで支給対象期間を延長できる制度です。
一方で、延長を目的として、あえて入所できないような申込みをする落選狙いが問題視されてきました。
育休延長は、保育所に入れず復職できない方を支えるための仕組みであり、延長そのものを目的に形式的な申込みをする制度ではありません。
たとえば、入所が難しい人気園だけに申し込む、自宅や勤務先から通うことが現実的でない遠方の園だけを希望する、申込書で入所を希望しない意思が分かるような記載をする、といったケースです。
こうした申込みは、保育所に入れなかったという延長要件を満たすための形式だけを整えたものと見られる可能性があります。
2025年4月からは、保育所等に入れなかったことを理由とする育児休業給付金の支給対象期間延長手続きが見直され、入所保留通知書などに加えて、保育所等の利用申込書の写し等の提出が求められるようになっています。
延長手続きの必要書類については、厚生労働省の案内でも示されています(出典: 厚生労働省「育児休業給付金の支給対象期間延長手続き」 )。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
形式より実態が見られる
落選狙いの問題で大切なのは、単に保留通知があるかどうかだけではなく、保育所等への申込みが復職のために行われたものといえるかどうかです。
保育所に入れなかったという結果だけではなく、申込内容、希望園、通所可能性、入所希望日、復職予定との整合性が確認されます。
もちろん、人気園を希望すること自体が直ちに不正というわけではありません。
兄弟姉妹が通っている、通勤経路上にある、家庭の事情で希望園が限られるなど、合理的な理由がある場合もあります。
問題になるのは、客観的に見て入所する意思が乏しい、または通うことが現実的でない申込みをしている場合です。
落選狙いと見られやすい申込み
- 通うことが難しい園だけを希望している
- 入所可能性が極端に低い園だけに申し込んでいる
- 申込書に入所を希望しない趣旨の記載がある
- 復職意思と申込内容が整合していない
延長申請前に整理したいこと
- 復職予定日と入所希望日が整合しているか
- 希望園が現実的に通える範囲にあるか
- 申込書の記載に入所を希望しない趣旨がないか
- 会社へ延長理由を正確に説明できるか
- 自治体から受け取った書類を保管しているか
保育園の申込みは自治体ごとに運用が異なり、家庭事情もさまざまです。
だからこそ、延長手続きでは、形式だけでなく実態として保育の必要性があるか、復職する意思があるかが見られます。
迷う場合は、市区町村、会社、ハローワークに早めに確認してください。
特に2025年4月以降に延長の可能性がある方は、以前と同じ感覚で手続きを進めると書類不足になることがあります。
申請ミスと不正受給の違い
育児休業給付金の相談で多いのが、「申請内容を間違えていたら不正受給になるのか」という不安です。
結論として、申請ミスがあったからといって、すぐに悪質な不正受給と扱われるわけではありません。
ここは安心してよい部分です。
ただし、ミスだから何もしなくてよいという意味ではありません。
たとえば、会社側の記載ミス、賃金額の入力誤り、対象期間の確認不足、退職日や復職日の連絡行き違いなどは、実務上起こり得ます。
このような場合、まずは誤りを訂正し、必要に応じて過払い分を返還する対応になります。
本人が意図的に虚偽の説明をしていない場合でも、結果として多く支給されていれば、過払い分の返還は避けられないことがあります。
一方で、働いていた事実を隠す、退職しているのに在職中と偽る、賃金を受け取っているのに支払いなしと申告するなど、事実と違うことを分かったうえで申請する場合は、不正受給と判断されるリスクが高くなります。
ポイントは、誤りの内容だけでなく、誤りが分かった後にどう対応したかです。
気づいた後に放置しない
申請ミスに気づいたとき、最も避けたいのは「今さら言うと怒られそうだから、そのままにしておく」という対応です。
制度上の誤りは、時間が経つほど説明が難しくなります。
申請ミスの段階で早めに相談すれば訂正で済む可能性があるものも、放置した結果、意図的に隠していたのではないかと見られることがあります。
たとえば、育休中に数日働いたことを後から思い出した、会社から支払われた手当が申請書に反映されていなかった、退職予定が早まったのに申請内容がそのままになっていた、という場合は、まず会社の担当者に具体的な事実を伝えてください。
そのうえで、必要に応じてハローワークへ確認する流れになります。
| 区分 | 具体例 | 実務上の考え方 |
|---|---|---|
| 申請ミス | 対象期間や賃金額の記載誤り | 訂正や返還で対応することが多い |
| 申告漏れ | 賃金や就業日数の確認不足 | 過払いがあれば返還対象になり得る |
| 不正受給 | 就労や退職を隠して申請 | 返還命令や納付命令の対象になり得る |
判断に迷うときの考え方
申請ミスか不正受給かは、形式的な言葉だけで決まるものではありません。
事実と違う内容になった理由、本人や会社の認識、訂正の時期、説明の一貫性などを見て判断されます。
だからこそ、記録を残しながら早めに相談することが大切です。
実務では、ミスに気づいた後の対応も重要です。
誤りに気づいたのに放置したり、説明を求められても事実を隠したりすると、印象が悪くなります。
早めに申し出て、訂正に協力する姿勢が大切です。
会社側も、本人を責める前に、どこで誤りが起きたのか、賃金台帳や出勤簿と支給申請書のどこが違うのかを落ち着いて確認する必要があります。
不正受給の罰則と連帯責任

育児休業給付金の不正受給と認定された場合、まず不正に受けた給付金の全額返還を求められます。
これが返還命令です。
さらに、悪質と判断される場合には、不正に受給した金額の最大2倍に相当する金額の納付を命じられることがあります。
これが納付命令です。
家計への影響という意味では、非常に重い処分です。
よく「3倍返還」と表現されることがありますが、正確には、 返還1倍と、最大2倍の納付命令を合わせて、合計最大3倍になる可能性がある という関係です。
単に3倍を返すという説明では、内訳が分かりにくくなります。
たとえば、不正に受けた給付金が100万円であれば、返還命令として100万円、納付命令として最大200万円、合計で最大300万円という考え方です。
また、不正のあった日以降の給付が停止される可能性もあります。
対象期間の返還が完了するまで、その後の給付が止まる場合もあるため、家計への影響は小さくありません。
悪質な場合には、刑事事件として問題になる可能性もあります。
公的給付を不正に受ける行為は、単なる事務ミスとは違い、重く扱われることがあります。
会社や関与者の責任も問題になる
会社側にも注意点があります。
事業主等が虚偽の証明や申請に関与した場合、本人と連帯して返還や納付の責任を負うことがあります。
社会保険労務士などの代理人が不正に関与した場合も、公表の対象となることがあります。
つまり、不正受給は本人だけの問題で終わらないことがあります。
たとえば、会社が実際には勤務していたことを知っていながら休業中として証明した、退職していることを把握しながら申請を続けた、賃金を支払っているのに賃金なしとして申請した、という場合は、会社側の関与が問われる可能性があります。
従業員に頼まれたからという理由だけでは、会社の責任を免れられないことがあります。
不正受給の主なペナルティ
- 不正に受けた給付金の全額返還
- 最大2倍の納付命令
- 不正のあった日以降の支給停止
- 悪質な場合の刑事上の問題
| 対象者 | 問題になる行為 | 想定されるリスク |
|---|---|---|
| 本人 | 就労や退職を隠して申請 | 返還命令、納付命令、支給停止 |
| 会社 | 虚偽の証明や申請への関与 | 連帯責任、公表、信用低下 |
| 代理人 | 不正申請への関与 | 公表や業務上の責任 |
企業の人事労務担当者にとっては、従業員本人の申告をそのまま処理するだけでなく、出勤簿、賃金台帳、退職日、復職日などの客観的な資料と照合することが重要です。
これは従業員を疑うというより、本人と会社の双方を守るための確認です。
育児休業給付金は従業員の生活に直結する制度ですので、会社としても正確な手続きが求められます。
返還通知を受けたときの対応
育児休業給付金について返還通知や返還命令を受けた場合は、まず落ち着いて内容を確認してください。
確認すべきなのは、対象期間、返還を求められている金額、返還理由、どの申請内容が問題とされているのかです。
通知を見た瞬間は驚くと思いますが、最初にやるべきことは、感情的に反応することではなく、事実関係の整理です。
身に覚えがない場合や、金額に納得できない場合でも、通知を放置してはいけません。
会社の担当者やハローワークに連絡し、どの資料をもとに判断されたのか説明を受けることが必要です。
会社側の申請ミスが関係している場合もあります。
本人の申告は正しかったが、会社の入力や証明に誤りがあったというケースもあり得ます。
自分の申告内容に誤りがあったと気づいた場合は、早めに会社やハローワークへ相談し、訂正の手続きを確認してください。
意図的な不正でなくても、結果として多く受け取っていた分は返還が必要になることがあります。
返還の有無、金額、納付方法、分割の可否などは、通知内容や個別事情によって確認が必要です。
まずは時系列を作る
返還通知を受けたときにおすすめなのは、時系列表を作ることです。
育休開始日、出産日、子の1歳到達日、保育園の申込日、入所保留通知日、復職予定日、実際の復職日、退職日、賃金支払い日、支給申請日などを順番に並べます。
これだけで、どこにズレがあるのか見えやすくなります。
会社へ相談するときも、「何となくおかしい気がします」と伝えるより、通知書の対象期間と自分の実態を照らし合わせて説明した方がスムーズです。
会社側も、給与計算データや申請控えを確認しやすくなります。
社労士として見ても、時系列が整理されている相談は、論点が非常に見えやすいです。
返還通知を受けたときの確認順序
- 通知書の対象期間と金額を確認する
- 返還理由を確認する
- 会社の申請内容と実態を照合する
- 必要に応じてハローワークに説明を求める
- 争点がある場合は専門家に相談する
やってはいけない対応
- 通知書を放置する
- 会社に確認せず自己判断で結論を出す
- 事実と違う説明をしてしまう
- 返還理由を確認しないまま感情的に争う
- 関係資料を捨ててしまう
返還や不正受給の判断は、個別事情によって結論が変わります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
また、返還命令や納付命令に納得できない場合、金額が大きい場合、会社との認識に差がある場合は、最終的な判断は専門家にご相談ください。
特に、会社側の証明内容が関係している場合や、不正受給と判断されるかどうかが問題になっている場合は、早めに専門家へ相談した方がよいです。
育児休業給付金の不正受給事例のまとめ
育児休業給付金の不正受給事例として特に問題になりやすいのは、復職意思がないまま受給するケース、育休中の副業やバイトを申告しないケース、復職済みなのに育休中として申請するケース、退職後も在職中と偽って申請するケース、育休中に支払われた賃金を申告しないケースです。
いずれも共通しているのは、申請内容と実際の状況が合っていないという点です。
また、近年は保育所に入れなかったことを理由とする育休延長について、落選狙いと見られる申込みが問題になっています。
2025年4月以降の延長手続きでは、保育所等の利用申込書の写しなども確認されるため、申込内容と復職意思が整合しているかがより重要になります。
単に入所保留通知書があるから大丈夫、という考え方では不十分になっています。
一方で、申請ミスややむを得ない事情による退職まで、すべてを悪質な不正受給と考える必要はありません。
重要なのは、事実と異なる申請をしないこと、誤りに気づいたら早めに訂正すること、判断に迷うときは自己判断で放置しないことです。
育児休業中は、子育てだけでも大変な時期です。
だからこそ、手続きの不安を抱えたままにせず、早めに確認しておくことが大切です。
本人と会社の双方が確認すべきこと
本人側では、育休中に働いた日がないか、賃金や手当を受け取っていないか、退職や復職の予定に変更がないか、保育園申込みの内容が復職意思と合っているかを確認してください。
会社側では、賃金台帳、出勤簿、復職日、退職日、申請対象期間を照合し、申請書の記載と実態が一致しているかを確認する必要があります。
育児休業給付金は、従業員の生活保障と雇用継続を支える制度です。
正しく使えば非常に心強い制度ですが、申請内容が事実と違うと、返還や納付命令など大きなリスクにつながります。
制度を怖がる必要はありませんが、軽く考えすぎるのも危険です。
この記事の要点
- 不正受給は意図的な虚偽申告が大きな問題になる
- 申請ミスでも過払い分は返還対象になることがある
- 返還1倍と最大2倍の納付命令で合計最大3倍になる可能性がある
- 副業、退職、賃金申告、育休延長は特に確認が必要
- 会社や関与者も連帯責任を問われる場合がある
最後に確認したいチェックリスト
- 育休中の就業日数を正しく把握している
- 育休中に支払われた賃金や手当を確認している
- 復職日や退職日について会社と認識が一致している
- 保育園申込みの内容が延長手続きと整合している
- 申請ミスに気づいた場合の相談先を把握している
育児休業給付金は、子育て中の生活を支える大切な制度です。
だからこそ、正しく受給することが大切です。
不安がある場合は、会社の担当者、ハローワーク、社会保険労務士などに早めに確認し、必要な手続きを進めてください。
特に、返還通知を受けた場合、退職予定がある場合、副業やバイトをしている場合、育休延長を検討している場合は、個別事情によって判断が変わります。
この記事は一般的な整理として参考にしつつ、具体的な手続きや判断については、必ず最新の公式情報を確認してください。
最終的な判断は専門家にご相談ください。