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育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止|違法例と判断基準を整理

こんにちは。

もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。

育児・介護休業法では、育児休業や介護休業、子の看護等休暇、時短勤務などの制度を申し出たことや利用したことを理由として、労働者を解雇したり、降格・減給したりする不利益な取扱いを禁止しています。

ただし、育休から復帰した後の配置が変わった、賞与が少なくなった、昇給しなかったといった結果だけで、すべて直ちに違法になるわけではありません。

育休等を理由として行われたのか、業務上の必要性や客観的な評価理由があるのか、休業期間を超えて不利益に扱っていないかなど、具体的な事情を確認する必要があります。

労働者にとっては、自分が受けた扱いが法律上問題になるのかを見極めることが重要です。

一方、企業側では、育休取得者の評価や賞与、配置転換を通常の人事運用と同じ感覚で処理すると、意図せず不利益取扱いになることがあります。

この記事では、禁止される具体例から判断基準、例外、ハラスメントとの違い、相談時の確認ポイントまで実務目線で整理します。

  • 育休等を理由として禁止される不利益取扱いの具体例
  • 降格・減給・賞与・昇給・配置転換の判断ポイント
  • 理由としてと契機としての考え方や例外
  • 労働者の相談先と企業が整備すべき実務対応

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止|違法例と判断基準

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止とは

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止は、単に育児休業中の解雇だけを禁止する制度ではありません。

育児休業、介護休業、子の看護等休暇、介護休暇、残業の制限、時短勤務など、仕事と育児・介護を両立するために認められた制度を申し出たり利用したりしたことを理由として、労働者の雇用や待遇を不利にすることを幅広く禁止しています。

まずは、どのような行為が問題になりやすいのかを具体的に確認していきましょう。

育休を理由とする不利益取扱いの具体例

育児・介護休業法では、育児休業の申出や取得を理由として、事業主が労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。

育児休業については同法10条が基本となり、介護休業、子の看護等休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置などについても、それぞれ不利益取扱いを禁止する規定が設けられています。

また、妊娠や出産、産前産後休業などについては、男女雇用機会均等法9条3項によって不利益取扱いが禁止されています。

そのため、女性労働者については妊娠・出産から産休、育休、職場復帰まで、複数の法律によって保護される仕組みになっています。

男性が育児休業や産後パパ育休を利用する場合についても、不利益取扱いの禁止は同様です。

具体的に問題となる行為は、解雇だけではありません。

厚生労働省の指針では、さまざまな取扱いが例示されています。

取扱い 問題となる具体例
解雇 育休を申し出たことや取得したことを理由に退職させる
雇止め 有期契約労働者について育休取得を理由に契約を更新しない
契約条件の変更 退職や正社員から非正規社員への変更を強要する
降格・減給 育休取得を理由に役職を外したり基本給を下げたりする
賞与・人事評価 休業期間を超えて不利益に算定する、育休取得だけを理由に低評価とする
配置変更 合理的な必要性なく著しく不利な職務や勤務地へ変更する
就業環境 仕事を与えない、合理的な理由なく雑務だけを担当させる

重要なのは、会社が不利益な結果を与えたかだけではなく、その取扱いと育休等の申出・取得との間に因果関係があるかどうかです。

たとえば、会社全体の業績悪化により全社員の賞与が同じ基準で減額されたのであれば、育休取得者の賞与が減ったという結果だけで不利益取扱いになるとは限りません。

一方、育休を取得した社員だけを対象として賞与を大幅に減らしたのであれば、法違反が問題になります。

企業側では、制度利用者を特別扱いしないというだけでは十分ではありません。

通常の評価制度や人事制度そのものに、育休等を取得した労働者を必要以上に不利にする仕組みが組み込まれていないかまで確認する必要があります。

2025年の制度改正を含め、育児・介護関係の制度全体を確認したい場合は、 改正育児介護休業法2025年の変更点 も参考にしてください。

育休中の降格や減給は違法になるのか

育休中の降格や減給は違法になるのか

育休の取得を理由として降格させたり、減給したりすることは、典型的な不利益取扱いとして問題になります。

たとえば、管理職である社員が育児休業を取得したことだけを理由に役職を外され、復帰後も元の職位に戻れないようなケースです。

ここで注意したいのは、 育休の前後で役職や賃金が変わったという事実だけで、自動的に違法と決まるわけではない という点です。

会社には通常の人事権がありますので、育休とは無関係な客観的理由に基づく降格や処遇変更まで一律に禁止されるわけではありません。

たとえば、育休取得前から継続して重大な能力上の問題が指摘されており、同じ評価基準を他の社員にも適用した結果として役職変更が行われた場合などは、育休取得との因果関係が否定される可能性があります。

一方、育休を申し出るまでは問題なく管理職として勤務していたにもかかわらず、申出直後に突然「長期間休む人には管理職を任せられない」と説明されて降格したような場合は、育休取得を理由とする取扱いであることが強く疑われます。

減給では賃金の種類も確認する

減給についても同じ考え方です。

育休取得そのものを理由として基本給を下げる、職能資格を引き下げて給与を減らすといった取扱いは問題になりやすいでしょう。

ただし、実際に勤務しなかった期間について賃金を支給しないことまで禁止されているわけではありません。

育児休業期間について無給とする制度自体は一般的に認められています。

また、時間外労働を行わなくなった結果として残業代がなくなるなど、実際の勤務状況によって変動する賃金が減るケースと、会社が意図的に賃金単価や資格等級を引き下げるケースは分けて考えなければなりません。

「育休を取ったから給与が下がった」という結果だけを見るのではなく、 どの賃金項目が、どの規程や評価基準によって、なぜ変わったのか を確認することが重要です。

実際の労務相談でも、会社側は「育休とは関係なく人事上必要だった」と考えている一方、本人にはその理由が十分説明されておらず、育休取得に対するペナルティと受け止められているケースがあります。

企業としては、人事判断の根拠を育休取得とは切り離して整理し、評価記録や面談記録を残しておくことが重要です。

育休の賞与や昇給を下げる場合の注意点

育児休業を取得した社員について、賞与や昇給をどのように扱うかは企業からの相談でも迷いやすいポイントです。

結論からいえば、育休期間中に働いていないことを考慮することがすべて禁止されているわけではありません。

問題になるのは、 実際に休業した期間を超えて不利益に取り扱うこと です。

たとえば、賞与の算定対象期間が6か月あり、そのうち2か月を育児休業していた場合に、実際の就業期間を基礎として一定の按分を行うことは、直ちに違法になるものではありません。

一方で、2か月休業したことを理由として6か月すべてを不就業期間として扱い、賞与をゼロにするような算定は問題になる可能性があります。

特に注意したいのが、賞与規程に設けられている出勤率要件です。

「算定期間の出勤率が一定割合未満なら賞与を支給しない」といった規定自体は珍しくありませんが、その出勤率を計算するときに育児休業期間をすべて通常の欠勤と同じように扱うと、育児休業を取得したことによる不利益が実際の休業期間以上に拡大することがあります。

裁判例でも、法律上認められた休業期間を機械的に欠勤として扱い、制度利用を著しく抑制するような賞与制度が問題とされた例があります。

賞与規程は「欠勤」という名称だけで判断せず、制度利用者にどの程度の不利益が生じる仕組みなのかまで確認することが大切です。

昇給や人事評価は育休取得そのものを評価しない

昇給についても、「育休を3か月以上取得した社員は翌年度の昇給対象から一律除外する」といった制度は注意が必要です。

育休を取った事実そのものをマイナス評価する仕組みになっているためです。

一方、実際に勤務していた期間について、通常の社員と同じ基準で能力や成果を評価することまで禁止されているわけではありません。

重要なのは、 育休期間中に成果を上げられなかったことを能力不足として評価したり、育休そのものを欠勤や勤務態度不良として評価したりしないこと です。

企業では、賞与規程、人事評価規程、昇格・昇給基準をそれぞれ別々に作っていることがあります。

そのため、育児・介護休業規程だけを改正して安心していると、評価規程の中に「休業者は昇格対象外」といった古いルールが残っていることがあります。

制度設計の段階で横断的に確認しておくことが重要です。

育休明けの配置転換はどこまで許されるか

育休明けの配置転換はどこまで許されるか

育休復帰後の配置転換は、不利益取扱いの相談で特に判断が難しいテーマです。

「育休から戻ったら元の部署ではなくなった」という相談は実際によくありますが、元の部署や元の担当業務に戻れなかったという事実だけで、直ちに育児・介護休業法違反になるわけではありません。

会社には組織運営上、人員配置を変更しなければならない場合があります。

育休が長期間になると、その間に代替要員を配置したり、組織改編によって元の部署自体がなくなったりすることもあります。

そのため、復帰者を必ず以前と完全に同じ席・同じ仕事に戻さなければならないと単純に考えるのは適切ではありません。

一方で、育休を取得したことへのペナルティとして配置を変えることは認められません。

たとえば、専門職として勤務していた社員を合理的な理由なく補助的な雑務だけの部署へ異動させる、管理職として勤務していた社員を実質的に権限のない職務へ移す、通勤が著しく困難な勤務地へ変更するといった場合には、不利益な配置変更として問題になる可能性があります。

配置転換では必要性と不利益を比較する

実務では、配置転換の理由を具体的に確認します。

会社側にどのような業務上の必要性があったのか、他の配置方法はなかったのか、職務内容・賃金・役職・勤務地がどの程度変わったのか、本人にどのような不利益が生じるのか、といった事情を総合的に見なければなりません。

企業側で特に重要なのが 復帰前面談の記録 です。

復帰後の勤務時間、職務、勤務地、本人の希望、会社側の人員配置上の事情を事前に確認し、なぜその配置になるのかを説明しておくことで、後の認識違いを減らすことができます。

なお、「子育て中だから負担の軽い仕事のほうがよいだろう」と会社が善意で判断した場合でも、本人の意思を確認せず職務やキャリアを大きく制限すると問題になることがあります。

育児中であることから会社側が希望を推測するのではなく、本人の意向を確認したうえで必要な配慮を検討することが大切です。

労働者側でも、単に「以前と違うから違法」と判断するのではなく、配置変更の理由を会社に確認しましょう。

異動命令の内容、賃金や役職の変化、会社から受けた説明、育休申出前後のやり取りなどを整理すると、育休取得との因果関係を判断しやすくなります。

育休取得者の雇止めや不更新の判断基準

有期契約労働者が育児休業を申し出たり取得したりしたことを理由として、契約を更新しないことも禁止される不利益取扱いの一つです。

また、あらかじめ契約更新回数の上限が設定されている場合に、育休取得を理由としてその上限を引き下げることも問題になります。

ただし、有期契約である以上、すべての雇止めが禁止されるわけではありません。

事業の縮小や担当業務の終了などにより、同様の立場にある労働者について客観的な基準で契約を終了する場合や、育休取得以前から問題となっていた能力不足や勤務不良を通常の基準で評価した結果として更新されない場合など、育休とは別の合理的理由が存在するケースもあります。

判断するときに重要なのが、育休申出や取得との時間的な近さです。

たとえば、それまで複数回にわたって問題なく更新されていた社員が育休を申し出た直後に、突然「次は更新しない」と告げられた場合には、その理由について慎重に確認する必要があります。

会社側では、「有期契約だから更新しなくても自由」と考えるのは危険です。

育休を申し出た社員だけ更新基準を厳しくする、育休期間を勤務成績不良として扱う、申出後になって過去の勤務態度を理由として持ち出すような運用では、育休取得との因果関係を疑われやすくなります。

更新可否は、育休の申出とは切り離した客観的な基準で判断し、その経緯を記録しておくことが重要です。

更新時期、過去の更新実績、他の有期契約労働者との取扱いの違いも確認対象になります。

また、雇止めについては育児・介護休業法だけでなく、契約更新に関する一般的な労働法上の問題が生じる場合があります。

育休後に退職する場合の雇用保険や受給期間について確認したい場合は、 育休後の退職と失業保険の受給条件 で詳しく整理しています。

労働者側は、契約書、労働条件通知書、過去の更新通知、評価資料、育休申出前後のメールや面談記録などを保管しておきましょう。

「育休を取るなら次回更新は難しい」などと言われた場合には、その日時や発言内容を記録しておくことも、後から経緯を確認するうえで重要です。

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止と対応

不利益取扱いに該当するかどうかは、解雇・降格・減給といった処分の名称だけでは判断できません。

特に重要なのが、育休等を「理由として」行われた取扱いなのか、その判断に用いられる「契機として」という考え方です。

ここからは、不利益取扱いの判断基準、例外的に許されるケース、本人同意の扱い、ハラスメントとの違いまで整理します。

理由としてと契機としての判断基準

育児・介護休業法では、育児休業等の申出や取得を「理由として」解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。

ここでいう理由としてとは、育休等の申出・取得と不利益な取扱いとの間に因果関係があるという意味です。

しかし、会社が「育休を取ったから降格させます」と明言するケースばかりではありません。

実際の紛争では、会社側が「通常の人事異動だ」「能力を評価した結果だ」と説明し、労働者側が「育休を取ったからではないか」と主張することもあります。

そこで実務上重要になるのが 契機として という考え方です。

妊娠・出産や育児休業等を契機として不利益取扱いが行われた場合には、原則として、それらを理由として行われたものと解されます。

育休等と不利益取扱いが時間的に近い場合には、会社が表面的に別の理由を説明しているだけで判断するのではなく、実際の経緯や客観的事情まで確認する必要があります。

たとえば、育休の申出をした翌日に突然降格を告げられたケースと、育休復帰から数年後に通常の人事評価制度によって降格したケースでは、育休との関連性についての見方は大きく異なります。

また、会社が主張する理由が育休申出前から存在していたのか、それとも申出後に初めて問題とされたのかも重要です。

労働者側で確認したいのは、育休申出の日時、不利益な措置を告げられた日時、それ以前の評価、会社から説明された理由、同じ状況にある他の社員の取扱いなどです。

会社側では、それと反対に、人事判断が育休とは無関係であることを客観的に説明できる資料を残しておく必要があります。

なお、育休期間中に行われた解雇や人事措置がすべて禁止されるという意味ではありません。

あくまで、育休等の申出・取得と不利益取扱いとの因果関係が問題になります。

この区別を理解しておくことが、不利益取扱いを正しく判断する出発点です。

契機として扱われる1年以内の考え方

契機として扱われる1年以内の考え方

育休等を契機として行われたかどうかについては、行政上の解釈として、時間的な近接性が重要な判断材料になります。

原則として、妊娠・出産、育児休業等の事由が終了してから 1年以内 に不利益取扱いが行われた場合には、契機としていると判断されます。

たとえば、1年間の育児休業を終えて職場復帰し、その数か月後に降格や不利益な配置転換が行われた場合には、単に「復帰後だから育休とは関係ない」と処理することはできません。

会社側が育休とは無関係な理由を主張するのであれば、その理由を客観的に確認する必要があります。

一方、1年を過ぎれば自動的に問題がなくなるわけでもありません。

人事異動、人事評価、昇給、契約更新など、実施時期があらかじめ決まっている措置については、育休等の終了から1年を超えたとしても、終了後の最初の実施時期までの取扱いが契機として判断されることがあります。

時期 基本的な考え方
事由終了から1年以内 原則として契機として行われたかを確認する対象になる
1年を超えた後 時間だけで直ちに育休との関連性が認められるわけではない
定期的な人事措置 最初の人事評価・異動・契約更新等のタイミングまで確認対象となる場合がある

この1年という期間は、単純な時効や「1年以内なら必ず違法」という意味ではありません。

育休等と不利益取扱いとの因果関係を判断するための重要な目安 です。

1年以内でも会社側に明確な別の理由があり、例外要件を満たす場合がありますし、1年以上経過していても実際の発言や人事の経緯などから因果関係が認められる可能性はあります。

実務では日時を時系列に並べるだけでも状況がかなり見えやすくなります。

育休申出、休業開始、休業終了、復帰面談、評価、人事異動、雇止め通知などの日付を整理し、それぞれの段階で会社と労働者がどのようなやり取りをしていたのかを確認しましょう。

会社側でも、復帰後1年程度は特に人事措置の理由を丁寧に整理しておくことをおすすめします。

通常の異動であるとしても、育休取得者だけに不利な基準が適用されていないか、本人への説明が十分かという点まで確認しておくと、トラブルの予防につながります。

業務上の必要性がある場合の例外

育休等を契機として不利益な取扱いが行われたと判断されても、すべての場合に機械的に法違反となるわけではありません。

行政解釈では、一定の特段の事情がある場合には、例外的に法違反に当たらないとされる考え方が示されています。

一つが、 業務上の必要性からその取扱いをせざるを得ない場合 です。

ただし、「会社に必要だった」と説明すれば足りるわけではありません。

その業務上の必要性と、労働者が受ける不利益の内容・程度を比較し、必要性のほうが上回ると認められるだけの特段の事情が求められます。

たとえば、事業所自体を閉鎖することになり、その部署に所属する社員全員を別の勤務地へ配置転換しなければならない場合には、育休復帰者だけを狙った人事とは事情が異なります。

また、事業縮小により同様の立場にある有期契約労働者全員の契約を終了するようなケースも、育休取得だけを理由とする雇止めとは区別して判断されます。

反対に、「代替要員を雇ったから元の仕事がない」「長く休んだので以前と同じ役職は任せにくい」といった事情だけでは、当然に例外が認められるとは限りません。

育児休業制度は、一定期間仕事を離れてから復帰することを前提とした制度だからです。

代替要員を配置したことによる社内事情だけを労働者側の不利益に転嫁すると、制度を利用したこと自体が不利益の原因になってしまいます。

例外は限定的に考える必要があります。

企業側では、「経営上必要」「人事上必要」といった抽象的な説明ではなく、なぜその措置が必要だったのか、他の方法では対応できなかったのか、本人の不利益を軽減する方法を検討したのかまで整理しておきましょう。

育休取得前から存在した評価理由か確認する

能力不足や勤務成績を理由とする処遇変更については、特に時系列が重要です。

育休を申し出る以前から継続的に指導を行い、評価記録にも問題が残されていた場合と、育休申出後になって突然能力不足が理由として挙げられた場合では、客観性が異なります。

企業の実務では、平常時から人事評価の根拠を記録しておくことが最大の予防策です。

育休取得者だけ詳しい問題点を後から整理するのではなく、全社員について同じ評価制度を運用していることが重要になります。

労働者側でも、会社から業務上の必要性を説明された場合には、その理由が具体的か、他の社員にも同じ基準が適用されているか、育休申出以前から問題として指摘されていたかを確認すると判断しやすくなります。

本人同意があっても許されないケース

もう一つの例外として問題になるのが、労働者本人が不利益な取扱いに同意している場合です。

ただし、本人が「はい」と答えた、同意書に署名したという形式だけで、不利益取扱いの問題がなくなるわけではありません。

行政上の考え方では、本人が同意していることに加えて、その取扱いによって労働者が受ける有利な影響が不利な影響を上回り、会社から適切な説明が行われるなど、一般的な労働者であれば同意すると考えられる合理的な理由が客観的に存在することが求められます。

たとえば、本人が育児との両立のため自宅から近い事業所への異動を希望し、その結果として職務内容が一部変わるケースであれば、本人にとって通勤負担の軽減という大きな利益があります。

会社が条件を十分説明し、本人が自由な意思で選択しているのであれば、単純な不利益取扱いとは事情が異なります。

一方で、「この条件を受け入れないなら復帰できない」「役職を外れることに同意しなければ退職してもらう」と迫られ、選択肢がない状態で署名した場合には、表面的な同意があっても本人の自由な意思に基づくものとは評価しにくいでしょう。

本人同意で最も重要なのは、署名の有無ではなく、十分な説明を受けたうえで自由に判断できる状況だったかです。

企業は説明内容まで記録する

会社側では、同意書だけを保存するのではなく、変更前後の労働条件、メリット・デメリット、他に検討した選択肢、本人の希望、説明した日時なども記録しておくとよいでしょう。

可能であれば、その場ですぐに回答を求めず、本人に検討する時間を設けることも大切です。

特に育休復帰直前は、保育園の入園や家庭内の役割分担など、労働者側にも時間的な制約があります。

その状況を利用して「今決めなければ復職できない」と選択を迫れば、真意に基づく同意だったのかが問題になります。

実務では、企業側が「本人から希望した異動だった」と認識し、本人側は「会社からそうするしかないと言われた」と認識しているケースがあります。

こうした食い違いを防ぐ意味でも、復帰面談では希望事項と会社提案を分けて記録することが重要です。

本人の希望に基づく処遇変更だから問題ないと簡単に処理するのではなく、 本人にどのような選択肢があり、何を説明し、どのような理由で選択したのか まで確認することが、労使双方にとって重要になります。

不利益取扱いとハラスメントの違い

不利益取扱いとハラスメントの違い

育休に関する問題では、不利益取扱いとハラスメントが混同されることがあります。

この二つは関連していますが、法律上は別の問題として整理したほうが理解しやすくなります。

不利益取扱いは、育児休業等の申出や取得を理由として、解雇、降格、減給、雇止め、不利益な配置変更などを行うことが中心です。

一方、育児休業等に関するハラスメントは、制度利用に関する上司や同僚などの言動によって就業環境が害されることが問題になります。

項目 不利益取扱い 育児休業等に関するハラスメント
中心となる問題 解雇・降格・減給・雇止めなどの不利益な措置 制度利用を妨げたり就業環境を害したりする言動
具体例 育休取得を理由に役職を外す 育休を取るなら迷惑だなどと繰り返し発言する
企業の義務 不利益な取扱いを行わない 方針周知、相談体制、事実確認、適切な対応等を整備する

たとえば、男性社員が育休を申し出た際に、上司から「男が育休なんて取る必要があるのか」「長く休むなら今後のキャリアは考えたほうがいい」などと繰り返し言われた場合には、育児休業等に関するハラスメントが問題になる可能性があります。

その後、実際に育休取得を理由として降格されたのであれば、上司の発言だけでなく、降格という不利益取扱いも別に問題になります。

同じ一連の出来事の中で、ハラスメントと不利益取扱いの両方が成立し得る ということです。

ハラスメント防止については、会社に方針の明確化・周知、相談窓口の整備、事実関係の迅速な確認、適切な事後対応、プライバシーへの配慮などが求められます。

また、相談したことを理由としてさらに不利益に扱うことも認められません。

企業側では、就業規則に「不利益取扱いを禁止する」と書くだけでは十分ではありません。

人事担当者だけでなく、現場の管理職が育児・介護休業制度を理解していなければ、「休むなら評価は下がって当然」「制度を使うなら管理職は無理」といった発言や運用が生じる可能性があります。

制度利用を妨げないためには、育児・介護休業規程の整備とハラスメント防止措置をセットで運用することが重要です。

介護について利用できる休業や休暇の違いを確認したい場合は、 介護休業の93日や介護休暇との違い も参考にしてください。

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止を確認

育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止では、育児休業や介護休業などの制度を利用したことを理由として、解雇、雇止め、降格、減給、不利益な賞与算定、人事評価、不利益な配置変更などを行うことが禁止されています。

一方で、育休取得者に何らかの不利益な結果が生じたからといって、すべての人事措置が直ちに違法になるわけではありません。

実際の判断では、育休等の申出・取得との因果関係、措置が行われた時期、業務上の必要性、他の労働者との取扱い、本人への説明、人事評価の客観性などを総合的に確認します。

労働者側では「育休を取った後に何が変わったか」、企業側では「その変更を育休とは無関係な客観的理由で説明できるか」を整理することが重要です。

労働者が確認しておきたい資料

自分が不利益取扱いを受けたのではないかと感じた場合には、感覚だけで判断するのではなく、事実関係を時系列で整理してみましょう。

育休等の申出書、会社とのメールやチャット、面談記録、人事評価、給与明細、賞与明細、雇用契約書、更新通知、異動辞令などが重要な資料になります。

  • 育休等を申し出た日と会社の反応
  • 不利益な措置を告げられた日
  • 会社から説明された具体的な理由
  • 育休取得前後の役職・給与・職務の変化
  • 過去の人事評価や契約更新実績
  • 同じ立場にある他の社員との取扱いの違い

育児・介護休業法に関する相談は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が窓口となっています。

相談内容に応じて、制度の説明のほか、都道府県労働局長による紛争解決援助や調停制度を利用できる場合もあります。

解雇や雇止めの効力そのものを争う場合には、労働審判や訴訟など、別の法的手続を検討することもあります。

個別案件では育児・介護休業法だけでなく、労働契約法や就業規則、雇用契約の内容など複数の論点が関係するため、早い段階で資料を整理しておくことをおすすめします。

企業は評価・配置・賞与のルールを点検する

企業側では、問題が起きてから「育休が理由ではない」と説明するよりも、日頃から育休取得者を不利にしない制度を設計しておくことが重要です。

特に賞与規程、人事評価規程、昇格・昇給基準、配置転換の運用、復帰面談の方法は確認しておきたいところです。

私が実務上特におすすめするのは、育休取得者だけの特別な管理表を作るというより、通常の人事制度の中で「なぜこの評価になったのか」を誰についても説明できる状態にしておくことです。

通常時の評価記録が整っていれば、育休取得者について人事措置が必要になった場合にも、その判断が育休とは無関係であることを説明しやすくなります。

  • 育休期間を通常の欠勤と同じ扱いにしていないか
  • 休業期間を超えて賞与や評価を減らしていないか
  • 育休取得だけを理由に昇給・昇格対象から外していないか
  • 復帰後の配置変更に客観的な必要性があるか
  • 本人の同意を得る際に十分な説明と検討時間を設けているか
  • 育休申出前後の面談や人事判断を記録しているか

育児・介護休業法は改正されることがあり、対象となる制度や企業に求められる対応も変わる可能性があります。

正確な情報は公式サイトをご確認ください

最新の制度内容は、 厚生労働省の育児・介護休業法に関する案内 で確認できます。

また、不利益取扱いに該当するかどうかは、会社の発言、措置の時期、評価資料、業務上の必要性などによって結論が変わります。

労働者側も企業側も、表面的な結果だけで判断せず、具体的な事実関係を整理することが大切です。

相談窓口については、 全国の都道府県労働局 から確認できます。

解雇、降格、減給、雇止めなど個別の法的判断が必要なケースでは、資料をそろえたうえで、 最終的な判断は専門家にご相談ください

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