こんにちは。
もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。
ストレスチェックは、それ自体が意味のない制度ではありません。
むしろ、労働者が自分のストレス状態に気付き、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための仕組みとして設けられています。
それでも意味がないと感じる人が多いのは、検査結果を受け取ったところで終わり、その後のセルフケアや相談、面接指導、職場環境の改善までつながっていないケースが少なくないためです。
高ストレスと判定されたのに何も変わらなかった、本音で答えると会社に知られそうで怖い、毎年ほとんど同じ質問に答えて結果を見るだけになっている。
このような経験をすれば、「結局何のためにやっているのだろう」と疑問を持つのも自然です。
ただし、ストレスチェックは、うつ病などの精神疾患を見つけるための検査ではありません。
本人が自分のストレス状態を振り返り、必要に応じて相談や医師による面接指導につなげること、さらに企業が集団分析を通じて仕事量、人員配置、人間関係、管理職による支援などの職場環境を見直すことに大きな意味があります。
つまり、ストレスチェックが意味あるものになるかどうかは、受検することだけではなく、その後にどのような行動につながるかで大きく変わります。
従業員側と企業側の双方が制度の目的を正しく理解することが重要です。
この記事では、従業員側がストレスチェックを意味ないと感じる理由から、会社に結果がバレるのか、高ストレス判定を受けた場合にどう考えればよいのか、受検を拒否できるのか、企業が制度を形骸化させないためには何をすべきかまで、社会保険労務士の視点で実務的に整理します。
- ストレスチェックが意味ないと言われる理由
- 結果や高ストレス判定が会社に知られる範囲
- 受検拒否や医師による面接指導の基本ルール
- 集団分析を職場環境改善につなげる方法

ストレスチェックは意味ない?理由と誤解
ストレスチェックを受けた従業員からすると、質問へ回答して結果を見るだけでは、毎年受ける意味を感じにくいものです。
特に、職場に何の変化も見えなければ、「会社が法律で決められているから形式的にやっているだけではないか」と感じることもあるでしょう。
ここで重要なのは、 ストレスチェックという制度そのものの問題と、会社での運用上の問題を分けて考えること です。
制度の目的を理解したうえで実際の運用を見ると、ストレスチェックが本当に意味がないのか、それとも活用されていないだけなのかが見えてきます。
結果を受け取るだけで終わる理由
ストレスチェックが意味ないと感じられる最も分かりやすいケースが、質問票に回答し、結果通知を受け取り、それで一年間の取組が終了してしまう運用です。
例えば、結果画面に「ストレスが高い状態です」「休養を意識しましょう」「セルフケアを心掛けましょう」と表示されたとしても、毎月の残業時間が多い、担当業務が一人に集中している、人員不足が続いている、休暇を取りづらい、上司との関係に問題がある、といった状況が何も変わらなければ、従業員から見ればストレスチェックによる効果はほとんど感じられません。
ここは実務でもかなり重要なポイントです。
ストレスには本人側で対応しやすいものと、本人だけでは対応が難しいものがあります。
例えば、生活リズムを整える、睡眠を確保する、運動する、気分転換の時間をつくるといったセルフケアで改善できる部分もあります。
一方で、明らかに仕事量が多い、退職者が出ても補充されない、恒常的に長時間労働が発生している、職場内のコミュニケーションに問題があるといった原因は、一人の従業員が努力したところで解決できません。
それにもかかわらず、「あなたはストレスが高いので自分でストレスを解消してください」という形で終わってしまえば、従業員としては納得しにくいですよね。
本来は、本人のセルフケアだけでなく、職場側で改善できる要因がないかを見るところまで含めて考える必要があります。
ストレスチェックは、結果を返却すること自体がゴールではありません。
本人が自分の状態に気付き、必要に応じて相談や医師による面接指導につなげること、さらに企業が集団分析などを通じて職場環境を見直すことまでつながって、初めて制度の効果が見えやすくなります。
もう一つ、意味がないと感じられる原因として、会社が何を改善したのか従業員から見えないことがあります。
会社側では、集団分析を確認した結果として人員配置を変更したり、管理職へ研修を実施したり、業務フローを見直したりしていることがあります。
しかし、それを従業員へ何も伝えていなければ、「ストレスチェックを受けたけれど何も起きなかった」と見えてしまいます。
個別結果を会社が確認する必要はありませんが、「今年の集団分析ではこのような傾向が確認されたため、こういう改善を行います」といった形で、個人が特定されない範囲で取組をフィードバックすることは、制度への理解を深めるうえで有効です。
私が企業の労務管理を考える際にも、制度を導入したかどうかだけではなく、「導入した制度が実際にどう運用されているか」を重視します。
これはストレスチェックに限りません。
就業規則でも勤怠管理でも、作っただけ、導入しただけでは十分ではないんですね。
ストレスチェックが形骸化する大きな原因は、「受検→結果通知」で流れが止まってしまうことです。
本人の気付き、相談、集団分析、職場改善、その後の検証まで一つの流れとして考える必要があります。
ストレスチェックの制度そのものや対象者、実施義務について詳しく確認したい方は、 ストレスチェックの義務・対象者・罰則の解説 も参考にしてください。
高ストレスでも放置される実態

ストレスチェックで高ストレスと判定された場合、「会社が何とかしてくれるのだろう」と考える方もいるかもしれません。
しかし、高ストレスと判定されたからといって、自動的に会社との面談が設定されたり、産業医との面接が強制的に行われたりするわけではありません。
法律上の医師による面接指導は、高ストレス者として一定の要件に該当する労働者が、 自ら事業者へ面接指導を申し出ること が基本となっています。
この仕組みは本人の意思やプライバシーを尊重するために重要ですが、一方で、高ストレス者への支援につながりにくい要因にもなっています。
厚生労働省が令和3年8月から9月に実施した事業場調査では、高ストレス者のうち医師による面接指導を申し出る人の割合について、「5%未満」と回答した事業場が76.8%でした。
また、受検者に占める高ストレス者の割合は、多くの事業場で5%から20%の範囲に存在しています。
つまり、高ストレスと判定される人そのものは一定数いるにもかかわらず、実際の医師による面接指導までつながっている人はかなり限られているということです。
この背景として大きいのが、「面接指導を申し出れば、自分が高ストレス者であることを会社に知られる」という心理的なハードルです。
高ストレス判定そのものは、本人が面接指導を申し出なければ原則として会社へ伝わりません。
しかし、法定の面接指導を会社へ申し出るためには、当然ながら会社側がその申出を把握することになります。
そのため、「人事評価へ影響するのではないか」「上司から扱いにくい社員だと思われるのではないか」と不安になり、申出を控える人がいても不思議ではありません。
こうした実態については、厚生労働省も制度上の課題として示しています。
(出典: 厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」令和4年3月 )
高ストレス判定は、精神疾患の診断ではありません。
高ストレスと判定されたからといって、直ちにうつ病や適応障害などの病気があると判断されるわけではありません。
反対に、高ストレス判定ではなかったからといって、心身の不調がないと保証されるものでもありません。
従業員側として大切なのは、高ストレスという表示だけを見るのではなく、現在の自分の状態を振り返ることです。
不眠が続く、朝起きることが極端につらい、食欲が落ちている、動悸がある、涙が出る、仕事のことを考えると強い不安が出る、仕事上のミスが明らかに増えた、といった変化がある場合には、ストレスチェックの結果だけで様子を見るのではなく、早めに医師などへ相談することも選択肢になります。
企業側も、「本人から面接指導の申出がなかったから対応終了」と考えるのではなく、制度全体として相談しやすい環境を整えておくことが重要です。
例えば、産業医への健康相談、保健師への相談、外部相談窓口、EAPなど、法定の面接指導以外の入口を用意する方法があります。
さらに、申出を行っても不利益な取扱いを受けないこと、健康情報がどのように管理されるのか、誰まで情報が共有されるのかを事前に具体的に説明しておくことも重要です。
高ストレス者が何人出たかだけを見るのではなく、高ストレスになった人が安心して支援につながれる仕組みになっているかを見ること が、本来のメンタルヘルス対策だと私は考えています。
会社にバレる不安で本音を書けない
ストレスチェックについて従業員側から最も不安を持たれやすいポイントの一つが、「正直に回答したら会社にバレるのではないか」という問題です。
例えば、「上司との関係が悪い」「仕事に強い負担を感じている」「最近気分が落ち込んでいる」と回答すると、直属の上司や人事担当者に結果を見られ、自分だけ異動させられたり評価を下げられたりするのではないかと考える方もいます。
しかし、制度上は、 ストレスチェックの個人結果を会社が本人の同意なく自由に取得することはできません。
ストレスチェックの結果は、医師や保健師などの実施者から原則として労働者本人へ直接通知されます。
会社が個人結果の提供を受ける場合には、原則として結果通知後に本人の同意が必要です。
そのため、人事担当者や直属の上司が管理画面を開き、従業員一人ひとりの回答内容や点数を自由に確認するような制度ではありません。
ここは企業側でも誤解が起こりやすいところです。
会社がお金を払ってストレスチェックを実施しているからといって、「会社のデータだから経営者や人事が全部見られる」という考え方にはなりません。
| 情報 | 会社が原則把握できるか | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 質問への個別回答 | 本人同意なく取得不可 | 実施者等が適切に管理する |
| 個人のストレス判定結果 | 本人同意なく取得不可 | 原則として本人へ直接通知される |
| 受検したかどうか | 一定範囲で把握可能 | 未受検者への受検勧奨等に利用される |
| 集団分析結果 | 一定条件で把握可能 | 個人が特定されない形で職場改善に利用する |
| 法定面接指導の申出 | 会社に伝わる | 会社が医師による面接指導を実施するため必要 |
ただし、「会社には絶対に何も伝わらない」と理解するのも正確ではありません。
高ストレス者として法定の医師による面接指導を会社へ申し出た場合、その申出をしたことは会社に伝わります。
これは、会社が医師による面接指導を実施し、その結果を踏まえて必要な就業上の措置を検討する仕組みだからです。
会社が全く関与せずに法定面接指導を完結させるものではありません。
一方で、面接指導を申し出たからといって、ストレスチェックの質問への回答がすべて直属の上司へ開示されるという意味ではありません。
会社が取得する健康情報についても、健康管理や就業上の措置に必要な範囲で適切に取り扱う必要があります。
例えば、医師が「一定期間、時間外労働を減らした方がよい」と判断した場合、会社には就業上必要な範囲で情報が伝わることがあります。
しかし、その際も、診察や相談の内容を必要以上に職場内へ共有することは避けなければなりません。
「ストレスチェックの個人結果」と「面接指導後の就業上必要な情報」は分けて考えることが重要です。
会社に一切知られない制度ではありませんが、人事担当者や上司が自由に個人結果を見る制度でもありません。
私が実務上特に問題だと感じるのは、この情報管理の説明が従業員へ十分にされていないケースです。
「会社には見えません」とだけ説明してしまうと、後から面接指導の申出をした際に会社が関与することを知り、「話が違う」と不信感につながります。
反対に、情報管理について何も説明しなければ、「どうせ人事が全部見ているのだろう」と考えて、本音で回答しない人が出てきます。
ストレスチェックでは、回答の正確性以前に、制度そのものを従業員が信用しているかが重要です。
誰が個人結果を見るのか、会社へ提供されるのはどの情報か、面接指導を申し出た場合にはどうなるのか。
このあたりを具体的に説明することが、制度を形骸化させないための基本になります。
ストレスチェック本来の目的と効果

ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10を根拠とする制度です。
2015年12月から制度がスタートしました。
ここで改めて押さえておきたいのが、ストレスチェックは「精神疾患のある従業員を発見するための検査」ではないということです。
ストレスチェックの中心となる考え方は、 メンタルヘルス不調の一次予防 です。
一次予防とは、心身の不調が深刻になってから治療するのではなく、その前の段階で本人が自分のストレス状態へ気付き、必要な対応につなげていくことをいいます。
例えば、仕事が忙しい状態が何か月も続いていると、本人自身がその状態に慣れてしまうことがあります。
「最近眠れないけれど繁忙期だから仕方がない」「イライラするけれど仕事だからこんなものだ」と考え、ストレスが積み重なっていることに気付かないケースです。
ストレスチェックでは、質問に回答する過程そのものが自分の状態を振り返る機会になります。
ストレスチェックの主な役割
- 自分自身のストレス状態への気付きを促す
- 休養や生活習慣の見直しなどセルフケアにつなげる
- 高ストレス者が必要に応じて医師へ相談するきっかけをつくる
- 部署や職場単位の集団分析によってストレス要因を把握する
- 業務量、人員配置、管理方法などの職場環境改善につなげる
この中で、従業員側から見えやすいのは最初の二つです。
そのため、「自分のストレス度を見るだけなら、わざわざ会社でやる必要があるのか」と感じることがあります。
しかし、企業が制度を適切に活用する場合には、個人への結果通知だけでなく、集団分析を通じた職場環境の改善というもう一つの重要な役割があります。
例えば、ある部署だけ仕事量の負担が高い傾向が続いているのであれば、残業時間、欠員状況、担当業務、人員配置などを確認します。
上司からの支援が低いのであれば、管理職のマネジメント方法や面談の状況を確認することができます。
つまり、ストレスチェックは「あなたのストレス耐性が弱いかどうかを見る検査」ではなく、 本人と職場の両方からストレス要因を考えるための仕組み です。
反対に、高ストレスと判定されたからといって、その結果だけでうつ病や適応障害などと診断されるわけではありません。
ここを誤解すると、「病気を発見できないなら意味がない」という評価になりやすいのですが、そもそも病気を診断する目的の検査ではありません。
健康診断と全く同じ感覚で「正常・異常」を判断するものではないんですね。
ストレスチェックは「診断」ではなく「気付き」のための制度です。
そのうえで、必要な人を相談や医師による面接指導へつなぎ、さらに集団分析から職場環境の改善へ発展させることで、制度の効果が大きくなります。
また、制度の効果を一回の結果だけで判断しないことも大切です。
今年ストレスチェックを行ったから翌月には離職率が下がる、といった単純なものではありません。
毎年結果を確認し、改善策を実施し、その翌年に傾向がどう変化したかを見る。
この繰り返しによって、職場の状態を継続的に把握できるようになります。
自分の状態を振り返り、必要な行動につなげるための入口であり、企業にとっては職場環境を見直すための入口でもある と考えると、ストレスチェックの本来の位置付けが分かりやすいでしょう。
拒否や未受検でも罰則はあるのか
ストレスチェックについて非常に混同されやすいのが、「会社には実施義務がある」ということと、「従業員にも受検義務がある」ということです。
この二つは同じではありません。
事業者には、法律上、対象となる事業場でストレスチェックを実施する義務があります。
一方で、 労働者本人にはストレスチェックを受けなければならないという法的な受検義務はありません。
したがって、ストレスチェックを受けなかった従業員本人に罰金が科されたり、行政から処罰されたりする制度ではありません。
これは健康診断との違いとして押さえておきたいポイントです。
会社の健康診断については、労働安全衛生法上、労働者にも受診に関する規定があります。
一方、ストレスチェックについては、メンタルヘルス不調で治療中の人など、受検すること自体が負担になるケースも考慮し、労働者に一律の受検義務を課す仕組みにはなっていません。
ただし、「義務がないのだから受けても意味がない」という話でもありません。
自分のストレス状態を確認する機会として利用できますし、企業側も一定数の従業員が受検しなければ、職場全体の傾向を把握しにくくなります。
そのため、会社が制度の目的を説明したうえで受検を勧奨すること自体は考えられます。
未受検者への受検勧奨と、受検の強制は分けて考える必要があります。
例えば、就業規則で形式的に受検を義務付け、未受検であることを理由として懲戒処分を行うような運用は、労働者に法的な受検義務を課していない制度の趣旨や、不利益取扱いに関するルールとの関係で問題になります。
また、ストレスチェックを受けなかったこと、結果を会社へ提供することに同意しなかったこと、高ストレスと判定された人が面接指導を申し出なかったことなどを理由として、不利益な取扱いを行うことにも制限があります。
実務では、未受検者の人数を減らしたいあまり、管理職へ未受検者一覧を広く配布し、「部下に必ず受けさせてください」と強く指示するような運用は避けた方がよいでしょう。
もちろん、受検していない人へメールなどで再案内することまで問題になるわけではありません。
大切なのは、圧力をかけるのではなく、「なぜ受けてほしいのか」を説明することです。
例えば、「個人結果を会社が勝手に確認することはできません」「結果は原則として本人へ直接通知されます」「高ストレスと判定されても、それだけで人事評価へ利用されることはありません」といった情報を事前に伝えることで、受検への不安を減らせる場合があります。
会社側としても、受検率だけをKPIのように追いかけるのではなく、 なぜ従業員が受検したくないと感じているのかを確認すること が重要です。
「どうせ会社に結果を見られる」「受けても何も変わらない」という不信感が原因であれば、受検勧奨を強くするより、情報管理や職場改善の仕組みを見直した方が根本的な解決になります。
なお、ストレスチェック制度は法改正や省令改正によって取扱いが変わることがあります。
事業者側の実施義務、報告、対象者の判断などについては、その時点の制度を確認する必要があります。
ストレスチェックを意味ないで終わらせない方法
ストレスチェックを意味ある制度にできるかどうかは、受検後の対応で大きく変わります。
従業員側では、高ストレス判定を単なる点数として終わらせず、自分の状態を振り返る材料として使うことが重要です。
企業側では、個人結果を管理しようとするのではなく、安心して相談できる仕組みづくりと集団分析による職場改善へ軸を置く必要があります。
ここからは、従業員側が高ストレスと判定された場合の考え方と、企業がストレスチェックを実際の職場改善へつなげるための方法を具体的に確認していきます。
面接指導が怖いときに知るべきこと
高ストレスと判定されても、医師による面接指導を申し出ることに抵抗を感じる方は少なくありません。
「面接を申し込んだら会社に目を付けられるのではないか」「仕事を外されるのではないか」「評価や昇進に影響するのではないか」「上司に自分の悩みを知られるのではないか」と考えれば、申出をためらうのも無理はありません。
まず知っておきたいのは、 面接指導を申し出たことを理由として不利益な取扱いを行うことは禁止されている ということです。
また、医師による面接指導は、上司から事情聴取を受けたり、仕事への適性を審査されたりする場ではありません。
医師が勤務状況、疲労の蓄積、ストレスの原因、睡眠などの生活状況、心身の状態などを確認し、必要な助言を行います。
そのうえで、必要がある場合には会社へ就業上の措置について意見を述べる仕組みです。
例えば、長時間労働が続いている人について、一定期間は残業を減らす必要があると医師が判断することがあります。
業務負担の軽減、勤務時間の調整、配置上の配慮などが検討される場合もあります。
つまり、面接指導は「高ストレス者として認定されるための面接」ではなく、現在の状態を確認し、必要であれば働き方を調整するための制度です。
法定の面接指導を申し出ると、申出をしたこと自体は会社に伝わります。
会社が医師による面接指導を実施し、その後の就業上の措置を検討する制度だからです。
ただし、ストレスチェックの回答内容がそのまま上司へ公開されるという意味ではありません。
ここで大切なのは、「面接指導を申し出る」か「何もしない」かの二択にしないことです。
会社によっては、法定の面接指導とは別に、産業医への健康相談、保健師への相談、社内相談窓口、外部EAPなどを利用できる場合があります。
特に、「法定面接指導を申し込むほどなのか分からない」「まずは誰かに相談して状況を整理したい」という段階であれば、こうした相談ルートを利用する方法もあります。
また、ストレスの原因が仕事だけとは限りません。
家庭の問題、介護、育児、経済的な問題、睡眠不足などが複合している場合もあります。
反対に、仕事上のハラスメントや人間関係が大きな原因となっている場合には、健康相談だけでは問題が解決しないこともあります。
その場合は、産業保健の相談と労務上の相談を分けて考えることも必要です。
例えば、明確なパワハラ行為が続いているのであれば、産業医へ健康状態を相談する一方で、会社のハラスメント相談窓口へ事実関係を相談するという対応も考えられます。
不眠、食欲低下、強い気分の落ち込み、動悸、出勤することへの強い恐怖など、心身の不調が強く出ている場合には、ストレスチェックの面接指導だけに限定して考えないことが大切です。
症状が強い場合や長期間続いている場合には、医療機関への相談も検討してください。
ストレスチェックは医療診断ではないため、「高ストレスではなかったから病院へ行く必要はない」「高ストレスだから必ず病気だ」という判断もできません。
ストレスチェックの結果は、行動するかどうかを決める絶対的な基準ではなく、自分の状態を見直す一つのきっかけ として考えるのがよいでしょう。
健康状態については個人差が大きいため、症状や受診の必要性について判断に迷う場合は、医師などの専門家へ相談することをおすすめします。
集団分析を職場改善に活かす方法

企業側がストレスチェックを意味あるものにするうえで、特に重要なのが集団分析です。
集団分析とは、従業員一人ひとりの結果を見るのではなく、部署、職種、事業所など一定の集団ごとに結果を集計し、その職場にどのようなストレス要因があるのかを分析する方法です。
個人結果だけでは、「その従業員自身の問題なのか」「職場全体に共通する問題なのか」を判断することが難しい場合があります。
例えば、一人の従業員だけが仕事量を重いと感じているのであれば、担当業務や本人の状況を個別に確認する必要があります。
一方、同じ部署の多くの従業員で仕事量の負担が高く出ているのであれば、人員配置、業務量、納期設定、残業時間など、職場側に共通する原因がないか確認する必要があります。
これが集団分析の大きな意味です。
| 集団分析で見える傾向 | 合わせて確認したい実態 | 改善策の例 |
|---|---|---|
| 仕事量の負担が高い | 残業時間・欠員・担当件数・繁忙期 | 人員配置や業務分担の見直し |
| 仕事の裁量度が低い | 承認フロー・決裁権限・細かな指示 | 権限移譲や業務手順の見直し |
| 上司の支援が低い | 面談頻度・相談機会・管理職の対応 | 1on1や管理職研修の実施 |
| 同僚の支援が低い | 情報共有・属人化・チーム体制 | 業務共有やチーム運営の改善 |
| 職場全体の負担が上昇 | 採用状況・退職者・業績・組織変更 | 組織体制や業務量そのものの見直し |
ただし、集団分析の数字だけを見て、原因を決めつけるのは避けた方がよいでしょう。
例えば、「仕事量の負担が高い」という結果が出ても、その原因が単純に仕事量の多さとは限りません。
業務手順が非効率、特定の社員へ仕事が集中している、繁忙時間帯と人員配置が合っていない、管理職から急な指示が多いなど、背景は会社によって異なります。
そこで私が実務上おすすめしたいのは、ストレスチェックの集団分析だけで判断せず、他のデータと組み合わせることです。
残業時間、有給休暇の取得状況、欠勤、休職、離職率、部署別の退職者数、人員構成などを並べてみると、数字の背景が見えてくることがあります。
さらに、必要に応じて従業員へのヒアリングや管理職との面談も行います。
集団分析は「答え」ではなく「仮説を立てる材料」と考えると活用しやすくなります。
ストレスチェックの数字から問題の可能性を見つけ、勤怠データや現場の声を確認し、本当に改善すべき原因を特定する流れです。
例えば、ある部署だけストレスが高く、残業時間も多いのであれば、「人手不足が原因ではないか」という仮説を立てます。
そのうえで、業務量、欠員状況、残業の発生時間などを確認します。
実際には、人を一人増やさなくても、毎週行っていた会議を減らす、二重入力になっている作業をなくす、特定の社員しかできない業務を標準化するといった改善だけで負担が下がるケースもあります。
逆に、人員不足が明らかなのに「コミュニケーション研修をしましょう」という対策だけを行っても、本質的な解決にはなりません。
集団分析を実施することと、その結果を職場環境改善へ活用することは別の段階です。
ストレスチェックを意味あるものにするには、「分析した」で終わらず、「何を変えるか」まで落とし込む必要があります。
50人未満も義務化へ備えるポイント
これまで常時50人未満の労働者を使用する事業場については、ストレスチェックの実施が当分の間、努力義務とされていました。
しかし、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法によって対象範囲が拡大され、 2028年4月1日から労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されます。
これまでストレスチェックを実施したことがない中小企業にとっては、単に検査サービスを契約すれば終わりという話ではありません。
誰を実施者にするのか、誰が実施事務を担当するのか、個人結果をどう管理するのか、高ストレス者が出た場合に誰が医師による面接指導を行うのか、といった運用を準備する必要があります。
実務では、2028年4月になってから慌てて対応するより、施行前から体制を整理しておいた方がよいでしょう。
小規模事業場で事前に確認したいこと
- 誰をストレスチェックの実施者とするか
- どのサービスや外部実施機関を利用するか
- 実施事務従事者を誰にするか
- 個人結果を誰がどのように管理するか
- 高ストレス者への面接指導を誰へ依頼するか
- 従業員へ制度の目的をどう説明するか
- 相談窓口をどのように用意するか
- 集団分析を職場改善へどう活用するか
特に小規模企業で慎重に考えたいのが、プライバシーの問題です。
従業員が10人、20人程度の会社では、社長、人事担当者、現場責任者、従業員の距離が非常に近い場合があります。
そのため従業員からすると、「本当に自分の結果を社長が見られないのか」「高ストレスになったらすぐ誰のことか分かるのではないか」という不安を感じやすくなります。
大企業以上に、誰が何の情報を扱うのかを明確にする必要があるわけです。
例えば、給与計算を担当している総務担当者だからという理由だけで、ストレスチェックの個人情報にもアクセスできるようにするのではなく、制度上必要な役割と情報へのアクセス権限を整理することが重要です。
また、小規模事業場では産業医の選任義務がないケースが多いため、「高ストレス者が出たら誰に面接指導を依頼するのか」という実務上の問題もあります。
労働者数50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センターなどの産業保健サービスを利用できる場合があります。
外部サービスを利用する場合でも、契約前に面接指導まで対応できるのか、別途医師を手配する必要があるのかを確認しておくとよいでしょう。
システム選びより先に、運用設計を考えることが大切です。
どのストレスチェックサービスを使うかだけではなく、「誰が実施し、誰が情報を管理し、高ストレス者をどこへつなぐか」まで決めておく必要があります。
2026年8月時点で、厚生労働省は2028年4月1日から労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックを義務化することを明示しています。
(出典: 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」 )
小規模企業では、人事や産業保健の専門部署を設けることが難しいケースも多いため、すべてを自社だけで抱える必要はありません。
外部の実施機関や産業保健サービスを活用しながら、会社内部では情報管理と従業員への周知をしっかり行うという役割分担も考えられます。
義務化を単なる事務負担として捉えるのではなく、これを機会に、従業員の健康相談、長時間労働、ハラスメント、人員配置などを含めたメンタルヘルス対策全体を見直しておくと、制度をより実効性のあるものにできるかなと思います。
企業が形骸化を防ぐための実務対応

企業がストレスチェックを形骸化させないためには、実施日だけを管理するのではなく、実施前、実施中、実施後、職場改善までを一つの運用として設計する必要があります。
私が企業側の実務を見る場合にも、単に「今年ストレスチェックを実施しましたか」という確認だけでは十分ではありません。
特に確認したいのは、 従業員が制度を信用できる状態になっているか という点です。
例えば、制度の説明がほとんどなく、突然メールで「ストレスチェックを受けてください」と送られてきた場合、従業員は何のための検査なのか分かりません。
さらに、「結果は会社が見るのではないか」という不安があれば、実際よりストレスが低くなるよう意図的に回答する人が出る可能性もあります。
そうなれば、どれだけ高性能なシステムを導入しても、制度として十分に機能しません。
実施前に目的と情報管理を説明する
ストレスチェックを実施する前には、少なくとも「何のために実施するのか」「誰が個人結果を見るのか」「会社にはどの情報が伝わるのか」「高ストレスと判定された場合にどうなるのか」を説明しておくことが大切です。
特に、「精神疾患の人を見つける検査ではない」「人事評価のために行うものではない」という点は明確にしておきたいところです。
情報管理についても、単に「個人情報は守られます」と説明するだけでは不十分です。
実施者は誰なのか、実施事務従事者は誰なのか、会社の人事担当者が見られる情報は何なのか、といったところまで具体的に説明した方が従業員は安心できます。
実際によくあるのが、「結果は会社には見えません」とだけ周知してしまうケースです。
その後、高ストレス者が法定の面接指導を申し出る段階になって初めて、「面接を申し込むと会社に知られる」と分かれば、不信感につながります。
最初から、「個人結果は原則として会社には提供されません。
ただし、医師による面接指導を会社へ申し出た場合には、会社が面接指導を実施するため申出の事実は把握します」と説明しておく方が正確です。
高ストレス者の相談経路を複数用意する
高ストレス者への支援を、法定の医師による面接指導だけに限定してしまうと、会社に知られることへの抵抗感から何も利用しない従業員が出てくる可能性があります。
そこで、会社の規模に応じて複数の相談経路を用意できないか検討します。
- 医師による法定の面接指導
- 産業医への健康相談
- 保健師等への相談
- 外部EAP
- 社外の相談窓口
- 社内のハラスメント相談窓口
どの窓口を利用するかは、抱えている問題によって変わります。
体調そのものへの不安であれば医師や産業保健スタッフへの相談が中心になります。
一方、ストレスの原因が上司からのハラスメントである場合、健康相談だけを行っても職場側の原因は残ります。
その場合には、ハラスメント相談窓口などへ事実関係を相談する必要があるかもしれません。
職場の人間関係やハラスメントがストレスの背景にある場合には、健康相談とは別に労務上の相談ルートを案内することも重要です。
外部の相談先については、 厚生労働省のハラスメント相談窓口と使い方 でも整理しています。
集団分析から一つでも改善する
集団分析を行ったら、その結果を見て終わりにせず、一つでも具体的な改善策へつなげます。
ここで重要なのは、大規模な改革をしなければ意味がないと考えないことです。
例えば、毎週1時間行っていた会議を30分にする、特定の社員だけが行っていた業務を複数人で共有する、繁忙時間帯のシフトを一人増やす、管理職と部下の1on1を始める、不要な社内報告書を一つ廃止する。
こうした小さな改善でも構いません。
むしろ重要なのは、「分析→改善→検証」の流れを繰り返すことです。
| 段階 | 主な対応 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 実施前 | 目的・情報管理・相談方法を周知する | 従業員が安心して回答できるか |
| 実施 | 適切な実施体制でストレスチェックを行う | 個人結果へのアクセス権限は適切か |
| 実施後 | 高ストレス者へ相談・面接指導を案内する | 相談しやすい仕組みになっているか |
| 分析 | 集団分析と勤怠等のデータを確認する | 職場の問題について仮説を立てられるか |
| 改善 | 業務量・人員配置・管理方法などを見直す | 具体的な行動に変換されているか |
| 翌年度 | 前年結果と比較して改善効果を検証する | 改善策が機能したか確認する |
例えば、今年の集団分析で「仕事量の負担が高い」という結果が出たとします。
そこで残業時間を確認したところ、特定の部署だけ月の時間外労働が多いことが分かり、人員配置と業務分担を変更したとします。
翌年、残業時間とストレスチェックの結果がどちらも改善していれば、対策が一定の効果を上げた可能性があります。
反対に、残業時間は減ったのにストレスの数値が改善しないのであれば、仕事量以外に原因があるのではないかと次の仮説を立てることができます。
ストレスチェックを職場改善のPDCAに組み込むことが重要です。
毎年同じ検査を繰り返すだけではなく、前年の課題、実施した対策、翌年の変化を記録しておくと、会社独自のメンタルヘルス対策へ発展させることができます。
さらに、改善を実施したら、その内容を従業員へ伝えることもおすすめします。
もちろん、「A部署のストレスが高かったから改善しました」など、特定の部署や個人が不必要に注目される伝え方は避ける必要があります。
一方で、「今年度の集団分析などを踏まえ、業務負担軽減のため会議時間を見直しました」といった形で伝えれば、従業員から見ても「ストレスチェックの結果が会社の改善につながっている」と実感しやすくなります。
制度への信頼が高まれば、本音で回答しやすくなり、その結果として集団分析の質も高まり、さらに職場改善につなげやすくなる という好循環をつくることができます。
ストレスチェックを形骸化させないためには、システムの機能よりも、こうした運用の積み重ねの方が重要だと私は考えています。
ストレスチェックを意味ないで終わらせない
ストレスチェックが意味ないと感じられる背景には、制度そのものよりも、結果がその後の行動につながっていないという問題があります。
従業員側から見れば、毎年質問に回答し、「今年はストレスが高めです」という結果を受け取るだけで、仕事量も人員配置も職場環境も何も変わらなければ、「結局何のためにやっているのだろう」と感じるのは当然でしょう。
企業側でも、法律上必要だから年に一度ストレスチェックを実施し、実施結果を管理したところで業務終了と考えてしまえば、本来の制度目的を十分に活かすことはできません。
重要なのは、ストレスチェックを単独のイベントとして考えないことです。
ストレスチェックを意味あるものにするポイントは、大きく三つあります。
- 従業員自身が自分のストレス状態への気付きに利用する
- 高ストレス時や不調時に安心して相談できる環境を整える
- 集団分析を具体的な職場環境改善につなげる
従業員側としては、結果の点数だけに一喜一憂する必要はありません。
前年より疲労感が強くなっていないか、睡眠が悪化していないか、以前より仕事へ行くことを負担に感じていないか、自分の状態を確認する材料として使います。
高ストレスと判定されたのであれば、「病気だ」と考える必要はありませんが、なぜ高ストレスになったのかは一度振り返ってみてよいでしょう。
仕事量なのか、人間関係なのか、家庭の事情なのか、睡眠不足なのか。
それによって取るべき対応も変わります。
企業側では、個人のストレス結果を把握することより、 従業員が安心して本音で回答できる環境になっているか を確認することの方が重要です。
例えば、個人情報の取扱いが曖昧だったり、過去に相談した従業員が不利益な扱いを受けたと感じる出来事があったりすれば、制度上どれだけ個人情報を保護していても、従業員は本音で回答しないかもしれません。
反対に、誰が結果を管理するのかが明確で、高ストレス者への相談ルートが整備され、集団分析から実際に職場改善が行われていれば、「回答する意味がある」と感じやすくなります。
ストレスチェックの効果を高めるには、従業員へ「受けてください」と求めるだけではなく、会社側も「結果を受けて何をするのか」を示すことが大切です。
また、ストレスチェックだけで会社のメンタルヘルス問題をすべて解決できるわけでもありません。
長時間労働が常態化しているのであれば労働時間管理を見直す必要があります。
ハラスメントが発生しているのであれば相談体制や事実確認、再発防止が必要です。
休職者が増えているのであれば、休職・復職制度や管理職による早期対応も確認する必要があります。
つまり、ストレスチェックはメンタルヘルス対策全体の中の一つの仕組みです。
ストレスチェックは、実施することに意味があるのではなく、その結果をどのような行動につなげるかが重要です。
2028年4月1日からは50人未満の事業場にも実施義務が広がります。
これまでストレスチェックを実施してこなかった中小企業では、単にシステムを導入するだけでなく、実施者、実施事務従事者、情報管理、面接指導の依頼先、相談窓口、集団分析、職場改善まで一連の流れとして準備することをおすすめします。
せっかく時間と費用をかけてストレスチェックを実施するのであれば、「法律で決められているからやるもの」で終わらせるのではなく、職場の状態を年に一度確認する機会として活用した方が企業にとっても従業員にとっても意味があります。
従業員から「ストレスチェックなんて意味ないですよ」と言われたときも、単に制度への理解不足と決めつけるのではなく、「なぜそう感じたのか」を確認してみるとよいでしょう。
結果を受け取っただけで何も変化がないのか、会社に結果を見られると思っているのか、相談しても意味がないと感じているのか。
理由によって会社が改善すべきポイントは違います。
その意味では、「ストレスチェックは意味ない」という声そのものが、制度運用を見直すための一つのサインとも考えられます。
なお、ストレスチェック制度や安全衛生関係の取扱いは、法改正、省令改正、行政通達などによって変更される場合があります。
正確な情報は公式サイトをご確認ください。
また、個別の健康状態、会社の安全配慮義務、就業上の措置、休職や復職などについては、それぞれの事情によって判断が異なります。
健康面については医師などの医療専門職へ、労務管理や制度運用について判断に迷う場合には、 最終的な判断は専門家にご相談ください。