労災

労災とは?種類・認定基準・給付内容を実務目線で確認

こんにちは。

もりおか社会保険労務士事務所、社会保険労務士の川熊です。

労災とは、労働者が仕事や通勤を原因として、ケガをしたり、病気になったり、障害を負ったり、死亡したりすることです。

工事現場や工場で発生する事故だけを指す言葉ではありません。

事務所内での転倒、営業中の交通事故、重量物の運搬による腰痛、業務中の熱中症、長時間労働による脳・心臓疾患、職場で受けた強い心理的負荷による精神疾患なども、仕事との関係が認められれば労災になる可能性があります。

労災保険は正社員だけを対象とする制度ではありません。

パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、日雇い労働者なども、会社に使用され、賃金を受け取って働く労働者であれば、原則として対象になります。

勤務日数が少ない方や、入社直後の方であっても、労働者であることに変わりはありません。

一方で、仕事中や会社内で起きた出来事が、すべて自動的に労災と認められるわけではありません。

事故が起きた時間や場所だけでなく、何のために行動していたのか、業務との間に因果関係があるのか、通常の通勤経路だったのか、医師がどのように診断しているのかなどを踏まえ、労働基準監督署が個別に判断します。

実際によくあるのが、「会社から労災ではないと言われた」「健康保険を使って受診してしまった」「パートだから対象外だと思っていた」「申請は会社が行うものだと思っていた」という相談です。

労災制度は生活を守る重要な制度ですが、初めて事故に遭った方には分かりにくい部分も少なくありません。

この記事では、労災の種類、認定基準、対象となる労働者、健康保険との違い、受けられる給付、申請手続き、副業中の事故、フリーランスの特別加入、精神疾患の認定基準、会社側の義務まで、初めて確認する方にも分かるように整理します。

  • 労災に該当するケガや病気の基本的な考え方
  • 業務災害と通勤災害の違いと認定基準
  • 労災保険から受けられる主な給付内容
  • 労災が発生したときの申請手続きと会社の義務

労災とは?種類・認定基準・給付を社労士が解説

労災とは何かを基本から解説

まずは、労災の意味と制度の全体像を確認しましょう。

実務では、労働災害そのものを指す労災と、被災した労働者へ補償を行う労災保険が混同されやすいため、両者を分けて理解することが大切です。

また、労災保険には治療費を補償する制度というイメージがありますが、実際には休業中の所得、後遺障害、介護、死亡した場合の遺族補償なども含まれます。

事故が発生した直後だけでなく、その後の生活や社会復帰を支える仕組みです。

労災の種類は業務災害と通勤災害

労災とは、労働者が業務上の事由または通勤によって被った負傷、疾病、障害、死亡などの総称 です。

正式には労働災害といい、労災保険においては、大きく業務災害と通勤災害に分けて考えます。

種類 基本的な意味 主な例 実務上の確認点
業務災害 仕事が原因で発生したケガや病気など 作業中の転倒、機械による負傷、業務上の熱中症、過重労働による病気 業務中だったか、仕事との因果関係があるか
通勤災害 合理的な経路や方法による通勤中に発生したケガなど 出勤途中の交通事故、駅の階段での転倒、退勤途中の事故 就業に関する移動か、経路の逸脱や中断がないか

業務災害として分かりやすいのは、工場で機械に手を挟まれた、建設現場で足場から転落した、倉庫内で荷物を運んでいる最中に転倒した、といった事故です。

ただし、業務災害は、このような突発的な事故だけではありません。

たとえば、長期間の重量物運搬によって腰を痛めた場合、炎天下での作業によって熱中症を発症した場合、有害物質へのばく露によって病気になった場合なども、仕事との因果関係が認められれば対象になります。

長時間労働による脳・心臓疾患や、ハラスメント、業務上の重大なトラブルなどを原因とする精神障害も同様です。

会社の外で起きても業務災害になることがある

労災というと会社や工場の敷地内で発生する事故を想像する方が多いのですが、事故の場所だけで決まるわけではありません。

営業先へ向かう途中の交通事故、出張先のホテルで業務に関連して発生した事故、会社の指示で備品を購入しに行く途中の事故などは、会社の外で起きていても業務災害になる可能性があります。

反対に、会社内で起きた事故でも、勤務時間中に業務と無関係な私的行為を行っていた場合や、本人が故意に事故を起こした場合などは、業務災害として認められないことがあります。

大切なのは、事故が起きた場所ではなく、 労働契約に基づく業務との関係 です。

通勤災害に含まれる移動

通勤災害は、自宅から会社への出勤と、会社から自宅への退勤だけに限られません。

複数の勤務先を移動する場合、単身赴任先の住居と家族が暮らす住居との間を一定の要件で移動する場合なども、通勤に含まれることがあります。

また、通勤方法は電車や自動車に限られません。

徒歩、自転車、バイク、バスなど、通常利用する合理的な方法であれば対象になり得ます。

会社へ届け出ていた経路と完全に同じでなければ認められない、という単純なものでもありません。

電車の遅延を避けるために別の路線を使った場合や、交通事情に応じて別の道路を通った場合でも、合理性があれば通勤として扱われる可能性があります。

仕事中や通勤中に発生したという事実だけでなく、仕事や通勤との因果関係が重要です。

事故直後は、いつ、どこで、何をしていて、どのように負傷したのかを具体的に記録しておきましょう。

労災保険制度は、業務上の事由や通勤による傷病などに対して保険給付を行い、被災労働者の社会復帰などを支える制度です。

制度全体の公式な案内は、 厚生労働省「労災補償」 で確認できます。

労災の認定基準と判断のポイント

労災の認定基準と判断のポイント

業務中にケガをしたからといって、必ず労災になるとは限りません。

業務災害として認められるかどうかを考える際には、一般に 業務遂行性 業務起因性 という2つの要素が重要になります。

  • 業務遂行性 :労働者が事業主の支配下または管理下にあったか
  • 業務起因性 :業務とケガや病気との間に相当な因果関係があるか

たとえば、会社の工場で通常の作業中に機械へ手を挟まれた場合は、労働者が会社の管理下で仕事をしており、その仕事が直接の原因となって負傷しているため、業務遂行性と業務起因性の両方が認められやすい事例です。

一方で、勤務時間中であっても、同僚との私的なけんかによって負傷した場合や、業務と無関係な遊びをしていてケガをした場合には、業務起因性が否定される可能性があります。

ただし、けんかの原因が業務上の指示や職場内の人間関係にある場合など、事情によって結論が変わることもあります。

業務遂行性は場所だけで判断しない

業務遂行性は、会社の建物内にいたかどうかだけで判断するものではありません。

会社の指示を受けて出張している場合、営業先を訪問している場合、取引先へ荷物を届けている場合なども、事業主の支配下にあると判断される可能性があります。

反対に、会社内にいても、終業後に長時間残って私的な活動をしていた場合などは、必ずしも業務遂行性が認められるとは限りません。

事故時の行動目的や、会社の指示との関係が重要です。

業務起因性では自然経過や私的要因も確認される

業務起因性では、その仕事をしていなければ同じケガや病気が発生しなかったといえるかが検討されます。

突発的な事故は比較的関係が分かりやすい一方、腰痛、脳・心臓疾患、精神障害などは、もともとの持病、加齢、私生活上の出来事なども含めて総合的に判断されます。

持病があるから労災にならないわけではありません。

もともと症状があったとしても、業務上の強い負荷によって著しく悪化したと認められれば、悪化した部分について業務との関係が認められる可能性があります。

休憩時間や出張中の事故

休憩時間中は、通常、労働者が自由に利用できる時間です。

そのため、休憩中の私的行為による事故は、一般に業務との関係が認められにくくなります。

しかし、事業場内の階段が壊れていて転倒した、食堂の床が濡れていて滑ったなど、会社の施設や設備の管理状況が原因となった事故は、労災になる可能性があります。

出張中は、通常の勤務よりも行動範囲が広くなるため判断が難しくなります。

宿泊、移動、食事など、出張に通常伴う行為であれば業務との関係が認められる場合がありますが、出張先で業務と無関係な観光や飲酒を行っている最中の事故は、個別に慎重な判断が必要です。

通勤災害で確認されること

通勤災害では、住居と就業場所との間などを、就業に関して合理的な経路と方法で移動していたかが確認されます。

合理的な経路は、必ずしも最短距離だけではありません。

交通事情、公共交通機関の運行状況、保育園への送迎など、日常生活上の事情を含めて判断される場合があります。

通勤と関係のない目的で経路を大きく外れることを逸脱、通勤の途中で通勤と関係のない行為を行うことを中断といいます。

原則として、逸脱や中断をした時点から、その行為中と、その後の移動は通勤として扱われません。

ただし、日用品の購入、病院での診察や治療、職業訓練、選挙権の行使、一定の家族の介護など、日常生活上必要な行為を最小限行った場合には、その行為を終えて通常の経路へ戻った後から、再び通勤と認められることがあります。

たとえば、退勤途中にスーパーへ寄って日用品を購入し、その後、通常の帰宅経路へ戻った場合、買い物をしている間は通勤とは扱われませんが、買い物後に合理的な経路へ復帰した後は、通勤として扱われる可能性があります。

労災に該当するかを最終的に決定するのは会社ではなく、請求を受けた労働基準監督署です。

会社から労災ではないと言われた場合でも、それだけで請求できなくなるわけではありません。

事故状況を整理し、必要に応じて管轄の労働基準監督署へ相談してください。

パートやアルバイトも労災の対象

労災保険の対象は正社員に限られません。

会社に使用され、賃金を支払われている労働者であれば、雇用形態や所定労働時間にかかわらず、原則として労災保険の対象 です。

実務でよくある誤解が、「社会保険に入っていないパートは労災も対象外」「雇用保険に入っていない短時間勤務者には労災が使えない」というものです。

しかし、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険は、それぞれ加入要件が異なります。

社会保険や雇用保険に加入していないことだけを理由に、労災保険の対象外になるわけではありません。

具体的には、次のような方も対象になります。

  • パートタイマー
  • 学生アルバイト
  • 契約社員や有期雇用労働者
  • 派遣労働者
  • 日雇い労働者
  • 試用期間中の労働者
  • 外国人労働者
  • 副業先で雇用されている労働者

勤務初日や短時間勤務でも対象になる

労災保険には、一定期間勤務しなければ補償されないという待機的な加入条件はありません。

入社初日の作業中に事故が発生した場合でも、労働者として雇用されているのであれば対象になります。

また、週1日だけ働くアルバイト、1日数時間勤務するパート、夏休みだけ働く短期アルバイトなども、労働者として勤務している限り、原則として対象です。

本人が労災保険料を支払っているかどうかも関係ありません。

労災保険料は事業主が負担するため、給与明細に労災保険料の控除が記載されることは通常ありません。

会社が加入手続きをしていなかった場合

労働者を1人でも使用する事業は、一部の例外を除き、原則として労災保険の適用事業になります。

会社が労災保険の成立手続きをしていなかったとしても、被災した労働者が直ちに補償を受けられなくなるわけではありません。

未手続きが判明した場合、会社側には遡及した保険料の徴収や、事故の状況によっては給付費用の一部を徴収される可能性がありますが、それは会社と行政との問題です。

労働者としては、会社が未加入だから申請できないと考えず、労働基準監督署へ相談することが大切です。

派遣社員は派遣元の労災保険を使う

派遣社員が派遣先の工場や事務所で負傷した場合、労災保険の手続きは、原則として雇用関係のある派遣元の労災保険を使います。

事故が起きた場所は派遣先でも、給与を支払い、雇用契約を締結しているのは派遣元だからです。

ただし、派遣先にも安全な作業環境を整える義務があります。

事故の発生状況、作業指示、設備の状態、目撃者などについては、派遣先からの情報提供が欠かせません。

派遣元と派遣先が連携し、事故原因を確認して再発防止策を取る必要があります。

家族従業者や役員は注意が必要

同居の親族だけで事業を行っている場合の家族従業者や、法人の代表取締役、事業主本人は、一般の労働者と同じようには扱われないことがあります。

役員であっても、業務執行権がなく、他の従業員と同様に指揮命令を受けて賃金を得ているなど、実態として労働者性が認められる場合には対象となる可能性がありますが、役職名だけでは判断できません。

労災保険の対象になるかどうかは、契約書の名称よりも働き方の実態が重視されます。

業務委託契約と書かれていても、勤務時間や働く場所を会社が指定し、具体的な指揮命令を受け、報酬が労務提供の対価として支払われている場合には、労働者と判断される可能性があります。

労災保険と健康保険の違い

労災保険と健康保険の違い

労災保険と健康保険は、どちらもケガや病気に関係する制度ですが、対象となる原因が異なります。

労災保険は仕事や通勤が原因となった傷病を対象とし、健康保険は原則として業務外の傷病を対象とします。

比較項目 労災保険 健康保険
主な対象 仕事や通勤が原因のケガや病気 業務外のケガや病気
保険料 原則として事業主が全額負担 被用者保険では一般に労使で負担
医療費 労災指定医療機関等では原則として窓口負担なし 年齢や所得等に応じた自己負担あり
休業中の給付 休業4日目以降に一定の給付 要件を満たす場合に傷病手当金
支給期間 休業給付は療養の必要性などが続く限り対象となり得る 傷病手当金は通算1年6か月が上限
主な窓口 労働基準監督署 協会けんぽや健康保険組合等

業務上または通勤による傷病について、労災保険と健康保険を本人が自由に選ぶことはできません。

仕事や通勤が原因である場合には、原則として労災保険を使います。

「健康保険の方が手続きが早そう」「会社に迷惑をかけたくない」という理由で健康保険を選ぶものではありません。

会社から健康保険を使うよう言われた場合

実際によくある相談が、仕事中に負傷したにもかかわらず、会社から「大きな事故ではないから健康保険で受診してほしい」「労災にすると手続きが面倒だから健康保険を使ってほしい」と言われるケースです。

しかし、業務上の傷病について健康保険を使用することは、制度上適切ではありません。

会社が労災として認めたくない事情があっても、会社が制度を選択するものではなく、最終的な判断は労働基準監督署が行います。

医療機関を受診するときは、仕事中または通勤中の事故であることを受付で伝えましょう。

事故との関係を伝えず健康保険証を提示すると、後から切り替えが必要になる可能性があります。

誤って健康保険を使った場合

すでに健康保険証を使って受診していても、後から労災保険へ切り替えられる場合があります。

まずは受診した医療機関へ、仕事中または通勤中の傷病だったことを伝え、医療機関内で労災へ切り替えられるか確認します。

医療機関で切り替えられない場合には、協会けんぽや健康保険組合などへ健康保険が負担した医療費を返還し、その後、労災保険へ立て替えた費用を請求する流れになることがあります。

一時的にまとまった金額の返還が必要になる場合もあるため、早めの確認が重要です。

具体的な流れは、 労災から健康保険へ切り替える手続きと注意点 で詳しく解説しています。

労災と傷病手当金の関係

健康保険の傷病手当金は、業務外の病気やケガによって働けず、給与を受けられない場合に支給される制度です。

一方、業務上または通勤による傷病で休業する場合には、労災保険の休業補償給付または休業給付を請求します。

同じ傷病、同じ休業日について、労災保険の休業給付と健康保険の傷病手当金を二重に受け取ることはできません。

先に傷病手当金を受けていた後に労災認定された場合には、支給額の調整や返還が必要になることがあります。

労災申請が不支給になった場合

労災として請求したものの、業務との因果関係がないとして不支給になった場合には、健康保険を使える可能性があります。

ただし、自動的に切り替わるわけではありません。

医療機関や健康保険者へ不支給決定の内容を伝え、必要な手続きを確認します。

労災の不支給決定に納得できない場合には、決定を知った日の翌日から一定期間内に審査請求を行う制度もあります。

認定の可否と健康保険への切り替えは別の論点になるため、状況を整理して対応する必要があります。

同じ傷病について、労災保険の休業給付と健康保険の傷病手当金を重複して受け取ることはできません。

原因が仕事にあるか判断に迷う場合は、最初の受診時に医療機関へ事故の日時、場所、作業内容を正確に伝えてください。

労災保険で受けられる給付内容

労災保険には、治療費だけでなく、休業中の所得、治療後に残った障害、介護費用、労働者が死亡した場合の遺族補償など、被災した労働者と家族を支える複数の給付があります。

業務災害の場合は療養補償給付、休業補償給付など、名称に補償が入ります。

通勤災害の場合は療養給付、休業給付などと呼びます。

名称は異なりますが、給付の基本的な内容は共通する部分が多くあります。

給付の種類 支給される主な場面 主な内容
療養補償給付・療養給付 労災による傷病の治療が必要なとき 診察、治療、薬剤、入院、手術など必要な療養
休業補償給付・休業給付 療養のため働けず、賃金を受けられないとき 休業4日目以降に一定額を支給
傷病補償年金・傷病年金 療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級に該当するとき 傷病等級に応じた年金
障害補償給付・障害給付 治療後に一定の障害が残ったとき 障害等級に応じた年金または一時金
遺族補償給付・遺族給付 労働者が労災によって死亡したとき 要件を満たす遺族へ年金または一時金
葬祭料・葬祭給付 労災で死亡した方の葬祭を行ったとき 葬祭を行った方へ一定額を支給
介護補償給付・介護給付 一定の障害があり、現に介護を受けているとき 介護の状況に応じて一定額を支給
二次健康診断等給付 定期健康診断で脳・心臓疾患に関係する一定の異常所見があるとき 二次健康診断と特定保健指導

療養補償給付・療養給付

労災指定医療機関で治療を受ける場合には、所定の請求書を医療機関へ提出することで、原則として窓口で治療費を支払わずに必要な療養を受けられます。

対象には診察、薬剤、処置、手術、入院、看護などが含まれます。

労災指定医療機関以外を受診した場合には、いったん費用を立て替え、後から労働基準監督署へ費用を請求する方法が基本です。

緊急時には指定医療機関かどうかを確認する余裕がないこともありますので、まずは治療を優先し、その後に手続きを確認してください。

治療は、原則として傷病が治癒するまで対象となります。

労災における治癒とは、必ずしも事故前の状態へ完全に戻ることだけを意味しません。

症状が安定し、一般的な医療を続けてもそれ以上の改善が見込めない状態、いわゆる症状固定も含まれます。

休業給付は原則として4日目から

療養のため働くことができず、賃金を受けられない場合、休業4日目から休業補償給付または休業給付が支給されます。

休業していれば必ず支給されるわけではなく、労災による療養が必要であること、労働できないこと、賃金を受けていないことなどの要件を満たす必要があります。

一般的には、休業1日につき、給付基礎日額の60%に相当する保険給付と、20%に相当する休業特別支給金を合わせ、 合計で給付基礎日額の約80%相当 が支給されます。

ただし、給付基礎日額は、通常、事故発生日以前3か月間の賃金を基礎として計算されます。

賞与の扱い、賃金締切日、休業日、会社から支払われた給与の有無などによって実際の支給額は変わります。

約80%という数値は、あくまで一般的な目安です。

業務災害の最初の3日間は待期期間となり、労災保険から休業補償給付は支給されません。

この期間については、原則として事業主が労働基準法に基づき、平均賃金の60%以上の休業補償を行います。

通勤災害については、会社に同じ休業補償義務はありません。

待期期間の3日間は、連続している必要はありません。

また、会社の所定休日であっても、療養のため労働できない状態であれば待期期間に含まれる場合があります。

傷病年金と障害給付の違い

傷病補償年金または傷病年金は、療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治っておらず、その状態が一定の傷病等級に該当する場合に支給されます。

請求によって受け取る通常の給付とは異なり、労働基準監督署が傷病の状態を確認して支給を決定します。

一方、障害補償給付または障害給付は、治療が終了した後に身体や精神に一定の障害が残った場合の給付です。

障害等級は第1級から第14級まであり、重い等級は年金、比較的軽い等級は一時金として支給されます。

治療中に支給される傷病年金と、治癒後に障害が残った場合の障害給付は、対象となる時点が異なります。

死亡した場合の給付

労働者が業務災害や通勤災害によって死亡した場合には、一定の要件を満たす遺族へ遺族補償年金、遺族年金、遺族補償一時金または遺族一時金が支給されることがあります。

誰が受給できるかは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などの続柄だけでなく、死亡した労働者に生計を維持されていたか、年齢や障害の状態などによって決まります。

相続人であれば必ず受け取れる制度ではありません。

葬祭を行った方には、葬祭料または葬祭給付が支給される場合があります。

実際に葬祭を取り仕切った方が対象となるため、遺族給付の受給者と一致しないこともあります。

労災給付が支給されるまでの生活費が不安な方は、 労災がおりるまでの生活費を確保する方法 も参考にしてください。

労災保険は治療費だけの制度ではありません。

休業、障害、介護、死亡など、事故後の生活全体に関係する制度です。

受けられる可能性がある給付を一つずつ確認することが大切です。

労災とは何かを実務面から確認

ここからは、労災が発生した後の申請手続き、副業をしている方の扱い、フリーランスの特別加入、精神疾患の認定基準、労災保険料、会社の報告義務など、実務で迷いやすいポイントを確認します。

事故直後の対応を誤ると、医療費の立て替えが発生したり、事故状況を証明する資料が残らなかったりすることがあります。

労働者本人だけでなく、会社側も基本的な流れを理解しておくことが重要です。

労災の申請手続きと必要書類

労災保険の給付請求は、原則として被災した労働者本人が行います。

労働者が死亡した場合は、給付の種類に応じて一定の遺族や葬祭を行った方などが請求します。

会社がすべての手続きを代行しなければならないわけではありませんが、会社には、請求書の事業主証明、賃金情報の提供、事故状況の確認など、労働者の請求を助ける役割があります。

労災が発生したときの基本的な流れ

  • 負傷者の救護と医療機関の受診を最優先する
  • 医療機関へ仕事中または通勤中の負傷であることを伝える
  • 事故の日時、場所、作業内容、原因、目撃者などを記録する
  • 会社の上司や労務担当者へ事故の発生を報告する
  • 受ける給付に応じた労災請求書を準備する
  • 会社や医療機関など必要な証明を受ける
  • 医療機関または労働基準監督署へ請求書を提出する

事故が発生した直後は、申請書よりも救護と治療が優先です。

重いケガであれば救急車を呼び、無理に労災指定医療機関を探す必要はありません。

受診後に労災手続きを進められます。

ただし、医療機関には、仕事中または通勤中の事故であることを最初から伝えてください。

何も伝えず健康保険証を使用すると、後から切り替え手続きが必要になることがあります。

療養に使用する主な様式

労災指定医療機関で療養の給付を受ける場合、業務災害では一般に様式第5号、通勤災害では様式第16号の3を使用します。

この書類を医療機関へ提出すると、原則として窓口負担なしで必要な療養を受けられます。

労災指定医療機関以外で治療費を立て替えた場合、業務災害では一般に様式第7号、通勤災害では様式第16号の5を使用して、労働基準監督署へ費用を請求します。

薬局、柔道整復師、はり師、きゅう師などへ支払った費用については、提出する書式が分かれる場合があります。

休業に使用する主な様式

休業給付を請求する場合、業務災害では一般に様式第8号、通勤災害では様式第16号の6を使用します。

請求書には、本人の記載だけでなく、会社による賃金や休業状況の証明、医師による療養のため労働できなかった期間の証明が必要になります。

休業が長期間に及ぶ場合は、一定期間ごとに請求を繰り返すのが一般的です。

毎月請求する、数か月分をまとめて請求するなど、状況に応じて進めます。

生活費への影響が大きい場合は、書類をため込まず、会社や医療機関と連携して早めに準備することをおすすめします。

事故状況を記録しておく

申請時には、事故がいつ、どこで、どのように発生したかを説明する必要があります。

事故直後の記憶が鮮明なうちに、次の内容を記録しておきましょう。

  • 事故の年月日と時刻
  • 事故が発生した場所
  • 事故当時に行っていた業務
  • 会社や上司から受けていた指示
  • 使用していた機械や道具
  • 目撃した同僚や取引先
  • 負傷した部位と当初の症状
  • 受診した医療機関と受診日

現場の写真、防犯カメラの映像、業務日報、メール、チャット、配車記録、勤務表なども、事故状況を確認する資料になります。

時間が経つと保存期間を過ぎたり、現場が片付けられたりするため、早期の確保が重要です。

会社が事業主証明をしない場合

会社が事故の発生を否定している場合や、労災を使わせたくないと考えている場合、事業主証明を拒否されることがあります。

しかし、事業主証明が得られなければ絶対に請求できないわけではありません。

証明を受けられない事情を説明し、会社の証明がない状態で労働基準監督署へ提出できる場合があります。

労働基準監督署が、会社や関係者から事故状況を確認することもあります。

会社が労災だと考えていない場合でも、請求書への証明は、必ずしも労災であることを認める行為ではありません。

会社は把握している事実を記載し、労災該当性の判断は労働基準監督署へ委ねるのが適切です。

労災給付には時効があります。

療養費や休業給付などは、請求できる日の翌日から原則2年で時効となるものがあります。

給付によって期間や起算日が異なるため、長期間放置せず早めに労働基準監督署へ確認してください。

副業中の複数事業労働者の労災

副業中の複数事業労働者の労災

副業や兼業が一般的になったことで、複数の会社で雇用されて働く方の労災も増えています。

複数の事業で働く労働者が労災に遭った場合、一定の保険給付については、事故が発生した勤務先だけでなく、他の勤務先の賃金も含めて給付額を計算します。

2020年9月1日以降に発生した災害については、複数事業労働者に関する制度が設けられています。

副業先の収入も含めて生活を成り立たせている方について、事故が起きた会社の賃金だけで補償額を計算すると、実際の収入減少を十分に反映できないためです。

複数の勤務先の賃金を合算する

たとえば、平日にA社で月25万円、週末にB社で月5万円の賃金を受けている方が、A社で労災に遭い、両方の仕事を休むことになったとします。

一定の休業給付などについては、原則としてA社とB社の賃金を合算して給付基礎日額を計算します。

事故が起きていないB社の賃金も確認する必要があるため、請求時には複数の勤務先を申告し、それぞれの賃金情報を準備します。

副業先へ事故の事実や休業状況が伝わることもあります。

一方の勤務先だけを休む場合

労災による傷病があっても、仕事内容によっては一方の会社だけ休み、もう一方では働ける場合があります。

たとえば、足を負傷して立ち仕事はできないものの、自宅で行うデスクワークは可能というケースです。

休業給付は、療養のため労働できず、賃金を受けていないことが要件です。

そのため、各勤務先で実際に仕事ができるか、賃金が支払われているかを個別に確認します。

一方の会社で働いているから必ず休業給付が全額不支給になるとも、一方を休めば必ず全額支給されるとも限りません。

複数業務要因災害

脳・心臓疾患や精神障害などでは、A社だけの労働時間や心理的負荷では認定基準に達しなくても、A社とB社の業務負荷を合わせると強い負荷になる場合があります。

このようなケースについて、複数の事業の業務を要因として発生した傷病を、複数業務要因災害として評価する仕組みがあります。

たとえば、A社で週40時間、B社で週20時間働いていた場合、各社だけを見れば極端な長時間労働に見えなくても、合計では相当な労働時間になります。

精神障害についても、複数の職場で受けた出来事や心理的負荷を総合的に評価する場合があります。

副業を会社へ届け出ていなかった場合

会社の就業規則で副業の届出が必要とされているにもかかわらず、届出をしていなかった場合でも、それだけを理由に労災保険給付を受けられなくなるわけではありません。

労災保険の請求と、会社内の副業ルールへの違反は別の問題です。

ただし、給付額を正確に計算するためには、すべての勤務先と賃金を申告する必要があります。

副業を隠したまま請求すると、本来受けられる給付が少なくなったり、事実確認に時間がかかったりする可能性があります。

副業先の賃金を合算するには、他の勤務先に関する情報の提出が必要になります。

副業を会社へ届け出ていなかった場合でも、事実と異なる申告は避け、勤務先、賃金、勤務時間、休業状況を正確に伝えてください。

副業と休業補償の関係や会社への情報共有については、 労災で副業が分かるケースと休業補償の注意点 でも詳しく整理しています。

フリーランスが使える特別加入

労災保険は、本来、会社などに雇用され、賃金を受けて働く労働者を対象とする制度です。

そのため、個人事業主、会社の代表者、業務執行権を持つ役員、フリーランスなどは、原則として通常の労災保険の対象にはなりません。

ただし、働き方の実態や災害リスクを考えると、労働者に準じて保護する必要がある方もいます。

そこで設けられているのが 特別加入制度 です。

主な特別加入の対象は次のとおりです。

  • 中小事業主等
  • 建設業の一人親方など一定の自営業者
  • 特定作業従事者
  • 海外派遣者
  • 一定のフリーランス

フリーランスの対象範囲が拡大された

2024年11月1日から、企業などから業務委託を受けて仕事をするフリーランスについて、業種や職種を問わず特別加入できる範囲が拡大されました。

従来から対象だった建設業の一人親方や個人タクシー運転者などに限らず、幅広い業務委託従事者が加入を検討できるようになっています。

たとえば、企業から委託を受けてウェブ制作、デザイン、コンサルティング、配送、撮影、事務作業などを行う方も、要件を満たせば対象となる可能性があります。

ただし、消費者だけを相手に商品を販売している場合や、自分の所有物を売却しているだけの場合など、働き方や取引形態によって対象にならないことがあります。

特別加入団体を通じて加入する

フリーランスが特別加入する場合は、原則として承認を受けた特別加入団体を通じて手続きを行います。

一般の労働者のように、個人が直接、労働基準監督署の窓口で加入手続きを完了させる制度ではありません。

加入団体によって、入会金、会費、手続き方法、加入できる業務の範囲などが異なることがあります。

保険料だけでなく、団体に支払う費用を含めて確認しましょう。

給付基礎日額を選ぶ

一般の労働者は、事故前の賃金をもとに給付基礎日額が計算されます。

一方、フリーランスや一人親方には雇用契約上の賃金がないため、特別加入では、一定の範囲から給付基礎日額を選びます。

給付基礎日額を高く設定すると、休業給付や障害給付などの補償額が高くなる一方、負担する保険料も増えます。

所得の水準、毎月の固定費、扶養家族の有無、貯蓄、民間保険の加入状況などを踏まえて選ぶ必要があります。

補償される業務の範囲に注意する

特別加入をしていても、24時間すべての事故が労災になるわけではありません。

申請時に届け出た業務や、その業務に通常伴う行為による災害が補償の対象です。

たとえば、届け出た業務とは無関係な私的活動中の事故、加入前に発生した事故、事実と異なる業務内容による事故などは、給付対象外となる可能性があります。

また、フリーランスとされている方でも、実態として発注者から勤務時間、場所、仕事の進め方について具体的な指揮命令を受け、報酬が労務提供の対価として支払われている場合には、そもそも労働者に該当する可能性があります。

この場合は、特別加入ではなく通常の労災保険の対象となることがあります。

特別加入では、加入時に申告した業務内容や、業務災害として認められる範囲が重要です。

加入していれば私生活を含むすべての事故が補償されるわけではありません。

業務内容が変わった場合には、加入団体へ変更手続きの要否を確認してください。

対象となるフリーランスの範囲、申請方法、保険料率などは変更される可能性があります。

最新情報は、 厚生労働省「令和6年11月1日からフリーランスが労災保険の特別加入の対象となりました」 をご確認ください。

精神疾患が労災認定される基準

仕事による強いストレスが原因で、うつ病、適応障害、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害などの精神障害を発病した場合も、労災として認められる可能性があります。

精神障害は、転倒や切創のように事故の瞬間と症状の発生が明確とは限りません。

複数の出来事が重なり、一定期間を経て発病することもあります。

そのため、発病時期、業務上の出来事、心理的負荷の強さ、私生活上の出来事、既往歴などを総合的に確認します。

精神障害の労災認定では、主に次の要件が確認されます。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や本人側の要因だけで発病したとは認められないこと

対象となる精神障害の発病

本人が強いストレスや不眠を感じているだけでなく、医学的に認定基準の対象となる精神障害を発病していることが必要です。

医師の診断名だけで機械的に決まるわけではありませんが、医療機関の診療記録、症状の経過、発病時期などは重要な資料になります。

精神的な不調を感じている場合は、労災申請のためだけでなく、治療のためにも早めに医療機関を受診することが大切です。

受診時には症状だけでなく、勤務時間、職場で起きた出来事、ハラスメントの状況なども医師へ伝えましょう。

業務による心理的負荷を評価する

業務による心理的負荷は、本人がつらいと感じたかだけでなく、同種の労働者が一般的にどの程度の心理的負荷を受ける出来事だったかという観点から評価されます。

具体的には、長時間労働、仕事内容や仕事量の大きな変化、重大な事故やミス、過大な責任、配置転換、転勤、退職強要、上司や同僚からのパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、顧客からの著しい迷惑行為などが検討対象になります。

単に「仕事が忙しかった」「上司と合わなかった」という抽象的な説明だけではなく、いつ、何があり、どの程度続き、仕事や健康へどのような影響が出たのかを具体的に整理することが重要です。

長時間労働と出来事を組み合わせて評価する

精神障害の認定では、長時間労働だけでなく、他の業務上の出来事と組み合わせて心理的負荷を評価する場合があります。

たとえば、新規事業の責任者になった直後から大幅な時間外労働が続いた、重大なクレーム対応と長時間労働が重なった、といった状況です。

勤務時間を確認する際には、会社が記録したタイムカードだけでなく、パソコンのログ、入退館記録、業務メールの送信時刻、チャット履歴、交通系ICカード、日報などが参考になることがあります。

カスタマーハラスメントも評価対象

2023年9月の認定基準改正では、顧客や取引先、施設利用者などから著しい迷惑行為を受けたことが、心理的負荷を評価する具体的な出来事として明確に追加されました。

顧客からの暴言、脅迫、長時間の拘束、不当な要求、人格を否定する発言、継続的な嫌がらせなどが該当する可能性があります。

接客業、医療、介護、運輸、コールセンターなどでは、実際に確認する機会が増えている論点です。

ただし、一般的な苦情や、一度注意を受けたというだけで直ちに強い心理的負荷になるわけではありません。

行為の内容、回数、継続期間、会社の支援体制、本人が置かれた状況などを総合的に評価します。

業務外の出来事や本人側の要因

家族との死別、離婚、金銭問題など、私生活上の強い心理的負荷があった場合や、精神障害の既往歴がある場合には、それらも確認されます。

ただし、私生活上の問題や既往歴があるだけで、労災が否定されるわけではありません。

業務上の強い心理的負荷が認められ、その負荷によって精神障害を発病したと判断されるかが重要です。

個別事情が複雑なため、労働基準監督署が主治医や専門医の意見を踏まえて判断することがあります。

早い段階で記録を残す

精神障害の労災請求では、発病前の出来事や勤務状況を数か月から数年後に確認することもあります。

体調が悪化している中で、過去の出来事を正確に思い出すのは簡単ではありません。

次のような資料が重要になることがあります。

  • タイムカードや勤怠システムの記録
  • パソコンのログオン・ログオフ履歴
  • 業務上のメールやチャット
  • 上司、同僚、顧客とのやり取りの記録
  • 業務日報やスケジュール
  • 会社の相談窓口へ相談した記録
  • 医療機関の診療記録
  • 同僚や関係者の証言
  • 出来事を日付順に整理したメモ

体調が悪化してから過去の出来事をすべて思い出すのは容易ではありません。

問題が続いている段階から、日時、場所、相手、具体的な発言、会社へ相談した内容、業務や健康への影響を客観的に記録しておくことが大切です。

労災保険料とメリット制の仕組み

労災保険料は、原則として会社が全額負担します。

健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料のように、従業員の給与から一部を控除するものではありません。

給与明細に労災保険料という項目があり、従業員負担として差し引かれている場合には、処理が適切か確認する必要があります。

労災保険料の基本的な計算方法

労災保険料は、原則として、会社が労働者へ支払う賃金総額に、事業の種類ごとに定められた労災保険率を乗じて計算します。

建設業、林業、鉱業、製造業、運輸業、卸売・小売業、金融業、事務系事業などでは、業務上の災害リスクが異なります。

そのため、すべての会社に同じ保険率が適用されるわけではありません。

複数の事業を行っている会社では、主たる事業や事業の実態に応じて適用する業種を判断します。

会社が自由に低い保険率を選ぶことはできません。

建設業では工事ごとに扱うことがある

建設業では、事務所の労働者に関する継続事業と、建設現場ごとの有期事業を分けて取り扱うことがあります。

請負金額や工事内容に応じて賃金総額を算定する場合もあり、一般の事業より計算が複雑です。

元請会社と下請会社の関係についても、原則として元請会社が下請労働者を含めて労災保険を成立させる仕組みがあります。

一人親方や事業主本人は通常の労働者とは扱いが異なるため、特別加入の確認も必要です。

メリット制とは

一定規模以上の事業については、事業場ごとの労災発生状況を保険料へ反映させるメリット制が適用されることがあります。

災害防止に取り組み、労災給付が少ない事業では保険料が軽減される一方、労災給付が多い事業では保険料が増加する可能性があります。

メリット制の目的は、同じ業種でも災害発生状況が異なる事業場の保険料負担を調整し、会社の労災防止努力を促すことです。

一般的には、一定の事業規模や継続期間などの要件を満たした場合に適用されます。

労災が発生するたびに会社が申請し、その場で保険料が上がる制度ではありません。

労災を1件使うと必ず保険料が上がるわけではない

実務でよく聞くのが、「労災を1件申請すると保険料が上がるので、健康保険を使ってほしい」という説明です。

しかし、すべての会社にメリット制が適用されるわけではなく、1件の労災請求によって直ちに保険料が上がるとも限りません。

メリット制の対象かどうか、給付が収支率へどのように反映されるか、いつの保険料へ影響するかは、事業規模、業種、継続期間、給付の内容などによって異なります。

また、通勤災害や二次健康診断等給付など、メリット収支率の算定における扱いが異なる給付もあります。

単純に「給付を使った金額だけ保険料が上がる」という制度ではありません。

労災を1件申請しただけで、すべての会社の保険料が直ちに上がるわけではありません。

保険料への影響を理由に、労働者へ健康保険の使用を求めたり、申請を妨げたりする対応は避ける必要があります。

労災申請と安全対策は分けて考える

会社にとって重要なのは、労災保険を使わせないことではなく、事故の原因を確認し、同じ事故が繰り返されないようにすることです。

機械の安全装置、作業手順、保護具、教育体制、人員配置、長時間労働、報告ルートなどを見直すことで、次の事故を防げる可能性があります。

労災申請を隠すと、事故原因が社内で共有されず、同様の事故を繰り返すリスクが高まります。

労災保険率やメリット制の適用要件は改定されることがあります。

正確な情報は公式サイトをご確認ください。

労災隠しの罰則と会社の義務

労災隠しの罰則と会社の義務

労災が発生したとき、会社には、被災した労働者の救護、医療機関への案内、事故状況の確認、再発防止、労災請求への協力、一定の場合の労働者死傷病報告など、複数の対応が求められます。

労災保険の申請書を作成することだけが会社の対応ではありません。

事故を把握し、安全配慮の観点から原因を調査し、必要な対策を講じることが重要です。

労働者死傷病報告とは

労働者死傷病報告は、労働災害などによって労働者が死亡または休業した場合に、会社が労働基準監督署へ提出する報告です。

死亡または休業4日以上の場合と、休業1日から3日の場合では、使用する様式や提出時期が異なります。

休業4日以上の場合は遅滞なく提出し、休業1日から3日の場合は、一定期間ごとにまとめて報告する仕組みです。

なお、2025年1月1日から労働者死傷病報告は、原則として電子申請が義務化されています。

電子申請が困難な事情がある場合の扱いを含め、実際の提出方法は管轄の労働基準監督署へ確認してください。

労災保険の請求とは別の手続き

労働者死傷病報告と、労災保険の給付請求は別の手続きです。

労災保険の給付請求は、被災した労働者や遺族が補償を受けるための手続きです。

一方、労働者死傷病報告は、会社が労働災害の発生状況を行政へ報告する手続きです。

そのため、労働者が労災給付を請求しないと決めた場合でも、会社の報告義務がなくなるとは限りません。

反対に、労災保険を請求したからといって、会社の死傷病報告が自動的に完了するわけでもありません。

労災隠しに該当し得る対応

労災隠しとは、一般に、労働災害の発生を隠す目的で、労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり、虚偽の内容を報告したりすることをいいます。

労働安全衛生法違反に該当した場合には、 50万円以下の罰金 が科される可能性があります。

法人だけでなく、実際の報告や指示に関与した代表者、管理者、現場責任者などが責任を問われる可能性もあります。

典型的には、次のような対応が問題になります。

  • 仕事中の事故を自宅や私生活中の事故として処理する
  • 労災であることを医療機関へ伝えず健康保険を使わせる
  • 休業日数を実際より短く記録する
  • 出勤扱いにして休業の事実を隠す
  • 元請会社に知られないよう事故発生場所を偽る
  • 労働者死傷病報告を意図的に提出しない
  • 労働者へ労災を申請しないよう圧力をかける

労災保険の請求と労働者死傷病報告は別の手続きです。

労働者が労災給付を請求しなかったとしても、会社の報告義務がなくなるとは限りません。

会社が労災ではないと考えている場合

会社と労働者の間で、事故が業務上かどうかについて認識が異なることがあります。

たとえば、会社は私的行為中の事故と考え、労働者は業務中の事故と考えているケースです。

この場合、会社が労災ではないと考えているからといって、労働者の請求を妨げることは適切ではありません。

会社は、事故が起きた日時、場所、作業内容、把握している事実を正確に記載し、必要であれば会社の見解を添えます。

最終的な認定は労働基準監督署が行います。

事業主証明をしたことだけで、会社が法的責任を全面的に認めたことになるわけではありません。

事実の証明と、労災該当性の判断を分けて考えることが重要です。

事故発生時の社内ルールを作る

中小企業では、現場責任者が事故を把握していても、経営者や総務担当者まで情報が届かないことがあります。

その結果、医療機関で健康保険を使用してしまったり、死傷病報告の提出が遅れたりすることがあります。

事故発生時には、誰へ連絡するのか、救急車を呼ぶ基準、受診する医療機関、事故状況の記録方法、労災書類の担当者、死傷病報告の確認者などを事前に決めておきましょう。

労災発生時の対応は、隠すことではなく、救護、報告、記録、申請、原因分析、再発防止の順に進めることが基本です。

事故を正しく把握することが、労働者を守るだけでなく会社のリスク管理にもつながります。

労災とは働く人を守る保険制度

労災とは、仕事や通勤を原因として、労働者がケガをしたり、病気になったり、障害を負ったり、死亡したりすることです。

工場や建設現場での事故だけでなく、事務所での転倒、営業中の交通事故、業務上の熱中症、長時間労働による脳・心臓疾患、職場の強い心理的負荷による精神障害なども対象になる可能性があります。

労災保険は治療費だけを補償する制度ではありません。

療養中の医療費、休業による収入減少、治療後に残った障害、介護が必要になった場合の費用、死亡した場合の遺族の生活など、事故後の生活全体を支える役割があります。

雇用形態にかかわらず労働者を守る

正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、日雇い労働者、試用期間中の労働者なども、原則として労災保険の対象です。

社会保険や雇用保険に加入していない短時間労働者であっても、労災保険の対象となる可能性があります。

副業をしている方については、複数の勤務先の賃金を合算して一定の給付額を計算する仕組みがあります。

脳・心臓疾患や精神障害では、複数の職場における業務負荷を総合的に評価する場合もあります。

フリーランス、個人事業主、中小事業主、一人親方など、通常の労働者に該当しない方でも、特別加入制度によって補償を受けられる場合があります。

会社ではなく労働基準監督署が判断する

労災に該当するかどうかは、事故が会社内で起きたか、勤務時間中だったかだけで決まるものではありません。

事故当時の行動、会社の指示、業務との因果関係、通勤経路、医師の診断、勤務記録、目撃者の証言などを踏まえ、労働基準監督署が個別に判断します。

会社から労災ではないと言われても、申請そのものができなくなるわけではありません。

会社の証明を得られない場合も含め、事故状況を整理して労働基準監督署へ相談できます。

事故直後の記録が重要

労災事故が起きたときは、治療を最優先したうえで、事故の日時、場所、作業内容、会社からの指示、目撃者、負傷部位などを記録しましょう。

現場写真、メール、チャット、勤怠記録、業務日報なども、後から事故状況を説明する資料になります。

特に、腰痛、精神障害、過労による疾病などは、仕事との関係が外見から分かりにくいため、勤務時間や業務上の出来事を継続的に記録しておくことが重要です。

仕事や通勤との関係が疑われるケガや病気では、健康保険で処理する前に、会社、医療機関、労働基準監督署などへ状況を正確に伝えることが重要です。

労働者と会社の双方が制度を理解する

労働者は、会社に迷惑がかかると思って労災申請を遠慮する必要はありません。

労災保険は、仕事や通勤による災害から労働者と家族の生活を守るために設けられた制度です。

会社側も、労災申請を会社への責任追及とだけ捉えるのではなく、被災者の治療と生活を支え、事故原因を把握して再発を防ぐための仕組みとして理解する必要があります。

事故を隠すのではなく、発生した事実を正確に報告し、必要な給付手続きへ協力し、安全対策を見直すことが、結果として会社の信用と従業員の安心につながります。

労災保険の給付様式、保険率、特別加入の対象、認定基準、電子申請の方法などは、法改正や制度改定によって変わることがあります。

正確な情報は公式サイトをご確認ください。

実際の事故では、勤務状況、雇用関係、事故原因、通勤経路、医師の診断、賃金の支払い状況などによって必要な対応が変わります。

個別事情を踏まえた最終的な判断は、社会保険労務士、弁護士、労働基準監督署などの専門家にご相談ください。

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