こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
固定残業代を導入する場合は、単に就業規則へ固定残業代と書くだけでは足りません。
通常の賃金と固定残業代を区別できるようにし、何の対価として支払うのかを明確にしたうえで、実際の残業時間に応じた差額精算まで行える仕組みを整える必要があります。
実務では、就業規則には記載があるものの雇用契約書の内容と一致していない、求人票には固定残業時間が書かれていない、超過分を毎月確認していない、といったケースが問題になりやすいところです。
この記事では、固定残業代の適法要件と導入方法について、制度の基本から就業規則や雇用契約書の書き方、求人時の明示、最低賃金、36協定、既存社員への導入まで、会社側の実務に沿って順番に整理します。
- 固定残業代を有効に運用するための基本的な考え方
- 就業規則や雇用契約書へ記載するときのポイント
- 超過分の差額精算や最低賃金、36協定との関係
- 既存社員への導入や制度が無効と判断されるリスク

固定残業代の適法要件と導入方法・就業規則の書き方
まず押さえておきたいのは、固定残業代そのものが禁止されているわけではないという点です。
ただし、固定額を支払っていれば残業代の計算が不要になる制度でもありません。
制度の名称よりも、固定残業代が割増賃金として明確に設計され、実態としてそのとおり運用されているかが重要です。
ここでは、制度を設計する前提となる考え方から確認します。
固定残業代とは何か
固定残業代とは、実際の時間外労働時間にかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働などに対する割増賃金を定額で支給する仕組みです。
定額残業代やみなし残業代と呼ばれることもあります。
たとえば、月30時間分の時間外労働に相当する金額を固定残業手当として毎月支給する設計が典型的です。
実際の時間外労働が10時間だった月でも、会社が定めた固定残業手当を支給します。
一方、実際の時間外労働に対して計算した割増賃金が固定残業代を上回った場合には、その差額を追加で支払わなければなりません。
固定残業代は、残業時間を一定時間まで無料にする制度ではありません。
あらかじめ割増賃金の一部を定額で支払っておき、不足が生じれば追加で精算する賃金制度と考えると分かりやすいでしょう。
会社側から見ると、毎月一定額を支給するため賃金の見通しを立てやすく、実際の残業が固定時間より少なければ従業員の給与が減らないという特徴があります。
一方で、制度設計や運用があいまいであれば、固定残業代として支払ったつもりの金額が割増賃金の支払いとして認められないリスクがあります。
そのため、私は固定残業代を検討する会社には、給与額を決めるところから始めるのではなく、「何時間分の、どの種類の割増賃金を、いくら支払う制度なのか」を先に整理することをおすすめしています。
また、固定残業代を導入しても、労働時間を把握する義務がなくなるわけではありません。
タイムカードや勤怠システムなどによって実際の始業・終業時刻を把握し、毎月の割増賃金額を計算できる状態にしておく必要があります。
固定残業代について従業員側から見た注意点や違法になりやすいケースは、 固定残業代はやばい?
違法例と見分け方でも整理しています。
固定残業代の明確区分性とは

固定残業代を設計するときに特に重要なのが、通常の労働時間に対する賃金と、時間外労働などに対する割増賃金として支払う部分を判別できるようにすることです。
実務上、これを明確区分性や判別可能性という言葉で説明することがあります。
たとえば、月給30万円について、単に「基本給30万円。
ただし残業代を含む」と記載しただけでは、30万円のうち通常の労働に対する賃金がいくらで、割増賃金として支給した金額がいくらなのか分かりません。
一方、次のように内訳を分ければ制度の内容を把握しやすくなります。
| 賃金項目 | 記載例 |
|---|---|
| 基本給 | 250,000円 |
| 固定時間外手当 | 50,000円(月○時間分の時間外労働に対する割増賃金) |
| 超過分 | 固定時間を超えた場合は別途支給 |
金額だけではなく、 何時間分の時間外労働に対応する金額なのかまで明示しておく ことが実務上重要です。
就業規則だけでなく、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書、給与明細などの表示もできるだけ統一しておきます。
採用時によく確認するポイントですが、就業規則には「固定時間外手当」と書いてあるのに、雇用契約書では「営業手当」、給与明細では「職務手当」になっているケースがあります。
名称が違うだけで直ちに制度が無効になるとは限りませんが、何のための手当なのかが分かりにくくなり、紛争になった際の説明が難しくなります。
基本給に固定残業代を組み込む方式は、割増賃金部分を判別できる設計にしなければなりません。
中小企業でこれから制度を導入するのであれば、基本給とは別に固定時間外手当などの名称で独立させる方が、管理しやすく説明もしやすいでしょう。
固定残業代の対価性とは
固定残業代として支給している手当が、実質的にも時間外労働などの対価として支払われていることも重要です。
手当の名称だけで判断されるわけではなく、雇用契約書や就業規則の内容、会社から従業員への説明、実際の支給方法などを踏まえて判断されます。
たとえば「営業手当」という名称であっても、賃金規程において時間外労働に対する割増賃金として支給することや対応する時間数が明確にされ、実際にもその趣旨で運用されているのであれば、名称だけを理由に固定残業代として扱えなくなるとは限りません。
反対に、従来から営業成績への対価として支払っていた営業手当や、役職に対して支給していた役職手当について、未払い残業代の問題が発生してから「実は残業代も含んでいた」と説明するのは危険です。
固定残業代として運用するなら、 手当の名称、規程上の目的、対応時間、計算方法、給与明細上の表示をできるだけ一致させる ことが重要です。
なお、裁判例で示されてきた判断は、明確区分性や対価性という言葉だけで機械的に決まるものではありません。
固定残業代について法律上の「3要件」が条文にそのまま列挙されているわけでもなく、個別の契約内容や賃金体系、説明、実際の運用などを踏まえて判断されます。
そのため会社側の実務では、最低限の形式だけを整えて有効性を狙うよりも、第三者が資料を見たときに「この手当は何時間分の割増賃金で、どのように計算され、超過時にはどう処理されるのか」が一貫して説明できる状態を作ることが大切です。
超過分の差額精算が必要な理由

固定残業代を導入している会社で、私が特に注意して確認するのが超過分の精算です。
固定残業代を支払っていても、実際に発生した割増賃金が固定額を上回れば、その差額について支払義務が生じます。
たとえば30時間分の時間外労働に相当する固定残業代を設定している場合でも、実際に40時間の時間外労働を行わせたのであれば、固定残業代でカバーされない部分について別途計算が必要です。
「30時間分を払っているから、30時間を超えても追加の残業代は出さない」という運用はできません。
また、固定残業代の対象を時間外労働だけとするのか、法定休日労働や深夜労働まで含めるのかも整理が必要です。
たとえば時間外労働30時間分だけを固定残業代としているのであれば、法定休日労働や深夜労働に対する割増部分は原則として別に計算します。
実務では毎月、次の流れで確認すると管理しやすくなります。
- 実際の時間外・休日・深夜労働を勤怠データから集計する
- その月に必要な割増賃金額を計算する
- 固定残業代で充当できる範囲を確認する
- 不足があれば差額を給与で追加支給する
就業規則に「超過分は別途支給する」と記載していても、実際には一度も差額を計算していないのであれば十分とはいえません。
規程と実際の給与計算が一致していることが固定残業代運用の基本です。
なお、超過分を支払っていなかったことだけで、あらゆるケースにおいて固定残業代全体が当然に無効になるとまでは一律にいえません。
しかし、未払い賃金が発生することに加え、制度の実態や固定残業代としての性質を争われる大きな要因になります。
超過分が未払いとなった場合の考え方は、 固定残業代の超過分が支払われない時の対処法 でも詳しく整理しています。
最低賃金と固定残業時間の注意点
固定残業代を導入するときは、月給総額だけを見て賃金水準を判断してはいけません。
最低賃金との比較では、時間外労働などに対する割増賃金に当たる固定残業代を除き、最低賃金の算定対象となる賃金を確認する必要があります。
たとえば、あくまで計算方法を理解するための単純な例として、所定労働時間が月160時間、月給20万円のうち基本給16万円、固定残業手当4万円という設計を考えます。
この場合、基本給部分だけを単純計算すると16万円÷160時間=1,000円となります。
この金額を、その時点で適用される地域別最低賃金などと比較することになります。
最低賃金は地域や適用時期によって改定されるため、 固定残業代込みの総支給額だけを時給換算して判断しないこと が重要です。
上記の金額は制度を説明するための一般的な計算例です。
実際の最低賃金額や算入・除外する賃金については、適用地域や賃金項目を個別に確認してください。
固定残業時間に法律上の一律上限はない
「固定残業代は何時間まで設定できますか」という相談もよくあります。
固定残業代について、それ自体を「月○時間まで」と定めた一律の法定上限があるわけではありません。
ただし、固定残業時間を何時間に設定しても自由という意味ではありません。
実際に時間外労働を行わせる場合には36協定や労働基準法上の時間外労働の上限規制が別に適用されます。
一般的な事業では、36協定による時間外労働の限度時間は原則として月45時間・年360時間です。
臨時的な特別の事情について特別条項を定める場合にも別の上限があります。
したがって、たとえば固定残業時間を恒常的に月60時間などと設定することは、固定残業代の計算だけの問題では済みません。
会社が通常から長時間の時間外労働を予定しているように受け取られやすく、健康管理や36協定の運用を含めて慎重な検討が必要になります。
固定残業時間と36協定は別制度です。
36協定の具体的な限度時間については、 36協定の時間外労働の限度時間と特別条項の上限 で詳しく解説しています。
実務上は、固定残業代の金額から逆算して時間数を決めるのではなく、実際の残業実績、今後の業務量、36協定、採用上の説明のしやすさなどを踏まえて時間数を決めることをおすすめします。
固定残業代の適法要件・導入方法と就業規則の書き方
固定残業代の基本を理解したら、次は実際の規程や労働条件へ落とし込みます。
就業規則だけを修正するのではなく、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書、求人票、給与明細、勤怠管理まで一連の仕組みとして設計することが重要です。
ここからは、会社が導入するときの実務を具体的に確認します。
就業規則と賃金規程の記載例
固定残業代を導入するのであれば、就業規則または賃金規程に制度の根拠を明確に定めます。
特に、固定残業代の名称、金額または計算方法、対応する時間数、対象となる割増賃金の種類、超過時の差額支給について整理しておくことが重要です。
基本的な考え方を示すための規定例としては、次のような内容が考えられます。
固定時間外手当の規定例
会社は、時間外労働に対する割増賃金のうち一定額を固定時間外手当として支給する。
固定時間外手当は、個別の労働条件通知書等に定める月○時間分の時間外労働に対する割増賃金として支給する。
各賃金計算期間において実際に支払うべき時間外労働等の割増賃金額が固定時間外手当を上回る場合は、その差額を別途支給する。
実際の割増賃金額が固定時間外手当を下回る場合であっても、固定時間外手当は減額しない。
これはあくまで考え方を示す一般的な例です。
そのまま全ての会社に利用できるひな形ではありません。
会社によって賃金体系や所定労働時間、変形労働時間制の有無、対象となる手当、固定残業代へ含める割増賃金の範囲などが異なるためです。
時間外・休日・深夜を区別する
特に注意したいのが、時間外労働、法定休日労働、深夜労働をまとめて「残業」と扱ってしまうケースです。
それぞれ適用される割増率や発生条件が異なります。
固定残業代を通常の時間外労働だけに対応させるのであれば、そのことが分かるように規定します。
法定休日労働や深夜労働に対する割増賃金を含めるのであれば、どの部分をどのように含めるのかをさらに慎重に設計する必要があります。
「時間外・休日・深夜のすべてを固定残業代に含む」と一文だけ書く方法はおすすめしません。
何に対していくら支払われているのかが分かりにくくなり、差額計算も複雑になるためです。
なお、管理監督者に該当する労働者については、労働基準法上の時間外・休日に関する取扱いが一般の労働者と異なります。
一方、深夜割増まで不要になるわけではありません。
また、役職名が管理職であるだけでは労働基準法上の管理監督者になるわけではないため、固定残業代とは別に管理監督者性の確認も必要です。
雇用契約書と労働条件通知書の書き方

就業規則や賃金規程を整備したら、個々の従業員へ示す雇用契約書や労働条件通知書にも固定残業代の内容を反映します。
実務上は、少なくとも基本給と固定残業代を分け、対応する時間数と超過分の取扱いが分かる形にしておくのが基本です。
| 項目 | 記載イメージ |
|---|---|
| 基本給 | 月額○○円 |
| 固定残業手当 | 月額○○円 |
| 対応時間 | 時間外労働○時間分 |
| 超過分 | 固定時間を超える場合は別途割増賃金を支給 |
| 休日・深夜 | 固定残業代に含める範囲を明記 |
ここで重要なのは、就業規則と労働条件通知書の内容を食い違わせないことです。
たとえば就業規則では20時間分、労働条件通知書では30時間分、求人票では40時間分となっていれば、会社自身が制度の内容を説明できない状態になります。
採用から給与計算まで同じ条件を一貫して使用してください。
また、固定残業代の金額は、単純に「月給の20%を固定残業代にする」といった決め方をするものではありません。
実際に設定した時間数に対応する法定の割増賃金を計算し、その額を下回らないように設計する必要があります。
割増賃金の計算では、基本給だけでなく、労働基準法上の算定基礎から除外できない各種手当が存在する場合があります。
そのため、 固定残業代の金額を決める前に割増賃金単価の算定基礎を確認する ことが重要です。
月の所定労働時間が変動する会社や、1か月単位の変形労働時間制を採用している会社では、固定残業代の計算がさらに複雑になることがあります。
賃金制度だけを切り離さず、労働時間制度とセットで設計してください。
求人票で明示すべき3つの事項
固定残業代を導入する場合は、採用後の契約書だけではなく、募集・求人段階での表示にも注意が必要です。
求人票や募集要項で月給だけを大きく表示し、その中に固定残業代が含まれていることが分からない表示は避けなければなりません。
固定残業代を含む賃金を求人で表示するときは、実務上、次の3点が分かるようにします。
- 固定残業代を除いた基本給等の額
- 固定残業代の額と、それに対応する時間数
- 固定時間を超えた場合は追加の割増賃金を支払う旨
たとえば、「月給30万円(固定残業代を含む)」だけでは、求職者は通常の給与がいくらなのか、何時間分の残業代が含まれているのか判断できません。
これに対して、「基本給25万円、固定時間外手当5万円(時間外労働○時間分)。
固定時間を超えた時間外労働については別途割増賃金を支給」といった形で、内訳を確認できる表示にします。
採用実務では、求人媒体へ登録した条件と会社が作成した雇用契約書が違っているケースもあります。
求人媒体を更新した担当者と給与制度を管理している担当者が別の場合に起こりやすい問題です。
求人票は単なる広告ではありません。
採用後の労働条件との食い違いは、求職者とのトラブルだけでなく、会社への信頼にも影響します。
固定残業代を変更したときは、就業規則、求人媒体、採用資料、労働条件通知書をまとめて確認することをおすすめします。
固定残業代を含む求人表示については、 厚生労働省の固定残業代に関する案内 など、最新の公的資料も確認してください。
既存社員への導入と不利益変更
新しく採用する従業員に固定残業代を適用する場合と、すでに勤務している従業員の賃金体系を固定残業代へ変更する場合では、注意すべき点が異なります。
特に問題になりやすいのが、現在の基本給の一部を固定残業代へ振り替える方法です。
たとえば、これまで基本給30万円だった従業員について、翌月から基本給25万円、固定残業手当5万円とするケースを考えてみます。
月の固定的な総支給額だけを見ると30万円で変わりませんが、基本給の額は下がっています。
基本給を基準として賞与や退職金、各種手当などを計算する会社であれば、それらへ影響する可能性があります。
また、割増賃金単価についても、賃金制度全体を確認しなければなりません。
このため、 「総額が同じだから不利益変更ではない」と単純に判断するのは危険です。
既存社員の基本給を減らして固定残業代へ振り替える場合は、労働条件の不利益変更となる可能性を前提に検討する必要があります。
労働契約の内容を労働者との合意によって変更する場合には、制度内容や変更による影響を十分に説明したうえで、本人の意思に基づく合意を得ることが基本です。
一方、就業規則の変更によって労働条件を変更する場面では、労働契約法上、変更内容の合理性が問題となります。
不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労使との交渉状況などを含めて検討する必要があります。
既存社員には段階的な設計も検討する
実務では、単純に基本給を切り下げて固定残業代へ振り替えるより、賃金改定のタイミングで制度を設計したり、一定の経過措置を設けたりする方法も検討します。
たとえば昇給原資を活用しながら新しい賃金体系へ移行する、既存社員については従来条件を一定期間維持する、新規採用者から制度を適用するなど、会社の状況によって選択肢は変わります。
固定残業代を導入する目的を先に明確にしてください。
「給与を高く見せたい」「残業代を減らしたい」だけで設計すると、制度変更の合理性や従業員への説明が難しくなります。
固定残業代は賃金制度そのものに関わります。
既存社員へ導入するときは、規程の文章だけではなく、変更前後の賃金を個人ごとに試算したうえで進めることが重要です。
固定残業代が無効になるリスク

固定残業代について会社側が最も避けたいのは、「毎月固定残業代を払っていたから残業代は支払済み」と考えていたにもかかわらず、紛争時に割増賃金の支払いとして認められないことです。
固定残業代としての性質が認められなければ、その金額を割増賃金の支払いに充当できず、実際に発生していた時間外労働などについて改めて未払い賃金を計算する問題が生じる可能性があります。
さらに、固定残業手当として扱っていた金額が通常の賃金として評価される事情がある場合には、その金額を含めて割増賃金の算定基礎を検討しなければならないこともあります。
| 問題になりやすい状態 | 主なリスク |
|---|---|
| 基本給と固定残業代の区分が不明 | 割増賃金として支払った額を判別できない |
| 残業代としての趣旨が不明 | 手当の対価性が争われる |
| 対応時間が分からない | 労働者が制度内容を確認できない |
| 超過分を精算していない | 未払い割増賃金が発生する |
| 勤怠を把握していない | 差額精算そのものができない |
| 求人と雇用契約の内容が違う | 採用時の労働条件トラブルにつながる |
未払い賃金が発生した場合には、過去分の請求だけでなく、遅延損害金や、訴訟となった場合の付加金などが問題となる可能性もあります。
賃金請求権の消滅時効についても法改正の経過措置があるため、具体的な期間は請求時点の法令と事案を確認する必要があります。
固定残業代が有効かどうかは、規程の一文だけでは決まりません。
雇用契約、給与明細、会社からの説明、勤怠記録、差額支給の実績などを含めて総合的に確認される可能性があります。
固定残業代は残業代を節約するための仕組みとして考えない方が安全です。
適法に設計しても、実際の割増賃金が固定額を上回れば差額を支払います。
制度の目的は、あらかじめ一定額を支給する賃金設計であって、法定の割増賃金を免除することではありません。
また、固定残業代があるからといって36協定が不要になることもありません。
固定残業代は賃金の支払方法、36協定は法定労働時間を超えて労働させるための手続きであり、まったく別の問題です。
固定残業代の適法要件と導入方法(就業規則の書き方)
固定残業代を適法に導入・運用するために重要なのは、就業規則へ一つの条文を追加することではありません。
賃金制度から給与計算、勤怠管理まで一貫した仕組みにすることです。
会社側で導入を検討する場合は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 固定残業代を導入する目的を明確にする
- 対象となる従業員と割増賃金の範囲を決める
- 実際の残業実績を確認して固定時間を検討する
- 割増賃金の算定基礎から固定残業代の金額を計算する
- 基本給と固定残業代を明確に区分する
- 就業規則や賃金規程へ制度を定める
- 雇用契約書や労働条件通知書へ同じ内容を反映する
- 求人票にも基本給、固定残業代、時間数、超過分を明示する
- 勤怠から実際の割増賃金を毎月計算する
- 固定残業代を超える差額があれば必ず追加支給する
この中で一つだけ強調するなら、私は 制度を作った後の給与計算まで設計してから導入すること が最も大切だと考えています。
就業規則を作った時点ではきれいに整っていても、半年後には担当者が変わり、誰も固定残業時間と実残業時間を比較していないということは実際に起こり得ます。
固定残業代制度では、勤怠データを取得し、毎月自動または手作業で超過の有無を確認できる仕組みまで作っておく必要があります。
また、固定残業時間を長く設定すれば会社に有利になるわけでもありません。
求人を見た求職者から「毎月これだけ残業する会社なのではないか」と受け取られる可能性がありますし、実態として長時間労働が続けば36協定や安全配慮の問題も生じます。
固定残業代は、就業規則、労働条件通知書、求人票、給与明細、勤怠管理の5つを一つの制度として考えることが重要です。
なお、固定残業代に関する裁判例は個別の賃金制度や契約内容によって判断が異なります。
また、最低賃金や募集・採用に関するルール、労働関係法令は改正されることがあります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
労働基準法の現行条文については、 e-Gov法令検索の労働基準法 でも確認できます。
固定残業代の有効性や既存社員への導入可否は、会社の賃金規程、雇用契約、労働時間制度、これまでの支給実績などによって判断が変わります。
一般的な記載例だけで判断せず、 最終的な判断は専門家にご相談ください。